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寿綾乃という女 第3部  作者: トモサン


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46/122

寿綾乃という女 第3部 46

つくづく、自分が、許せなかった…


 一体、いつから、私は、こんなにも、自分優先の女になったのだろう?


 一体、いつから、私は、こんなにも、自分勝手な女になったのだろう?


 考えた…


 すると、やはりというか…


 癌にかかったのが、大きかった…


 それゆえ、体調が、知らず知らずの間に、悪化して、自分でも、気付かない間に、他人への配慮がおろそかになったのだと、気付いた…


 体調が、悪いから、どうしても、自分優先になる…


 だから、知らず知らずの間に、我がままになった…


 自分でも、気付かない間に我がままになった…


 そう、思った…


 自己懺悔…


 まさに、自己懺悔だった…


 それに、気付いた私は、落ち込んだが、食欲は、旺盛だった(笑)…


 お腹は、減っていた(笑)…


 自分が、落ち込むと、食欲がなくなるという記述は、よく見かけるが、私は、そんなことは、なかった…


 それは、それ…


 これは、これと、いうことだ(笑)…


 いや、


 これが、自己弁護かも、しれない(笑)…


 私は、そう思った…


 何事も、自分に都合よく考える…


 これこそ、まさに、自己弁護の最たるものだからだ…


 私は、食事が、終わると、テレビも消し、お風呂に入ることにした…


 いくらなんでも、このままで、寝ることは、できない…


 それに、私は、自分でいうのもなんだが、潔癖症だった…


 若い頃から、比べれば、だいぶ、こだわらなくなったが、それでも、潔癖症であることには、変わらない…


 だから、一刻も早く、お風呂に入りたかった…


 なにしろ、まだ化粧も落としていない…


 五井記念病院から、帰って来て、ベッドに横たわると、そのまま、バタンキュー…


 眠りに落ちた…


 自分でも、まさか、こんなにも、長い間、寝ているとは、思わなかった…


 いや、


 それ以前に、ベッドに横になっただけで、まさか、眠りに落ちるとは、思わなかった…


 自分としては、ちょっと、短い間、ベッドに横になって、いたかっただけだからだ…


 それが、眠ってしまった…


 5時間も、6時間も、眠ってしまった…


 これには、我ながら、驚いた…


 きっと、自分でも、わからなかったが、それほど、疲れていたのだろう…


 とりわけ、ユリコの話で、それほど、疲れたのだろう…


 なにしろ、ユリコの話で、諏訪野伸明の裏切りを知った…


 いや、


 厳密には、伸明の裏切りでは、ないのかも、しれない…


 が、


 いずれにしても、お金を貸した方は、逮捕されず、お金を借りた方は、逮捕された…


 だから、どうしても、伸明に疑惑の目が向けられる…


 どうしても、伸明のことが、疑わしくなってくる…


 それが、ユリコの言葉で、より一層強まった…


 五井が、伸明が、FK興産を傘下に入れようとしている…


 そんなことは、考えたこともないことだった…


 まさに、驚天動地の出来事だった…


 が、


 それも、ユリコから、説明されれば、納得する…


 伸明の五井家当主就任の実績作りと言われれば、納得する…


 そして、その言葉を裏付けるような言葉もある…


 マミさんの言葉だ…


 伸明の妹のマミさんの言葉だ…


 マミさんは、私に、


 「…寿さんは、これ以上、五井に関わらない方が、いい…」


 と、アドバイスした…


 そして、さらに、続けて、


 「…その方が、寿さんのため…」


 と、続けた…


 私とマミさんは、仲がいい…


 私とマミさんは、正直、ウマが合う…


 だから、マミさんの言葉が、私を陥れるためだとは、思えない…


 私を罠にかけるためだとは、思えない…


 むしろ、本心から、言ってくれていると、思う…


 だから、それを、考えれば、五井が、FK興産を、手に入れようとしているから、五井から離れろ!


