3-4 メンバーその二
斉藤ルカという女予科生に対して、予科生達の評価はいくつも存在する。苦労しながら一冊の本にまとめて分類すれば、評価は予科生の成績順位の階層ごとに分かれていると知れるだろう。
「石鎧は壊れるものだ! それを、少し全損させてしまったぐらいで文句を言うな!」
成績一五〇位ぐらいまでの予科生から見れば、斉藤ルカは面白い女だ。
いつでも何か仕出かしてくれそうな気配を醸している。スポーツという遊戯が商業レベルまで発展していたなら、毎回観客を楽しませる珍プレイヤーとして親しまれていたに違いない。
鬱陶しいぐらいに伸ばした――面倒で切っていないだけとも言う――髪に隠された素顔も、人気の一つだ。
「たったの二機だけじゃないか。今日の午前中だけでだけど!」
成績一五〇位以上、三〇位未満の予科生達にとっては、立ちはだかる壁だ。
ファイアーウォール、一人火力支援、単純に爆弾女とも呼ばれて畏怖される。
重火器の扱いにかなりの適正を持つが、斉藤ルカほどに無駄弾を恐れずに全弾撃ちつくす予科生はいない。大砲、臼砲、手榴弾、何でも要領良く撃ち尽くす。
演習では実弾は禁止され、安全なペイント弾しか使用を許可されていないからといって安心してはならない。関節部に銃口を密着させてのゼロ距離射撃で破損させられた演習機は数知れない。
飛び道具を制限された格闘戦ならと安心してもならない。斉藤ルカは石鎧の肉弾戦にも強いのだ。演習後には、必ずマニュピレーターが全損した演習機が出来上がる。
「一週間で五機なら、一日一機も失われていないし! こんな柔らかいSAにオレを着せるのが悪いっ!」
成績二九位以上の予科生達にとっては、斎藤ルカとはエンカントしてくる中ボスだ。
倒せない相手ではないのに、一定の被害を覚悟しなければならず、演習のたびに心身共に消耗してしまう。
「もう分かった! 全部オレが悪いと言われるぐらいなら、こっちからお前等を見限ってやる! じゃあな!!」
以上が、斉藤ルカという予科生の適切な評価だ。
整備棟から聞こえる内容に、月野は青ざめてしまっていた。
斉藤ルカを厄病神か何かと勘違いして、月野はいつものように眼鏡の位置をズラしてしまっている。自社の石鎧を全部壊されてしまうのではないかと怯えてしまったのだろう。
浪費家である事は俺も認める。
それでも、敵全体にHP割合攻撃可能な特殊ユニットだと思えば頼もしい。人間、欠点ではなく利点を探そう。
「タイミングが良かったな。丁度、契約が破棄されたばかりのようだし、勧誘しよう」
「少しだけ、待ってください! 本当に斉藤ルカさんなる人がメンバーじゃないと駄目ですか。一考に値すると思いません!?」
「あいつ以外に戦力になりそうな奴はもう残っていない。優勝するためだ。呪われたアイテムでも攻撃力がアップするなら装備するべきだ」
「犠牲を伴うじゃないですか!」
「常にSAを壊している訳じゃない。演習は五回だから、五回分の修理パーツはストックしておけば問題ない」
月野を説得している間に、整備棟の搬入口が内部から蹴り飛ばされる。
癖の強い髪を腰まで伸ばした女が、不機嫌な顔をしながら現れた。片目は前髪で隠れてしまっているが、周囲に拡散される怒気が半分になっているとは思えない。
「月野。ああいう装着者も世の中にはいる。賢兎を売り出したいなら、今の内に慣れておこうぜ」
「あーん、ぼくのワイズーっ」
嘆く月野は英児に任せた。
俺は暢気を装って、出現した斉藤ルカに声をかける。
「少し時間良いか」
「お前、誰だ?」
「同じ予科生の紙屋だ。卒業試験でメンバーを探しているんだが、斉藤ルカ、君を勧誘したい」
待っていたかのように登場した俺を不審に思ったのだろう。じろじろと値踏みする視線で俺の瞳の内側を観察してくる。
斉藤は先程までの怒気を長い溜息で放出していった。気分を換気しているらしい。
和らいだ右目で、斎藤は俺を吟味して始める。他人に八つ当たりしない女だとは、正直思っていなかった。
「さっきの声聞こえていただろ。オレはSAを大事に扱わない奴だぞ。人間以外は消耗品って考え方しかできない」
