冒険の旅でいきなりハイレベル(前編)
「あなた方はこのゲームにおいてバランスを崩す存在だ。冒険の旅にいきなり高いレベルの状態からスタートするようなものだ」
桐生は協力者の有無を問うたはずだが、自称管理人から返ってきた台詞はひがみの類である。そいつが一人でこの世界を作り上げたというのも嘘だと、ほぼ確信を得た。
「バランスなんて言ってくれるけど、ここのモンスターの強さを考えると俺たちで普通だろうに。一般人を相手にするにはそのモンスターのレベルのほうが高すぎるんじゃないのかい? それともイジメが趣味だというのかい? それだと相当に性格が悪いと思うが、もしかして昔に自分こそがイジメられていたとかね」
「ふんっ、なにをわかったような。本当に嫌な人だ。あなたの方こそ、そうやって自分の腕力を振り回して、色んな人をイジメていたんでしょう。ただの野蛮なヤンキーだ。私はそういう輩に偉そうに物を言われるのが一番嫌いだ。さっさとこの世界から出ていってもらいたい」
「出ていくには『穴』が必要だぜ。すぐにでも近くに作ってくれるっていうのかい?」
相手は何か考えているようで即答をしない。
「いや、それはできない。ちゃんと塔に向ってそこから脱出するしか出る方法はない。それに、何も生きたまま出ていけとも言わない。早く殺されてしまえば、遺体をすぐにでもあなたたちの世界に返してやる」
「無茶苦茶言うね。そんなことを言われて、ハイ死にます、って答える奴がいるとでも? 嫌だねまったく、自分の殻に閉じこもって、そこだけが世界の全てだと思っている人っていうのは。エゴの塊だね。そういうオカマなエゴイストに忠告するけど、俺たちは別に遊びでこの世界にいるわけじゃない。俺たちは仕事でこの世界に来ている。任務はこの世界につれてこられた生徒たちの救出と、おたくのような世界の頂点を気取った悪人を捕まえることだ。殺しに掛かるって言うのなら、こちらもそれ相応の対処の仕方というものを考える。この行動とおたくの命、天秤に掛けられているって覚悟したほうがいいぜ」
そこまで脅すと機械仕掛けのトンボは沈黙したままゆっくり上昇し、反転して遠く塔の方へ飛んでいってしまう。
「あ、逃げた」
「放っておけばいいよ。どうせ向こうはこちらのことを色んな場所、色んな方法で常に監視しているんだ。あれを追っても壊しても、仕方がない」
「あの管理人のところに戻っていくってことはないの? 追わなくていいの?」と滋は素朴に聞く。
「どうせ塔へと飛んでいくんだ。あの管理人っていうのは後にして、とりあえず俺たちが優先することは生徒たちの救出だ。彼らに無茶なことはさせない。このゲームに無理に参加することはないと俺は思うんでね。俺の勘で物を言わせてもらえば、あいつはまた一つ嘘を言っていた。おそらく、『穴』はあいつの手で自由に作れるはずだ。そうでなきゃ、自分自身はこの世界から自由に出入りができない」
「仮にあいつの言うとおり、塔にしか出口がないというなら、あいつもその塔の中か、塔のすぐ側にいるってことよね?」と弥生も冷静である。
「そういうこと。それなら、俺たちだけであいつを捕まえて、モンスターの動きを完全に止めてから、それから全員をこの世界から脱出させるってことも可能になってくる。第一に人命、第二に脱出、最後に敵の捕縛。どう動くにしても、この順位は意識から崩しちゃいけない。俺たちが最初にすることは、生徒たちが無茶をしないで学校に居るよう頼むことだよ」
「あんた、いつになくまともなことを言っているわね」
「ほんと、ほんと」
「なんだ二人して。俺はいつもまともなことを言っているだろうに。いつもはお前たち聞く側の人間が偏屈に解釈しようとしているからそう聞こえているだけだよ。変なのはお前たちだね」
ここで突然、足元が急に蠢いて、乾いた大地より人の形をした、高さ二、三メートルほどの石像が現れる。ヨーロッパのヤサ男の顔をして体は筋骨隆々で上半身は裸体、下半身は一応の腰の着衣に、手には槍を持って番人のように背筋を伸ばして直立している。それも、桐生たち三人を取り囲むように次から次へと同じ石像が大地から湧いて出てくる。その数、計九体。
続きます




