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サイタマーの守護者  作者: 一光屋KY
無刃の戦争編
39/39

最終話 サイタマーの『大縁談で大団円』

 ……私達は結局、納まるべきところへ収まりつつあるようです。



挿絵(By みてみん)「殿下……いえ『荘爵閣下』、この度は真におめでとうございます。」


 少し畏まって私が述べると、


挿絵(By みてみん)「ええと……改めて言われるとやはり照れくさいですね……。」


 ややはにかんだ笑顔が返った。


挿絵(By みてみん)「へぇっへっへっ……何か『ご要り用』の際はいつでもウチの商会にご連絡を。何でもご都合付けて差し上げますよぉ……『格安』で。」


 少々わざとらしい程にキットが揉み手をして、その場に苦笑があふれる。

 こんな『道化芝居』が出来る程度には、私達の関係は気安いものだった。



 さて今回、少々『大袈裟』に認められた奏上書の効果は十二分だったようだ。

 やがて王国からは期待以上の結果が降ってくることになったのだから。


 まずは今回の中心人物『ということになっている』、クラフツ第六王子。

 彼には正式に荘爵(バロン)位が与えられて、一家を興す許可が下りることとなったのだ。

 まあ、元々彼は『王族』であるし、今回の件で実績も積んだと云うことで或る意味結果は順当とも言えよう。

 細かい内実は我々だけしか知らないのだし。

 ただ、その際に定められた家名『オブ・サウスウラワン』が何やら意味深であった。


挿絵(By みてみん)「それで、ゼフィ…じゃない『ノースウラワン荘爵閣下』はやはりお忙しいですかね?」


挿絵(By みてみん)「ええ……何とか顔を出したいとは言っていたのですが……」


 そしてその次がゼフィだった。

 警護の責任者として活躍したウラワン城付き武官ゼフィ・ベンガラムール准爵。

 彼女も今回の功績により、これまた正式に貴族に叙せられる。

 荘爵(バロネス)の爵位と、『オブ・ノースウラワン』の名が与えられたのだ。


挿絵(By みてみん)「……ああそれと、『荘爵閣下』なんて呼ぶと気を悪くするみたいですよ、特にくだけた場面では。彼女、堅苦しいのはやっぱり苦手みたいで。」


挿絵(By みてみん)「はあ……そうでしたか、やっぱり。」


 と言うかこの辺は既に実証済みである。

 アルスラが面白がってさんざん「ばろねす閣下」「かっかー」とからかったので、


挿絵(By みてみん)「……まだ言うか貴様! 許せん! 決闘だっ!」


 となってちょっとした騒ぎだったのだ。


挿絵(By みてみん)「それにしても……サウス(南)にノース(北)ですか、やっぱり意味深ですよねえ……」


挿絵(By みてみん)「…………」

挿絵(By みてみん)「…………」


 その台詞にはちょっと困った間が作られた。

 普通に考えれば、同格の立場を作って互いに牽制をさせよう等の意図も推察出来るのであるが今回の場合……


挿絵(By みてみん)「……叙爵が『僕だけ』だって?! 何を考えているんだ父上は! いやまさか兄上か……?!」


 王都から御使者が訪れた際の騒ぎは私もよく覚えている。

 何しろその後、殿下を急遽王都まで送り届けたのは私だったのだから。

 聞けば殿下は、公正な評価を求め王国の『御上』に対して堂々と渡り合ったらしい。


 そして結果として、ゼフィもまた光栄の一翼に与れることとなったのだ。

 彼女自身は『過ぎたる栄誉』に随分と恐縮していたとは言え。


挿絵(By みてみん)「……ともあれ、これだけ『お膳立て』が整えられたんです、あとは――殿下がちいっとばかし『勇気』を出すだけじゃないですかねぇ……?」


 キットがにたりとした笑顔を作った。


挿絵(By みてみん)「……」


 答えは未だ返らず、クラフツ殿下はただ赤面するのみ。



挿絵(By みてみん)「何か『贈り物』のご用命の際は、いつでも声をかけて下さいねぇーー」


 そんな捨て台詞と共に、私達はその場を辞したのだった。



      * * *



挿絵(By みてみん)「結局、彼女は『行方不明』、か…………」