「俺達は卒業試験トーナメントの優勝を目標にしている。そのメンバーとして斎藤ルカ予科生を選びたい、と言えば理解してくれるか?」
への字に閉ざされた斉藤の口が、嬉しそうに開放されていく。
「良い誘い文句だ。交際の申し込みならつい受けてしまいそうだったが、実はオレ、今そんなに機嫌が良くないぞ」
「機嫌が良いの間違いだろ。その顔は笑顔にしか見えない」
「鬱憤晴らしができるのなら、愉快な気持ちにもなる。……オレをメンバーにしたいのなら、演習が条件だ。お前がオレを負かした場合のみ、素直にメンバーに加わってやる」
分かり易い性格の女は嫌いではないが、レギュレーションを決める前に演習場に向かおうとするのは止めて欲しい。
待った、と一声かけて斉藤の足と止める。
遠くであわあわしている月野を手招きして呼び寄せ、自己紹介を行わせた。
「――この女が社長だって?」
「月野製作所の月野です。よ、よろしく?」
「月野、賢兎のカタログと、俺が持ってきていたDオプションの武装一覧を渡してやってくれ」
賢兎のオプションラインナップ(順次開発予定、開発期間未定)の内、頭文字がDのオプションはDestroy《駆逐》装備を示す。
俺は総重量の増加を嫌って選ぶ気にはなれないが、斉藤は真逆の反応だ。ご馳走を前にして、下品にも涎を垂らしてしまいそうだ。
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“石鎧名称:賢兎・D装備
製造元:月野製作所
スペック:
身長二・五メートル。中肉中背の石鎧にDestroy《駆逐》オプションを装着したタイプ。
腕に固定して運用する大口径機関銃を左右に二門ずつ計四門。
近接用にサブマシンガンを二挺。
胴体内蔵の固定機関銃を一門増設。
脚部にはグレネードランチャーを装備しており、携帯弾数は六発。
重量増加によって歩行が困難になるため、足底にローラーを装着。
坂道やくぼ地にはまった際、脱出に使用する鋼鉄ワイヤーを発射するアンカーユニットも増設される。このアンカーの照準性能は悪いが、いちおう武器として転用も可能。
賢兎の特性を照準装備としてしか使用していないため、装備数に反比例して開発は単純。
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「な、なんだ、この素敵武装。オレに、くれるのか??」
完全に機嫌を良くしている斉藤が、武装一覧と月野に食いついている。
「演習で斎藤はこの月野製の新型を着てくれ。SAの感触も掴めるし、武器試験もできる。良い事尽くしだ」
「オレの事はルカで良い。斉藤はオヤジと被って嫌だ」
「か、紙屋君!? 勝手に決めないでく……んっ! んっー」
月野の可愛らしい口を封じて、俺は斉藤ルカを釣り上げる最後の台詞を言い放つ。
「俺も同じSAを装着して戦う。対等な条件で戦って負けるのなら、文句はないだろう?」
「良いねえ。お前、気に入った!」
不敵に笑う俺と斉藤は、旧来の友のように握手を交わした。あれ、この娘っ子、存外に手の平は小さいな。
慣熟走行もなく勝負をしては悔いが残る、と理由を付けて斉藤を月野製作所に案内する事にした。斎藤との勝負は一週間後に、演習場の一角を借りて行うという事で同意も得た。
ウキウキ気分の斉藤は、月野の肩に腕を回す。女同士、愉快に歩み始める――眼鏡の相方のテンションは悪く見えたが。
「……九郎。一週間後の演習でお前が負けて、斉藤嬢が勝っても、その時はもうメーカーが残っていないと思うが」
答えが分かっているのに、英児は無意味に訊ねてくる。
「あの様子なら、勝負の結果に関わらず斉藤は月野製作所を選ぶだろうさ」
「あの爆弾女が羨ましいぜ、たく。俺だけは勝負を純粋に楽しみしておいてやる」
三人目のメンバー集めを終えた。メンバーの練習と石鎧の開発は並列に行われていくだろう。
まだスタートラインに立ってもいないような気がするが、それでも一仕事終えた気がして欠伸が出てしまった。




