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職員室も見にいきませんか?

 ボイスチェンジャー以外に何か犯人に繋がる痕跡がないか狭い室内を島田たち三人は調べるも、これといったものは見つからない。


「本当にここでさっきのアナウンスを飛ばしていたんですかね?」


 と普段あまり喋らない宗田が口を開く。


「宗田君、どうしてそう思うのよ?」


「いや、ボイスチェンジャーっていまどき簡単にパソコンにインストールできるから、それだけでここというのはどうなのかと思って」


「でも、学校中のスピーカーに流すっていうことは、ここから発信する以外にないんじゃないの?」


「でも、確か職員室からも飛ばせますよね?」


「あ、そうか。職員室の奥にもマイクがあるわ。でも、ボイスチェンジャーが設定されたまま残っていたんだから、やっぱりここからなんじゃないの?」


 言い負かすつもりはなくとも、島田と宗田の性格や声の大きさの差から、どうしても島田のほうが正論で圧倒しているように聞こえてしまう。宗田も次に何か言い足そうとして、それを引っ込めてしまう。


「先生、いっそ職員室も見にいきませんか?」


 深沢の提案に島田も少し考える。


「危なくないかしら?」


「ここを使ったわけじゃないなら、後はそこしかないですからね。犯人に遭遇する可能性は高いかもしれませんけど… いま、職員室には誰もいないんですか?」


「多分、誰もいないと思うけど。いるとしたら、さっきから見かけない教頭先生くらいかなぁ」


「教頭先生が犯人かもしれないって線、だんだんと濃くなってきたような…」


「ちょっと、それ本当にやめてよ。洒落にならないわよ。教頭がこんなことをして何のメリットになるっていうのよ。それに、もう五十歳過ぎているけど、昔は陸上部の長距離走でならしていたみたいで、いまでも市民マラソンに出て体を鍛えているって話よ。あんた、そんな大人相手にして勝てる?」


 なかなか見くびった言い方をされたものだが、それでも深沢は腹を立てるでもない。


「とりあえず行ってみましょう。三人がかりなら問題ないでしょう」と言う。


「う~ん、そこまでいうなら、一度行ってみないこともないわね」


 島田と深沢の二人が並んで職員室へと向かうが、宗田がついてこない。彼は放送室の入り口の前で立ち止まって物言いたげに二人を見つめている。


「どうしたのっ?」


「いえ、先に行っててください。僕はもう少しこっちのほうを探してみたいと思いますから」


 どう判断すべきか迷った島田であるが、放送室と職員室はさほど離れていないことを理由に許可する。深沢は、あの狭い放送室の中でこれからさらに何を探そうというのか、宗田の思惑に疑問を抱く。仮に、実は宗田こそが犯人であったとの想像もする。探すとは嘘八百で逆に証拠となるものの隠蔽を図ろうとしているのかもしれないと。島田を見る限り、その手の邪推はまだ抱いていないようである。変に混乱させまいと、深沢は口を噤んでこれを自分の腹の中だけにしまうことにした。まずは教頭と職員室を調べることを優先する。その入り口の前で、またしても島田は一歩下がって深沢を先に行かせようとする。


「先生、怯えすぎじゃないですか?」


「君こそ、どうしてそんなに冷静でいられるのか不思議でならない」


「別に冷静じゃないですよ。結構、ドキドキしてます。歳上とはいえ、教師だからとはいえ、先生が女だからと思って我慢しているだけですよ」


「よろしい、よくぞ言った。男の鑑だね」


 職員室の広さは教室の二つ分はある。向かい合わせのデスクが数列並んでいる。綺麗に整理されているデスクもあれば、教科書やプリントが山積しているデスクもある。教師といえども人間。そのすべてが生徒の鑑になる人ばかりとは限らないらしい。


「ちなみに先生のデスクってどれですか?」


「あれだけど。そんなのはどうでもいいでしょう」


 指されたデスクを見ると、わりかし整理されている。


 さて、室内を見回しても誰もいない。入り口から正面奥、窓側の真ん中には一つ他のデスクと列を異にして、教頭先生のデスクが置かれている。深沢は誰もいないことをいいことにまず先にそのデスクへと歩み寄って、何か犯人に繋がるものがないかと調べ始める。恐れ知らずの行動に島田もたじたじとなる。怒られるかもしれないと口にしながら、しかし彼女もやめろとは言わない。教頭のデスクの上は一際綺麗に整頓されている。いつも雑巾で拭いているのか、塵一つ落ちておらず、キャビネットの最下段の引き出しを開けてみても書類がぎっしりと詰まって大きさも背表紙の順も狂いがない。中段、上段と開けても整頓は行き届いて雑なものがなく、不審なものも見つからない。


「特に怪しいものはないですね」


「君も見かけ以上に大胆よね。ちょっと見る目が変わった」


「それはいい意味ですか? 悪い意味ですか?」


「教師の立場からすると、悪い意味」


「何でもいいです。先生、それで、マイクってどこにあるんですか?」


「こっちよ」


 入り口から右手にすぐ折れると、職員室の中に四畳ほどの給湯室が設けられている。暖簾で仕切られ、中にはシンクと食器の入った戸棚、冷蔵庫、奥には「掃除用具」と札が貼られた細いロッカーが置いてある。暖簾のすぐ側、棚の上に校内アナウンス用のマイクが置かれてある。深沢は触って眺めて天地を変えて、あれこれいじる。余計な機材もついていない、見た目ではただのマイクである。島田に、普段と違った様子がないかと訊ねてみても、それもない。


「試しに喋ってみていいですか?」


「多分、声は変わらないと思うわ。みんなが混乱するだけだからやめておいたほうがいいと思うわよ」


 ゴトリッ


 と、会話も途中で急に何か重たいものが動いた音が奥より聞こえた。


「いまの音は?」


「わからない… 掃除用具のところからじゃなかった?」


「調べないんですか?」


 島田は顔を青くしている。ロッカーを見つめて唾を飲んで、何とも答えず恐る恐る近づくが、


「深沢君、やっぱり、お願いしていい?」


「先生ごめん、こればっかりは」



続きます

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