 と、言っているのかも、しれない…


 私は、そう、思った…


 私が、五井を信頼していると、言えば、おかしいが、諏訪野伸明を信頼している…


 が、


 諏訪野伸明も、商売人…


 もしかしたら、FK興産を、手に入れようとしていても、おかしくはない…


 五井は、商売人だからだ…


 だから、それを知っているマミさんは、遠回しに、私に警告したのかもしれない…


 五井から、距離を置けと、警告したのかも、しれない…


 そうすれば、仮に、諏訪野伸明が、FK興産を、買収して、五井傘下に、組み込んでも、私は、伸明に抗議することは、できない…


 すでに、伸明と距離を置いているからだ…


 だから、別の言い方をすれば、傷つかない…


 あるいは、傷ついても、傷は浅いというか…


 …ああ、そういうひとだったんだ…


 と、いう言葉で、済むからだ…


 だから、マミさんは、距離を置けと言ったのでは、ないか?


 私は、そう、思った…


 私は、そう、気付いた…



 食事を終えた私は、お風呂に入った…


 一人きりで、お風呂に入っていると、疲れが、吹き飛ぶとは、いわないまでも、気分が、良くなる…


 が、


 ホントは、入浴には、体力がいる…


 だから、疲れたカラダでは、入らない方が、良かったのかも、しれない…


 しかし、それは、どうしても、嫌だった…


 私は、すでに、言ったように、潔癖症…


 一日中、どこにも、外出しないで、家にいても、一日に一回は、必ず、お風呂に入りたい…


 正確に言えば、お風呂に入る=湯船に浸かることだ…


 シャワーを浴びるだけでは、物足りない…


 そんな私が、今日の昼間、わざわざ、五井記念病院にまで、外出したにも、かかわらず、お風呂に入らないことは、できなかった…


 外出すれば、嫌でも、カラダを動かす…


 カラダを動かす=汗をかくからだ…


 だから、お風呂に入らずには、いられなかった…


 お風呂に入って、かいた汗を洗い流さずには、いられなかった…


 生きているのだから、一日中、どこにも、外出しなくても、汗はかく…


 そんなときでも、毎日欠かさずお風呂に入る私が、疲れたからと、いって、外出して、いつもより、汗をかいた日に、お風呂に入らずには、いられなかった…


 そして、湯船にゆったりと、浸かって、ボンヤリと考え事をした…


 諏訪野伸明のこと…


 藤原ナオキのこと…


 マミさんのこと…


 ユリコのこと…


 その他、諸々のことを、だ…


 そして、湯船に浸かって、そんなことを、考えながら、その日が、終わっていく…


 湯船に浸かると、私は、心の底から、落ち着いた…


 これは、幼い時から、そう…


 もはや、母親といっしょに、お風呂に入った記憶も曖昧なくらい遠い昔だが、一人きりで、入ったときは、そうだった…


 母は、忙しく、子供の頃に、いっしょに、お風呂に入った記憶も、あまりない…


 だから、まさか、赤ちゃんのときは、ともかく、ある程度、物心がつく頃には、ひとりで、お風呂に入っていた…


 お風呂場で、ひとりきりで、湯船に浸かると、心の底から、落ち着く…


 理由は、わからない…


 ただ、ただ、熱いお湯に、ゆったりと、浸かっていると、落ち着く…


 ただ、単に、私が、お風呂が、好き…


 それだけの理由かも、しれない…


 そして、そんなことを、考えていると、突然、ジュン君のことを、思い出した…


 ユリコが、失踪して、私は、幼いジュン君の面倒を見た…


 まだ小学生のジュン君に対して、私は、実質母親代わりに、なったからだ…


 だから、お風呂も、いっしょ…


 ジュン君と入った…


 が、


 考えてみれば、これは、おかしい…


 なぜなら、私は、ジュン君と同じ年齢でも、すでに、ひとりで、お風呂に入っていたからだ…


 だから、おかしい…


 ひとりきりで、お風呂に入れないのは、おかしい…


 が、


 それが、ジュン君だった…


 正直、頼りない…


 それが、ジュン君だった…


