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寿綾乃という女 第3部  作者: トモサン


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101/122

寿綾乃という女 第3部 101

そして、そんなことを、考えると、あらためて、和子の目的を思った…


 和子は、本当に、私を、甥の伸明の妻にしたいと、思っているのか?


 甚だ、疑問だった…


 なにしろ、私だ…


 この寿綾乃だ…


 矢代綾子だ…


 たいした能力もない…


 大学も出ていない…


 高卒だ…


 ただ、自分でいうのも、なんだが、周囲から、いつも、堂々としている…


 頼れると、評判(苦笑)…


 だから、もしかしたら、和子もまた、私を誤解しているのかも、しれない…


 過大評価しているのかも、しれない…


 その可能性はある…


 その可能性は、否定できない…


 ひとは、どうしても、見た目…


 見た目=外見で、判断する…


 いかに、東大や、京大を出ていようが、ひ弱そうだったり、頼りなさそうに見えると、評価は、低いものだ(笑)…


 そして、仕事…


 学生では、ないのだから、評価は、勉強ではなく、仕事になる…


 仕事での評価となる…


 そして、仕事が、自分に合わないと、大変なことになる…


 ずばり、評価が、低くなる…


 誰もが、得手不得手がある…


 そして、学歴にかかわらず、なんでも、器用にこなす人間は意外にいるものだ…


 要するに、物覚えが早く、手が早いのが一番…


 一番、評価が高い…


 いかに、東大や、京大を出ていても、トロトロと、作業が遅いと、


 …あのひと、ホントに、東大を出たの?…


 と、周囲の失笑を買うことになる…


 だから、仕事が合うか否か?


 あるいは、


 職場が、自分に合うか否かが、大事…


 勝負の決め手となる…


 職場や仕事が合わなければ、自分の能力を発揮できないからだ…


 ハッキリ言えば、会社ガチャ…


 どこの会社に入るか、ある程度、自分で選ぶことは、できるが、仕事や同僚は、選ぶことが、できないからだ…


 私は、思った…


 私は、考えた…


 そして、私が、そんなことを、考えていると、

 

 「…綾乃さんは、どうするの?…」


 と、ナオキが、聞いてきた…


 「…どうするって、なにをどうするの?…」


 「…伸明さんのこと、どうするの?…」


 「…どうするって、今さら…」


 私は、言った…


 言わざるを得なかった…


 今さら、和子と伸明の元に、戻って、


 …やっぱり、伸明さんと、結婚したいです!…


 なんて、言えるはずが、ないからだ(苦笑)…


 それに、なにより、それは、ナオキの思い込み…


 ナオキが、一方的に、言っているに、過ぎない…


 本当に、和子が、私を評価しているか、わからないからだ…


 私は、むしろ、それより、ユリコの言葉の方が、信じられる…


 ユリコが、言った、私を癌の治療のために、オーストラリアに行かせた真意…


 癌の治療費を、五井が負担した真意…


 アレは、私をナオキから、引き離すため…


 ナオキの唯一の相談相手である、私をナオキから、引き離し、その間に、ナオキを説得して、ナオキから、株を譲り受ける…


 そのためだ…


 正直、私が、ナオキの身近にいれば、五井に株を譲るのは、待ったをかけたと、思う…


 いや、


 待ったをかけずとも、もっと、なんとか、ならないかと、いろいろ、模索したと、思う…


 なにしろ、五井だ…


 大企業だ…


 株を譲ったり、提携をしたりすれば、いずれ、遅かれ早かれ、五井に飲み込まれるのは、わかっている…


 言葉は、悪いが、過去の同じような例を見ても、ほぼ、例外なく、そうなっているものだからだ…


 もし、飲み込まれないならば、それは、FK興産の業績が、回復不能なほど、悪い場合…


 あるいは、業績や、さまざまな、会社の内部事情を知って、五井が、FK興産に、興味をなくした場合だろう…


 が、


 そもそも、五井が、FK興産に、手を差し伸べた時点で、五井は、勝算があると、判断したと、思うのが、賢明…


 そうでなければ、五井ほどの大企業が、たかだが、従業員千人程度のFK興産に手を差し伸べは、しないだろう…


 勝算=経営再建は、可能と判断したに、違いないからだ…


 いや、


 そうではない…


 ここで、言いたいのは、そうではない…


 そもそも、FK興産は、そんなに業績が悪かったのか?