 息を吐き出すと、それは重苦しいものとなって周囲に漂う。


挿絵(By みてみん)「ええ……事が終わってみれば、ライヘンスターのお屋敷は『もぬけの空』だったそうです。」


 キットも、敢えて無表情を作っているように見えた。


 光あれば影がある、恐らく今回の一件で最も厳しい立場に置かれる人々が居る。

 動揺が収まった後で、張本人たちの居るであろう場所には官憲の手が入った。

 ウラワン城から差し向けられた部隊が踏み込んだが、其処は既に無人であったという。


挿絵(By みてみん)「(要領の良いレニのことだ、上手く逃げおおせているだろうけど……)」


 一抹の不安は拭えないが、それでも無事を信じたいと思う。

 彼女『たち』には結構大変な目に遭わされたが、私は不思議と恨みなどは感じない。


挿絵(By みてみん)「……やっぱり、もっと真摯に話し合うべきだったんだろうか。」


 ただ、後悔のみが残るのだ。


挿絵(By みてみん)「いえ、奴らは結局、主様を害しようとしました。……ならばこれは当然の報い、お気にかけることなど無いのです。」


 アルスラの判断はいつも『はっきりとしていて』時々羨ましくなる。


挿絵(By みてみん)「ただまあ……今にして思えば、あいつら何か『焦ってる』みたいでしたね。」


挿絵(By みてみん)「確かに……事を起こすにしても、もっとゆっくりじっくりと為すべきでしたわ……何かあったのかも。」


 後からでは、疑問や不可解さが幾らでも浮かんでくるのだった。


 ともあれ、事件の首謀者が全員『行方不明』という状況は相当に困難である。

 事後処理と顛末に不確定要素が残ってしまうからだ。

 それでも一応何とかなったのは、


挿絵(By みてみん)「反応は既に消えています。『悪』は滅びました。」


 公式な場でそう断言した、聖女の言葉があったからこそ。

 王都からの調査官などはそれでも不審げな様子であったが、


挿絵(By みてみん)「何か『問題』でも……?」


 こう宣って真っ直ぐに向けられる視線にはやはり逆らえない。

 何しろ、彼女は今回一番の『功績者』であるのだから。

 やがて課題は被害の復旧や街の再建へと移り、全ては有耶無耶になった。



挿絵(By みてみん)「流石はレニさんと言うべきでしょうか……現金その他『手に持てるもの』はあらかた無くなっていたらしいですね。」


 やはり彼女は抜かりが無い、そして、


挿絵(By みてみん)「資産なんかは評議会が没収ですけど……それ以外を全部『押し付けられる』みたいです……はぁ」


 関係者ということで、しっかりとこちらにも『実害』があったのだ。

 幸いにして『負債』については資産の一つということで評議会持ちだったが。


挿絵(By みてみん)「私も石鹸工場を一日でも早く再開してくれって言われたよ……注文がまた積み上がってるんだって?」


挿絵(By みてみん)「……ええ、私でも帳簿を見たく無くなって来ました。」


挿絵(By みてみん)「また地獄の日々が始まりますわ……」


挿絵(By みてみん)「……結局、一つ二つの商会で『独占』しちゃってるからこういう事態にもなるんだよなーー。」


 その辺り、少し方針を考えたほうが良いのかも知れない。

 私は『今後のこと』に思いを馳せる。


挿絵(By みてみん)「そうだ、ラッド君たち『魔法使い』をもう少し鍛えよう。彼らの実力が上がれば、私達ももう少し楽が出来るはずだ。」


挿絵(By みてみん)「ふむ」


挿絵(By みてみん)「それは……そうかも知れませんわね。」


挿絵(By みてみん)「ご慧眼です、さすがは主様!」


 これからまた忙しくなる、安穏の日々は未だ遠くに。

 日常とは終わり無き戦いにも似て、ただ営々と続いてゆくのだ。


 ふと、レニの言葉を思い返してみる。

 彼女は或いは、とても『理想主義的』ではなかったのか。

 貧しいものには、施しよりも教育を。

 機会を作り、可能性を広げて、より『稼ぎになる』仕事が出来るようにする。

 そうして彼女たちは、サイタマーでよりしたたかに生きようとしていた。


 ……その想いのどこが、どんなふうに間違っていたと云うのだろうか?


