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寿綾乃という女 第3部  作者: トモサン


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120/122

寿綾乃という女 第3部 120

…エッ?…


…取締役解任の決議?…


…ナオキのじゃないの?…


…いや、ナオキは、さっき、社長解任の決議をした…


…だったら、誰?…


…一体、誰?…


…もしかしたら、私?…


…私、寿綾乃の非常勤の取締役解任?…


…ふと、思った…


…なにより、たった今、伸明の取締役就任を棄権した…


…五井が、私を不快に思っているのは、明らか…


明らかだ…


たった今、取締役に就任した五井家の面々が、私の取締役解任を提案しても、おかしくはない…


そう、思ったからだ…


だから、身構えた…


思わず、身構えた…


が、


違った…


司会のマミさんが、取締役解任の名前を言ったのは、社外の取締役…


銀行から派遣された社外の取締役だった…


私は、どういうこと?


一体、どういうこと?


と、思った…


そして、考えた…


考え続けた…


FK興産は、五井から、融資を受けた…


五井と資本提携した…


すると、どうだ?


これまで、FK興産に出資していた銀行との関係が、こじれる…


FK興産に、これまで、主に、資金を提供してくれたのは、五菱…


五井のライバルの五菱だ…


だから、邪魔になった…


つまりは、この臨時の取締役会の真の目的は、五井家の三人をFK興産の取締役に就任させることと、同時に、五菱出身の取締役を排除すること…


排除=解任することだ…


そして、それが、事前にわかっていた五菱出身の社外取締役は、ナオキの解任に賛成した…


そういうことだ…


私は、遅まきながら、その目的に気づいた…


気付いたのだ…


「…では、社外の取締役のお二人の解任に賛成の方は、挙手をお願いします…」


マミさんが、言うと、私と、司会のマミさんを除く、全員が、手を挙げた…


すなわち、伸明も、和子も手を挙げた…


取締役に就任したのだから、当たり前だった…


取締役に就任した以上、取締役会の採決に、参加する資格があるからだ…


そして、それを、見て、司会のマミさんが、


「…社外の取締役お二人の解任が、決議されました…」


と、言った…


それを、聞いて、社外の取締役二人は、憮然とした表情で、席を立ち、すぐに、部屋を出て行った…


おそらくは、すでに、事前にわかっていたはずだが、それでも、やはり、取締役を解任されるのは、嫌なのだろう…


解任=クビだからだ…


誰もが、クビになることが、わかっていて、この取締役会に出席しても、実際、クビになって、気分のいい人間など、いるはずもない…


同時にまた、クビになって、この場にいるのもまた、恥ずかしいに違いない…


だから、慌てて、席を立って、この場から、去った…


それが、真相だろう…


私は、思った…


私は、考えた…


そして、解任された五菱出身の社外の取締役二人が、去ると、残ったのは、五井家の三人と、FK興産出身の取締役四人…


私、寿綾乃を含めた、取締役四人だった…


正直、気まずい…


実に、気まずかった…


さっき、伸明の取締役就任に棄権した…


だから、気まずかった…


五菱出身の社外取締役二人が、いなくなったことで、一気に空気が悪くなったというか…


なんだか、この場に、いたたまれない空気になった…


とっさに、帰りたい…


一刻も早く、この場から、逃げ出したい…


そんな気持ちになった…


そして、そんなことを、考えていると、司会のマミさんが、


「…それでは、今日の取締役会は、議題が、すべて、終了したので、これで、終わります…終了します…」


と、挨拶した…


私は、呆然としたが、すぐに、この取締役会の目的が、五井家の3人の取締役就任と、五菱出身の社外取締役解任だと、わかったので、当然だと、思った…


そして、取締役会終了と聞いた、FK興産出身の古参の社員出身の取締役二人が、さっきの解任された五菱出身の社外取締役二人を追うように、部屋を出て行った…


きっと、この場の雰囲気を察したのだろう…


ハッキリ言って、不穏な雰囲気…


この後、一揉めも二揉めも、ありそうな雰囲気だった(苦笑)…


ひと悶着ありそうな雰囲気だった…


 それが、わかった、FK興産出身の古参の取締役二人は、慌てて、この場から、逃げ出したわけだ…


 だから、私も、慌てて、その二人を追うように、この部屋を出ようとした…


 慌てて、席を立ち、この部屋から、出ようとした…


 すると、


 「…寿さん…」


 と、いう声が、かかった…


 この声の主は、当然というか…


 五井の女帝の声だった…


 五井の女帝、諏訪野和子の声だった…


 私は、機械的に、


 「…ハイ…なんでしょうか?…」


 と、聞いた…


 聞かざるを得なかった…


 「…お座りなさい…」


 和子が言う…


 いや、


 命じた…


 私は、一瞬、カラダが硬直しそうになった…


