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キカイな物語  作者: クンスト
1章 月野製作所の救世主
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3-3 メンバーその一

 専属契約を終えた夜から翌朝まで、俺と月野は一晩を明かした。

 ……工場の工作機械に囲まれながら、二人で月野製新型石鎧、賢兎ワイズ・ラビットのデバッグ作業を徹夜で行っていたのだ。性的な何かは一切ないので実に健全だ。

 俺は別に、月野製作所のテスト装着者の契約を結んだ訳ではない。開発を手伝っても、得られるのは出がらしのお茶ぐらいだ。アルバイト代は一切支払われない。

 だが、自主的に手伝っておかないと、後で痛い目を見るのは俺だ。今の賢兎は二足歩行ができるだけの状態。直立不動から二足歩行できるようになった分、進化しているなんて評価は新生代の頃に終らせておいて欲しい。

 現状の酷い完成率を少しでも高めておかないと、卒業試験のトーナメントで優勝するなど夢のまた夢である。

 徹夜の結果、深刻な開発状況を改めて確認できた。

 悲惨なデバッグ作業の内容は割愛する。三十秒ごとに指摘事項が発生してしまい、叫んだり、なげいたりとで声が枯れて痛い。




 ドームの内壁に太陽が昇り始める。夜間の通行規制が解除され、ドーム間の行き来ができる時刻帯になった。

 太陽を見た月野は、俺を軍学校まで送ると言い出す。小さな口で欠伸あくびをしながらトラックの運転席に乗り込んでしまった。

 寝不足で目を細めている人間に運転を任せて、事故を起されてはたまらない。月野を助手席に追いやり、代わりに俺が運転席に乗り込む。

 眠たそうな月野には仮眠しておくようにうながした。

「そういう紙屋君も寝てないのに」

「三日は寝なくても動ける訓練をしている。今日はこれからチームメンバーを集めるから、月野は今の内に眠っておけ」

 本日は休日だ。演習も座学もないため、急いで軍学校に帰る必要性はない。

 いつもは自由気儘じゆうきままに過ごすのだが、月野製作所にとどまって無償労働を行えば、眼鏡の少女と楽しいデスマーチを続けられる。このまま工場に残るのも悪くはないのだが、あいにく、卒業試験を一緒に戦うメンバーがそろっていない。

