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寿綾乃という女 第3部  作者: トモサン


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103/122

寿綾乃という女 第3部 103

が、


 仕方がない…


 五井記念病院に行かなければ、ならない…


 そう、思った…


 正直、気が進まないが、五井記念病院に行かなければ、ならない…


 そして、虫の知らせというか…


 子供の頃は、さして、気にしなかったが、歳を取るにつけ、この虫の知らせ…


 いや、


 虫の知らせというのは、おおげさだが、要するに、気が進まないと、思っているのに、なにか、することは、失敗することが、多いということを、学んだ…


 第六感といえば、おおげさだが、事前になんとなくわかるというか…


 ただ、単純に行きたくないなと、なんとなく、思っているにも、かかわらず、友人に誘われて、仕方なく行ってみたところに、自分の嫌いなヤツがいたなどというのは、誰もが、よくあることだ(苦笑)…


 私もそれと、同じ…


 同じだった…


 そして、それは、今日も同じだった…


 事前に、五井記念病院に入院した諏訪野和子に連絡をしようと思ったが、さすがに、連絡をするのは、躊躇った…


 私風情の人間が、五井の女帝に、直接聞くのは、失礼なことだと、思ったからだ…


 あるいは、五井記念病院に連絡をしてみれば、和子に取り次いでくれたか否かは、わからない…


 が、


 さすがに、それは、嫌だった…


 さすがに、それは、できなかった…


 だから、事前にナオキに連絡して、


 「…ナオキ…伸明さんに、連絡をして、和子さんのお見舞いに、行くから、五井記念病飯のどこの部屋に入院しているか、聞いてくれない?…それと、いつ行けば、いいか、都合のいい日も、聞いてくれない?…」


 と、言った…


 すると、


 「…わかった…聞いてみるよ…」


 と、ナオキが、答え、その日のうちに、折り返し、連絡をくれた…


 「…基本的には、いつでも、いいそうだ…」


 「…いつでもいいって? …ウソ?…」


 と、言った…


 さすがに、入院したのに、見舞いは、いつでもいいと、いうのは、ありえないからだ…


 それが、正しければ、たいした、病気でも、怪我でも、ないということだ…


 私が、驚いていると、


 「…諏訪野さんが、言うには、ただ単に疲労がたまった結果らしい…ただ、検査を兼ねて、入院したのが、真相らしい…」


 と、ナオキが、説明する…


 私は、それを、聞いて、ホッとしたというか…


 同病相憐れむではないが、やはり、自分と同じく、病に苦しむのは、忍びないと、思った…


 まして、和子は、私の母親と同じ世代…


 私の親世代だからだ…


 私が、そんなことを、考えていると、


 「…ほら、五井長井家の一件もあったろ?…」


 と、ナオキが、電話の向こう側から、言ってきた…


 「…あの件で、和子さんは、相当、疲労が溜まったらしい…」


 「…エッ? …そうなの?…」


 「…実質、五井は、和子さんが、仕切っている…だから、そのプレッシャーは、ボクたちが、想像を絶するほど、あるんだろう…」


 ナオキが、言う…


 たしかに、五井は、十三家…


 十三の分家がある…


 しかも、各々が、それぞれ、五井の名前を冠した会社を持っている…


 だから、ハッキリ言えば、連合体…


 一族が、いつも、一体化しているわけではない…


 それゆえ、一族をまとめるのは、容易ならざるはずだ…


 相当な苦労があるはずだ…


 現に、五井長井家が、FK興産を手に入れようとして、先に本家が、手に入れた…


FK興産の持つ、伊勢原周辺の土地が、再開発により、高騰する可能性があり、それを、手に入れれば、大儲けできる…


その結果、五井の序列が、崩れることを、恐れたのだ…


人間は、嫉妬の生き物…


自分と同等…あるいは、自分以下だと、思った人間が、自分より、上になると、許せないと、思う人間は、数知れず…


それが、顕著なのが、例えば、結婚…


例えば、会社で仲の良い、女の同僚同士が、同じ会社の男と結婚するとする…


そして、一方が、会社の出世頭…


誰が見ても、出世街道を走っていて、もう一方が、まったくの平凡な男だとする…


そうすると、嫉妬が生まれる…


結婚する男によって、明らかに、自分の未来が変わるからだ…


未来の生活が変わるからだ…


そして、こんな例は世間にありふれている…


実に、ありふれているものだ…


私は、ナオキから、和子の容体を聞き、安心すると、同時に、少しばかり、和子に同情した…


金持ちの家に生まれるのは、羨ましいが、正直、自分は、そんな苦労は、絶対したくない…


想像するだけで、うんざりする…


だから、金持ちには、金持ちの悩みがあるものだと、つくづく、思った…


いや、


金持ちだけではない…


兄弟姉妹でも、同じ…


これも、よく聞く話だが、同じ兄弟姉妹でも、一方が成功し、もう一方が、成功しないと、確執が生まれるものだ…


とりわけ、一方が優れていて、もう一方が、劣っていた場合…


具体的に言えば、一方が、勉強ができたり、ルックスが良く、美人だったり、もう一方が、勉強がさほど、できなかったり、美人でなかったりするものが、学校を卒業して、社会に出て、成功する例は、数知れず…