 なにを言われるか、わかったものでは、ないからだ…


 だから、ホントは、この場から、脱兎のごとく、逃げ出したかったが、それは、できなかった…


 なにしろ、周囲の目がある…


 ナオキの目も、伸明の目も、マミさんの目もある…


 だから、逃げ出せなかった…


 この場から、脱兎のごとく、逃げ出すことが、できなかった…


 そういうことだ…


 だから、仕方なく、座った…


 これまで、座っていた席に座った…


 正直、居心地が悪かった…


 とんでもなく、居心地が悪かった…


 今さらながら、さっき、伸明の取締役就任に、棄権しなければ、よかったと、思った…


 今さらだが、思った…


 アレさえなければ、こんなに居心地が悪いことは、なかったからだ…


 だから、今さら、言っても、仕方がないことだけれども、思った…


 思ったのだ…


 そして、そんなことを、考えていると、和子が、


 「…寿さんが、伸明の取締役就任の採決に棄権するとは、思わなかった…」


 と、告げた…


 直球で、告げた…


 が、


 それは、怒っているというわけでもなく、むしろ、淡々とした口調だった…


 とりたてて、感情が、入っているわけでも、なんでもない…


 だが、だから、怖かった…


 余計に、怖かった…


 怖くて、怖くて、仕方がなかった…


 それが、正直な気持ちだった…


 一体、この後、なにを言われるか、わかったものではないからだ…


 だから、怖かった…


 すると、和子が、しんみりと、


 「…これで、寿さんの気持ちがわかった…」


 と、告げた…


 ゆっくりと、告げた…


 …気持ち?…


 …なんの気持ちだろ?…


 私は、思った…


 私は、考えた…


 だから、


 「…失礼ですが、私の気持ちって?…」


 と、聞いた…


 聞かざるを得なかった…


 「…寿さん…アナタの伸明に対する気持ち…」


 「…私の伸明さんに対する気持ち…ですか?…」


 「…そう、さっき、寿さん…伸明のFK興産の取締役就任に棄権したでしょ?…」


 この質問には、私は、


 「…」


 と、答えなかった…


 「…ハイ…しました…」


 と、言えば、いいのだが、言えなかった…


 だから、沈黙した…


 答えなかった…


 「…アレは、どうして?…」


 この質問にも、私は、答えなかった…


 いや、


 答えることが、できなかった…


 だから、


 「…」


 と、沈黙した…


 「…答えないなら、私が、言いましょうか?…」


 和子が、告げる…


 そして、すぐに、続けて、


 「…伸明を取締役にすれば、きっと、近い将来、藤原さんを、社長から、解任して、伸明を社長に添えると、思ったのでしょ? …だから、寿さん…伸明の取締役就任の採決を棄権したんでしょ?」


 和子が、告げた…


 私の心の内を喝破した…


 「…ホントは、反対したい…でも、反対することは、できない…私や伸明の目もある…だから、棄権した…そうでしょ?…」


 「…」


 「…答えたくないのなら、答えなくて、結構…いえ、こんな質問に、誰もが、答えるわけはない…私が、寿さんの立場でも、同じ…きっと、答えない…」


 「…」


 「…でも、これで、寿さんの気持ちがわかった…」


 …エッ?…


 …私の気持ち?…


 …どんな気持ちだろ?…


 「…寿さんの気持ち…つまり、藤原さんを慕う気持ち…」


 「…」


 「…藤原さんを守りたかった…藤原さんを、社長の座から、降ろしたくなかった…でしょ?…」


 「…」


 「…寿さん、人間はね…とっさの行動で、本心が出る…自分でも、普段、思ってもいない本心が出る…」


 「…どういうことですか?…」


 「…今の伸明の取締役就任の採決がそう…そして、例えば、おおげさに、言えば、なにか、事故にあって…そうね…海か、どこかで、事故に遭って、一人しか、助からないとする…そのときに、救助に向かったのが、寿さん…そして、救助を待つのが、伸明と、藤原さんだとする…でも、助けられるのは、一人…だから、どっちか、選ばなければ、ならない…」


 「…」


 「…そんな状況になったとき、寿さんが、どっちを選ぶかで、寿さんの本心が出る…普段、思ってもみない、本心が出る…」


 「…」


 「…つまり、寿さんは、伸明でなく、藤原さんを選んだということ…これが、寿さんの本心…まぎれもない本心…」


 和子が、断言した…


 私の気持ちを断言した…


 「…正直、悲しいし、悔しい…寿さんは、伸明と、結婚して、五井を支えて、もらいたかった…」


 「…エッ?…」


 思わず、声が出た…


 ウソ!


 ウソに決まっている!


 この私が、五井の当主と結婚できるはずがない!…


 こんな、どこの馬の骨とも、わからない私が、伸明と、結婚できるはずがない!…


 私は、思った…


 心の底から、思った…


 そして、私が、和子の話に仰天していると、


 「…それが、先代当主、建造さんの願いでもあった…」


 と、突然、和子が、明かした…


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