第25話 リズ・アルターナ
数ヶ月前までアーブラムでメイドをしていたリズと申します。「今は何を?」と言いますと、やはりメイドをしています。ですが、決定的に違う事がいくつかあります。その一つは、主人が15の私とほぼ同じくらいの女性に変わったことです。
「リズ、今日の予定は?」
その声は小鳥の囀りの様に軽やかで、早朝の澄んだ空気を彩っていた。その声の主である私のご主人様は、雪の様に真っ白な髪をなびかせて、ベットの上に上品に座っていた。そのお姿はいつ見ても天使の様で、私の心はファンタジーの世界に誘われてしまったかのようなフワフワとした気持ちになる。でも、私とてメイド歴がもうすぐ3年になるプロなのだ!キッチリご主人様の言葉には答えます。
「午前には、女神様との今後のラスタ発展の打ち合わせと、午後は魔族会議となっております」
「ありがとう、リズ」
ご主人様はそう言うと、ベットから立ち上がり、手を伸ばして私の頭を優しく撫でてくれた。その手はとても美しく、繊細な動きで、私の心はまたも踊った。歳が近いからといって、背丈はご主人様の方が少しだけ高い。そのせいか、ご主人様にとって私の頭は撫でやすい位置にあるようで、最近のご主人様のマイブームなのかもしれない。歳の近い相手にそんな事をされたら恥ずかしいかもしれませんが、ご主人様に限っては何故か恥ずかしさどころか不思議な優越感すら感じています。恐らく、魔王という魔族のトップに優しく撫でられる初めての人間になったということからかもしれません。
「リズの髪はとても素敵ね。フワフワで繊細で本当に女性らしい可愛さを感じるわ。きっと、リズなら髪を長くしても似合いそうね。でも、今の短髪の方も似合ってるわ。長髪のリズも短髪のリズも甲乙つけがたいわ。」
ご主人様は、私を見てそう言った。その瞳は燦々と輝いて、私はその光に吸い込まれそうな気持ちになった。ご主人様は美しいお顔をコロコロと変えながら私を見つめていた。ご主人様のファンターのお姫様さながらのお姿に私はついボーッとしてしまった。
「リズ、ボーッとしてたけど、大丈夫?今日は休む?」
私は慌てて答える。
「あっ!
大丈夫です!
では、ライラ様、ご支度をしましょう!」
その様子を見て、ご主人様はフフフと上品に笑い、「ええ、お願い」と優しく言った。それから、雪の様な白く長い髪をサラサラと揺らして私に向かいあった。
「今日も一日お願いね」
私は、私のご主人様にメイドとして最高のお辞儀をした。
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「ライラ、おはよう」
長い金髪に少しの寝癖をつけた少女がドカドカと足音を立ててやってきた。その様子はまるで少年の様であるが、そのお姿は私のご主人様と同じくらいの美しさに溢れている。ご主人様が、王宮で丁寧に育てられた最高級の花であるなら、自然界の美しさを凝縮した様なハツラツとした美をその少女からは感じる。この少女こそが、かの女神様である。神のお国にはきっと人間のルールがなかったに違いありません。女神様はの無作法は時たま目に余りますが、最近は頑張って上品さを身につけようとしているみたいです。
「おはようございます、お姉様」
ご主人様は、女神様に丁寧に挨拶をされた。ご主人様は、女神様の事をお姉様と言うが、これは未だに謎である。どちらかというと、女神様よりもご主人様の方がお姉様って感じがするのは私だけだろうか。いや、それはあまりにも失礼な事ですね。ご主人様の発言を否定することなど、メイドとしてはしてはいけないことですよね。
「女神様、おはようございます」
私の挨拶が終わると、3人だけの打ち合わ室にノックと共にもう1人の使用人が現れた。
「魔王様、おはようございます。紅茶を用意しました。どうぞ、お召し上がり下さい」
