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サイタマーの守護者  作者: 一光屋KY
無刃の戦争編
37/39

第三十五話 サイタマーの聖女絶唱

~~~~~~~「未解決命題」[王国雑学大集典]より抜粋~~~~~~~~


 原文: バロスのフォリスのリスがパルジでココーン


 ※原文に添付されていた解説?

 ココーンはバロスに漂うフォリスが大いなる意思の許、聖晶の力で創りし遺構。

 バロスにはココーンと類似のフォリスがアトモスフィーアに漂う。

 聖骸体はココーンを統べる存在にしてバロスに汚染されたものを除去する。

 聖晶はココーンとバロスの両方に存在が求められた異方的等価値質を備える。


 フォリスは聖晶をインクルードしており、聖存在をバロスよりアイソレートするべく

 ココーンを築いた。


 汚染された遺物とは聖骸体にパルジとされる。

 リスとはバロスのフォリスが創りしココーンに存続を拒絶された存在。

 パルジとはココーン域民をバロスへと吐下する聖骸体の教条項。


 リスはフォリスからイマジン・トランスレーションによってリスペクトされる

 聖命を果たせば聖晶と成れる。

 しかし、果たせなければ邪骸バディと成ってしまう。


 召し還りし獣はリスをセービンする為に現れる。

 イマジン・トランスレーションとはフォリスがリスを……



 意味: 現在に至るも全く不明


 かろうじて資料は残されているものの、意味内容背景含めて全てが謎の碑文。

 解読の専門家からも『王国至上最難の暗号文』と言われている。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 ……私達は現在、催事(イベント)の準備に多忙な日々を送っています。



 さて、聖女というものはその名に相応しく声にも『チカラ』を持っていたようだ。

 ルミナの歌声が、『例の二人組み』の支配魔法を解くことが出来たのである。


挿絵(By みてみん)「聖女殿の歌声にはもともと『魔力』が乗っているからね、不思議では無い。それは君も知っているだろう……?」


 何故か魔族のダルウィン氏が当然のように解説をしていた。

 彼は見ていた訳でもないのに、どうして仔細を知っているのだろう。


 その辺はともかく、彼の言説については確かに納得出来るものがあった。

 ルミナの場合、歌声に――と言うか感情が奔るとそれらに魔力が篭るのだ。

 流石、ただ生きてゆくのにも魔力を過剰消費する存在だけの事はある。


挿絵(By みてみん)「……素晴らしいです! やはり、聖女様は世の中を救うべく地上に遣わされた御方だったのですね……!」


 聖女の忠実な従者たるシルヴィは感極まった様子だ。


挿絵(By みてみん)「ええと……ともあれそういう事だから、どこかに対象者を集めて歌を聴かせるとかすれば良いのかな? この場合……」


挿絵(By みてみん)「仕掛ける『時』は慎重に選ばないといけませんねぇ……」


挿絵(By みてみん)「うむ、やるときは一気にまとめて殺らないと、逆撃をされたときが洒落にならないからな。」


挿絵(By みてみん)「人を集めるだけでも結構『大ごと』ですわ。」


 少なくとも、『対抗手段』が見付かっただけ以前よりはましとも言える。


挿絵(By みてみん)「……うう、でも『大勢』の前で唄うなんて苦手ですの、気が重いですの。」


 そして意外な弱音を少女は口にするのだ。


挿絵(By みてみん)「おや、意外だね、いつもはあんなに歌ってばかりなのに。」


挿絵(By みてみん)「あれは知ってる人の前だからですの。知らない人だと緊張するですの……」


 なるほどな、と私などは思う。

 確かに、彼女は初対面の相手にはやや人見知りの傾向があったからだ。

 大勢の前では姿勢を正し、外面問題無いように委細万事取り繕う。

