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あの子、可愛いよね(前編)

 深沢は下の名を伸也といい、末永く伸びていく男になれと願って両親が付けたそうであるが、これまで生きた十五年の人生の中で何かに秀でて達成するものはなく、文武において才能は豊かであるにも関わらず、性格に突出するものがなければ人並みの中に隠れて目立つことがない。恋に言い換えれば奥手と呼ぶその性格は、事実それまで恋愛らしい恋愛をしたこともなく、友達同士であの子が可愛い、あの子と付き合いたいといった会話はしないでもないものの、俄かに湧いた一目惚れなどは当てにもせず、燃え滾る情熱を持って異性を求める想いを抱いたこともなければ、誰かと付き合うという経験も勿論ない。自から告白をしたこともなければ、されたこともなく、中学生の時分にクラスの誰それと隣のクラスの誰それが付き合い始めているという話を耳にしても、羨ましいと思うこともなかった。特定の異性と互いに所有権を共有するような「付き合う」という約束事に自分自身が縛られて、どれほどの快楽があるのか、若い彼には謎であった。


「あの子、可愛いよね」


 不意に、栗色の髪をした顔も小さければ体も細い、これでもう少し背が高ければ十分モデルとして通用する体型の平塚弥生が、隣の、これまた少女漫画の如き可愛らしい女子の顔をした、しかし性別は男の佐久間滋に、体育館の端で固まっている数人の女子の群れを指さしながら話しかけた。そのまますぐ側にいた深沢に振り返って、その女子たちの説明を求めるように見つめてくるので、自然と深沢の目もその群れを見つめるが、どの顔ぶれも悪くないと思えば、どの子を指して言っているのか見当がつかない。首を傾げてしばし固まってしまう。どうやら隣の佐久間滋も同じ気持ちである。二人は目を細めて気難しい顔を続ける。平塚弥生が一番左端だと教えてくれて、ようやく、


「あ~、なるほど」


 滋も納得する左端の女子の顔に、深沢も見覚えがある。彼とはクラスも違えば、話したこともないが、周りの男子の間では同学年で可愛いと評判で、確か「安川」さんという苗字である。下の名は知らない。顔の作りは目が大きく、口がアヒルのような形をして、顔全体の大きさは平塚弥生ほど小さくもないが大きくもなく、髪は六四辺りで分けて額を出し、肩まで伸ばしてやや茶色がかっている。背丈は弥生や滋たちと似たようなもので、体型は細くもなく太くもなく、やや肩周りの骨格がしっかりとしている。バドミントン部に所属しているだとか、中学生のときに所属していたとか、といった噂を耳にしたことがあるが定かではない。定かなのは生徒会に入っているということで。そういった活動に縁も興味もない深沢の目には彼女が奇特に映る。雰囲気は、確かに男からして守ってやりたくなる可愛らしい女子であるが、その芯の部分は、やることはしっかりとやる、男勝りの強さがあると、深沢は勝手に思い描いてしまう。


「滋君タイプよね。顔の作りが似てる」


「ちょっと、女の子の顔の基本にされたくないんですけど」


「あら、いい加減自分でも認めたほうがいいと思うよ、自分の顔のつくりを。どう見たって女の子じゃない」


「何か、弥生さんが僕に対して初めて会ったときから親しく喋ってくれる理由がわかるような気がする…」


「それでも一応、男のあんたに聞くけど、あの女の子をどう思う?」


「いや、実際に可愛らしいと思いますよ」


 飾り気もなく歯向かう節もなく滋は素直に答えるが、弥生は冷笑して、


「あんた、それ自分の顔が可愛らしいって言っているようなものよ」


 意地悪なことを言うだけ言うと、次には深沢に、どういう女子なのか訊ねている。彼の知っている限りの安川の知識を聞き出すだけ聞き出すと、うんうんと一人で納得する。何を納得しているのかは男二人にはわからない。


「あの子のことが好きな男子はたくさんいるし、実際に告白もされていようものだけど、よほどの男子じゃなければ相手にしないわね。ああいうタイプは歳上のしっかりとした男が好きよ」


 と、こういうことのようで。深沢が知っている限りでは安川に恋人がいるという話は聞いたことがない。安川自身もいまのように仲のよい女友達と一緒にいることが多い。特定の男子と二人きりでいるイメージもない。


「深沢君は、ああいう子に興味はないの?」


続きます

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