挿絵(By みてみん)「(彼女が目指したものの内、幾つかは取り込んで行く事も考えるべきだろう。全てが否定される程、彼女達が罪深いものであったとは思わない……)」


 私は遠くの空に思いを馳せる。



挿絵(By みてみん)「(これがせめてもの『はなむけ』だよ、レニ・ライヘンスター……)」


 遥かなその空の下で、彼女の息災を祈ろう。



      ◆ ◇ ◆ ◇ ◆



 忙しい時間の中にも、ときに陥穽のような隙間が出来る。

 彼女が物陰に私を誘ったとき、そんな印象が感じられた。


挿絵(By みてみん)「……あ、あの……すいません旦那様、実はご相談が……」


 艶めいた予感もそこそこに、それは物憂げな美女の横顔。

 下ゴコロに囚われていた私でも、アデーレの表情には何かあると思ったのだ。



 用事があるということにして、連れ立って街を歩く。

 あちこちから響く再建の槌音は、硬質でとても騒々しく平穏とは程遠かった。


挿絵(By みてみん)「……さあこちらですわ、会ってもらいたい人がいるのです。」



 少々薄暗くて人払いがされた室内には少し躊躇を感じる。

 でもそこには『先客』が居たのが分かった。

 影が立ち上がり、振り返るとそれは、


挿絵(By みてみん)「お初にお目にかかりますアインライト様。私の名は『ロッティアーナ』、ロッティとお呼び下さい。」


 若い女性がお辞儀をしていた。


挿絵(By みてみん)「『アカデミー』にて、枢機卿、ネクロス閣下の副官を務めている者です。」


挿絵(By みてみん)「……っ!!」


 驚きで返事をするのを忘れてしまう。


挿絵(By みてみん)「……」


 慌ててアデーレを振り返るが、彼女はじっとこちらを見詰めていた。やがて、


挿絵(By みてみん)「……先ずはお席にお着き下さい、旦那様。」


 それは少し難しい顔をしていた。

 私の苛立ちが顔に出ているのだろう、彼女がやや目を伏せる。


挿絵(By みてみん)「アインライト様、先ずは私の話をお聞き下さい。」

挿絵(By みてみん)「……お願いします。」


 そして二人が深々と頭を下げた。

 空白の瞬間に思考はぐるぐると巡るが回答は出ない。

 私は何とか自分を抑え込んで、席に着くことにした。



      * * *



挿絵(By みてみん)「突然の訪問、さぞ驚かれたことかと思います……。」


 彼女、ロッティが再び頭を下げる。


挿絵(By みてみん)「…………」


 本来ならば「いえそんなことは」とか何とか配慮の言葉を入れるべきだろう。

 でも今の自分はそんな気分にはどうしてもなれない。

 我ながら偉そう、というか無遠慮な視線で相手を眺め廻す。


 そんな仏頂面にいたたまれなくなったのか、


挿絵(By みてみん)「……すいません旦那様! 『妹分』が無理を言ったばかりに! こんなにもお気分を害されるのであればやはり断るべきでした!」


 アテーレが悲痛な表情で、這いつくばらんばかりに謝って来たのだ。


挿絵(By みてみん)「あーー、ええと……『妹分』?」


 必死な様子と、会話に出て来た単語に気勢が削がれるがまずは、


挿絵(By みてみん)「はい。この娘は私の従妹で、小さいころから本当の妹のように……!」


挿絵(By みてみん)「そ、そうです! 『姉さん』には本当にお世話になりました……!」


 どうやら、自分にとっても真に『他人』と言うわけでは無いようだ。

 少し緊張を解くとほっとした空気が流れ出すのが分かった。




挿絵(By みてみん)「本当に、失礼しました。まさかこれ程嫌われていたとは……」


挿絵(By みてみん)「あ、いや、その……」


 その『理由』を言う訳にはいかない自分としては言葉に詰まってしまう。

 アカデミーそのものが『嫌い』なのは事実であるとしてもだ。


挿絵(By みてみん)「となると……少々『望み薄』でしょうかね……」


 彼女は訝しい顔をする。

 しかし次の瞬間、思い直したのかそれは切り出された。


挿絵(By みてみん)「……ともあれ、本日の訪問はご挨拶と『勧誘』のつもりだったのです。」


挿絵(By みてみん)「……『勧誘』?」


 さて、何事なのやら。


挿絵(By みてみん)「はい。これは我々アカデミーよりの『正式な』申し出にございます。アインライト様、アカデミーにて『教授』をなさる気はございませんか……?」


 これは流石に驚いた、いきなり『そこまで』の話だったとは。


挿絵(By みてみん)「……一介の冒険者風情に、随分と大胆なことですね」


挿絵(By みてみん)「いえ、『先般のこと』以来、枢機卿閣下はアインライト様に興味を持たれたようで……特に『あの魔法』の件など」


 皮肉めいた返答に、直ちの切り返し。


挿絵(By みてみん)「失礼ながら、少し調べさせて頂きました。」


挿絵(By みてみん)「…………」


 少々雲行きが怪しい、相手の出方をうかがう。


挿絵(By みてみん)「大したものです、魔力、知識共に申し分ありません。王国広しと言えどもここまでのお力の持ち主はそうは居ないでしょう。五指に入ると言っても言い過ぎではありますまい。」