声の主は、グルマーニャさんだ。グルマーニャさんは、女神様のメイドらしい。話によるとゴーレムらしい。少し前まで、女神様と瓜二つのお姿だったのに、気づけばロリロリの美幼女になっていた。未だにどんな人?なのか分からないが、とても可愛い。グルマーニャさんは、器用に紅茶の入ったカップをテーブルに置いた。
私はこの3人を遠くから見つめた。
ファンターのお姫様が2人とそのお世話をするロリ美幼女である。
「これが天国か」
私はつい声が漏れ出てしまった。すると、ご主人様はフフフと上品に笑った。
打ち合わせは、基本的に女神様が主体的に話される。意外にも女神様は、丁寧に計画を立てて理路整然とした提案をなされる。普段の少年の様な振る舞いは嘘の様に、正真正銘の神である事を知らしめる様に丁寧かつ適切な発言をなさる。打ち合わせ中は、言葉ひとつ取っても細部までこだわり磨き上げられた彫刻の様な精密さを感じる。女神様の議論を聞くと、無学な私まで少しだけ叡智を授けていただいた様な気がする。でも、この気持ちはあながち間違ってはいない様で、最近の私は魔王様に同席させていただいた会議の内容を少し理解出来るようになった。
打ち合わせが終わると、ご主人様は女神様とお昼を取られた。そのお姿はさながら楽園の天使の様で物語の1ページを見ている様な感じだった。ただ、なんとなく感じるご主人様の幸せそうな表情に私は少しだけ辛さを感じてしまった。これはきっと私のつまらない独占欲というものなのかもしれない。私は自身の矮小な心の機微に少しだけ苛立ちを感じた。
ご主人様は、女神様とのお昼の後、一度ご自身のお部屋に戻られた。それは魔王としてのお姿をするためだ。お召し物は先程のお姫様の様なモノとは少しだけ異なり、少しだけ凛とした強さの感じる服装を使用される。正直、女の私としてはこちらのご主人様の方が好きだ。もし、このお姿のご主人様に強要されたら何でもしてしまいそうな自分が怖い。
そんな事を考えてボーッとしていた私を、ご主人様は私を横目で見ていた。私は慌てて、ピンっと姿勢を正した。すると、ご主人様はフフフと上品に笑った。
「リズ、行きましょうか」
そうしてご主人様は魔族会議へと参加した。私は人間であるため、会議室前の扉で待つ。同じように会議室前の扉で待つ魔族の方も多く、だいたい喋って待つ。というのも、ラスタの街で人間族と魔族は共存していると言っても、お互い喋る機会というのが、実は少ない。これはお互いがお互いを警戒しているからと女神様は予想されていた。私といえば、魔王様のメイドということや魔族の方とも近い距離感であった事も多かった事も相余って、魔族会議の度に魔族の方々に質問責めにされる。このことは、ご主人様や女神様共に喜ばしい事なので、メイドとしてはしたない行為でも、逆にもっと「会話を!」言われている。女神様の言う「魔族と人間族の架け橋になる」ため私はここで頑張ります。
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こうして私は今日も1日の仕事が終わる。
しかしながら、私にはまだやる事がある。
それは、アーブラム領主直々のご命令である。もしこのご命令を遂行した暁には、私のご家族の貴族位の剥奪取り消しが約束されている。
"魔王並びに魔族陣営のスパイ活動をせよ"
命令はこの一文である。
今のご主人様や現在の環境はとても恵まれている。しかし、滅亡したアルターナ家の復興は、私の家族の悲願であって、その後の子孫への恵みとなり、将来の糧となる。私はそれを忘れてはいけないのだ。もし、私のこの命令のせいで天使の様なご主人様が地獄に落とされてしまっても、仕方のないこと…。
私は、本日の女神様との打ち合わせの内容から、魔族会議で聞こえてきた"魔族陣営の軍拡"の情報それら全てを暗号文でまとめる。
それから私は小声で唱えた。
「ご主人様、お許しください」
頑張って更新スピードを上げたい。
第1話から11話までをもっとスッキリ読みやすい様に変えようかと考えています。出来るだけストーリーを変更せず、視点変更を抑えて書き直す事を(近いうち)予定しています。