 この辺故に、一般に聖女様は『清楚で礼儀正しい』と見られていた。


 ただし、私なども含め『波長が合った』人間に対しては初手から割と馴れ馴れしい。

 それはもう、かなり堂々と図々しく甘えてくるのだ。


挿絵(By みてみん)「……ふむ、ならポンデも一緒に唄うのだ! それならキンチョーしないぞ!」


 一方こちらは何時でも何処でも臆さず元気一杯少女であった。

 さすがは、グンマー王族という生まれながらの舞台俳優である。


挿絵(By みてみん)「さて、そうなってくると場所をどうするかも考えないと……」


挿絵(By みてみん)「ええと、大きな施設……評議会館でも借りますか? でも費用が……」


挿絵(By みてみん)「大勢だと後ろのほうまで声が届くかも心配ですの。」


挿絵(By みてみん)「ポンデは大声には自信があるぞ!」


挿絵(By みてみん)「いえ、そんな事よりも先ずは聖女様の身の安全を第一に……」


 などなど、議論はいつまでも盛り上がる。

 検討すべき項目は多く大変であったが、それでも苦にはならない。


 前向きな努力というものは、人に希望と活力を運んでくれるようだった。



      * * *



挿絵(By みてみん)「……さて、ところでアインライト君、こないだ連絡を取ってみたのだがネクロス君――枢機卿がこの件について、出来る事は何でも協力するから是非とも相談して欲しいと言っていたよ。」


挿絵(By みてみん)「は……?」


 一見平和だったはずの午後は、ダルウィン氏の唐突な台詞から変化し始める。

 あまりにもいきなりだったので、私は理解が追い付かない。


挿絵(By みてみん)「彼の立場としても、このままいつまでも冷戦状態が続くのは好ましくないと判断したようだね……それが懸命だろう。」


挿絵(By みてみん)「……」


 訝しい思いと不安感が先に立ち、私は俄かには返答出来ない。

 彼はそんな私をちらと面白そうに眺め、そして、


挿絵(By みてみん)「詳しいことは『メアリー君から』訊くと良いよ。私は忙しいからこれで。」


 小さな『嵐の種』の台詞を残して、問題人物はこの場から去る。


挿絵(By みてみん)挿絵(By みてみん)挿絵(By みてみん)挿絵(By みてみん)挿絵(By みてみん)挿絵(By みてみん)「…………」


挿絵(By みてみん)「…………」


 後に残された侍女には皆の視線が集中した。

 しばらく引き攣ったような表情が続くが、やがて彼女は観念したのか、


挿絵(By みてみん)「……はあ、やはりダルウィン様には全てお見通しでしたか。元より誤魔化し通せるなどとは思ってもおりませんでしたが……」


 そして彼女の手が甲高い音を鳴らし、連座すべき者たちを呼び寄せる。



挿絵(By みてみん)「……先ずは、アインライト様、そして聖女様にはこれまでの非礼をお詫び申し上げます。」

挿絵(By みてみん)「……」

挿絵(By みてみん)「……」


 次にその場に侍っていたのは彼女達、三人の侍女であった。

 メアリー、コージー、ハーシーは襟を正し、謹厳にひざまずく。


挿絵(By みてみん)「ダルウィン様の仰られた通り、我等三人は『監視』の為に遣わされたものに御座います――枢機卿閣下の命によりまして。」


 深く頭を下げる動作がそれに続いた。


挿絵(By みてみん)「…………」

挿絵(By みてみん)「…………」


 戸惑いと疑念には沈黙のみが答えである。


挿絵(By みてみん)「これらの仕儀、元より聖女様の御心とは『一切』関わり無きゆえ、どうかお叱りは我等のみに下されますよう……誠心よりお願い申し上げます。」


 ただ平伏のみがあり、痛いような緊張が続いた。



挿絵(By みてみん)「……やっぱりでしたの、まあそんな事だろうとは思ったですの。」


 ルミナがぽつと口を開く。


