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寿綾乃という女 第3部  作者: トモサン


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107/122

寿綾乃という女 第3部 107

ユリコ…


 藤原ユリコ…


 私の宿敵(苦笑)…


 そして、ナオキの前妻…


 また、ジュン君の母親…


 私をクルマで、ひき殺そうとしたジュン君の母親だ…


 思いがけない名前が、出て、驚いたが、さもありなんと、思った…


 ここで、名前が出るとは、予想が、できなかったが、さりとて、名前で出ても、驚くことも、なかった…


 あのユリコだ…


 どこで、なにをしているか?


 わかったものでは、ないからだ(爆笑)…


 だから、驚かなかった…


 すると、和子が、


 「…あの藤原ユリコさん…以前、私から、安値で、株を買わされたのが、悔しくて、仕方がないみたい…」


 と、笑った…


 私は、それを、聞いて、以前、あのユリコが、五井の株を買い占めたのを思い出した…


 五井のグループ企業の株を買い占めて、このユリコに、高値で、買い戻させようとしたのを、思い出した…


 が、


 この和子は、ユリコの言い値に、従わなかった…


 ユリコの言い値を無視した…


 ユリコが、手に入れた五井の関連企業の株を3倍で、引き取らせようとすると、この和子が、2倍で、引き取ると、言った…


 そして、ユリコの背後に誰がいるか?


 たしか、ヤクザの高尾組とか、いう名前を口にした…


 高尾組は、経済ヤクザ…


 その高尾組を出資者として、ユリコは、五井の関連企業の株を買ったらしい…


 そして、当たり前だが、その高尾組にユリコは、儲けさせなければ、ならないし、借金なのだから、いついつまでに、ユリコは、高尾組に、借金を返済しなければ、ならない…


 その情報を、この和子は、どこからか、掴んで、ユリコに言った…


 ユリコの弱みを暴露した…


 結果、ユリコは、屈服した…


 和子に屈服した…


 きっと、それが、悔しくて、仕方がなかったに違いない…


 プライドの高いユリコのことだ…


 自分が、負けたことが、悔しくて、仕方がなかったに、違いなかった…


 私は、今、それを、思い出していた…


 「…それで、アナタのお父様に、目をつけた…」


 ユリコが、説明する…


 「…アナタのお父様は、藤原さんの提案に飛びついた…うまくいけば、架空の投資話に乗って、減らしたお金も、取り戻すことができると、踏んだ…だから、乗った…」


 「…」


 「…でしょ?…」


 和子が、説明する…


 長井さんは、その説明に、ぐうの音も出ない様子だった…


 ただ、悔しそうな目で、和子を睨みつけていた…


 「…でしょ?…」


 和子が、もう一度、繰り返した…


 が、


 長井さんは、なにも、言わなかった…


 「…」


 と、黙っていた…


 すると、突然、和子の怒りが爆発した…


 「…さっさと、答えなさい!…」


 と、大声で、長井さんを叱った…


 それまでの大人の対応が、ウソのように、激しく、叱った…


 途端に、長井さんが、ビクッとした…


 明らかに、動揺した…


 そして、それまで、和子を睨んでいたのが、ウソのように、


 「…その通りです…」


 と、小さな声で、答えた…


 か弱い声で、答えた…


 目には、うっすらと、涙が、流れ出していた…


 明らかに、役者が違った…


 大学を出たばかりの若い女と、その父親をはるかに、超える年齢の女…


 五井の分家の娘と、五井の女帝…


 その差だった…


 あるいは、


 人生経験の差…


 くぐってきた修羅場の差…


 かも、しれない…


 この和子が五井の女帝と呼ばれ、五井を仕切ってきた…


 先代の五井家当主、諏訪野建造を支えてきた…


 その経験が、差を作る…


 埋めようのない差を作る…


 そういうことかもしれない…


 私は、思った…


 私は、考えた…


 すると、


 「…アナタの陰には、あのユリコがいる…」


 と、ゆっくりと、和子が言った…


 「…藤原ナオキさんの元の妻がいる…」


 和子が、予想外のことを、言った…


 すでに、私は、当然、知っていたが、予想外のことを、言った…


 なぜなら、なぜ、このタイミングで、ナオキの名前が出るのか?


 わけがわからなかったからだ…


 「…あのユリコ…藤原ナオキに、必死になって、接触を試みた…」


 「…エッ?…」


 思わず、声に出してしまった…


 いけないと、わかっていても、つい、声に出してしまった…


 我ながら、大人げない…


 が、


 和子は、私を叱責することなく、私を笑って見た…


 「…寿さんが、驚くのも、無理はない…」


 楽しそうに、笑いながら、私を見た…


 そして、


 「…だから、藤原さんは、逮捕された…」


 と、続けた…


 「…エッ?…逮捕?…」


 と、またも、声に出してしまった…


 すると、今度は、私ではなく、長井さんが、


 「…どういう意味ですか?…」


 と、聞いた…


 和子に聞いた…


 「…五井は、警察を退職した人間を数多く、受け入れてます…」


 和子が、説明する…


 「…いわゆる、天下りね…警察庁を定年退職したお偉いさん…例えば、警視総監だったり、神奈川県警のトップの本部長だったりした人間…そんなお偉いさんを、五井の各企業の顧問として、迎えている…」


