精霊に愛されし者(1)
グランデールによるザイムの襲撃の後、僕たち一行はエールベーラを目指していた。
フローは最後までザイムの復興について心配をしていたが、彼女の旅はお忍びであり個人でできることは限られている事や、復興支援のための騎士団の到着が思いの外早かった事があり、早々に街を出発したのだ。
「騎士団の到着がやけに早かったな。」
両手を頭の後ろで組んだトゥラデルが、一番後ろから声を発した。
「ロゼライトの故郷に派遣された騎士団に指示が飛んだのだろう。そうでなければこの様な迅速な対応が取れるはずがない。」
フローの横を歩いているアクアディールが、既に肉眼で見ることは叶わない街の方向に顔を向ける。
「なるほどなぁ。そういう事もあるのか。」
さほど興味が無いのであろう。質問した張本人であるトゥラデルは、既に上の空だ。
「あの、ロゼライトさん、大丈夫ですか?」
フローが何かを濁すように言葉を発し、僕の表情を心配そうに覗き込む。
「ありがとう。大丈夫だよ。」
フローが気遣っているのが、リリスの事であることは容易に想像できた。
口には出さないがトゥラデルとアクアディールも何かを察しているようで、グランデールと戦った建物に残った抉られたような痕跡については触れないでくれている。
リリスは少ない時間であったとはいえ、僕が精神的に追い込まれていた時に一緒に過ごした存在だ。全く問題がないと言ったら嘘になる。
しかし、そんな事を言って立ち止まってしまったら、それこそ僕を叱咤して逝ったリリスに合わせる顔がない。
僕は両手で挟むように頬を2回叩いた。
「リリスの分まで頑張らないと。」
最近のの魔族の活性化は、何か良からぬことが起きる兆しかもしれない。
また、ベヒモスの残した「来たるべき日」という言葉も気になる。
できるだけ早くもう一人の賢者を探し出してフローにポセイドンとジンの試練を受けさせ、何があっても対応できる力を手に入れておかなければならない。
「ロゼライトの故郷までは、あとどれくらいかかるのだ?」
街道から逸れてから、随分と長い時間森の中を歩いている。
歩き慣れないフローの事を心配しているのであろう。アクアディールが僕に声をかけてきた。
「それほど長い距離じゃないけど、これから上り坂になるね。一回休憩を挟もうか。」
エールベーラに続く一本道は小川沿いに作られている。僕は川のほとりに適当な場所を見つけると、荷物を降ろして天に向かって伸びをした。
背骨がポキポキと音を立て、身体がほぐれていくのが分かる。
「思ったよりも足がダルいな。」
ザイムを出てから・・・いや、グランデールの襲撃にあってから、ずっと気を張っていたから気が付かなかったけど、体には随分と疲労がたまっているようだ。
僕は川辺にあった適当な石に腰を掛けて大きく息を吐き、これまでの情報を整理していった。
賢者はふたり生まれ、対となる精霊の力を有する。
僕が『火』と『土』、そして『闇』の精霊の力を操れるということは、もう一人の賢者は『水』と『風』、そして『光』の精霊の力を持っているということになるのだろう。
宿している精霊が容姿にも反映されるのだから、きっと金髪、青い目、爽やかな笑顔の青年なのだろう。
・・・。
・・・。
・・・なんか、負けた気分。
・・・探すのやめちゃおうかな。
想像上のもう一人の賢者に早くも劣等感を描き、頭を悩ませる。
「ロゼライトさん、どうしたんですか?」
黙り込んでしまった僕の顔を、心配そうにフローが覗き込んできた。
フローの無垢な視線が痛い。
間違っても「もう一人の賢者がイケメンだったら嫌だから探すのをやめたい」などと言うことはできない。
「小僧は、もう一人の賢者に嬢ちゃんが盗られないか心配なんだとよ。」
トゥラデルが余計な一言を言い放つ。
心を見透かされているかのような指摘に、不覚にも一瞬言葉に詰まってしまった。
「ロゼライトさん、大丈夫です!どんなにかっこいい人が現れようと、私の心はロゼライトさん一筋ですから。」
恥ずかしげもなくそんな事を言うフロー発言が気恥ずかしく、僕は視線を落とすようにして目を逸らせた。
「お楽しみのところすまないが・・・。」
いつ話しかければよいのか伺っていたのであろう。軽く手を挙げ、アクアディールが遠慮がち僕に声をかける。
「いえ、全然大丈夫です!」
全然お楽しみじゃないという意見はさておき、慣れない恋愛話に発展しそうな雰囲気を感た僕は、食い気味にアクアディールの話に反応した。
「ロゼライトの故郷はどういう所なのか、話してもらえないかと思ってな。」
故郷エールベーラ。
それはどこにでもある小さな村。
水源に近い場所に位置するため、村の中央を流れる小川は夏でも冷たく透き通っている。
村の特産品といえるものが特にあるわけではないが、きれいな小川の水で作る醸造酒はどこの名酒にも負けないと村の爺さんたがよく言っている。
小さな村には珍しく鍛冶屋があり、僕の父さんが営んでいる。農具から剣まで何でも作り、武骨ながらも質のいい物を作ると、ザイムの騎士たちが注文に来るほどだ。
「酒が名産とは楽しみだ。」
アクアディールは、ザイムでもかなりの量のお酒を飲んでいた。自らを律し、規範を重んじる聖騎士団の団員であるアクアディールがここまで酒好きだとは予想外だ。
「土産がてら、酒の肴に猪でも狩っていくか?」
お酒という言葉に反応したトゥラデルが、腰の剣を左手で軽く2回叩いて見せる。
「トゥラデルさん、お酒の肴だけに、お魚釣りっていうか手もありますよ。」
言ってから恥ずかしくなったのか、フローが真っ赤になって「聞かなかったことにして下さい!」と逃げていった。
小川に泳ぐ小魚を楽しそうに眺めるフロー、酒談義に花を咲かせるアクアディールとトゥラデル。
暖かな日差しの中、こんな穏やかな日々がいつまでも続けばいいのにと思ってしまった。