挿絵(By みてみん)「何か影でごそごそしてるから怪しかったですの。『すじ煮込みシチュー』が美味しくなかったらとっくに叩き出してたですの。」


挿絵(By みてみん)「……す、『すじ煮込みシチュー』にございますか。」


挿絵(By みてみん)「お前たち、運が良かったですの。」

挿絵(By みてみん)「…………」


 当人達も、まさかそんな理由で任務が継続出来ていたなどとは思うまい。

 顔を上げたとき、痙攣したような苦笑がそこにあった。


挿絵(By みてみん)「え、ええとそれで……『協力する』ということだけれど、具体的には何が出来るのかな……?」


挿絵(By みてみん)「は、それこそ可能な限りは全て。資金も、人員も、或いは他に……」


挿絵(By みてみん)「なら『魔法具』ですわ師匠。今の枢機卿はそういう方面に顔が利くと聞いていますから。何か使えそうな道具があるはず……」


挿絵(By みてみん)「……ふーーむ。」


 何にしても助力は歓迎だ、上手く力になってくれると良いのだが。それにしても……


挿絵(By みてみん)「まさか『アカデミーの』協力とは、思ってもみなかったな……」


 それは小さな呟き。


挿絵(By みてみん)「お兄様……ルミナはずっと、お兄様の味方ですの。」


 そうだね。出来れば、これまでも、これからも。


挿絵(By みてみん)「でもお兄様はアカデミーがキライだから、何かしたらルミナが絶対許さないですの、お前たちもそうですの……」


 空白、消える表情。


挿絵(By みてみん)「……そのときはゼンブつぶす。」


 聖女が少し恐い顔をした。


挿絵(By みてみん)「全く……ネクロスの奴はいつもそう、裏でこそこそ、余計な事ばかり……いい加減にして欲しいですの、放っておいて欲しいですの。」


 嘆息、そして不快。


挿絵(By みてみん)「ルミナは何もする気ないですの、邪魔なんかしないですの。だから、好きにさせて欲しいですの……。」


挿絵(By みてみん)「…………」


 しばらく沈黙が続いた。そして、


挿絵(By みてみん)「聖女様……聖女様の御心を騒がせしこと、真に慙愧の念に耐えません。」


 重い言葉が紡がれる。


挿絵(By みてみん)「……ですが、ですがどうか『この事』だけは分かって……いえ、知っておいて欲しいのです。」


 ため息、そして深く呼吸して。


挿絵(By みてみん)「枢機卿閣下、それに周りの我等もこれで『ご不興』を買うのは充分に分かっております。」


挿絵(By みてみん)「でも……それでもなお、このような無粋な真似をする…せねばならぬ理由、それは……」




挿絵(By みてみん)「それは『恐い』からです聖女様! 『恐ろしい』からなのです!!」




挿絵(By みてみん)「…………」


挿絵(By みてみん)「ご存知のように、枢機卿閣下――ネクロス様はこれまで苦労に苦労を重ね聖女様のお力もお借りして、ようやく今の地位にまで上りつめられました。」


挿絵(By みてみん)「ですが……いえ、であるからこそ、あの方はいつも不安に苛まれております。失うことを怖れておいでなのです、地位を、名誉を、栄光を……」


挿絵(By みてみん)「……ですからそれを少しでも『損なう可能性』には常に目を光らせているのです。警戒せずにはいられないのです。そうしなければ不安なのです。」


挿絵(By みてみん)「本来、枢機卿ともなれば王国内に於いては最も尊い位置。誰人にも憚ることなど無いと思われるでしょう……しかし、」


 台詞を切り、呼吸。


挿絵(By みてみん)「しかし、いざとなればそれすら、いとも容易くひっくり返してしまえる存在……それこそが『聖女』、あなた様なのです。あなた様には、それ程卓越した『ちから』が御座います。」


挿絵(By みてみん)「……それ故に、ネクロス様も、我等も、常にあなた様を恐れ周りを見張らずには居られないのです。」


