第三十 素材換金
幕話に近い話なので、特に何かある訳じゃないです。
十月三十一
色々と修正しました。
冒険者登録を終えた二人は、この後の予定を話し合った。
「さてと、冒険者登録はしたし、今日はこのまま宿に行くか」
「依頼は明日?」
「ああ。別に急ぐ事でもないし、部屋が埋まってたら面倒だ」
ドイラン達から教えてもらった『兎の耳亭』はそこそこに人気のある宿らしく、遅い時間帯だと部屋が満員になってる可能性がある。
「取り敢えず、ライラはドイランさん達とこ行っててくれ。俺は素材を換金してくる」
「あれ?盗賊の懸賞金じゃ足りないの?」
「一応、ドイランさん達と分けて大銀貨五枚ぐらいはあるけど、何泊するか分からないとなると少し心もとない」
「そっか。了解」
大銀貨が五枚だと、せいぜい宿に十何泊ぐらいだろう。この街に何日滞在するかはまだ未定だが、宿代以外にも色々と金がかかるのは確かだ。それだと、大銀貨五枚というそこそこの大金でも心もとないのだ。
「あ、コオリ。アレの中は魔窟みたいなモノなんだから、くれぐれも変なのは出さないでね?」
「分かってる。この付近の魔物だと、猿と狼が妥当だろ」
コオリは頭の中でこの近辺の魔物の分布を思い出し、素材を持っていてもおかしく無い魔物に当たりをつける。
そして、猿の皮で予め作っておいた袋の中にストレージを発動しておく。
「すみません。素材の換金をお願いしたいんですけど」
「はいはい。素材の換金ですね。………って、さっきの騒ぎの」
「あー、さっきはお騒がせしました。新人冒険者のコオリです」
「あたしはユルよ。………で、さっき登録したばかりの新人君が、どうして素材の換金?」
「手持ちが少々心もとないので、旅の途中で倒した魔物を換金しようかと」
「なるほどね。で、何の素材」
「猿と狼ですね」
「この辺りで猿と狼って事は、フォレストモンキーとホーンウルフかな?新人には結構キツイ筈だけど、やっぱり強いんだね」
ユルもさっきの騒ぎを見ていた様なので、コオリが普通の新人よりも強い事は分かっていた。
しかし、コオリはその認識の更に上を行った。
「なっ!?クレイジーモンキーに牙狼ですって!?」
カバンから出てきた素材を見て、ユルが驚愕の声を上げる。その声を聞いた周囲の冒険者からもどよめきが広まる。
「いやー、クライト森林を通っている時に襲ってきたんですよね」
「襲ってきたっ!?どっちも六級中位の冒険者パーティでも苦戦する様な魔物よ!?」
「まあ、面倒でしたけど倒せましたね」
ユルの叫びにざっくりと返答するコオリ。実際、無駄に数が多く倒すのがやたらと面倒だったので嘘は言っていない。
「面倒だったって………。大体、何で冒険者でも無い旅人がクライト森林なんて通るのよ………」
クライト森林は、あのダンジョン程では無いが高位の魔物が大量に生息する危険地帯だ。冒険者でも滅多に近づかないと言えば、その危険性も伺える。
「近道として突っ切ってきたんです」
「近道として使う様なエリアじゃないわよ!」
「色々あったんですよ。じゃなきゃ、あんな場所をわざわざ通りません」
「………そう。それで、この素材の査定だけど」
適当に言葉を濁して、これ以上は詮索するな、という雰囲気を出すコオリ。それを敏感に察知して、一言だけ言って話題を変えるユル。この対応、流石は色々な過去を持つ冒険者達のギルドの職員、といった所か。
「牙狼もクレイジーモンキーも素材に殆ど損傷が見られない。下処理も完璧と言って良いわ。はっきり言って、ここまで見事に処理された素材は数えるぐらいしかないわね」
「そりゃどうも」
コオリのスキルには『剥ぎ取り』があるので、専門の人間よりも普通に巧いのだ。
「………簡単に言ってるけど、冒険者じゃなくても食べていけるレベルよ?いっその事ギルドで働かない?あたしが推薦するから」
「なんで冒険者になって一時間もしないで転職しないといけないんですか。お誘いは嬉しいですけどお断りします」