 言葉が熱を帯びた。


挿絵(By みてみん)「なるほど聖女様やダル・ウィン卿がご興味を持たれる訳です……。」


 期待するようなものがこちらへと向けられるのが分かる。


挿絵(By みてみん)「……しかし、自分はただの平民、一介の冒険者ですよ。それを」


 せめてもの抵抗、だが


挿絵(By みてみん)「ご謙遜を、経歴も十分なものです。『アカデミー上級学校白魔法課程修了』など、そのまま王家に仕えても遜色無いではないですか。」


挿絵(By みてみん)「……っ!」


 衝撃がある。


挿絵(By みてみん)「そうですよね? ええと……『ブルーウッドの従者』様。」




挿絵(By みてみん)「何故その名を……っ!!」


 思わず叫んだ。語勢の強さに、相手が目を剥いている。



挿絵(By みてみん)「……すいません、驚かせるつもりは無かったのです。ただ懐かしくて、嬉しかったものですから……」


 彼女はかしこまって恐縮した様子に見えた。


 しばらく空白、その次に、


挿絵(By みてみん)「実は……私は取り巻きの一人だったのです、『リリア姫様』の……」


 ぽつりと零れた、独白のような響き。


挿絵(By みてみん)「……!!」


 彼女の言葉には何度も驚かされてばかりだ。


挿絵(By みてみん)「歳も離れていましたし、期間も僅かでしたから覚えてらっしゃらないのも無理は無いでしょう。私も、最初は分かりませんでしたし……」


 直とした視線がこちらを刺す。


挿絵(By みてみん)「……何よりほら、『あの頃』は髪を伸ばしておいででした。でも、今の髪型も似合っていますよ、従者様……」


 続いてはにかむような笑顔だった。



挿絵(By みてみん)「…………」


 対応に困り、しばらく考えを廻らせる。

 だが既に自分は思考の迷宮に囚われていて俄かには結論が出せる筈も無い。



挿絵(By みてみん)「この事は私しか知りません……ですがならば、『味方』になって頂けるのではと思ったのです。」


挿絵(By みてみん)「味方……?」


挿絵(By みてみん)「……はい。」


 ロッティが静かに首を傾ける。


挿絵(By みてみん)「私……リリア姫様には憧れておりました、他の皆様と同じように。」


挿絵(By みてみん)「あの方は本当に美しく、賢く、そして気高くて……なのにとてもお優しくて。私のような『平民』にも分け隔てなく接して下さいました……」


 懐かしむ言葉の響き。


挿絵(By みてみん)「ええ、そうです、私も平民なのですよアインライト様。」


挿絵(By みてみん)「……」


挿絵(By みてみん)「ですが、幸運にも勉強が出来ましたので。家族や親戚、皆が応援してくれて上級学校にまで進むことが出来たのです。特に『姉さん』には……」


 アデーレが微笑み僅かに会釈する。


挿絵(By みてみん)「ええ、大変な額の仕送りをしてもらいましたね。今でも本当に頭が上がりません……」



挿絵(By みてみん)「でもまあ……所詮『ただの平民』ですから学校ではいろいろとありまして。にもかかわらずリリア姫様だけは本当にお優しかった。私、大層可愛がって頂いたのです……」


挿絵(By みてみん)「……」


 優しいあの人の笑顔を思い出し私もうなづく。



挿絵(By みてみん)「……ですから私、本当は怒っているのです。」


 顔面には確かに笑顔があったが、それはとても表面的なものだった。




挿絵(By みてみん)「ブルーウッドの『事件』については或る程度存じています。あれは悲劇でした……。」


 そうだあれは悲劇だった。


挿絵(By みてみん)「アカデミーの側にも事情はあるのでしょう。でも異なる考えやいかがわしい魔術であっても、よく調べもせずに排除するのは間違っています。それこそが『理性に反する』行いではありませんか。」


 アカデミーは理性こそを至上のものとする。


挿絵(By みてみん)「現行の異端弾圧は……明らかに『間違っている』と私は断じます!」


挿絵(By みてみん)「…………」


 それはとても大胆な意見表明である。

 特に『アカデミーの一員である』彼女、ロッティにとっては。



挿絵(By みてみん)「……ですから私、本当に怒っているのです。」


 繰り返される言葉は、確かに彼女の根幹となるものであった。



挿絵(By みてみん)「どうですか……? アインライト様にも協力して頂ければこれほど心強いものは無いでしょう。共に『アカデミーを変えてみたい』とは思いませんか?」


