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寿綾乃という女 第3部  作者: トモサン


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110/122

寿綾乃という女 第3部 110

「…それは、一体、どういう…」


「…伸明は、奥手…そして、それは、同時に、慎重ということ…」


「…慎重?…」


「…常に用心深い…だから、女遊びもできない…」


「…」


「…だから、本当に、相手が、信頼できるか、否か…検討する…」


「…」


「…そして、仲が良い、藤原さんが、寿さんを、信頼しているから、自分も、安心して、寿さんを、好きになれる…そういうことだと、思う…」


和子が、伸明の心の内を喝破した…


これまで、考えたことのない、伸明の心の内を、晒した…


同時に、これは、真実…


本当のことだろうか?


考えた…


が、


おそらく、真実に違いない…


本当のことに、違いない…


 なぜなら、この和子は、伸明を子供の頃から、知っている…


 だから、どんな性格か、知っているに違いない…


 そう、思った…


 そう、考えた…


 そして、たしかに、和子の言うことも、一理あると、思った…


 伸明とナオキは、仲がいい…


 傍目から見ても、ウマが合う…


 だから、ナオキが、信頼している私だから、安心して、好きになれる…


 そういうことだ…


 自分が、信頼する相手が、信頼しているから、自分も安心して、好きになれる…


 なんだか、面倒臭いというか…


 たしかに話は、わかるが、なんだかなと、思う(苦笑)…


 だが、それも、わかる…


 五井の本家に生まれた者だ…


 ひとが、寄ってくる…


 だから、自分の身は、自分で守らなければ、ならない…


 だから、慎重になる…


 だから、用心深くなる…


 だから、自分の信頼できる相手のお墨付きを選べば、安心できる…


 そういうことだからだ…


 私は、思った…


 私は、考えた…


 すると、和子が、


 「…後は、寿さんの気持ち次第…」


 と、告げた…


 「…エッ? …私の気持ち?…」


 「…そう、寿さんの気持ち…そして、伸明の気持ち…」


 「…伸明さんの気持ち…」


 「…結婚って、タイミングなのよ…」


 「…タイミング?…」


 「…ほら、男と女が付き合うでしょ? …でも、例えば、男でも、女でも、一方は、結婚したいと、思うけれども、もう一方は、まだ結婚したくないと、思う…よくあることでしょ?…」


 「…ハイ…」


 「…だから、すれ違いというか…結婚できない…」


 「…」


 「…だから、お互いの気持ちが、一致することが、大事…そもそも、片方が、結婚したくても、もう片方が、結婚したくないなら、結婚できるはずがないでしょ?…」


 「…ハイ…」


 「…今、伸明は、結婚したいと、思っている…五井の当主になり、そろそろ、身を固めたいと思っている…」


 「…」


 「…そして、それは、寿さんも同じ…」


 「…私も同じ? …どう、同じなんですか?…」


 「…結婚したいと、思っている…」


 「…」


 「…だから、二人とも、結婚するタイミングとしては、ちょうどいい…」


 「…ちょうど、いい?…」


 「…そう、ちょうど、いい…」


 和子が、笑った…


 「…だから、寿さんも、このチャンスを逃さないこと?…」


 「…エッ?…」


 「…お互いの気持ちが一致することなんて、滅多にない…だから、逃さないこと…」


 和子が、力を入れる…


 そして、その後は、和子と、たわいもない話をして、別れた…


 病室を出た…


 病室を出るときに、またも、病室の入り口に立っている、屈強なボディーガード二人に、挨拶した…


 「…失礼します…」


 と、言って、挨拶した…


 二人は、揃って、私に頭を下げた…


 そして、そのとき、どうして、この二人は、ここにいるのだろ?


と、思った…


あらためて、思った…


以前は、この病室に、伸明がいた…


五井の当主がいた…


伸明が、隠れていたのだ…


そもそも、なぜ、隠れるのか?


それが、謎だった…


伸明が、ナオキ同様の脱税の疑いで、訴えられた…


が、


ナオキは、逮捕され、伸明は、追徴課税だけで、すんだ…


それは、五井の力…


いみじくも、和子が指摘したように、五井は、警察官僚の天下り先の一つ…


警察を定年退職した警察官僚のお偉いさんを、大勢、年間一億円を優に超える年収で、雇っている…


だから、伸明は、逮捕されない…


一方、ナオキは、逮捕された…


それが、警察官僚を天下り先に迎えた五井の力…


仮に、FK興産で、退職した警察官僚を雇っても、当然のことながら、五井のように、大勢は、雇えない…


だから、一人二人、警察から、天下り官僚を迎えても、ナオキは、やはり、逮捕されたに違いない…


私は、そう、思った…


私は、そう、考えた…


そして、同じように考えるマスコミが、いても、おかしくはない…


だから、マスコミ対策のため、伸明は、あの病室に隠れた…


あの病室に引きこもった…


が、


本当にそれだけだろうか?


本当に、それだけの理由だけだろうか?


あらためて、そう、気づいた…


そして、家路につきながら、今さらながら、和子と、肝心の話をしていないことに、気づいた…


肝心の話とは、FK興産のこと…


そもそも、FK興産を今後、どうするのか?


藤原ナオキを今後、どう処遇するのか?


