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キカイな物語  作者: クンスト
5章 火星に集う者。集う仲間。
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7-8 アルヴと奈国の楽しい晩餐会

 奈国首都に建てられた外賓がいひんを招くための洋館では、歓迎の晩餐ばんさん会が行われていた。

 午前中から夕方まで、長く、ただただけわしいだけの会合を越えた先にある、腹を満たせる安らぎの時である。異星間の条約をお互い尊重し合える形で結ぶためにも、同じ飯を食い、親睦しんぼくを高める行為は、安易であるが有効な手段となるだろう。

 ……そんな夕食会一つでさえ、妙に緊張感と難度の高いものになってしまっているが。


 長い机の上座側に座しているのは、奈国王と王妃、第一王子の三名。奈国における最上級のスタメンである。

 一方、奈国の最高位と対面しているのは、一部ではアルヴと呼ばれ始めた長い耳の麗人れいじん三名だ。

 中央に黄色い長髪の女が座っている。この黄色い髪の女がアルヴ火星派遣軍の司令であり、左右に率いる二人は補佐官という立場である。

 右手にいる長身で緑髪の男は、ひたすらに寡黙かもくな印象しかない。

 左手にいる赤毛で座り方が雑な少年は、不慣れな扱い方でナイフとフォークを動かし続けている。

「……これは何だ?」

かも肉でございます。ネネイレ様」

「肉食か。お前達の世界では贅沢品なのだろうが、血の吹き出る生物の肉は好きではない。下げろ」

 黄色い髪の女の発言を受け、配膳されたばかり皿が即座に下げられる。隣の緑髪の男は何も言わなかったが、鴨肉を見ようともしなかったため、同じように皿は回収された。

 赤毛の少年だけは好奇心旺盛に、肉の塊の中央にフォークを突き刺して、そのまま口に運んで食らっている。細かく切っていないため、肉の大きさに苦労していた。

「イルルット。油が垂れているぞ」

「だって、こんな原始的な食事方法になれてなくてさーっ。うわぁ、ぬめってした弾力がして、マズ」

 普段、錠剤か直接血管に栄養を流し込む生活を送っているアルヴにとって、食事は楽しむものではない。晩餐会に出席しているのは外交官としての責務だからである。

 肉食などという野蛮行為を続ける下級種族が、最高の食材でアルヴをもてなそうとしている。その心を理解できない程に、アルヴは冷徹な種族ではない。だから席から離れない。

 そういう意味では、下品な食べ方を行うイルルットと呼ばれた少年は、三名の中では最も努力家という事になる。ドーム世界の流儀を真似て、口元を汚している。少年の誠意が、奈国の人間に伝わっているかは正直微妙なところであったが。

 王族との晩餐で料理にケチを付けるなど、不敬が過ぎるアルヴ三名であるが、誰も彼女達をとがめる事ができずにいた。

 洋館を護衛しているのは親衛隊だけではない。未知なる科学力で製造されたアルヴの石鎧も多数展開している。食事マナー程度の些細ささいな問題で、軍事衝突を起したくないと奈国の誰もが思っていた。


「――して、奈国王。いつ遺跡調査を開始できる。ここからそう遠くはないのだろう?」


 黄色い髪の女は、思い出したかのように奈国王にたずねる。

「ネネイレ様、申し訳ございません。かの地は聖域であるため、多くの手続き、儀式が必要となるのです。古びた惑星的習慣ではございますが、時を無駄にしている訳ではございませぬ。もうしばらくお待ちできますでしょうか」

「月の種族は、火星を侵略したい訳ではない。固有の文化や習慣を尊重するつもりではあるが……、急げよ。本国の連中は我々よりも気が短い」

「ははっ」

 食事中ですら、アルヴとの会話は気が抜けない。息子の鷹矢王子と比べて穏やかな顔付きの奈国王は、ここ数日で随分と老けてしまっている。

 結局、前菜とスープを少しずつしか黄色い髪のアルヴは食さなかった。最後の甘いデザートも、一口味見をする程度にとどめるだろう。王族でも滅多に口にできない非合成食材の数々だったのだが、アルヴは好まなかった。

「そういえば、お前達が石鎧と呼ぶ機動兵器。提供機体をこちらで調べさせてもらったが……やはり黒である可能性が高いな。酷く稚拙ちせつな作りであるが、センサー類に月の技術のくせが確認された」

 明日再開される会合で持ち出すべき話題を、黄色の髪のアルヴ、ネネイレが口にする。

 嫌味や外交的駆け引きではない。ネネイレは口寂しいから、代わりに言葉を口にしているに過ぎない。が、奈国の者達にとっては悲劇的だ。

 アルヴの部隊には、数機の石兎ペトロス・ラビットが無償提供されている。最新鋭機を最悪敵になる勢力に手渡すなど愚かしいにも程があるが、首都を押さえられた状態で奈国が何かを拒否できるはずがない。

 提供してから数日であるが、アルヴの技術者は進んだ技術力により、石兎のほとんどの機能を解明されてしまっていた。

 まだ装甲素材の確定は済んでいないものの、奈国のSAストーンアーマーでは数をそろってもアルヴのOAオービタルアーマーの脅威にはなりえない、所詮は地方惑星の地上兵器レベルであると結論付けられていた。