「えー、ギルド職員って給料良いし冒険者より安定してるよ?」
「今のところ一箇所に定住する気が無いんですよ」
「うーん、それは残念。でも、気が変わったら何時でも言ってね。歓迎するから」
どうやら半ば以上本気の勧誘だったらしく、ユルは本気で残念がっていた。
「さて、それじゃあ査定額だけど、牙狼が金貨4枚。クレイジーモンキーが金貨2枚かな」
「………高くないですか?」
「処理が素晴らしいから素材に色つけてるのもあるけど、それ以上に魔石が理由ね」
「魔石って、何か変でした?」
「………変って言うか、両方ともかなり魔石の純度が高いのよ。余程魔素が濃い場所に居たのか、レベルが相当高かったのかのどっちかだと思うけど」
「へー」
「大体、牙狼の魔石が金貨二枚、クレイジーモンキーが金貨一枚ぐらいの価値ね」
「結構しますね」
思い当たる理由としては、堕者のダンジョンに居たからだろう。あのダンジョンは流石は数千年来のダンジョンだけあって、内部の魔素は地上とは比較にならない程に高かったのだ。後は、両方ともレベルが50オーバーだったからだろう。
「二匹だけでもかなりの額に成ったな」
「まあ、魔石もそうだけど、その二種は素材としても優秀だからね。牙狼の方は毛皮や牙、爪が武器防具の良い素材になるし、装飾品としても需要がある。クレイジーモンキーは、皮以外は素材としてイマイチだけど、肉が美味しくて高級食材の一つだし」
「あー、そう言えば猿って高いんですよね。確かにあの肉は美味いから納得ですけど」
「美味いって、もしかして食べたの!?うわー良いなー。クレイジーモンキーって、やけに強い魔物がいる場所しか生息してないから希少価値も高いのよ」
「えっと、この国の付近だと、クライト森林の他にはノーム山脈と、ダンジョンの『タイタンの洞穴』でしたっけ?」
「そう。普通の冒険者だと近寄る事すらしない秘境や魔境でしか出てこないから、滅多に市場に出てこないのよ。今は無いけど、貴族辺りが依頼を出す事があるぐらいには貴重な食材よ」
「へー、だったら今後はもうちょっとちゃんと料理しようかな?」
ユルの言葉を聞いて、今までの様に丸焼きにするのは少し勿体なく感じるコオリ。確かに丸焼きでも十分に美味いのだが、貴重食材と聞いてはちゃんと料理をした方が良いと考える。
「今後………?」
「え?………ああ、まだ素材自体は有るんですよ。ほら、猿って群れで行動するじゃないですか」
「料理………?」
「俺、料理スキル持ってるんです。それも結構な。だから、大体は自分で作って食べてるんです」
「食べさせて!!」
「おわ!?」
コオリが料理の事を説明すると、ユルがいきなり詰め寄ってきた。
「ちょっ!?急に何すか?」
「あ、ごめんごめん。いやー、あたしって美味しい物に目が無くてね。つい興奮しちゃったわ」
「興奮って………。いや、別に料理するのは良いですけど」
「本当!?」
「だから近いですって!取り敢えず、まだ色々と忙しいんで、落ち着いたらご馳走しますよ」
「いやったー!!これで今日もがんばれる!」
「そんなにか………」
ユルのあまりの喜び様に少し引くコオリ。コオリとしても、クレイジーモンキーの肉は本気で有り余っているので、他人振る舞う事にはそれ程抵抗がない。むしろ、貴重食材を大量にばら撒いても色々と面倒事が起きかねないので、消費出来る時に消費したい。ストレージに入れとけば腐る事は無いが、このままだとなし崩しで死蔵するのが目に見えるのだ。
「それじゃあ、はい。金貨六枚ね」
「どうも。当分はこの街に滞在しますし、宜しくお願いしますね」
「はいはーい。こっちも料理楽しみにしとくよー」
予想よりも多少時間が掛かったが、素材は無事換金出来た。
そして、宿に向かう為に、コオリはライラの所に歩いていった。
そろそろ書き溜めがなくなってきました。