挿絵(By みてみん)「…………」


挿絵(By みてみん)「アインライト様……私達の『体制内改革』に、是非ともご協力を!」


 そして熱意のこもった眼差しがこちらを捉える。

 その真剣な様子には、私も真剣に考えざるを得ない。



挿絵(By みてみん)「…………」

挿絵(By みてみん)「…………」


 判断を迷い、しばらく考えを廻らせる。

 既に自分は思考の迷宮に囚われていて簡単には結論が出せる筈も無かった。


 或いはこれこそが自分に与えられた『天命』なのかも知れない。

 理不尽な運命を経てもなお、希望と理性を信じて前へと進む。

 彼女の姿は、私には本当に眩しく感じられた。


 あるいは、あのひかりかがやくばしょに、わたしはもどれるのだろうか


 だけど自分は、やはり戸惑うのだ。

 絶望と後悔の暗闇に堕ちた者は再び同じ地点に戻ることは無い。

 失われてしまったからこそ、人は求め彷徨うさだめとなるのだ。

 心に刺さったとげを他人が抜くことは出来ず、それは全て自分だけのもの。


 そうだ迷ったすえにみつけたものは、けっしてわるいものばかりではなかったよ


 皆の顔を思い出す。


 キット、ノノワ、ゼフィ


 ポンデ、ルミナ、シルヴィ


 ラン、スー、ミキ


 アデーレ、アマラ、カマラ


 メアリー、コージー、ハーシー


 そして……アルスラ。



 やがて考えに一つの『けり』を付けると、私は彼女に真っ直ぐ向き合う。

 心を決めたならば、後はそれを伝えるのみ。


 まずは黙って顔を横に振る、そして、


挿絵(By みてみん)「済まない、私は…………」


挿絵(By みてみん)「いえ良いのです、元から無理強いは出来ませんから。」


 台詞をさえぎるようにロッティが微笑む。


挿絵(By みてみん)「最初に言いましたでしょ? ……これは『望み薄』と。」


 その笑顔はやはりとても眩しいものだった。





 幾つかお互いに謝辞を述べ、その場はお開きとなる。

 彼女もやはり忙しいようで、直ぐにでも王都に戻らねばならないのだとか。

 そして別れ際に、


挿絵(By みてみん)「姉さんは私のためにずっと働き通しで、婚期も逃してしまったのです。私、それだけがずっと気掛かりで……」


挿絵(By みてみん)「……」

挿絵(By みてみん)「……」


 少し気まずい空気。


挿絵(By みてみん)「ですのでアインライト様……」


 言葉が一端切られて、そして



挿絵(By みてみん)「……『せきにん』、取ってあげてくださいねっ!!」



 見るとアデーレの顔が真っ赤になっていたのだった。



      * * *



 外へ出てみると、既に夕暮れ時だった。


 槌音が高く響く、槌音が高く響く

 再建の槌音は硬質でとても耳障り

 打ち合わされる音の響きはやがて部品が組合わされて


 男達の声がする、女達の声がする

 調子の外れた不協和音はひどく耳障り

 力を合わせる人間の声はやがて日常が噛み合ってゆき


 そうして街は再び、その姿を取り戻すのか

 あるいはまた、違うものへと変化してゆくのか

 それは人々が働く光景、創りだされる変化のすがた


 子供が棒切れを持って振り回して、やがて足早に去ってゆく

 大きなものの後を、小さなものが追い駆けて

 泣いたり笑ったり、泣いたり笑ったり。


挿絵(By みてみん)「どうなることかと思っておりました。最初の頃は、それはそれはひどい有様だったので……」


 視線を遠くに置いてアデーレが呟く。


挿絵(By みてみん)「……でも旦那様のおかげで、何とか飢えを満たすことは出来たのですよ。」


 そうして彼女は微笑んでくれた。


 あなたはこの街を守ったのですと君は言うでもそんなご大層なものじゃない

 きっと自分ひとりでは何もなしえないまま

 いろんなものにただ助けられてばかりの、きっと無力なソンザイ。


 私は曖昧に笑う。


 ひかりが翳りやがて茜にそまってゆく空が大地が城が街がにんげんが

 あかいせかいの中でやがて彼らはたんなる輪郭のようになって全て混じり合う

 影絵芝居の情景はこんな世界を何とありのままに描いていたのだろう。


 ああきっと僕はこのうつくしいせかいに、それでも溶け込むことがない異分子

 くらがりの向こうからじっとこんな綺麗なものにずっとあこがれ続ける。


 僕はネクロマンサー、死者を操り、生者を謀る罪深き者

 愛する人をこの手で殺した、本当にワルイ奴。


 やがて世界は黄金に染まり、黄昏どきが訪れる

 そうかこんな曖昧なじかんだけが自分に許されたものなのだ。

 逢魔がときの束の間に、のみ許された存在を、ただひとり抱えて……



 でもそこでぐにゃりと頬に感触があって、アデーレがじっと見ていた。


挿絵(By みてみん)「……ああキットさんも言っていました。あなたは時々死人のような目をすると、とても放ってなどおけないと……」


 うるんだ瞳から私は目が離せない。


挿絵(By みてみん)「旦那様の孤独は誰にも癒すことは出来ないのでしょう、でも……」


 うるんだ瞳から私は目が離せない。


挿絵(By みてみん)「さみしいときはアデーレの胸をお使い下さい、抱きしめてあげます。」


 うるんだ瞳から私は目が離せないまま、やがて抱擁、温かい感触に包まれる。





挿絵(By みてみん)「主様! 主様主様主様……!!」