 卒業試験は最大三名の団体戦だ。

 月野製作所の石鎧で戦うメンバーは、現在の所は俺だけである。競合他社と比べて大きく出遅れてしまっている。急ぎ残り二人を集める必要があった。


「紙屋君の友人って、どんな人なんです?」


 多難に思えるが、一人だけなら俺の人脈で簡単に集められる。

 ただし、俺が目当てにしている男は休日の行動が読めない。朝食を終えるよりも前に身柄を確保しておきたいところだ。

「あんな野蛮人、本当に友人なのかどうか。敵とか悪魔だと思う」

「男の子って、どこかストイックなんですね。同世代の子と遊んだ経験ないから、新鮮です」

「あいつと俺の場合、そういう感じでもない」



 幸いにも学生寮の私室でまだ寝ていた城森英児しろもりえいじを叩き起こして、トラックを止めている駐車場まで背中を押して連行した。

 寝ている所を起されたにも関わらず、英児の機嫌は悪くない。

 むしろ、プレゼントを待ち望む子供のような笑顔で、口から犬歯を覗かせている。

「朝帰りで何事かと思えば、彼女を紹介とはな。……へぇ、意中の曽我嬢かと思いきや見ない顔の女か。九郎とは思えない速攻だ」

 失礼な男である英児は目を凝らし、トラックの傍に立っていた月野の体をめ回すように観察する。

 普段、外に出ないで開発作業ばかりしている月野の肌は色白だ。顔立ちも悪くない。野暮ったい眼鏡と目元のクマは深いが、総合的にはプラスで落ち着く。

 体付きに関しては、そう特筆するものがない。背は平均で、幼く見える訳ではないのだが、これ以上は言及げんきゅうづらい。胴体に特徴がなく、せているとしか評価できない。

「貧相なのが好みだったか。胸部装甲は、曽我嬢の方がありそうだがな」

「勘違いしていないで挨拶しろ。お前の契約相手だ」

「……は? 俺の契約??」

 英児は顔を曇らせるが、即座にやれやれと首を振って笑顔を作り直した。やっぱり今日の英児の機嫌は悪くない。



 なかなか傍にやって来ない俺達を待っていられず、月野の方から近づく。

 駐車場の真ん中で、俺達三人はコの字になって顔を合わせた。

「お初にお目にかかります。月野製作所の社長、月野と申します」

「城森英児だ。契約の話をしたいようだが、寝起きで頭が働いていない。俺に何を求めているのか簡潔に教えてくれ」

 英児に対して、俺から簡単に状況を説明してやる。

「オ前、契約、シロ!」

「九郎。なんで片言なんだよ」

 三つの言葉で直感してくれなかったので、もう少し詳しく説明していく。

 俺が月野製作所の石鎧を借りる契約をした事。

 契約条件は卒業試験のトーナメントで優勝する事。

 石鎧が完成していない事。

 石鎧に乗るメンバーもまだそろっていない事。

「――あらましは以上だ。何か質問はあるか?」

「いや、必要ない。そこそこ理解した」

 これだけ説明すれば、英児に対しては十分だった。

 そして、イベントにえている英児ならメンバー募集を断るはずがない。

「俺はエージを仲間メンバーにしておきたい」

「九郎なぁ。嫌がらせか? 俺はお前と対等な条件で戦うつもりだったんだぜ」

「なら、お前はなまけ過ぎた。月野の新型が高性能過ぎる。お前が今から探しても、同性能のSAは探せないぞ」

「あーあ。しくじった。……まぁ、今回は九郎を手伝いで満足しておいてやる。それなりに働いてやるから、優勝してみせろ」

 英児との交渉は完了した。これでメンバーは残り一人だ。


「……あの、ぼくと城森さん、全然話せてないのだけど。二人で勝手に……もう良いけど……」




 三人目のメンバーについては、夜寝ないで朝も寝ずに考えた結果、一人だけ有望そうな奴を思い出していた。

 そいつは恐らく、既に別メーカーとの契約を行っているはずだが、契約の障害にはならないだろう。

 そいつがいると思われる演習場に向かって、俺達は三人一緒に移動している。

「成績を気にする月野だって、あいつなら納得できるはずだ」

「また紙屋君の知り合いですか」

「いいや、顔しか知らない。向こうは俺を覚えていない。つまり赤の他人だ」

 いぶかしがる眼鏡少女の不安をあおるのは止めておこう。あいつの良い面も教えておく。

「成績は三十位。上位成績へといたる最終関門、と影で呼ばれている実力者だ」

「三十位なら、以前に交渉した事があったはずです。印象に残っていないけど」

「あのカタログなら、素っ気なく断れても仕方がない。あの女は重武装を偏愛している」

「……なるほどな。九郎が誰を勧誘しようとしているのか理解できた。面白そうだから、俺も推薦してやる」

 三人目の正体を予想した英児は楽しげだ。快楽主義者に賛同されるのは遺憾いかんであるが、すべては優勝のためである。

 実のところ、これから会いに行く三人目について、個人的には気乗りしない。

 俺の戦闘スタイルと、かの女の戦い方は一切合致しないからである。同じチームを組んでも、チームワークは期待できないだろう。

「技量に問題はないからSAの操縦も危なげはない。最悪、一つの爆弾だと思って運用してやれば、かなり活躍してくれるはずさ。開戦と同時に敵陣に突撃させれば、それだけで決着が付くかもしれない」

「ぼくはワイズを優しく使ってくれる人を希望するけど……」

 月野の口数が減ってしまった。三人目の女をめたつもりだったのに、逆に不安を増す発言ばかり口にしていたようだ。

「勧誘はえささえあれば簡単だから、俺に任せてくれないか」

「紙屋君。どういった餌を用意したんです?」

賢兎ワイズ・ラビットのDオプション。これならあの女も――」

 月野に三人目の名前を教えようとした時だった。

 距離が近づいた事により、目前の整備棟内から木霊こだます怒号が耳に届くようになったらしい。

 怒号の主は女だとは分かるが、内容までは聞き取れない。


「あー、たぶんこの声が三人目だ。名前は、斉藤ルカ」


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