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賢者というのは強いんじゃなかったのか?!  作者: 要
もう一人の賢者
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もう一人の賢者(5)

 湖に出現した影は徐々に形を変え、僕たちの前へその姿を現した。

 一体は大人の身長の2倍ほどある巨人で、風を纏っているため、はっきりとはその姿を見ることはできない。

 もう一体は水の中から鋭い眼光をこちらに向けている下半身が魚の三叉の鉾を持った男性。

「風の精霊王ジン、それと海洋神ポセイドン。」

 アクアディールが驚愕の表情で呟いた。

「そんな。上位精霊はその精霊の力を有した賢者のもとに現れるはずなのに。」

 フローの言うことは最もだ。しかし古の文献が書いてあることが正しいとは限らないのも事実。

「良く分からねぇが、精霊の試練が始まるっ事なのか?!」

 トゥラデルが剣を構え、いつでも動けるように腰を落とした。

「トゥラデル、下がれ。お前の炎はポセイドンとの相性が悪すぎる。」

 アクアディールが前に出て、トゥラデルを制する。

「そうは言うけどよ、相手は風と水だ。お前の攻撃は完全に無効化されちまうぜ。」

 そうなのだ。うちの主戦力であるトゥラデルとアクアディール両者の攻撃は、ジンとポセイドンの組み合わせとの相性は最悪なのである。

「おい、小僧!」

「ロゼライト!」

 ふたり同時に僕に振り返った。

 いつもは喧嘩ばかりしているくせに、こういう時だけ息がピッタリっていうのはどういう事なんだ。

「分かったよ!」

 僕は精神を集中させ、イフリートの加護により、体内の炎の精霊サラマンダーの力を極限まで抑えた。

「王家の秘術、ノーム!」

 細胞ひとつひとつに土の精霊の力を浸透させるイメージを持ち、爆発的に筋力と耐久力を上昇させる術だ。

 そして右手には闇の魔術により、土の大剣を生成させる。

 成人男性でも数人集まらないと持ち上げられない程の重さの大剣を片手で持ち上げ、僕は悠々と自分の右肩に担いだ。

「イフリートとベヒモスに愛されし者か。面白い、少し遊んでやろう。」

 風の精霊王ジンの口角が上がった。

 次の瞬間、爆音とともに水飛沫が上がり、一瞬で距離を詰めてきたジン。

「は、早い!」

 ジンの体当たりをかろうじて大剣で受けたものの、衝撃を逃しきれなかった僕はそのまま後方に吹き飛ばされた。

 1回、2回・・・何回転がったのかも分からない程回転し、丘の中腹に立っていた木にぶつかってやっと止まる。

 口の中に鉄の味が広がった。耐久力を上げていなかったら間違いなく即死だ。

「ちゃんと立ちな。」

 あっという間に間合いを詰めたジンが、今度は僕の頭を左手で無造作に掴み、木にもたれかけさせた。

 この体勢は、まずい。

 この後に起こることを容易に予想できた僕は、ノームの力を耐久力強化にすべて注ぎ込んだ。

 ジンの右拳が僕の腹にめり込み、同時に酸っぱい液体が胃から逆流する。

「すげぇぞ、これでも壊れない。」

 目を輝かしたジンが僕に続けて拳を叩き込む。

 ジンの拳と木にサンドイッチされた僕は、文字通りサンドバッグと化した。

 ノームの力を耐久力に全て注ぎ込んだ僕の肉体でも、体中の骨が悲鳴を上げているのが分かる。

「・・・!」

 これはフローの声か?

 何かを叫んでいるようだが、今の僕はその声を聞き取る余裕を持ち合わしてはいない。

「これは、どうだ?」

 そう言って振り下ろしたジンの拳を何とか両手でブロックしたものの、後ろの木は粉々に砕け、支えを失った僕の体は、再度後方へと吹き飛ぶ。

 少しでも気を抜くと失いそうになる意識をなんとか保ち、着地と同時にジンの位置を確認する。

「なっ、いない?!」

 確かにさっきまで木の付近にいたはずのジンの巨体が、何事もなかったかのように姿を消していた。

 かすかに聞こえるフローの声。

「・・・う・・・ろ。」

 フロー、何を言って・・・?

「こっちだ。」

 信じられないことにジンの声は耳元から聞こえ、同時に受けたことがない程の衝撃が背中に走った。

 背骨が折れたかと錯覚するぐらい海老反りになった僕は、今度は湖の上空まで蹴り上げられた。

 遥か下方に見えるジンの姿。

 最悪な事にジンの次の行動は予想できた。

 今までの攻撃パターンから導きだされる答えは、僕のところまで超高速で跳び上がり地面に叩きつける、だ。

 ほら、今すぐにでもジンが跳び上がってくるぞ。

 両足に力を込めたジンが僕を見る。

 ジンがここに来るまで、あと一秒足らず。

 もう駄目だ。このまま無ずすべもなく地面に叩きつけられた僕は、一面に肉片を巻き散らしながら人生を終えるんだ。

 半ば諦めかけた僕の目に映るジンは、満面の笑みで拳を振り上げている。

 ・・・ふざけるな。

 見下され続けた賢者の体でここまで生きてきた。

 こんなところで終わってたまるか!

 最後に残っていたのはこれまでの人生で培われた不屈の精神。

 諦めの悪さは、僕の最大の武器だ!

「王家の秘宝、シェイド。」

 炎と土の精霊の力を極限まで制限し、闇の精霊に魔力を最大限分配する。

「分身を創造。」

 僕の言葉と同時に出現したのは3体の僕の影。

 戸惑い、一瞬の隙を見せるジン。

 でも、それで十分。

 以前に失敗してるから不安はあるけど、これしか手は残っていない。

「出ろ、グングニル!」

 右手に大量の魔力を吸われているのが分かる。

 直後、出現する漆黒の大槍。

「くそっ、気が遠くなる。」

 闇の魔力が制御しきれておらず、無駄に力が吸われてるんだ。

 このままじゃ、学園で行った試験の時の二の舞いになってしまう。

「大丈夫だよパパ、リリスもお手伝いするから。」 

 いつの間にかポケットから出てきたリリスが僕の耳元で囁き、グングニルに触れた。

 さっきまでの不安定さが嘘のように消えるのが分かる。

 これならば!

 僕はグングニルを持った手を大きく振りかぶると、ジンに向かってその手を振り下ろした。

 グングニルが超高速で空を引き裂きながら、ジンへと迫る。

 一瞬、僕から目を離したジンに避ける術は無い。

「そこまでだ。」

 グングニルがジンの体に突き刺さると確信した直後、僕とジンの間に割って入ったのは半魚の上位精霊、海洋神ポセイドンだった。

 ポセイドンは僕の放ったグングニルを自身の鉾で弾き飛ばし、三叉の鉾を僕に向ける。

 もうちょっとのところで、ジンに一矢報いる事が出来たというのに!

 全身の力が抜ける。

 魔力が枯渇しているんだ。

 意識が朦朧として来た僕を受け止めたのは、敵であるはずのポセイドン。

「面白い、混ざっているな。」

 消えゆく意識の中で、ポセイドンの声を聞いたような気がした。


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