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自称「管理人」(前編)

「それにしたって趣味が悪い。こういう生き物でもない玩具みたいなもので人を殺しに掛かるその考え方はやはり正常とは言えないね。ところでお前ら、待機していろって言ったのに何で来たんだよ?」


 桐生は味のない顔をして聞く。


「空、見なさいよ。穴が閉じ始めたからよ。いまじゃもう完全に閉じきってる。ロープで引き上げるってことができなくなってる」


 弥生も白けた目をして空を指さす。


「おやまあ。これが作られた世界だっていうなら敵もやってくれる」


「それで誠司、僕らはどうするの?」


 そう聞く滋も珍しく焦っていない。


「そうだな、こうなってしまったからには、このまま一気にあの塔とやらに乗り込んで、犯人がいるならとっ捕まえてしまってもいいけど、とりあえずはあの校舎に行ってみて中にいる人たちの安全の確認が先だな。おそらくまだ誰も塔に向っていないと思うからね」


「アナウンスの挑発に乗ってその気になっている生徒がいると面倒ね」


「確かに。どんな武器が置いてあって、どこまで戦力になるのか。それでもって敵はどれほどのものなのか。期待できるなら期待したいけど、無理されて死人が出てしまうことは絶対に避けないといけないからな。滋もよく覚えておけよ。今回の任務で最重要なのは人命だ。次が脱出。それを達成した上で犯人を捕まえる。いいな」


「うん、大丈夫。僕もそのつもりだったから」


 三人が校舎へと歩きだすと、百メートルほどしか離れていないそこへと向う途中でまたしても敵が近づいてくる。先ほどの緑色のモンスターと同じ大きさ、同じ顔をした、色がピンクという奴で、目にするなり三人は揃って溜息を漏らす。相手にするのも面倒だと桐生は逃げることを提案。が、弥生はこれも情報収集と戦う気でいる。


「私の能力って制御が難しいから、普段なかなか使う場面がないのよね。どうせ土人形なら、たまには思いっきり撃ってみる」


 そう言って目の前に掌を翳し、そこから火球を生みだして大きくしていくと、直径一メートルくらいにまで膨らんで、小さな太陽のようになる。これはこれで凄いことである。桐生も感心しながらついつい、


「普段、溜め込んでいるストレスがどれほどのものなのか、わかるような気がするな」と言う。


「失礼な奴ね。黙ってみときなさい!」


 ピンク色のモンスターがどう攻撃するか、確かめる間もなく弥生は渾身の火球をモンスター目掛けて放出してしまう。見事命中、燃え上がって、敵はあっさり砂と化す。


「冷静に考えて、弥生さんの能力って恐ろしいね」


「喰らえば丸焦げ、大火傷。ほとんど殺人技だな」


「ああ、何かスッキリした。あんたたちの揶揄も右から左に聞き流せるわ」


「それにしても二人ともあっさりとやっつけられるくらい敵のレベルが低いなら、この作られた世界からの脱出ゲームというのも案外に簡単にできるかもしれないね」と滋は言う。


「まあ、いわゆるロールプレイングゲームの冒険初めの敵っていうのは弱いものだから。いや、俺たちだから簡単に見えるだけで、能力者でもない普通の人間からすると厳しい相手だと思うぜ」と桐生は肩を竦めた。


 と、不意に彼らの頭上でトンボの形をした、大きさにしてカラスほどの機械仕掛けの飛行物体が飛び回る。新たな敵かと思うが、少々勝手が違う。機械仕掛けのトンボは内部にスピーカーが組み込まれているようで、突然話しかけてくるのである。それも、先ほど校舎から流れてきた機械を通したあの不自然に高い声と同じものである。


「あなた方はいったい何者なんですか? 見た限り学校の関係者でもなさそうだし、それに圧倒的に強い。私の目の錯覚ではなかったら魔法のようなものまで使っていた。とても同じ人間とは思えない。いったいどこからやってきたんです?」



続きます

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