 だが、突然そこへ現れたのはたいようの彼女だったのだ。


挿絵(By みてみん)「……主様! ああ大変たいへん大変です!!」


 言葉はひたすら混乱して、でもアルスラの顔には確かに喜びがあって。


挿絵(By みてみん)「ああなんてこと! なんて素晴らしいことでしょうか!!」



 そしてせかいはふたたび色をとりもどす。



 背の高い彼女は遠慮などすることなく私の側へと奔る。

 ぎうと抱きしめられたと思うと力の限りに振り回された。


 ぐるぐる、ぐるぐる、ぐるぐる、ぐるぐる


 世界は廻る。


挿絵(By みてみん)「あ、アルスラ、目が、まわる……」


 やっぱりアルスラは笑っている。

 そしてぽんと置かれたかと思うと、まっすぐにこちらを見据えて、



挿絵(By みてみん)「主様! できました! 孕みました!」



 そのしょうげきにわたしはことばもでない。



 やがて騒々しい声が追い駆けて来る。


挿絵(By みてみん)「ね……姉様ダメーーーっ! 走っちゃダメなのだーーーっっ!!」

挿絵(By みてみん)「あ、アルスラ姉さんーー! まずは安静にーーー!」

挿絵(By みてみん)「ふ……ふぅふぅ、待って下さいーー! そんなに速く走れませんわー」


 全ては遠くから聞こえる音のようで。


挿絵(By みてみん)「あ、あの……主様……? どうなさいました?」


 そして心配そうな顔が私を見ていた。

 途端に自分の中の回路が急速に繋がってこれまで現在行く末将来過去今未来。

 為すべきことするべきことやらねばならぬ事を計算し始める。


挿絵(By みてみん)「よくやった……!」


 頭が回っているのか回っていないのか不明確な状態で私は、


挿絵(By みてみん)「やった! やったぞ! よくやったアルスラ!」


 彼女を抱えて振り回す。


 ぐるぐる、ぐるぐる


 世界は廻る。


 世界はこんなにも、喜びにあふれていた。



挿絵(By みてみん)「あ……あははっ! 主様、目がまわります!」


挿絵(By みてみん)「わ、わわわわっ主様止めるのだっ!」

挿絵(By みてみん)「ご、ご主人様落ち着いて!」

挿絵(By みてみん)「い……いけません師匠!」

挿絵(By みてみん)「旦那様、どうか冷静に」


 そして騒々しい声が追い駆けてくるのだ。

 今はただ嬉しく、そして混乱していた。



挿絵(By みてみん)「……こうしちゃいられない! まずは冒険者を辞めて正業に就かなければ!」


 頭の中で何故かそういう結論に達する。

 子供が出来たともなれば、今まで以上に『しっかりと稼ぐ』必要があるだろう。

 冒険者なんて不安定な職業は、やはり若い内だけ出来る特権なのだから。


 それで直ぐに冒険者の宿、『白山亭』に向かったのだが……


挿絵(By みてみん)「ええとアインの旦那、アンタまだ冒険者のつもりだったのかい……?」


 主人のシンメイ氏から身もふたも無いことを言われてしまう。




 ……言われてみれば、冒険者アインライトは久しく『冒険』をしていなかった。



      ◆ ◇ ◆ ◇ ◆



 すっかり清められたウラワン城は白亜の姿を取り戻していた。

 今日の『佳き日』のために入念に掃除が為されたからだ。

 白い壁が日の光を受けて輝き、二人の門出を祝福している。

 やがて歓声が巻き起こった。


挿絵(By みてみん)挿絵(By みてみん)挿絵(By みてみん)「おめでとう!」

挿絵(By みてみん)挿絵(By みてみん)挿絵(By みてみん)「あめでとうございます!」


 白く輝く装束に身を包んだ二人は、やはり美しかった。

 そう、本日は華燭の典、目出度き祝いの日なのである。


 まずは主役の一人、クラフツ殿下改めサウスウラワン荘爵閣下。

 慣れない場に緊張を隠し切れず、少し強張ったような表情をしている。

 そして花嫁は……


 白いドレスを優雅にひるがえし、しずしずとした足取りで前に進む。

 常と異なるそのお淑やかな様子は、まるで彼女の知らない面を写すようで。

 そして新郎の横に立って、ふと、柔らかく微笑む。

 それは紛れもなく美しいものだった。


挿絵(By みてみん)「ゼフィ……すごく、綺麗だ……」


挿絵(By みてみん)「……」


 彼女が何と答えたかは、こちらからでは聞き取ることが出来なかった。


挿絵(By みてみん)「ああ……ゼフィ姉様、何とお美しい……」

挿絵(By みてみん)「ええ、ホントに……なんか羨ましいな……」

挿絵(By みてみん)「ああ、これでやっと、私も肩の荷が下りました……」


 それは感無量といった様子で、三人組も涙を浮かべている。



挿絵(By みてみん)「はぁ……しかし殿下も、思い切っちゃいましたねぇ……」


 その台詞は、少し意外なものに思えた。


挿絵(By みてみん)「キット、君はさんざん煽ってたじゃないか、今更何を……」


挿絵(By みてみん)「だからこそですよ。正直、五分五分ぐらいに思ってましたので。」


 それは新郎に対してなのか、新婦に対してなのか。


挿絵(By みてみん)「いいじゃありませんか、『愛は憎しみに打ち克つ』ですわ。」


 王族であるクラフツと、貴族になったとはいえ獣人のゼフィ。

 おそらくその前途には、希望だけでは無い『現実』が待ち受けるのだろう。

