似合っている(エピローグ)
数日後―
市立病院の屋上にて遠く斜陽を眺めていると、誰かが上がってくる足音がする。鉄扉が開くのに合わせて振り返ると、
「深沢君、やっぱりいた」
「おお、安川さんか」
「下から見えてたよ。深沢君たちも、お見舞い?」
「うん、まあ俺は自分の捻挫の治療もかねてだけどね。島田先生も先に帰っちゃったし。君らは生徒会みんなで来たんでしょ? 羽田の性格からすると、みんなで心配されればされるほど嫌な顔をするだろうに」
「うん、してた。でも、よかったね、彼も命に別状がなくて。回復も順調みたいだし」
「うちらの担任が言ってたよ。ついでにあの自信過剰で屁理屈ばかり言う性格も治ってくれればいいのにって」
「ハハッ、島田先生、先生がそんなこと言っちゃいけないのに、でも、島田先生らしいよね」
「まったく。それもそのことを本人に直接言うんだから、あの人は凄いよ」
「本当? よくケンカにならなかったね」
「いや、なりかけたよ。まったく、やれやれだよ」
「でも、あんなに先生と絡める人も羽田君くらいなものよね。意外と気があっているのかもね。先生の彼氏として、あの性格は意外と似合っているかも」
「それ、羽田に言ったら、あいつ絶対に怒ると思うよ」
―似合っている
「ねえ、ここから何を見てたの?」
「うん? いや、俺たちの学校があそこだから、ちょうどこっちのほうにあの塔があったんだろうなと思って…」
「ああ、なるほど。そういえばあの世界を作った少年って、深沢君の小学校の頃の同級生だったって言ってたよね?」
「うん、あの塔で最後に彼と話したのも俺だからね」
「やっぱり、何か引っ掛かる?」
「いや、そういうんじゃないんだ。その小学生だった頃の当時のことをちょっと思い出してて。西君は本当に頭のいい奴だったし、本当にいい奴だったからね。彼が学級委員長で俺が副委員長をやってたこともあったんだ。中心というか、みんなをまとめるリーダーとしては最高の人だったと思うよ」
「深沢君にそういうふうに言われる人って、それ本当に凄い人だったんだね」
「うん。ん? よせやい。なんかそれ、俺もまるで過大に評価されているみたいで体が痒くなる。凄いのは西君。しかも彼は転校生だったし。四年の冬にうちらの学校に来たのかな。そんなまだその学校に来て日も浅いのに、彼の頭のよさと佇まいから担任の先生に学級委員長に立候補させられていたからね。そのとき俺もクラスメイトの推薦で立候補させられていたんだけど、しかも結果は同票でね」
「へえ、意外。深沢君、そういう委員長とかやりたがらない人だと思ってた」
「俺もやりたくなかったよ。ほとんど無理やりだった。それでジャンケンをしてね、西君が勝ったんだけど、驚くくらい彼、喜んでね。そんな彼を見たのは後にも先にもその時だけだったと思う」
「口惜しかった?」
「どうかな、少しくらいはそう思ったかな。でも、彼もね、すぐに場の空気を読んで寂しそうな顔をしていたんだよ。親が転勤族の転校生だからね、その学校では日も浅いのにそんな自分が学級委員長になっていいのかなって、彼なら思わないことはなかったはずだよ。俺はでも思ったんだ。いや、そういう彼だからこそ、委員長にふさわしいって、彼こそ『似合っている』って」
当時の深沢の気持ちに偽りはなく、負けた皮肉でも、自分の気持ちを騙すお世辞でもなかった。ただ、西少年が、この台詞の何に恩を感じていたのかは、見当がつかない。もしかしたら、また違う台詞なのかもしれない。
「俺がそのまま副委員長になったこともあってか、彼とはその日から結構遊ぶようになってね。勉強も教えてもらったことがあったな。意外とプロレス好きだったっていうのも憶えているな。何か懐かしいな」
「仲、良かったんだね」
「うん、彼がまた違う学校に転校していくまで、喧嘩も一度もしたことがなかったはずだよ」
西君との記憶を掘り起こして、安川に話しているときは懐かしさに胸が弾んで口も軽いが、ふとネタが切れて口も止まると、急に虚しさを覚える。
「あの人の、あの少年の体、あれ、病気なんだよね?」
「うん、あと十年生きられるかどうかだって言ってた」
「悲しい?」
「う~ん。いや、まだ死んだわけじゃないからね。会えないのは少し寂しいけど、でも、彼は彼で今頃頑張っていると思うし。自殺なんかも、絶対しないと、信じているし…」
「桐生さんたち、あのプロの人たちも彼のこと探し続けるって言ってたね。どうせならちゃんと保護して、自分たちの仲間にしたいって」
「え? そうなんだ。それは初耳だ。あの人たちもホント、凄かったな。仕事をしている人はやっぱり格好がいいよ。あ、そうだ、今回見聞きしたこと体験したことを口外しないって誓約書、書かされた?」
「うん、書かされた。警察の人にでしょ? 桐生さんたちのこともその対象に含まれていたけど、その後も何度か会っているし、凄く身近な感じがするから、少しも秘密な感じがしないのよね」
「やっぱり? 俺もそう思った。あの人たちの仕事は俺たち一般人が簡単に関われるようなものじゃないから、別世界の人のように思えるけど、あの人たち、絶対近くに住んでるよ」
「ハハッ、間違いないよ」
しばし一緒に夕日を浴びて後、不意に深沢が口を開く。
「バドミントン部に生徒会か… 俺も、やってみようかな?」
「突然… でも本当?」
「うん、せっかく誘われたわけだからね」
「そう? どっちも結構、似合うと思うよ」
<了>
「その遊び、誰が為に」編、最後までお読みいただきありがとうございました。




