操縦席からの脱出(前編)
「その『穴』を抜けると君たちが住んでいた世界だから、すぐに教頭先生を病院へと運ぶように周りの大人に頼むんだ」
桐生の一声に、教頭を運んでいた女子たちは顔を綻ばせ、一礼した後に「穴」へと飛び込んで消える。
その後も生徒たちの脱出は続くが、
「誠司、こちらもいい加減、限界だ。敵側が気付いたのか『穴』がさらに重くなってきた。いまで何人ほど通過した?」
「二百人、いや、三百人は抜けたはずだ。ここら辺で弥生にでも抜けてもらって、先ほどのパイロットのあいつを追いかけたいところなんだが…」
「いや、その追跡は俺がやろう。その彼から『あちら側』との繋がりも調べたいからね。『穴』の維持が限界になったところで飛び込むとするよ」
「研究所の面々のサポートはもういいのか?」
「何か言われれば手伝うが、はて、彼らはいまどこにいるんだ?」
この間も一人一人通過させて、列の末尾も見えてきた。桐生はその列の中に宮下たちの姿がないか眺めるが、どこにもいない。弥生に声をかけて彼らを見たか、見ないか確認しても首を横に振られるだけであった。
「お前たち、いったい何をしている!」
と、玄関の方で声がする。振り返ると宮下たちが血相を変えて走ってくるのが見える。
「何をって、『穴』ができたからみんなを逃がしているだけですよ。そっちこそ、いままでどこにいたんですか?」と、桐生はさらりと答えた。
「学校の中だ。爆音がして、体育館に行くべきか、保健室に戻るべきか考えていた。下手に動くのも危険だからな」
「何でもいいですよ。とにかく、この『穴』もそろそろ限界らしいので、出れなかった生徒たちが混乱しないように宮下さんたちも列の整理を手伝ってもらえませんか?」
「何? それはつまりもう『穴』が消えてしまうかもしれないということか? だったら我々を先に通せ! どういう世界かわかった以上、ここにいる意味もない! 外から解明してくれる」
こう好き勝手言って、強引に列に割り込んでくる大人の野蛮は、文句を言いながらもきちんと並んでくれていた生徒たちに示しがつかない。部署は違うが同じUWの人間として恥である。桐生はいつになく研究所の面々に立腹すると、秩序のために彼らを列の最後尾に放り投げるのも一案としながら、割り込んだくせして「穴」へと飛び込むのにモタモタする彼らを目にして次第と面倒臭くなり、無言のまま二人の尻を蹴りつけて、さっさと「穴」へと放り込んでしまう。後列の生徒たちに向って謝罪の一礼をすると、
「ああいう大人になっちゃいけない」
と、補足して脱出を再開させる。だが、まだまだ八十人は残っている。これからだというときに、タイミング悪くいよいよ別のモンスターも現れる。それも空中から烏の形をした三匹が小石ほどの小さな爆弾を投下してくる。滋は即座に結界を張る。列の全てを被うにはまだ足りない。迎撃体勢をとる弥生もさすがに上空で旋回する敵を狙い撃つのは困難である。落下する爆弾を撃ち落とすのが精一杯であった。挙句、ヴァイスも限界を向えたようで、
「相手側にバレたな。『穴』が異常な重さになってきた。どうやらここまでだね」
「あと五十人もいないというのに…」
「人命優先なんだろ? 無理して脱出させるよりも一度校舎の中に非難させたほうが賢明だと思うよ」
「わかった」
続きます