 私は、ジュン君と同じ年齢の頃、すでにひとりで、お風呂に入っていた…


 が、


 ジュン君には、それができない…


 が、


 だからこそ、ジュン君なのかもしれない…


 ひとりで、お風呂に入れないほど、頼りないから、ジュン君なのかも、しれない…


 そして、それは、今となっては、懐かしい思い出なのかも、しれない…


 私は、ユリコの代わりに、ジュン君の母親代わりになって、幼いジュン君の面倒を見た…


 そして、その思い出は、消し去ることは、できない…


 忘れることは、できない…


 私は、高校生のときに、すでに、ジュン君の母親代わりだった…


 ジュン君の事実上の母親として、ジュン君の面倒を見た…


 その見返りではないが、あのユリコが、私に頭を下げた…


 ジュン君が、私をクルマで、ひき殺そうとしたにも、関わらず、裁判で、私が、ジュン君を擁護したからだ…


 だから、結果的に、ジュン君の刑期も、短くなった…


 刑事事件では、なにより、被害者が、加害者を宥恕(ゆうじょ)することが、大事…


 宥恕(ゆうじょ)=許すことが、大事だ…


 おおげさに、言えば、これは、痴漢でも、殺人でも同じ…


 同じだ…


 被害者が、加害者を許すといえば、裁判長の心証が良くなるからだ…


 そして、それが、わかっているユリコは、私に、諏訪野伸明のことを、告げ、


 「…これで、私に借りを返した…」


 と、言った…


 私が、ジュン君の運転するクルマで、轢かれ、殺されかけたにも、関わらず、ジュン君を擁護したことで、ジュン君の刑が、軽くなったからだ…


 だから、それに恩を感じたユリコは、伸明のことを、告げた…


 諏訪野伸明の裏切りを、私に告げた…


 が、


 本当に、そうだろうか?


 伸明は、ナオキを裏切って、FK興産を、乗っ取ろうとしているのだろうか?


 わからない…


 いくら、考えても、わからない…


 むしろ、フェイク…


 ユリコが、私を惑わすために、わざと、ウソの情報を私に与えている可能性の方が、高い…


 なにしろ、ユリコだ…


 あのユリコだ…


 一筋縄では、いかない女だ…


 だから、とても、信用できない…


 とても、心の底から、信用できない…


 そういうことだ…


 が、


 まったく、信じないかと、いえば、そうでもない…


 ユリコのいうことには、信ぴょう性があるからだ…


 だから、信じなくはない…


 が、


 心の底から、信じるかと言われれば、それも、できない…


 なにしろ、ユリコの言うことだからだ…


 だから、信用できない…


 下手に信用すれば、それこそ、ユリコの仕掛けた罠にはまる危険が、あるからだ…


 だから、できない…


 そういうことだ…


 お風呂にゆったりと、浸かっているにも、かかわらず、いつのまにか、話題が、ユリコになった…


 私の天敵になった…


 これでは、ゆったりと、お風呂に浸かっているどころではない…


 せっかく落ち着いた気分でいるにも、関わらず、心は、動揺した…


 とんでもなく、動揺した…


 同時に、ユリコのことを、思った…


 あのユリコもまた、私のことを、考えるときに、こんなふうに、動揺するのか?


 とも、思った…


 私は、結果的に、ユリコから、夫のナオキと、息子のジュン君を奪った…


 だから、ユリコにとっては、私は、憎んでも、憎み足りない相手…


 だから、私のことを、常に憎んでいても、仕方がない…


 が、


 それを、抜きにしても、私とユリコは、合わなかった…


 そりが合わなかった…


 ウマが合わなかった…


 とにかく、合わなかったのだ…


 が、


 そんな合わなかった者同士が、夫や子供のことで、接することになる…


 いや、


 接しざるを得なくなる…


 これは、皮肉…


 皮肉以外の何物でもなかった(苦笑)…


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