 「…」


 「…当然、その見返りはある…」


 「…どういう見返りですか?…」


 と、長井さん…


 「…例えば、誰かが、逮捕されたりするのを、事前に知ることができる…」


 「…どうして、できるんですか?…」


 「…警察のつながりよ…」


 「…つながり?…」


 「…警察のお偉いさんも、いずれは、定年退職する…だから、天下り先を確保しなければ、ならない…それで、すでに、天下りをした退職者と、つながっている…情報を提供してくれる…」


 「…」


 「…藤原ナオキは、そのリストに上がっていた…だから、こちらから、天下りした退職者の方を通じて、逮捕させた…あのユリコが、接触できないようにした…」


 「…」


 「…そして、同じく、脱税の疑いで、逮捕されるかも、しれないと、懸念があった、伸明は、すみやかに、追徴課税を払って、難を逃れた…世の中、そういうものよ…」


 和子が、笑いながら、説明する…


 私は、その内訳を知って、仰天した…


 まさか…


 まさか、ユリコが、ナオキの逮捕に関係しているとは、思わなかった…


 直接、関係しているわけでは、なかったが、ナオキの逮捕に、ユリコが、関係しているとは、夢にも、思わなかった…


 だから、唖然とした…


 唖然として、和子を見た…


 すると、当然、和子も私の視線に気づいた…


 「…寿さん、驚いたようね…」


 「…ハイ…驚きました…」


 「…寿さんは、あのユリコと仲が悪いですものね…」


 和子が笑った…


 実に、楽しそうに、笑った…


 それを、見て、私は、あらためて、この和子は、見抜いている…


 全部を見抜いていると、思った…


 私のことを、全部、見抜いていると、思った…


 私とナオキの仲…


 私と、ユリコの仲を見抜いていると、思った…


 そして、それを、思うと、あらためて、役者の差を思った…


 長井さんと、和子の役者の差ではない…


 この私、寿綾乃と、和子の役者の差だ…


 あまりに大きな差…


 仮に、私が、和子の年齢に達しても、和子のようには、なれまい…


 地位がひとを作るというが、私が、これまで、経験したのは、FK興産のみ…


 もちろん、若いときには、他で、バイトをした経験はある…


 他で、働いた経験はある…


 しかしながら、従業員を千人も擁するような、会社で、社長秘書として、働いた経験はない…


 しかも、FK興産を創業以来、私は、社長のナオキのそばにいた…


 身近で、ナオキを支えてきた…


 要するに、従業員が、片手の指で、足りるぐらい少なかった時代から、千人を擁する企業になるまで、ナオキを支えてきた…


 これは、人間でいえば、赤ちゃん…


 生まれたときから、成人するまで、間近で、見守ってきたとも、言える…


 だから、文字通り、愛着があるし、ハッキリ言って、ナオキの右腕として、FK興産をここまで、大きくした自負がある…


 が、


 しかしながら、所詮は、従業員千人程度の会社…


 この和子のように、四百年も続く老舗企業ではない…


 たかだか、創業十五年程度の会社…


 おまけに五井は、五井グループの従業員全員の数は、数十万に達するに、違いない…


 FK興産と比べるまでもない、大企業…


 そんな大企業を仕切る和子と、私とでは、比べるまでもない…


 仕切る人間の数が、全然、違うのだ…


 だから、当然、気苦労もまた、私の比ではあるまい…


 この寿綾乃の比では、あるまい…


 そして、その気苦労が、ひとを育てる…


 ひとの器を大きくする…


 その結果、誰にも、引けを取らない人間を作る…


 どこに出しても、おかしくない人間を作る…


 そういうことだ…


 そして、私が、そんなことを、考えていると、


 「…リンと接触したのも、あのユリコの命令ね…」


 と、和子が言った…


 が、


 長井さんは、


 「…」


 と、黙ったまま、答えなかった…


 うんともすんとも、答えなかった…


 すると、またも、和子の怒りが爆発した…


 「…聞かれたことには、さっさと、答えなさい!…」


 と、怒鳴った…


 途端に、長井さんが、蚊の鳴くような声で、


 「…そうです…」


 と、答えた…


 それを、聞いて、和子は、納得したようだ…


 私を見て、ニコッと、笑いかけた…


 それから、


 「…女の恨みは、怖いものね…」


 と、笑った…


 「…あのユリコさん…私に株を安く買い叩かれたことを、まだ根に持っているみたい…」


 と、言って、笑った…


 「…怖い…怖い…まだ、根に持っている…

女は、怖い…執念深くて、怖い…」


 と、言って、自分のカラダを手で抱いて、おおげさに、震える姿を見せた…


 それから、すぐに、真顔になって、


 「…でも、それでは、ダメよ…」


 と、言った…


 私は、つい、


 「…どうして、ダメなんですか?…」


 と、聞いてしまった…


 「…過去は、過去…いつまでも、ひとつの過去に縛られていちゃダメ…過去にとらわれていては、ダメ…」


 和子が、答える…


 それから、長井さんに向かって、


 「…それは、アナタも同じ…」


 と、言った…


 「…どう、同じなんですか?…」


 「…アナタが、お金持ちだったのは、過去の話…アナタは、もはや、一般人…お金持ちでも、なんでもない…」


 と、和子が、冷徹に告げた…


 その途端、長井さんは、号泣した…


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