 きっと、苦労する。でも、それでも最後には、


挿絵(By みてみん)「二人の行く先に、天の祝福があらんことを。」


 私達は祈ろう。



挿絵(By みてみん)「……主様」


 ふと後ろを見ると、アルスラが微笑んでいた。

 時折お腹に手を当てるのは、やはり気になってしまうからなのか。


挿絵(By みてみん)「ね、姉様……足元に気を付けるのだ。」


挿絵(By みてみん)「大丈夫だ、そなたは心配し過ぎだぞ。」


 ポンデはあれ以来、すっかり心配性になってしまったようだ。

 常にアルスラに寄り添い、自分のことのように甲斐甲斐しく世話をする。

 口煩くてたまらないなどと、アルスラは愚痴っていたか。


挿絵(By みてみん)「あいつもやっと身を固めたか……やれやれだ。」


 親友を見詰める彼女の瞳には、少し羨むような色が見える。

 きっとその白いドレスに想いを馳せているのだろう。

 以前に着てみたいかと訊ねたのだが、


挿絵(By みてみん)「いえ、私はあのようにひらひらしたものなど……」


 そう言って、でも残念そうに断っていた。



 だからこれは、内緒の話である。

 このあと上手く時間を作って、『彼女』には晴れの一瞬をあげるつもりだ。

 他の皆と話合って、白いドレスは既に用意してある。


 そのときの顔が、いまからとても楽しみだ。



 ええ、ですから私は一計を案じたのです。

 この際だから、『全員分作ってしまえ』とね。

 きっとご主人様、驚くでしょうね、なにしろ『六人分』ですもの。


 そのときの顔が、いまからとても楽しみですよ。




 やがて舞台の中央には、厳かな表情を作った少女が歩み出る。

 輝くような纏いもの、整ったかんばせ、気高き御身、其は光の聖女。


 するすると手が舞のように動いて華のような微笑と共に祝詞は紡がれる。

 楽は無く始まりに楽は無く其は静けさとともに。


 ここからでは聞き取りづらい音で謳われたそれは最後に、



挿絵(By みてみん)「……二人の行く先に、天の祝福があらんことを!」


 それは奇しくも、私の言葉と同じだった。



 やがて光と共に音の無い楽が響いて


 そこにはひかりの羽根が舞い降りた


 ふわふわ、きらきら、ふわふわ、きらきら


 その天からの祝福は、まるでこの場にいる全ての人々を



 ……すべてのひとびとを、しゅくふくしていたのだった。







~~~~~「サイタマーのアインライト」[王国人士名鑑]より抜粋~~~~~~


 Einlight of Saitamar, (生年不明)~1234年5月6日

 ウラワンオーミャ自治都市(※)在住の治癒術士、魔法学者、及び実業家。


  ※ウラワンオーミャ自治都市(当時)は通称『サイタマー』と呼ばれていた。

   名前の"of Saitamar"とは『サイタマー在住の』を意味する。


 生前は一部の地域を除きほぼ無名。

 それ以外ではパラク・エルス(※1)やノノワ・マギアスタ(※2)らの著書に

 献辞が記されていることで、僅かに研究者間に知られるだけの存在であった。


  ※1:所謂『練成学の祖』として有名。

     彼の集大成『練成学』はアインライトの援助の下で著述が行われている。


  ※2:無詠唱魔法の理論的基礎を打ち立てた偉人。

     彼女は一時期、アインライトに師事していたと伝えられている。


 自治都市冒険者ギルドに残る記録によれば、彼は無宿者としてウラワンオーミャに

 現れた後、治癒術・白魔法を用いる『冒険者』として生計を立てる。

 それ以前の記録についてはほぼ存在せず、その生い立ちについては全く不明。

 彼の『生誕の地』と謂われる場所は何箇所が挙げられているが未確定のままである。

 そして冒険者として十分な財を築いた後、『商会』を立ち上げて成功した。


 このとき設立された『キット商会』が、後の『K・S財閥』の前身である。

 但し、彼自身は長として表に立つことは無く、専ら裏方に回っていたとのこと。

 実際、キット商会と云えば『やり手のキット』(※)こと女傑キット・サイタマニア

 の名がまず第一に挙げられるであろう。


  ※やり手のキットに関しては関連項目も多く、本項の内容から外れるので、

   ・ライバック著『自治都市を牛耳った女』

   ・カール・アーサー著『評伝:影の女帝』

   など別の文献を参照すること。


 キット商会の記録によれば、当時のアインライトは潤沢な資金を背景として

 それらを学術や魔法の研究へと惜しみなく投入、或いは援助していたらしい。

 前述のパラクやノノワといった著名人も、その恩恵に与った者達である。

 更には、当時の王国では『知らぬもの無き光貴』光の聖女ルミナス(※)に対しても

 同様に多額の援助や相当の事業支援を行い、深く感謝をされたと記されている。


  ※光の聖女ルミナスに関しては記録が膨大であり、本項の内容から外れる。

   その詳細については、

   ・ヒルデガルド著『聖女言行録』、定番のテキストである

   ・聖女顕彰会著『せいじょさまのおはなし』、子供向けだが簡潔にまとめてある

   ・ペンスラクス著『聖女伝説検証、その光と影』、批判的立場からの検証

   などの文献を参照すること。


 しかしながら後の研究によれば、商会の記録には『明らかな誇張』等が散見され、