 だからといって、技術の盗用を許すアルヴではないのだが。

「製作者と直接話しがしたいが、まだ現れぬのか?」

「製作者本人は既に他界しておりまして、孫娘に当たる人物は捜索中です」

「親族であろうと技術盗用は許されぬが、まずは弁明を聞きたいものだな。……その孫娘とやらは確か、この惑星では珍しい、黄色い髪の女であったか。私と同じ髪色とは、親近感がく。そう悪いあつかいをしようとは思わぬ。早く連行せよ」

 ネネイレは親近感という言葉を用いたが、耳の短い者を同列に扱っている訳ではない。ペットが時より見せる人間のような仕草に心がなごむ。その程度の感情表現だ。

「黒髪ばかりに黄色では、苦労したであろう」

 火星人類は何者か。

 この答えには、アルヴもまだ辿たどり着いてはいない。

 ただ、地球人類の子孫、殖民者達の末裔まつえいである可能性はかなり低いだろう。そうでなければ、アルヴがこうして夕食を共にする事はない。

 アルヴにとっての地球人類は、遺伝子レベルで記述されたむべき生物、悪魔のような生物、絶滅して当然の生物であるのだ。食事を一緒に取るなど、虫唾むしずが走るだけでは済まされない。核で地表ごと熱処理して初めて心が平穏を取り戻す。

「……早く会いたいものだ」

 アルヴの予想では、火星人類の発祥はっしょうとは、一世紀前、月独立戦争時代に火星へと向かった月の種族である。この定説は、アルヴ達から一番支持されている。

 地球で大陸ごとに肌の色の異なる人種が生じたように、星ごとに異なる種として確立された。それが火星人類だ。

 たったの一世紀で随分と地方惑星に馴染んでしまっているが、火星用に遺伝子が調整されていたのかもしれない。

善処ぜんしょしております」

「繰り返すが、私は、興味があるのだからな」

 アルヴ達は己の発祥について語る事はないだろうが……過去、地球人類を滅ぼす月独立戦争に勝利するまで、知的生命体として尊厳ある暮らしはできていなかった。

 過去に存在した地球人類は、アルヴの祖先を物と同じように売り買いし、物と同じように使い潰した。人権などありはしない。

 本来、生物が住むのに適さない月をアルヴが本国としている理由は、月という苛烈な労働環境に多くのアルヴが住んでいたからに過ぎない。月の開拓のため、アルヴが数多く動員された歴史がある。

 同じように、殖民予定であった火星にアルヴを労働力として送り込んでいた可能性は高い。

 そして、地球人類の植民者よりも数多く配備されたはずであり、反乱を起せば必ず勝利できただろう。

 無酸素の火星に、酸素を必要とする二足歩行生物が進化した。この夢物語は、アルヴの多くが否定している。本当の意味での火星固有種であると思っているのは、快楽者な赤毛のイルルットぐらいだろう。

 月の地下に構造物を作って住むアルヴと、ドームで暮らす火星人類は似通った生活をしている。収斂しゅうれん進化が極まれば、容姿だって似るものだ。ファンタジーを好む者はこう論じる。

 しかし、ネネイレは今回の遠征で妄想を一蹴する証拠を得ていた。

 火星人類もアルヴと同じくDNAで作られる生物だった。更に塩基配列は、かなり酷似している。

 まだ、結果は出ておらず、倫理に抵触するのでアルヴは絶対に行わないだろうが、月と火星で交配だって可能かもしれない。


「――ねー、ネネイレ。そんなに会いたいのなら、僕が連れてきてあげようか?」


 出された食事はすべて行儀悪く口にした赤毛のイルルットが、ふと、口走った。料理に集中しているように思われたが、ネネイレと奈国王の会話を、いちおう聞いていたようだ。

 なごやかではなかった。が、平和に夕食が終わりかけたというのに、どうしてこの赤毛はそんな不都合な事を言い出すのか。奈国の人間は全員そう思ったに違いない。

「宇宙から探して、三号機で直接向かえばすぐ捕まえられるよ?」

「上級船員である、お前が直接動くつもりか。我々が動くにしても、下級船員にやらせるべきではないか」

「きっと悪い事をしているから逃げているんだよ。OAモドキで攻撃してくるかもしれないね。……それって、とても楽しそうじゃないかっ」

 イルルットの無邪気な笑顔は、外見通り、微笑ほほえんでいられるものではない。アルヴが直に、戦力を運用しようとしているのだ。

 きびしい性格をしているが、最も会話が通じるネネイレなら、赤毛少年の暴走を止めてくれるはず。そんなあわい願いは通じない。

 ネネイレはサンプルとして、月野海なる個体に興味がある。

 また、石鎧なる機動兵器との実戦データは、今後の火星活動で必須だ。魔族を圧倒しただけでも恐怖心を植えつける事に成功していたが、直接戦闘で駄目押しすれば条約をもっと有利に締結できる。

 ネネイレがイルルットに許可を出す理由は多かった。


「許可する。ヴォルペンティンガー三号機と共に、今日中に軌道上に戻れ。アンテロープ部隊と共に、対象を生きたまま捕獲しろ」


 赤毛が揺れ、イルルットは楽しそうに席を立ち上がる。

「やった。やっぱりネネイレは話が分かるから好きだよ。あ、そうそう、捕縛対象以外は壊しちゃって問題ないよね。僕、逆らう奴は殺しちゃうよ?」

「月の種族に敵対する意味を、お前が教えてやれ」

 イルルットは明日のツマラナイ会合に出席しなくて済む口述を得られて、最大級の笑顔を見せた。


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