 悄然として、だが鋭い視線が聖女を捉える。



挿絵(By みてみん)「…………愚か」


 聖女の冷たい言の葉が響いた。


挿絵(By みてみん)「興味ないですの……そんなもの、最初から興味ないですの、最後まで興味ないですの! わずらわしいだけですの!」


挿絵(By みてみん)「……ええそうでしょう、そうでしょうとも! あなたにとっては!」


 それは心からの悲鳴。


挿絵(By みてみん)「ですが『人』は、普通の人間は! 誰もあなたのように超然とは居られない、自由に生きられない! 与えられていない、贈られていない、祝福されていない! 故に、失うことを恐れる、奪われることを恐れる……!」


挿絵(By みてみん)「……」


挿絵(By みてみん)「それを愚かと言うは容易い――されどそうせざるを得ないのが我等凡人なのです。理解してくれとは言いません、ですが『知っておいて欲しい』。ただそれだけなのです、どうか……!」


 いっとき黙りこみ、そして、


挿絵(By みてみん)「……斯くも失礼の段、平に、平にご容赦を。お叱りは如何様にも受ける所存に御座います。」

挿絵(By みてみん)挿絵(By みてみん)「……御座います。」


 侍女のかしずく姿は彫像のようであった。



挿絵(By みてみん)「…………」


 聖女はしばしの間無言で、その後、


挿絵(By みてみん)「……だからって、良いことばっかりじゃないですの……」


 その小さな呟きは、私にしか聞き取れなかったかも知れない。



挿絵(By みてみん)「ええと……協力してくれると言うのなら、どんな事でもどんな相手でも歓迎します。今はとにかく、皆の力を合わせるのが大事でしょう。」


 空気を入れ替えるつもりで、私は無理に言葉を発する。


挿絵(By みてみん)「ルミナ……ルミナもそれで良いよね……?」


挿絵(By みてみん)「……(こくり)」


 問いかけには小さな頷きが返るのだった。



      * * *



挿絵(By みてみん)「……で、ようやく私が呼ばれたという訳か。ミキ達から話だけは聞いていたとは言え、この街の『治安』に関わることなのだ、出来れば最初から通して欲しかったところだな。」


 ゼフィが冒頭から皮肉を述べる、少し不機嫌なようだ。

 切りの良い所で連絡しようと思っていたら、結構遅くなってしまった。


挿絵(By みてみん)「……(じろっ)」

挿絵(By みてみん)「…………」


 睨まれる私は心中穏やかとはいく訳も無く、空気が刺激性を帯びる感触。

 特に今回は『荒事絡み』ということでアルスラも同席している。


挿絵(By みてみん)「……ま、それはこちらにも色々と事情が有りまして。」


 そんな中でも、キットは相変わらずだ。


挿絵(By みてみん)「第一、『オーミャ地区』のことに『ウラワン城』が首を突っ込むおつもりで? 問題になりますよ。」


挿絵(By みてみん)「……」


 そして間髪入れずの切り返し、彼女も沈黙するしか無かった。

 こういったところは、やはりこの街特有の『面倒臭さ』を感じさせる。


挿絵(By みてみん)「その辺はともかくとしてですね……私達としても、ここは悩み所なんです。」


 キットは少し『悪い顔』をしている。それは何となく波乱の予感だ。


挿絵(By みてみん)「向こうさんはこうも言ってました、『大人しく、協力してくれるなら礼をする』とね……これで『どちら』に付くかは良く考える必要がある、そうでしょう?」


 それは翳りのある表情。


挿絵(By みてみん)「正直に言いましょう。今回、私達が『わざわざ』動くとして、『お城の方はそれにどれだけ払ってくれる』んですかね……?」


挿絵(By みてみん)「……!!」


挿絵(By みてみん)「私達としましても、『タダ働き』は流石にご免ですから。」