勉強ができた兄が、就職した会社になじめなかったり、転職に失敗したり、真逆に、勉強ができなかった弟が、会社で、出世したり…


あるいは、美人に生まれた姉が、いいひとと結婚できなかったにも、かかわらず、平凡なルックスの妹が、出世する男と結婚したり、学歴が高い男と結婚したりすることもある…


世の中、必ずしも、勉強ができたり、ルックスが、よかったりすれば、成功するわけでも、なんでもないからだ…


ハッキリ言えば、あまり相関関係がない…


そういうものだ(笑)…


ハッキリ言えば、運…


運の要素が大きい…


誰もが、就職する会社や、結婚する相手をよりどりみどり選べるわけではないからだ…


だから、偶然、選んだ会社や、結婚相手が当たった…


そういうことだろう…


そして、これは、努力とは、別…


ただ、運に恵まれている…


それだけのことだからだ…


金持ちの家に生まれたり、頭がよく生まれたり、ルックスが良く生まれたりするのも、運…


運が、良かっただけ(笑)…


しかしながら、その運が、続くかどうかは、わからない…


金持ちと結婚しても、幸せでないものは、世間にいっぱいいるだろうし、真逆に、平凡なルックスだったり、平凡な生活でも、幸せだと、感じるものもまた大勢いるだろう…


お金があれば、ずばり幸せではないし、ルックスに恵まれなければ、不幸せな人生を送るわけでは、ないからだ…


要は、気持ちの問題もある…


私は、そんなことを、思った…


私は、そんなことを、考えた…


そして、そんなことを、考えた後、五井記念病院に向かった…


五井の女帝、諏訪野和子の見舞いに、行った…


正直、気が進まなかったが、行った…


なにより、私は、和子の世話になっている…


いや、


なりすぎている(苦笑)…


先日、オーストラリアに、癌の治療に、行ったのだって、五井に金を出してもらった…


五井=和子に金を出して、もらった…


滞在費、治療費、その他諸々の費用を出して、もらった…


が、


それは、私とナオキを引き離すため…


私をナオキから、引き離し、その間にナオキから、FK興産を買収するためと、ユリコが、言った…


ユリコが、教えてくれた…


が、


本当のところは、わからない…


肝心のナオキに、聞いても、わからない…


なぜなら、ナオキ本人に、その自覚がないからだ…


だから、わからない…


真相が、わからない…


ただ、わかったのは、ナオキが、会社経営に意欲を失い、会社の業績が、思わしくなくなった…


それで、友人の五井家当主、諏訪野伸明に、相談した結果、ナオキは、FK興産の自分の持ち株、半分を五井に譲り、五井から、経営指導という名目で、ひとを派遣された…


事実上、五井の支配下に入ったということだろう…


それが、まぎれもない事実だ…


が、


問題なのは、最初から、ユリコが言うように、FK興産を買収するために、私とナオキを引き離したのか否か?


それが、問題だった…


そして、その問題の答えは、今、現在も、得られていない…


あるのは、結果だけ…


FK興産が、事実上、五井の支配下に、入ったという結果だけだ…


私は、思った…


私は、考えた…


そして、そんなことを、考えながら、和子の見舞いに行った…


五井の女帝の見舞いに行った…


だから、冷静に考えれば、FK興産を買収するために、私にオーストラリアに癌の治療に、行かせたか否か?


その疑問を解く絶好の機会…


しかしながら、さすがに、それは、聞けなかった…


なにしろ、立場が違いすぎる…


片や、大金持ち…


片や、一般人だ(爆笑)…


だから、立場が、違いすぎる…


私も、もう32歳…


若くはない…


だから、以前から比べれば、図々しくなり、ずけずけと、相手に、聞けるようになった…


ハッキリ言えば、オバサンになったからだ…


さすがに、若いときは、聞けなかったことも、聞けるようになった…


が、


さすがに、限度がある…


さすがに、できないことがある…


つまり、いくら、私が歳をとったからと言って、和子に、FK興産を買収した真相を聞くことは、できない…


そういうことだ…


そして、これは、私が、もっと歳をとっても、同じだろう…


さすがに、聞けないし、あるいは、仮に、聞いたとしても、おそらく、和子は、本当のことは、言わないだろう…


そう思う…


だから、聞けないし、聞いたとしても、無駄…


無駄だ…


私は、思った…


私は、考えた…


だから、堂々巡り…


そんな、答えが出ないことを、いつまでも、考え続けていた…


五井記念病院に着くまで、ずっと考え続けていた…


そして、いざ、五井記念病院に着くと、足がすくんだというか…


正直、来てしまった!


と、いう感じだった…


とうとう来てしまったという感じだった…


正直、来てしまったという感覚だった…


だから、もう、腹をくくるしかないと、自分でも、思ったが、さにあらず…


いつまでも、気が重かった…


自分でも、なんで、こんなに、気が重いんだろ?


と、驚くほど、気が重かった…


が、


仕方なく、五井記念病院の入口のドアを、くぐり、中に入った…


ロビーに入った…


途端に、どこからか、


「…寿さん…」


と、私の名前を呼ぶ声がした…


幻聴ではない…


たしかに、私の名前を呼ぶ声がした…


しかも、相手は、若い女の声…


私は、慌てて、キョロキョロと周りを見た…


誰が、私の名前を呼んだのか、見た…


すると、もう一度、


「…寿さん…」


と、繰り返した…


若い女の声で、繰り返した…


私は、急いで、その声のする方を見た…


と、


そこには、一人の看護師の女のコが、立っていた…


私は、その女のコに、見覚えがあった…


が、


すぐには、わからなかった…


が、


少し考えて、わかった…


彼女の名前は、長井さん…


私の担当医、長谷川先生の姪…


五井長井家に、後妻で、嫁いだ長谷川先生の姉の義理の娘だった…


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