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キカイな物語  作者: クンスト
4章 Two years later...
62/106

6-7 火星に介入する月の種族

 王都を襲撃した男爵級が討伐されて一週間。

 奈国と魔族の争いは一つの節目ふしめを迎えようとしている。

 奈国の二大軍事力である内縁軍と外縁軍は合同部隊を組織し、国の東北部へと進出していた。

 度々襲い掛かって来る魔族の群生地を、偵察部隊が発見したのが三日前。

 魔族を撃滅するために軍隊は迅速に召集された。国境に近いという事情から、群生地を挟撃するようにアメリアからも部隊が派遣されている。大戦以来の大規模の作戦と言えるだろう。

 作戦区域は不毛の荒野と、巨大な亀裂しか存在しない。

 これまで軍隊の追撃を逃れた魔族や、前回降下してきた魔族の生き残りが峡谷きょうこくに潜んでいるのだ。偵察部隊の報告によれば、貴族と思しき巨体も複数確認されている。

 作戦では、まず砲撃部隊が面制圧を行う手筈になっている。慢性的に資源が枯渇している奈国に十分な砲弾は存在しないので、砲撃だけで決着は付かないだろう。

 いや、十分な砲弾が存在したとしても、魔族に対しては効果が薄い。

 奇妙な事なのだが、同程度のダメージを与えられる攻撃でも遠距離と近距離とでは、魔族の負傷具合が大きく異なるからだ。魔族だから奇妙であるのは何ら不思議ではない、と見過ごせない特徴である。

 兵士達は経験則から、魔族の耐性が距離に比例していると把握している。だから、人類同士の戦いでは決め手に成りえる野戦砲の力強さを過信しない。数分の砲撃の後、石鎧部隊による近接戦が必要となる。

 そのため、部隊編成は近接装備の石鎧の比重が大きい。

 内縁軍からは首都防衛の精鋭である、第一から三までの石鎧中隊が派遣されている。また、本日の作戦に合わせるため、メーカーに無理を強いて用意させた新型石鎧、石兎ペトロス・ラビットを装着する新設部隊も用意していた。

 対魔族戦において外縁軍に遅れを取っている内縁軍としては、新しい力を内外に見せ付けたいのだ。


==========

“石鎧名称:石兎ペトロス・ラビット

 製造元:月野製作所

 スペック:

 身長二・五メートル。中肉中背の石鎧。

 軍学校の卒業試験を制した賢兎ワイズ・ラビットの量産機である。高価な液体コンピューターを廃止して、一般的な演算装置に変更する事で賢兎よりも三割ほどコストダウンに成功している。

 また、オプション装備も標準的なものに留まっているため、かなり平凡な石鎧に仕上がっている。

 ただし、石鎧としての完成度は賢兎以上に高い。開発者が病的に固執した生存性能は、現場の装着者の間で好評だ。

 コストダンを乗り越えて、特徴的な頭部と耳型環境センサーは残されている。一目で月野製作所製の石鎧だと分かるだろう”

==========


 外縁軍は砲兵中隊を含む石鎧連隊を用意していた。前衛の部隊には、当然のように二機のアキレウスが配備されている。

 内縁軍、外縁軍合わせて、石鎧総数は五百機近い。後方部隊を加えれば、更に数は膨れ上がる。

 一匹たりとも魔族を逃さず、この地で葬り去るという意気込みが強く感じられる大軍勢が、惑星の古傷のような深い峡谷を包囲しているのだ。



 作戦開始まで五分も残されていない。

 司令部からの作戦命令を待ち続ける兵士達は、一部を除き、異常なまでに静かだ。

 訓練期間を終えたばかりの新兵は、喉のかわきを耐えている。

 魔族との交戦経験のある兵士は、異形の群に潰されかけた記憶で震える歯を噛み締めて止めている。


『あー、早く始まらねぇのか』


 それなのに……、奈国の民から英雄視されている城森英児しろもりえいじは、刀剣を思わせる石鎧の中で欠伸あくびをかいていた。張り詰めた弓の弦のように緊張感を高めている兵士達や、近場にいる妻とは大違いに、英児はダレている。