 商会の実質的オーナーである彼本人に対する『権威付け』の意図が推定出来る、

 当時より旺盛であった『聖女伝説』への意識的な関連付け(※)もその一環である、

 と結論付けられる。


  ※これは特に彼に限らず、当時の著名人の伝記全般に見られる特徴の一つ。

   往時は『聖女との関係性』が社交界のステータスの一つにすらなっていた。

   何れにしても、聖女在世時の影響力の強さを物語るものである。


 こういった事情、及び前述の『やり手のキット』との関係に纏わる悪評の影響で

 アインライトを『名聞目当ての単なる俗物』と評する意見は根強く、

 そのため死後はその業績について全く省みられることは無かった。



 状況に変化が訪れるのは、彼の没後百五十年を期して上程された(と云われている)

 或る『一冊の本』が契機となる。


 すなわち、『とある暗黒魔導師の自叙伝』がそれである。

 この著作は各方面に大きな衝撃をもたらした。

 と言うのも、『聖女伝説』に於ける大きな謎の一つ『魔導師オオグンタマー』(※)の

 正体がアインライトであったと告白されていたからだ。


  ※魔導師オオグンタマー:聖女伝説に登場する謎の魔法使い。

   聖女の危機に際して『とにかく如何なる状況・場所をも問わず唐突に現れる』

   ことで非常に有名。

   そのあまりにも『ご都合主義的展開』に一時は実在そのものすら疑われていた。


   基本的な流れ:


   魔力が底を付き、聖女様がピンチだ!

   「ああ、こんなときにあの方が居てくれれば……」

      ↓

   「待たせたな! さあ、我が魔力を受け取るのだ!」

   オオグンタマーはどんな時、どんな場所へでも現れる。

   例えそれが、警戒超厳重な敵のアジトのど真ん中だろうが、

   世界最難関のダンジョンの奥底であろうが、とにかく彼は現れるのだ。


   因みに聖女の魔力が尽きた際、『胸のペンダントが紅く点滅する』という

   演出については『後世の完全な創作』である。


 当の『本人による述懐』とは云え、内容は魔導師その人しか真に知り得ぬ内容を

 含んでおり、信憑性は相当に高いと思われた。

 今日では、細かい部分の真贋はさておきオオグンタマーの正体が彼であることを

 疑う者はいないだろう。


 また、この本は別な面でも後世に大きな影響を与えている。

 何故ならこれは『聖女伝説を裏側から回想した』記録でもあったからだ。


 ――例えば聖女自身の『人となり』について。


 正史に残る彼女の描写に関しては、品行方正にして『枠に囚われぬ』自由奔放、

 無垢なる魂を高貴な精神で包んだ『理想的聖人』として描かれている。


 しかしこちらでの描写は、「突飛な言動で周囲を振り回す我侭娘」或いは、

 「子供らしい無邪気な笑顔と大人の深い洞察力が同居する矛盾の塊」等々。


 すなわち伝説の魔導師と云えど、どうやら聖女には相当手を焼かされたらしい。

 各所に記された幾多のエピソードからは、そんな情景が伝わって来る。

 だが一方、其処に描写されていたのは、子供じみた無垢の象徴でありながら

 同時に深く事物の本質を『看破してしまう』聖女という『特異な存在』の、

 飾ること無き、ありのままの姿である。

 その本に有ったのは、魔導師と聖女、そして取り巻く多彩な登場人物たちの、

 『それはひどく歪んでいて、故にあまりにも人間的な』

 生き生きとした群像であったのだ。


 これが端緒となって、とかくそれまで教条的・教訓説話めいた側面が強かった

 『聖女伝説』全般について、改めて違う方向から光が当たることとなった。

 やがてこれらは、後世の創作家に大きなインスピレーションを与える。


 聖女、勇者、魔法使い、王族、貴人、悪漢、怪物、衆に優れるものたち。

 庶民、平民、農民、冒険者、兵士、職人、商人、市井に生きるものたち。

 それら全てが織り成す『聖女と魔導師が居た時代』というものについて、

 その本は改めて光を当てる『きっかけ』となったのだ。





 やがて時は流れ、とある作家がアインライトの『数奇な生涯』に興味を持った。


 作家の名は『アレクス・デューム』。

 『華麗なる騎士の物語』や『マウント・クリストフの冒険』など、冒険活劇の

 数々で多くの読者を魅了してきた。

 作家は数年に及ぶ綿密な調査の後に、物語を描き始める……。


 彼のそれまでの作風と少し異なり、『やや地味目』とも評されるその作品は、

 だが一方で熱狂的な愛読者を生み出し、「これこそが彼の最高傑作」とまで

 言い切る人間もいるほどだ。



      ◆ ◇ ◆ ◇ ◆



 主人公はサイタマーに生きたひとりの冒険者。


 大きな力を持ちながらも、ひどく小心で、大抵は卑屈で、目立つことを嫌がって。


 でも一度決意を決めたならば、幾千の軍勢にすら立ち向かう。


 笑って、泣いて、喜んで、でも心の底にはどうしようもないものが残っていた。


 口下手で、生きることにはとにかく不器用で、それでも家族や仲間に支えられ、


 『悪徳の都』でたくましく生きた男の物語。



 その物語の名は――――――――












             『サイタマーの守護者』!!



サイタマーの守護者、ここに完結です。

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