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寿綾乃という女 第3部  作者: トモサン


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38/122

寿綾乃という女 第3部 38

私が、そんなことを、考えていると、マミさんが、いきなり、


 「…ゴメンね…寿さん…」


 と、言った…


 私は、驚いた…


 どうして、マミさんが、


 「…ゴメンね…寿さん…」


 と、詫びるのか、わからなかったからだ…


 が、


 マミさんが、続けて、


 「…寿さんが、なんだか、気まずそうにしているから、悪いことを聞いちゃったと、思って…」


 と、言ったから、わかった…


 私が、居心地が、悪そうに、しているのを、見て、さっき、


「…藤原さんと、伸明さんのどっちが、好き?…」


と、直球で聞いたから、居心地が悪そうに、しているんだと、誤解したのだ…


 それが、わかると、内心、ホッとした…


 私が、どうして、居心地が悪そうに、しているか、わからなかったから、ホッとした…


 そう、思った…


 まさか、私が、偽者の寿綾乃だと、バレては、いないと、わかって、ホッとしたとは、言えないからだ(苦笑)…


 だから、


 「…そんなことは、ありませんよ…」


 と、言った…


 すると、マミさんが、心配そうに、


 「…ホント?…」


 と、聞いた…


 「…ホントです…」


 「…でも、寿さん…顔色が?…」


 「…病気のせいです…まだ全快は、していませんので…」


 と、努めて、明るく言った…


 すると、


 「…そうだったんだ…」


 と、マミさんが、言い、パッと、表情が、明るくなった…


 それを、見て、安心したのと、同時に、また、ウソをついた…


 また、マミさんに、ウソをついた…


 と、思った…


 それゆえ、マミさんに、悪いことをしたと、良心の呵責に苦しんだ…


 だから、これ以上、マミさんと、ここにいるのは、マズいと判断した…


 マミさんといると、自分が、ウソをつき続けるようで、悪いと、気が引けたのだ…


 なにより、自分でも、居心地が悪い…


 ここで、マミさんと、二人きりでいると、自分が、ウソをつき続けるようで、嫌だった…


 自分で、自分が、嫌だった…


 ウソをつき続ける自分が、嫌だった…


 だから、


 「…」


 と、無言で、コーヒーを飲んだ…


 コーヒーを飲むことで、しゃべらなくて、すむからだ…


 ウソをつき続ける自分が、良心の呵責に苦しむことが、なくなるからだ…


 そして、そんな私の心の葛藤が、伝わったわけでも、あるまいに、マミさんも、それ以上は、なにも、言わなかった…


 あるいは、話すことが、なくなったのかも、しれない…


 私は、マミさんと、知り合ったのは、半年以上前だが、決して、深い付き合いでも、なんでもない…


 ただ、ウマがあっただけだ…


 そして、それは、おそらく、マミさんに、とっても、同じ…


 同じに、違いない…


 幸か不幸か、知り合い、交友を深めた…


 が、


 互いに、互いを、どれほど、知っているわけではない…


 だから、多少なりとも、警戒する…


 そういうことだ…


 なにより、共通の話題がない…


 たいした知り合いでも、ないのだから、当たり前のことだ(苦笑)…


 また、本当は、知り合うなら、できるだけ、早い方が、いい…


 誰でも、そうだが、学生時代に知り合った人間の方が、安心できる…


 それは、互いに、素(す)の姿を知っているからかも、しれない…


 歳を取れば、演じるとでも、いえば、言いすぎだが、やはり、会社と、家庭で、全然、別人とまでも、言わないが、多少は、違う人間は、多い…


 例えば、会社では、いつも、率先して、仕事に取組み、他人が、嫌がることも、なんでも、する人間が、家では、いつも、ゴロゴロ寝転がっているばかり…


極端な話、右のものを、左に、動かすのも、億劫に、して、嫌がる…


 そういう人間も、いる…


 そして、そういう人間に、


 「…どうして、会社では、あんなに、テキパキ動くのに、家では、いつも、ゴロゴロしているの?…」


 と、聞くと、


 「…やっぱり、会社では、いい顔をしたいから…よく見せたいからかな…」


 と、答えるのが、本音だと、思う…


 少しでも、自分を良く見せたい…


 仕事の成績でも、人間性でも、よく見せたい…


