操縦席からの脱出(後編)
ヴァイスが維持していた「穴」が途端に萎んでまったく消滅してしまう。桐生はそれを確認して、まだ並んでいた生徒たちに向って校舎の中へと戻るように叫ぶ。もちろん非難もある、泣く者もいる。それらを先生方の力も借りて説得し、弥生と滋も空の敵の攻撃から生徒たちを守りつつ体育館へと後退した。桐生やヴァイスたちもロボットから離れて後に続く。
脱出できずに残った生徒の数は約四十人。一クラス分の人数に相当する。まだまだ多いと思えば多いが、四百人からここまで減らしたと思えば随分な減少である。その七割は男子、羽田たち血気盛んで戦闘の準備をしていた者たちの姿も見える。彼らは自ら望んで残ったようなもので、初めから列に並んでもいなかった。また、残った男子の半分以上はその羽田と似たような思考をしていた。この世界から帰れるに越したことはないものの、学校生活に飽き飽きとしていた自分の身に刺激を与える為に、この世界から自力で脱出するのも悪くないと言うのである。女子の中にもその手の考えを持った者が数人いる。今どきの高校生の気の強さと退屈の具合は計り知れない。
「遊びじゃないんだよ!」
と島田が怒鳴っても、この状況を指して、否応なく「穴」が塞がり仕方なく残されていると憎たらしく言い返してくる。
「さてと、それじゃ俺は送電線のほうから脱出することにするよ」
ヴァイスは体育館の鉄扉の傍から外の空を見上げて隣の桐生に言う。空では先ほどの三羽の鳥が今でも旋回している。
「そうか」
「うん。一緒にあと何人か抜け出せないかとも考えたけど、あの鳥がいる限りはちょっと危ないかな。バレてしまって、送電線を切られても残った君たちに不利だしね。とりあえずここから出て、先ほどのロボットを操縦していたあの少年を追うよ。ついでに『あちら側』との繋がりも調べてくる」
「その件についてだけど、さっき滋と保健室に向っていた深沢君がいうには宗田君という生徒が見当たらなくなったらしいんだ。おそらくその宗田君が、逃げた彼だと思う」
振り返って体育館の中を見回し、弥生と深沢と並んで教師の島田と何事か話している滋の姿を目にする。滋たちも二人の視線に気がつくと、次に指示があるものかと思って会話を止めて桐生たちを見つめ返す。
「誠司、お前たちはこれからどうする?」
「どうするも、ここまで人数を減らせたんだ、やることはひたすら脱出だろう」
「塔に向うということか。結界を張る佐久間滋の頑張りに期待だね。俺は俺で何かわかってここに戻る必要があれば送電線を使ってまたこの世界に入ってくるよ」
「できれば外からシステムを止めるなり、変更するなりして救出してくれると助かるけどね」
「もちろんそのつもりだが、期待はするなよ。お前たちはお前たちだけで脱出することを考えるんだ」
「了解」
ヴァイスと桐生は深沢に近づいて宗田という生徒の特徴を聞き出す。担任である島田も色々と教えてくれるが、その情報からロボットを操縦し、コクピットから逃げた少年こそ宗田であると断定する。了解して微笑を作るヴァイスは、桐生たちに軽く会釈してそのまま静かに体育館から出て行った。
続きます