『早起きして眠い。早く終らして帰りたいから、男爵級は全部俺に任せろよ。……瑞穂みずほが戦っても良いが、お前じゃ倒せねえし』

『――黙れ。さもなくば死ね。もしくは殺す』

『俺が死んだらこの国滅びるだろうが。それに、いつでも殺してみろ、と毎回ベッドの上で言っているだろう?』


『――警告、ロックオンされました――』


『だが、公衆の面前では止めておけ。英雄の夫婦仲が崩壊していると知られたら、ファンが悲しむ』

 AIの警告音声を目覚まし時計にして、英児は目を完全に覚ます。

 アキレウス・ネオプトのカメラレンズが発光する。赤くギラ付かせた目で遠くを望む。

 味方であるはずの赤銅色のアキレウスから銃口を向けられたままであるが、英児が気にしている様子は見受けられない。英児にとって、既に倒した事のある瑞穂は、たとえ殺意の塊であっても興味の対象に成りえないからだ。


『――――ん、何だよ。アイツ等?』


 そんな遠くばかり見ている英児だから、真っ先に気付けたのか。

 魔族が潜む峡谷の上、分厚い雲と強い気流の流れに阻まれ荒れた空に、三つの影が並んでいる。

 おそらく、魔族ではない。カラフルな色合いが魔族らしくない。

 奈国の用意した兵器でもない。ドーム国家が有している飛行物体は、偵察用のカイトぐらいである。空気が薄い割に一年の九割が悪天候に見舞われるこの惑星では、航空兵力は運用できないからだ。

 しかし、三つの影は空を飛んでいる。ゆっくりと下降しているが、重力加速度にあらがっているのは明白だ。

 いつの間にか現れていたので、どこから来たのは分からないが。

 雲の層には、ぽっかりと穴が開いていた。




 空の高みから、それこそ成層圏のはるか上空より降りて来たのは、三機の機動兵器だ。

 三機の個性は強いが、人類が乗り込んでいるとしか思えない人型をしている。機体サイズも人間を一回り大きくしたぐらいであろう。

 ただし、ドーム国家群は有史以来、惑星の大気圏外に出たためしはない。人間はもちろん、実験動物や機械さえも重力の外に進出した記録はないのだ。

 しかし、彼等は空から現れた。


『――ヴォルペンティンガー一号機、大気圏突入成功。両翼展開成功。斥力場形成率安定』


 人類でも魔族でもない、第三の種族が戦場に割り込んできたのである。

『――ヴォルペンティンガー二号機。……突入成功だ』

『――同じく、三号機。……あははっ! マジでたくさんいるなぁ! 腐れ魔族もいるし、違うのもいる。まさか地上のアレ、OAのつもり? うわ、猿真似が酷い』

 火星への大気圏突入を果たした三機は、機体状況の確認を速やかに終わらせる。

 どの機体も異常はない。内部の装着者達は、即時戦闘が可能な状態である事を確認し合う。

『あの出来損ないの猿真似。撃っちゃって良い? ねぇ、良いよねぇ!』

『三号機、魔族の殲滅は許可する。が、火星の原住民に被害は出すな。地形も可能な限り残せ』

『なんだよ。ケチ臭いなぁ』

『彼等は未発見の生物群だ。高貴なる種族である我等には、下等な知的生命体を導く義務がある』

 声質から、一号機の装着者の性別は女であると知れる。雌雄の分類があれば、であるが。

『降下位置が良過ぎたな。重力が低いのに高度維持も困難であれば……ヴォルペンティンガー二号機、三号機。予定を早める。後続を待たずに交戦を開始するぞ』

 三機はそれぞれ異なるオプションを装備しているため、外見が大きく異なった。言われなければ同一機種であると気付けない程に、ちぐはぐな格好をしている。

『二号機より一号機。貴族級が確認できるが?』

『さっすが、話が分かるっ!』

 一号機は、最も標準的な形状をしている。手足と胴体の長さは人間の黄金比を参考に鋳造ちゅうぞうされているため、兵器でありながら美術作品でもある。人間にはない部位である翼が腰から生えているが、造形物としての美しさは失われていない。

 一号機に続いて下降を開始した二号機は、脚部が異様に長い。長いだけではなく、逆関節を採用している。脚以外も特徴的な事に、手首から先は凹端子メスコネクタに換装されていた。

 最後の三号機は、操縦部が小さく見える程に重武装化が進んでいた。開放した巨大な肩部の内側からは数十発の弾頭がうかがええる。


『各機、武器使用自由。魔族を殲滅しろ』


 月の種族。

 魔族からは月の狂った種族ルナティッカー侮蔑ぶべつされる彼等。

『原住民に月の種族の力を見せ付けてやれ!』

 月の種族が用いる石鎧は個性があふれているが、それでも共通点が存在する。

 頭部に生えている、長い耳だ。


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