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寿綾乃という女 第3部  作者: トモサン


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30/122

寿綾乃という女 第3部 30

それとも、これは、思い過ごし?…


 単なる私の妄想に過ぎない?…


 わからない…


 答えは、わからない…


 が、


 しかし、ユリコが、もし、私が、思っている通り、小心者ならば、十分可能性がある…


 あのとき、逃げ出した可能性がある…


 それは、今まで、気付かなかった…


 まったく、気付かなかった可能性だった…


 そして、その可能性に、気付くと、私は、ホッとした…


 ホッと、胸を撫で下ろした…


 もしかしたら、私は、あのユリコを、とんでもなく、大きく見過ぎた可能性があることに、気付いたからだ…


 もしかしたら、等身大のユリコを見ていなかった可能性に気付いたからだ…


 これは、誰もが、同じ…


 例えば、日本中、誰もが知る、大きな会社に入社すれば、部長や取締役など、お偉いさんは、物凄く、優秀に見える…


 自分では、とても、その地位に上がることは、できないからだ…


 が、


 長年、接すると、相手の能力が、見えてくる…


 自分でも、勝てる分野が、あることが、見えてくる…


 そういうことだ…


 もちろん、その分野というのは、仕事だとか、そういうことではない…


 例えば、ありがちなのは、スポーツとか、ちょっとした世間の話題とか…


 簡単なことが、案外、できないことも、あることが、わかってくる…


 誰でも、スーパーマンではないのだから、当たり前のことだ…


 東大を出ていれば、なんでも、知っているわけではないし、なんでも、できるわけでもない…


 それと、同じだ…


 ただ、世間では、大抵が、身近に、東大を出た者が、いないだけ…


 だから、わからない…


 だから、実物以上に、大きく見える…


 あるいは、


 実物以上に、優れていると、勝手に考える…


 そういうことだ…


 身近に知っていれば、決して、そうは、考えない…


 頭は、当然、いいと、思っているが、それ以外の面を知っているからだ…


 いわば、等身大の日常の姿を知っているからだ…


 だから、そうは、考えない…


 だから、なんでも、できるとは、考えない…


 できないことが、たくさんあることを、知っているからだ…


 そして、そんなことを、考えていると、以前も、今回のようなことが、あったことを、思い出した…


 それは、現五井家当主の諏訪野伸明と、当主の座を争った、伸明の異父弟の秀樹のことだ…


 秀樹は策士…


 策士だった…


 伸明が、長身のイケメンだったにも、かかわらず、秀樹は、背が低く、ルックスも平凡だった…


 これは、種違い…


 父親が違うからだった…


 だから、ルックスが違った…


 が、


 それを、秀樹自身は、知らなかった…


 そして、兄の伸明ではなく、自分が、五井家の当主にならんと、欲した…


 が、


 当主になれないことを、知ると、あっけなく、自殺した…


 私は、当時、秀樹の幻影に悩まされた…


 幻影というのは、等身大の秀樹ではなく、秀樹を、大きく考えすぎたからだ…


 秀樹は、抜け目なく、優れていると、実父の建造から、聞いていたからだ…


 だから、争ったときに、とても、勝てないと、思った…


 が、


 そうではなかった…


 秀樹は、そんなに、優秀な人間では、なかったということだ…


 それと、ユリコは、似ているのかも、しれなかった…


 いや、


 もしかしたら、同じかも、しれなかった…


 そして、今、考えれば、五井家の先代当主の建造は、それを、見抜いていたのかも、しれなかった…


 いや、


 きっと、見抜いていたに違いない…


 だから、自分と血が繋がった、秀樹ではなく、血が繋がっていない、伸明を、次の当主にした…


 私は、当時、建造が、秀樹を自分の後継者に選ばないのは、単純に、建造が、秀樹を嫌っているかだと、考えていた…


 建造に言わせれば、秀樹は、自分の嫌な部分を、持って生まれたと、言っていた…


 嫌な部分というのは、おそらく、秀樹のルックスを筆頭にした、その性格だろう…


 自分の能力もわきまえず、上昇志向が、異常に強い…


 また、策を弄す…


 それが、嫌だったのだろう…


 だから、言葉を変えれば、建造にも、秀樹と同じ性格があったのだろう…


 今、考えてみると、それに気付く…


 私が、接した生前の建造は穏やかで、ひとのいい人物だった…


 短い間しか、接してないが、嫌な部分は、なにもなかった…


 が、


 実際は、違ったのだろう…


 私が、それに、気付かなかったのは、建造と接したのが、短い時間だったからと、いうこともあるが、おそらく、それ以上に、建造が、自分の嫌な部分を他人に見せないように、努力していたに違いない…


 だから、気付かなかった…


 たぶん、そういうことだろう…


 おそらく、建造と、長年接してきた人間ならば、それも、わかっているに、違いない…


 そして、それを、わかっているのは、建造の妻だった昭子…


 そして、昭子の一卵性双生児の妹の和子…


 現当主、伸明の叔母の五井の女帝、和子だった…


 だから、彼女たちに、聞けば、等身大の建造の姿がわかるかも、しれなかった…


 私が、接した建造と、別の建造の姿が、わかるかも、しれなかった…


 が、


 当たり前だが、そんなことは、しない…


 いや、


 今さら、しても、仕方がなかった…


 建造は、すでに亡い…


 亡くなっている…


 だから、今さら、建造のことを、聞いても、仕方がなかったからだ…


 そして、そんなことを、考えると、伸明が、気になった…


 伸明の異母妹のマミから、聞いた話では、伸明は、どこかに身を隠したという…


 マスコミの目を逃れるためだ…


 だから、身を隠した…


 当たり前のことだ…


 伸明は、ナオキにお金を融資したが、それは、極秘裏というか…


 税務署に届けない、お金だったのだろう…


 だから、問題になった…


 キチンと、税務署に申告していれば、こんな騒ぎには、ならなかった…


 と、いうことは、ポケットマネー?