 それが、疑問だった…


 少なくても、私が、FK興産で、社長のナオキの社長秘書として、身近に仕えていたときは、聞いたことのない話だった…


 だから、


 「…ナオキ…そんなことより、会社の業績…FK興産の業績…そんなに悪かったの?…」


 と、聞いた…


 遅ればせながら、聞いた…


 ホントは、真っ先に、聞かなければ、ならないこと…


 すっかり、忘れていた(苦笑)…


 ナオキが、私が賭けに負けたとか、なんとか、わけのわからないことを、言っているから、すっかり、聞くのを、忘れていた…


 すると、ナオキが、思いがけず、

 

「…綾乃さんが、いけないんだ…」


 と、ぼやいた…


 「…どうして、私が、いけないの?…」


 「…綾乃さんが、いなくなってから、正直、会社の経営に情熱が、なくなった…」


 「…エッ?…」


 「…なにより、いろいろ、ありすぎた…ジュンが、僕の子供でないことも、驚いたし、そのジュンが、綾乃さんを、クルマで、ひき殺そうとして、逮捕されたのには、もっと、驚いた…」


 「…」


 「…でも、それまでは、綾乃さんは、ボクの身近にいた…だから、相談といっては、おおげさだけれども、綾乃さんが、身近にいることで、ボクは、安心できた…」


 「…」


 「…だから、おおげさに、言えば、綾乃さんは、ボクにとって、精神安定剤のような存在だった…その綾乃さんが、いなくなって…」


 後は、言わずとも、わかった…


 が、


 これを、聞いて、私は、正直、嬉しかった…


 まさか、それほど、ナオキが、私を頼りにしているとは、思わなかったからだ…


 だから、嬉しかった…


 でも、そんなナオキが、自分ではなくて、伸明を選べ、だなんて、一体、どう思っているんだろ?


 この私のことを、どう思っているんだろ?


 聞いてみたくなった…


 ぜひ、聞いてみたくなった…


 だから、


 「…ナオキ…アナタ…一体、私のことを、どう思っているの?…」


 「…なに? …綾乃さん? …どうして、そんなことを、聞くの?…」


 「…だって、そうでしょ? …たった今、私のことを、精神安定剤のような存在だと、言ったそばから、真逆に、伸明さんと、結婚すれば、いいなんて、矛盾しているでしょ?…」


 「…いや、矛盾は、していない…」


 「…どうして、矛盾していないの?…」


 「…それは、家族だから…」


 「…家族?…」


 「…ボクと、綾乃さんは、もうずっと、家族だった…十年以上、家族だった…ボクは、夫、綾乃さんは、妻…そして、ジュンの母親…同時に、ボクにとって、頼れる姉でもあり、頼れる妹でもあった…」