肝心の話を一切していなかった…


あらためて、そう、思った…


あの長井さん…


五井長井家のお嬢様のことが、第一になり、それにすっかり翻弄された…


だから、いつのまにか、五井長井家の処遇が、話の中心になり、その話題に振り回された…


そう、気づいた…


 つまりは、和子のペースに引きずられたとも言える…


 和子のペースに乗って、振り回されたとも言える…


 

 そして、それは、やはり、格の違い…


 私と和子の格の違いだと、気づいた…


 初めは、五井長井家の話…


 それが、終わると、いつのまにか、伸明の話になり、私との結婚の話になった…


 当然、私は、その話に食いついた…


 なにしろ、私の結婚の話だ…


 食いつくのが、当然だ(笑)…


 だから、すっかり、質問をするのを、忘れた…


 つまりは、終始、初めから、終わりまで、あの和子に振り回された…


 あの和子のペースに乗って、話をしていたに、過ぎなかった…


 今さらながら、そのことに、気づいた…


 が、


 それを、悔やんでも、仕方がない…


 なにしろ、格が、違う…


 私と和子では、格が違う…


 私が、どうしようと、和子に立ち向かえるはずがない…


 和子に勝てるわけが、ないからだ…


 だから、納得した…


 自分自身の行動に納得した…


 自分自身の振る舞いに納得した…


 が、


 当然、納得できない者も、いる…


 私と同じような立場でも、納得できない者がいる…


 それが、ユリコだった…


 藤原ユリコだった…


 FK興産社長の藤原ナオキの前妻、ユリコだった…


 私は、今さらながら、それを、思った…


 それを、考えた…



 いみじくも、そのユリコから、その夜、電話があった…

 

 私が、長井さんと和子と会った日の夜に電話があった…


 私は、その夜、疲れ切って、ベッドで、寝入っていた…


 やはり、外出が、カラダの負担になっていたのだろう…


 和子や長井さんと、会っているときは、それほど、負担に感じなかったが、いざ、夜になって、ベッドに横になって、寝てみると、思いのほか、熟睡した…


 きっと、和子や長井さんと、いるときは、気が張っていたから、体調に問題がなかったのだろう…


 病は、気からという、言い古された言葉が、あるが、やはりというか、無意識でも、気が張っていると、少々、体調が悪いときでも、カバーができる…


 もちろん、体調が、悪過ぎるときは、気力で、どうこうなるものではない…


 しかしながら、少々、悪い程度なら、気力でカバーできる…


 気力=気の持ちようで、カバーできる…


 今さらながら、そう、思った…


 だから、長井さんと和子と会っている昼間は、問題なかったが、いざ、夜になって、ベッドで、横になると、熟睡した…


 いや、


 爆睡した(苦笑)…


 だから、今さらながら、昼間は、疲れた…


 あの和子と、長井さんを相手にして、疲れたとも、思った…


 なぜなら、こんなに、気持ちよく、眠れたのは、久しぶりだったからだ…


 実に、気持ちよく眠れた…


 が、


 そんな気持ちよく眠れている最中に、どこかで、音がした…


 それで、目が覚めた…


 いや、


 音が、鳴っている最中に、渋々、目が覚めたと言えば、いいのか…


 どこかで、なにか、音がしている…


 そんな認識で、目が覚めた…


 いわば、夢の続きというか…


 現実と、夢の中の区別が、つきづらかった(苦笑)…


 私は、目が覚めると、急いで、家の電話を見た…


 それは、固定電話…


 珍しく、家の電話だった…


 家の電話は、いつも、留守電にしている…


 その方が、都合が良いからだ…


 近頃は、オレオレ詐欺も、多い…


 実に、多い…


 だから、とりあえず、留守電にしておく…


 そして、留守電に入れたメッセージを聞いて、それから、相手に、電話をかける…


 だから、この夜も、まずは、留守電に入れてあったメッセージを聞いた…


 留守電を入れた相手は、ユリコだった…


 私は、一体、ユリコが、なんの用事だろうと、思いながら、メッセージを聞いた…


 「…寿さん? …ユリコ…藤原ユリコです…夜分、遅く申し訳ありません…」


 …エッ?…


 …ユリコさん?…


 一体、なんだろ?


 こんな時間に?


 私は、思った…


 そして、時間を見た…


 夜の十一時を回っている…


 さすがに、他人様の家に電話をする時間ではない…


 私は、思った…


 同時に、考えた…


 ユリコは、たしかに、嫌いだが、常識のない人間ではない…


 一般的な常識やマナーに欠ける人間では、ないということだ…


 なにより、そんなマナーに欠ける人間では、誰も相手にしない…


 ユリコは、以前、投資ファンドの代表だった…


 もちろん、頭もあるが、一般的なマナーも、持っている…


 常識を持っているということだ…


 だから、そんな常識のある、ユリコが、一体、なんで、こんな時間に電話をくれたのか?


 俄然、興味が出てきた…


 だから、耳を澄ませて聞いた…


 ユリコが、なにを言い出すのか?


 耳を澄ませて、聞いた…


 すると、


 「…やられた…」


 と、電話から、メッセージが流れた…


 …やられたって、一体、なにをやられたんだろ?…


 私が、考えていると、


 「…あの五井の女狐にやられた…」


 と、実に、悔しそうな声で、続いた…


 それから、


 「…たぶん、私は、逮捕される…」


 と、続けた…


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