 だから、極端な話、会社では、いいひとを、演じているに、過ぎない…


 それゆえ、そんな人間とは、知らずに、結婚した女は、後悔する…


 おおげさに、言えば、会社で見た男と、家では、別人の男が、そこにいるからだ…


 だから、驚く…


 だから、驚愕する…


 そういう話も、ちらほら、聞いたことがある(爆笑)…


 が、


 普通は、そこまで、いかなくても、会社で、出会って、結婚した男女双方が、


 …エlッ…こんなひとだったんだ!…


 と、いう話は、よくある話だ…


 大抵は、会社で見たときと、プライベートの顔が、100%は、一致しない…


 どこか、意外な面が、ある…


 そういうことだ…


 そして、それを、互いに、どこまで、許容できるか?


 どこまで、受け入れることが、できるか?


 どうしても、無理だと、思えば、早々に、離婚するだろう…


 そういうことだ…


 そして、それは、昔からある話だが、もしかしたら、今の時代の方が、より多いのかも、しれない…


 それゆえ、離婚が、以前より、多いのかも、しれない…


 もちろん、経済のせいもある…


 景気がいいときは、離婚が、少なく、景気が悪くなれば、離婚が増える…


 これは、単純に、家庭にお金が、ないからだ…


 お金が、なければ、どうしても、ケンカが増える…


 それゆえ、夫婦間のケンカが、離婚に直結する…


 そういうことだ…


 極端な話、夫が、会社をリストラされれば、妻は、


 「…これから、どうするの?…」


 と、聞く…


 夫は、当然、


「…次の仕事先を、探すさ…」


と、返答するが、それが、なかなか、決まらない…


すると、当たり前だが、妻が、愚痴る…


そして、そのうちに、


「…こんな男と結婚するんじゃ、なかった…」


とか、言い出す…


それで、口論になり、しまいには、別れる…


当たり前のことだ…


私は、思った…


私は、考えた…


すると、マミさんが、


「…寿さん…」


と、私に話しかけてきた…


「…なんですか?…」


「…もしかしたら、寿さんは、これ以上、五井に関わらない方が、いいかもしれない…」


意外なことを、言った…


「…どうしてですか?…」


「…寿さんが、傷つく…」


「…私が、傷つく?…」


「…いえ、寿さんだけじゃない…もしかしたら、藤原さんも…」


「…ナオキも? …それは、どういう…」


私が、言い終わらないうちに、マミさんが、立ち上がった…


「…ゴメン…寿さん…もう時間だから…」


と、言って、慌ただしく、立ち上がった…


「…時間って?…」


「…私も、藤原さんじゃないけれども、経営者だから、色々忙しいの…」


マミさんが、笑いながら、言った…


それを、聞いて、あらためて、このマミさんが、経営者だと、気付いた…


会社の社長だと、気付いた…


「…ホント、ゴメンね…」


と、言いながら、マミさんは、請求書を掴んだ…


「…マミさん…そんなことしなくても、自分の分は、自分で、払います…」


私が、席から、立ち上がって抗議すると、


「…大丈夫…会社の経費で、落とすから…」


と、マミさんが、笑った…


「…経費って?…」


「…必要経費…これも、会社で、他社の人間との打ち合わせって、ことで、落とすから…」


マミさんは、笑って、言って、すぐに、歩き出した…


私は、急いで、マミさんの後を追おうと思ったが、止めた…


周囲の目がある…


まさか、子供ではないのだから、マミさんを追いかけて、請求書を奪い取ることは、できない…


だから、止めた…


私は、歩き出したマミさんの後ろ姿を、目で、追いながら、再び、席に座った…


すると、なんだか、温かい気持ちになった…


やはり、マミさんと話したからだろう…


何度も言うが、私は、マミさんと、ウマが合う…


だからだろう…


マミさんと話して、すっかり、気分が、良くなった…


そう、思った…


私は、癌患者…


だから、当たり前だが、体調が、良くない…


今日は、それほどでもないが、正直、体調が良くないと、気分が、滅入るときもある…


気分が、滅入って、なにもかも、嫌な気持ちになることがある…


そして、そんなとき、つい、自分の人生を振り返る…


この先ではなく、これまでの人生を振り返る…


正直、この先、何年、生きるか、わからないからだ…


だから、これから先ではなく、これまでの人生を振り返る…


これまで、生きてきた32年の人生を、振り返る…


…私の人生は、幸せだった?…


それとも、


…不幸だった?