 「…」


 「…だから、そんな家族が、誰と恋しようが、応援する…そんなスタンスに代わってきた…」


 「…でも、私が、もし、伸明さんと結婚すれば、私は、もう、ナオキ…アナタとは…」


 「…バカだな、綾乃さん…」


 ナオキが、笑った…


 「…なにが、バカなの?…」


 「…綾乃さんが、誰と結婚しようが、ボクと綾乃さんが、家族であることは、変わらない…」


 「…ウソ?…」


 「…ウソじゃない? …これまで、ボクが、一度でも、綾乃さんに、ウソをついたことある?…」


 私は、ナオキが、真面目な顔で、そんなことを、言うものだから、思わず、吹き出しそうになった…


 「…そんなこと、言うと、まるで、今まで、一度も、私にウソをついたことが、ないみたいじゃない…」


 「…そうだよ…」


 「…ウソ…今まで、何度、私の目を盗んで、女の元に、通ったと思っているの…」


 「…それは…」


 「…それは、なに?…」


 私が、言うと、ナオキは、いきなり、私のカラダを抱きしめて、私に、キスをした…


 なにより、私とナオキは、玄関に立ったまま…


 まだ、自宅に上がってもいない…


 二人とも、玄関に立ったまま、ずっと、話をしていた…


 外では、できなかったからだ…


 だから、マンションの自室に入った途端、安心して、話し出した…


 それが、思いのほか、長話になっていたということだ…


 気が付くと、いつのまにか、ナオキは、サングラスを外していた…


 やはり、キスをするときは、相手の顔が見えなければ、嫌…


 なぜなら、安心できないから…


 まさか、誰か、別の男と入れ替わっているとは、思いもしないが、それでも、顔が、見えなければ、安心できない…


 おまけに、ナオキは、イケメン…


 イケメンの顔を見ながら、キスをするのは、悪くない(苦笑)…


 それは、ちょうど、男でいえば、美人を見ながら、酒を飲むようなもの…


 いや、


 女もまた、同じか(苦笑)…


 イケメンを見ながら、酒を飲むのは、最高…


 まるで、芸術品を見ているような気持になれるからだ…


 そして、私は、ナオキから、唇を離すと、


 「…ナオキ…アナタ…」


 と、言った…


 「…なに、綾乃さん?…」


 「…ズルい…私に、これ以上、しゃべらせないために、私の唇をふさいだでしょ?…」


 「…ご名答…」


 「…それに…」


 「…それに、なに?…」


 「…キスをする前にサングラスを外したのは、なぜ?…」


 「…綾乃さんの好みを知っているから…」


 ナオキが、笑った…


 「…私の好みって、一体?…」


 「…イケメン好き…」


 「…なんですって?…」


 「…おまけに、背の高い男が好き…」


 「…ナオキ…もしかしたら、それは、自分のことを、言っているんじゃないでしょうね?…」


 「…わかった…さすが、綾乃さん…」


 ナオキが、笑った…


 「…でも、ボクの代わりに、諏訪野さんでも同じ…変わらない…」


 「…なにが、変わらないの?…」


 「…諏訪野さんも、イケメンで、背が高い…だから、ボクと同じ…綾乃さんの好みのタイプ…」


 これには、


 「…」


 と、絶句した…


 一瞬、言葉が、出てこなかった…


 が、


 すぐに、


 「…わかった…だから、ナオキ…アナタ、今、サングラスを外したんでしょ?…」


 「…どういう意味?…」


 「…サングラスをしたまま、私とキスをすると、もしかして、私が、伸明さんと、キスをしていると、勘違いすると、思ったんでしょ?…」


 「…綾乃さん…なにを言っているの?…」


 「…自分が、伸明さんの代わりだと、思われるのが、嫌なんでしょ?…」


 私の言葉に、今度は、ナオキが、絶句した…


 「…」


 と、言葉が、出てこなかった…


 それから、


 「…プッ!…」


 と、吹き出した…


 「…なに? …なにが、おかしいの?…」


 「…負けず嫌い…」


 「…なに、いきなり…」


 「…ボクが、こう言えば、ああ返す…とにかく、やり返さなければ、気が済まない…」


 「…」


 「…もっとも、そんな気の強い綾乃さんだから、五井の女帝に気に入られたのかな…」


 「…どういう意味?…」


 「…彼女も気が強い…だから、好きになった…」


 「…」


 「…きっと、若い時の自分を、見ているんだと、思う…」


 「…どういう意味?…」


 「…彼女も、美人だろ?…」


 この言葉には、呆れた…


 まさか、自分の母親と同年代の女性を値踏みするとは、思わなかったからだ…


 「…ナオキ…アナタ、生粋の女好きね…」


 「…男は、皆、そうさ…」


 「…ホント?…」


 「…ホントさ…」


 そう言って、また、私にキスをした…


 「…美人が好き…」


 私から、唇を離すと、言った…


 「…美人が、好き?…」


 「…綾乃さんが、イケメンが好きなように…」


 そう、言って、また、キスをした…


 なんだか、珍しく、ナオキに主導権を握られた…


 そんな日だった…


 そして、そんな日があってもいいと、思った…


 私にとって、レアな日…


 レア=希少な日だったが、そんな日があっても、いいと、思った…


 負けず嫌いな私にとって、実に、貴重な日だった(苦笑)…


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