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宗田の記憶

記憶の乱れが著しい宗田を沈着させるために、ヴァイスは彼の目前に掌を翳して人の精神にプレッシャーを与える能力を放った。力技だが、するとすぐに黙った。これが荒療治となって宗田の記憶も回復してほしいが、なかなかそう思い通りにはいかない。真に精神の強いものなら、与えられたプレッシャー、得体の知れない罪悪感から立ち直ることもできる。宗田という高校生は、華奢な見た目同様にどうやら気持ちも図太くない。その目は焦点があわず虚ろで、口も締りが悪い。


「やりすぎたかな?」


 それでも二、三度、頬を軽く叩いてみると、宗田は飛び上がって我に戻る。ヴァイスの顔を見るなりまた怯えて、


「僕は一体何をしていたんだ… 頭が痛い…」


 そう言って額を両の指先で支えて物鬱うく顔を顰めた。そのまま首を傾げてまた項垂れる。この一連の動きを見て、ヴァイスも少し考え、携帯電話を取り出し、UWの村田に非通知で掛けた。番号の交換はしたこともないが、この手の情報は盗んで知っている。はい、もしもしと繋がる。ヴァイスが名乗っても、村田も取り乱すことはしない。何故自分の番号を? とも聞かない。すぐ本題に入り、宗田を見つけた旨を話す。混乱が酷いために催眠術セットのレンタルを願う。返事は、ひとまず穂高を連れて現場に向かうとある。十分ほどして二人は車でやってきた。


「宮下たちを追うより重要やな」と穂高は呟く。


「この子がそうなのかい? この制服、あの学校の生徒なんじゃないのかい?」と村田は聞く。


「ええ、その通りです。彼が今回の件の首謀者ではないようですけど、関わっていたことは間違いないですね。ただ、記憶を誰かにいじられているせいか、混乱状態で。できれば彼から情報を引き出したくて…」


「催眠術セットが必要だと… ふむ、なるほど。ヴァイス君、この件に関し、この持ってきたセットを貸すことに何の問題はないが、あの『穴』や新世界とかいうものについて、少し説明をしてくれないか」


 隠す必要もないので、見てきたこと、知ったことをヴァイスは話した。首謀者が子供である可能性も添える。二人共に経緯を概ね理解したところで、早速調合したピサルモの粉、糸を括った五円玉のセットを用いて催眠術に取り掛かる。


「君は『ニシ』君じゃない。それはわかるね」


 容易く宗田の意識を操り、素直で純朴な生徒に変えると、彼は虚ろな目をしながら質問にも頷く。


「君が、あの世界で実際に会ったのは誰だい? 実際にその少年と出会ったのかい? よく思い出してほしい」


 宗田はだらしなく口を開く。


「ニシ君は、ニシ君とは、確かに一度だけ塔の中で、会いました…」


「それで、そのとき君は何を話した?」


「新しい世界の、新しい世界の… 仕事を一つ任され… 任さ… 任…」


 どうもあの世界の仕事の話になると言葉が詰まる。それでも、


「そういえば、あのとき、少年以外にも誰かがいたような気が… いや、確かに誰かいました…」と続ける。


「それは、誰だい?」


「名前は… 知りません。でも、二人いました。二人とも頭の色が変わっていたから、日本人じゃないと、すぐに思いましたけど…」


「それは、どんな色だった?」


「確か、赤色の人と、白色の人で… 赤い色の人が僕に近づいて… そうだ、そのときに目の前で何か念じられて…」


 そこまで口にして、また続きが詰まる。記憶の混乱に苦しむ宗田にヴァイスはそこで術を止めた。


「いや、そこまででわかったよ。誰がその少年と関わっているのか。確信を得た」


 穂高も、


「その二人組、話からお前たちが以前に捕まえた奴やないんか?」と呆れたように確かめる。


「そうですね。でも、軟禁の末、逃げられてすでに行方知れず、ですけどね。まあ、間違いないと思います」


 催眠術から解放されたはずの宗田だが、そこで突然こう話を続けた。


「そういえば、あの人たちは僕らが住んでいる世界とも、あの新しい世界とも別の世界から来ていると言っていたような気が… それって、どういうことなんですかね?」


 俄かにヴァイスは慄き、微笑する。その胸の中で、あの新世界の「穴」が「あちら側」とも繋げられている可能性を描いた。



続きます

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