グランデール再び(7)
門より出現した闇色の大槍は、禍々しさを増しながら徐々にその姿を露わにしていく。
少しでも気を抜くと刈り取られそうになる意識を必死に保ち、僕は頭の中でグングニルの全容を思い浮かべた。
「何ダ、ソレハ?!」
グランデールは、突然姿を現した大槍に戸惑いを隠せずにいる。
すぐにでもグングニルを形作らなければならないのだが、気持ちばかりが焦ってしまい魔力の制御が思うようにうまくいかない。
槍先部分が出現したのを見たグランデールが我に返り、僕に目を向けたのが視界に入った。
まずい!次の瞬間にもグランデールは僕に攻撃を繰り出すぞ!
余計なことを考え集中力が途切れた瞬間、グングニルの槍先がぐにゃりと歪み、消費する魔力が爆発的に増えた。
「パパ、集中・・・して。」
リリス苦しそうに顔を上げ、僕を心配そうに見上げる。
情けない。
グングニルを呼び出すのは既に3回目だというのに、僕はまだ満足に扱うことができないのか?!
「私も一緒に・・・。」
上半身を起こしたリリスがグングニルに左手をかざすと、体中から黒い霧がにじみ出て闇の門へ流れ込んだ。
本来であればリリスに無理をさせるべきではないのは分かっている。
ここで「無理をするな」「休んでいろ」と言えたらどれほど良かっただろう。
噛み締めた奥歯から血が滲み口の中に鉄の味が広がるが、リリスに頼らなければならない現実は変えられない。
それならば、今は1秒でも早くグングニルを完成させるのが僕の務めだろう。
一度大きく息を吸った僕は、ゆっくりと息を吐きながら気持ちを落ち着かせていく。
全身の魔力の流れを感る事に神経を研ぎ澄まし、グングニルを形作るための魔力を調整。
僕では制御できない魔力の揺らぎを抑えるために、リリスが僕の魔力を包み込むように自らの魔力を制御。
「パパ、いいよ。」
危機を感じたグランデールが、こちらに突進してきたがもう遅い。
リリスの声を合図に大きく振った僕の右手に合わせて、グングニルが空気を裂き射出された。
「コンナモノ!」
躱すことが難しいと判断したグランデールが右手でグングニルを叩き落とそうとするが、軌道を逸らすことさえできない。
「ソンナ馬鹿ナ!我ガ、我ホドノ者ガ!」
グランデールの最後の言葉はグングニルが空気を裂く音にかき消され、ほとんど聞き取ることはできなかった。
終わってみれば何ともあっけない最後だ。
いや、それほどまでにグングニルの力が大きいと言わざるを得ない。
熟れすぎた果実を四散させるかのようにグランデールの軽く体を貫いたグングニルは、その衝撃波で街の炎のほとんどを消して夜空へと消えていった。
きっと僕の魔力が届かないところまで飛んで、そのまま消滅することだろう。
「パパ、やった・・・ね。」
体の中に残っていた魔力のほとんどを使い切ったリリスは、体を構成する事さえも難しくなったのか、足先からボロボロと崩れ始めてきている。
「リリスがいなかったら僕は・・・。」
言葉に詰まった僕を見てリリスが優しく微笑んだ。
「短い間だったけど、パパといられて楽しかったよ。」
リリスの体は既に膝の近くまで崩れ始めてきており、残された時間がそれほど長くない事を物語っている。
「なんにもしてあげられなくてゴメン。」
留め処なく流れる涙が頬を伝い、リリスの体を濡らした。
「最後に・・・パパに、プレゼント。」
リリスが僕の胸に手を当て、目を瞑った。
「パパの中にいる闇の精霊達・・・私の代わりに、パパを守って。」
僕に触れたリリスの左手が温かい。リリスが残った魔力を僕に注入しているのだろう。
リリスの魔力の流れを媒介に、僕の中で制御しきれなかった闇の精霊の魔力の流れを感じる。
「これでパパも、闇の精霊の力を・・・制御、でき・・・。」
「リリス!」
魔力を使い切ったリリスの体は一気に崩壊が進み、最後の言葉を発しきることはなく、僕の手の中から零れ落ちた。
「うわぁぁぁぁ!」
夜空に僕の叫び声がこだまし、無情な一陣の風がさっきまでリリスの身体であった物を吹き散らした。