 伸明の懐から、お金を出した?


 ふと、その可能性に気付いた…


 が、


 それは、あるまいと、考え直した…


 ナオキの会社、FK興産は、従業員千人…


 仮に、融資を受けるのならば、通常は、億単位…


 例えば、10億、20億という億単位の金額だろう…


 いかに、五井家当主といえども、自分のポケットマネーから、ポンと、気前よく、それだけの大金をナオキに貸すだろうか?


 否、


 普通は、会社から、金を引き出して、貸すだろう…


 だから、言葉は、悪いが、会社を使えば、公私の混同となりかねない…


 だから、その告発を、伸明は、恐れたのだろう…


 だから、身を隠した…


 それが、真相だろう…


 そして、今、伸明が、どこにいるか?


 それが、問題だ…


 おそらくは、どこかのホテルか?


 あるいは、


 知人の家ではないか?


 そう、思った…


 その可能性の高いのでは?


 そう、考えた…


 なぜなら、私なら、そうするからだ…


 私、寿綾乃が、今の伸明の立場ならば、そうするからだ…


 これは、誰もが、同じ…


 同じだ…


 伸明の立場で、身を隠すならば、大抵は、親しい知人か、どこかのホテルに身を隠す…


 当たり前だ…


 そして、もし、これが、政治家ならば、これに、病院が、加わる(笑)…


 親しい医者に、頼んで、体調が悪化したとか、なんとか、言って、病院に入院する…


 そうすれば、警察は、ともかく、マスコミは、手が出せないからだ…


 取材が、できないからだ…


 だから、病院に入院する…


 ズルい手段だが、マスコミの目を避けるには、最も、有効な手段でもある…


 そう、思った…


 そう、思ったのだ…



 それから、数日が、過ぎた…


 相変わらず、世間では、藤原ナオキの話題が、かまびすしかった…


 当たり前だが、世間に、それほど、話題は、ない…


 だから、藤原ナオキの逮捕は、マスコミの恰好の話題だった…


 なにしろ、ナオキは、従業員千人の会社の創業社長…


 会社のオーナーだ…


 おまけに、週一回、テレビで、コメンテーターを務めていて、それなりに、世間に知られている…


 そんな藤原ナオキが、逮捕されたのだから、世間の注目は、否が応でも、集まる…


 それゆえ、マスコミは、そのチャンスを逃さなかった…


 当たり前だった…


 だから、この先も、いつまでかは、わからないが、当面は、この状態が続くだろう…


 藤原ナオキの話題が、続くだろう…


 が、


 そのうちに、下火になる…


 話題が、続かないからだ…


 不正な融資の件だけでは、話題が、尽きる…


 そういうことだ…


 そして、それまでは、藤原ナオキの件は、当面、今のまま…


 続くだろう…


 誰もが、わかっていることだ…


 そして、これも、誰もが、わかっていることだが、五井の件には、少しも触れなかった…


 藤原ナオキに融資した、諏訪野伸明については、少しも触れなかった…


 おそらくは、五井に遠慮しているのだろう…


 五井グループは、マスコミを含め、この日本のありとあらゆる業界に存在する…


 だから、触れることが、できない…


 絶対的なタブー…


 タブー=禁忌の存在…


 触れては、いけない存在だからだ…


 だから、思っていても、取材することが、できない…


 裁判ではないが、融資を受けた方が、逮捕されたならば、融資をした方も、取材するのが、筋なのに、それを、しない…


 あるいは、それが、できない…


 まさに、大人の事情というやつだ(笑)…


 私は、それを、考え、実にバカバカしいと思ったが、私を含め、誰もが、そんな世界に住んでいる…


 別に、日本だけが、例外でも、なんでもないだろう…


 忖度(そんたく)の世界…


 誰もが、同じことをしても、相手によって、対応が違う…


 そういうことだ…


 会社に行けば、同じ40歳でも、課長と平社員では、対応が、異なる…


 それと、同じだ…


 あるいは、美人と、平凡なルックスの女では、男の、対応が、異なる…


 それと、同じだ…


 つまりは、人間は、平等ではないと、いうことだ(笑)…


 私は、思った…


 そして、そんなことを、考えながら、私は、再び、五井記念病院に、向かった…


 定期検査のためだ…


 滅茶苦茶、カラダの調子が、悪いと、いうほどでも、決してないが、良くはない…


 まあ、これが、私、寿綾乃のいつもの姿…


 平常運転の姿と、いうことだ(笑)…


 そして、私が、いつもの通り、五井記念病院に行くと、ロビーで、ふと、どこかで、見た男と、すれ違った…


 相手の男は、気付かなかったかも、しれないが、私は、すぐに、気付いた…


 すらりとした長身のイケメン…


 それは、諏訪野伸明だった…


 失踪して、世間から、身を隠した伸明だった…


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