そう聞かれても、おそらく、答えは出ない…


そのときの気分によって、


…幸せだった…


と、答えるし、


…不幸だった…


と、答えるだろう…


つまりは、平凡…


まさに、平凡な人生を送ってきたと、自分で、思う…


平凡だから、ブレる(笑)…


幸せか、幸せでなかったのか、突然、聞かれて、はっきりとした答えが出せない…


だから、平凡なのだろう…


平凡でない場合は、すぐに、答えが出せる…


そういうことだ…


母親と二人暮らしだった矢代綾子が、田舎から、都会に出て、寿綾乃になりすます…


そして、バイト先で、知り合った、藤原ナオキと、男女の仲になり、その後、成功したナオキの事実上の妻になり、億ションに住むまでになった…


傍から、見れば、誰が見ても、成功者…


成功者に、私は、見える…


だが、私自身は、成功者だと、一度も、自分を思ったことはない…


たしかに、物質的には、成功した…


しかしながら、それと、幸せとは、違う…


お金があれば、幸せなわけでは、まるでない…


たしかに、お金がなければ、生きてゆけないから、不幸…


だったら、お金があれば、必ず、幸せなのか?


と、問われれば、それは、違う…


現にお金がある人間…


つい、さっきまで、いっしょにいたマミさんは、幸せなのか?


と、直球で、聞けば、返事に窮するだろう…


マミさんは、五井家先代当主、諏訪野建造の愛人の子供…


それゆえ、五井家では、日陰者だった…


だから、決して、お金に困った生活は、していないだろうが、それでも、幸せではなかかったろう…


五井家内で、居場所がないからだ…


それゆえ、それに、気付いた建造が、マミさんに、お金を与え、会社を作らせた…


自分で、会社を作って、好きな仕事をした方が、マミさんには、合っていると、父の建造は、思ったのだ…


そして、それは、間違いでは、なかったろう…


私から、見ても、マミさんは、誰かの下について、働くより、自分で、会社を興した方が、似合う女性だ…


その方が、似合う女性だ…


だから、お金があるから、決して、幸せなわけでは、ない…


お金があっても、不幸せな人間は、いるだろう…


現に、五井家当主、諏訪野伸明も、決して、幸せとは、いえない…


父の建造の実子ではなかったから、かもしれないが、伸明には、どこか、陰があった…


だからかも、しれない…


同じような陰がある、私は、伸明に惹かれた…


そして、それは、伸明も同じ…


寿綾乃を名乗る、私、矢代綾子に惹かれた…


寿綾野を名乗ることで、私に陰ができたからだ…


正体を偽ることで、陰ができ、それが、おそらく、伸明の共感を呼んだ…


いわば、似た者同士だからだ…


だから、惹かれた…


それが、伸明が、私を好きな理由だろう…


そして、それは、私も同じ…


矢代綾子も、同じだ…


が、


私には、ナオキがいる…


伸明には、惹かれるが、ナオキを見捨てることは、できない…


そして、そんなことを、考えたとき、さっき、マミさんが、言った…


「…これ以上、五井に関わらない方がいい…」


と、言った言葉は、どういう意味なんだろ?


と、考えた…


さらには、マミさんは、私もナオキも傷付くとも、言った…


これは、一体、どういう意味なんだろ?


意味がわからない…


どうして、私とナオキが、五井に関われば、傷つくのだろう?


考えた…


が、


それは、まもなく、知ることになる…


まったくの予想外の出来事で、知ることになる…

       

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