 ゼフィが虚を突かれ困り顔になった。


挿絵(By みてみん)「(キット、それは)」


 たまらず私も何か言おうとするが、キットは強く手を握り、それを押し止める。

 何か考えがあってのことなのだろうか。


挿絵(By みてみん)「居場所を守ることには私達もやぶさかではありませんよ、勿論。でも、それが必ずしも『サイタマー』じゃなきゃいけない……ってものでも無いでしょう?」


挿絵(By みてみん)「…………」


 その場を重い沈黙が覆う。




挿絵(By みてみん)「……なんてまあ、言ってはいますケド、こんなのは全部愚痴ですよ、愚痴。」


 フ、と微笑みが洩れた。


挿絵(By みてみん)「商売やってる以上、この街の将来に無関心って訳にはいきませんて。所詮私達はその辺の『しがらみ』からは自由になれないんですから。ましてや今はそれなりに立派な商会を預かる身ですしね、『無責任』は端から出来ようも無い。」


 それは虚空を仰ぐような視線の動き。


挿絵(By みてみん)「でもまあ……ホント、貧民街出の根無し草が何て出世したんだろうと思うわけですよ、しみじみと……」


 台詞に、ようやく空気が柔らかくなった。

 キットが「昔のあたいはそんな事、夢にも見てなかったのに」と口の中で零す。


挿絵(By みてみん)「とは言え、タダ働きについては何とか『ご配慮』が欲しい訳でして。」


 そして最後に、彼女はきっぱりと言い切った。


挿絵(By みてみん)「……なるほどな。いきなりこちらを試すようなことを言うから、何事かと疑ったが……」


挿絵(By みてみん)「だが事実ではある。ゼフィよ、そなたはこれまでも時々主様を『気安く』使ってくれているようだが……本来、もっと敬意を払うべきなのだ。」


 キットの話に、沈黙を保っていたアルスラが乗り出す。


挿絵(By みてみん)「強大なる魔法使いにして知恵も回る……これ程の御方、私の故郷ならば村長どころか村々を束ねる大身となっても不思議では無い。」


 彼女が得意気な表情になった。


挿絵(By みてみん)「仮に森の奥の国にでも行けば、直ぐにでも王の側近となって差配を振るう事も出来よう、そのぐらいのお方なのだぞ!」


挿絵(By みてみん)「……」

挿絵(By みてみん)「……」


 私は気恥ずかしさから、ゼフィは当惑からか沈黙を返す。やがて、


挿絵(By みてみん)「うーーむ、『褒美』か……正直、そういう事に私は一番不向きだな、分かっているとは思うが。私やお城のふところなど当てにしないで欲しい、以って素寒貧だ。」


 それは苦笑まじりの表情。


挿絵(By みてみん)「……が、しかし、」


 言葉が切れてニヤリとした顔、私は悪い予感がする。


挿絵(By みてみん)「そう言うことなら考えぬでも無いか、そうだな――よし! アイン殿には特別に私名義で『推薦状を奏上』するとしよう! 今なら『伝手』もある、相当に『御上』のほうまで届くかも知れんぞ!」


 それは好意的だが少し意地悪い成分を含んでいた。


挿絵(By みてみん)「うむ、そうなると最低でも荘爵(バロン)は固い! 上手くすれば城爵(ヴァイカウント)も狙えるだろうか!」


 にまにまとした居心地の良くない笑顔。


挿絵(By みてみん)「ああそれが良いな! それでそのままこのウラワン城の『城主』に収まってもらえれば言うことは無い!」


挿絵(By みてみん)「なにしろほぼ王国一の魔力持ちにして、聖女様の覚えも目出度い御方だ、そのぐらいには値しよう――どうだ? これなら『褒美』としては充分だろう?!」


 彼女が尖った歯を見せて笑う。


挿絵(By みてみん)「……!! ええっ! それはちょっと、勘弁して下さいよ!」

挿絵(By みてみん)「しまった! その手があったか!」

挿絵(By みてみん)「むぅ! そう来るか!」


 今度はこちらが虚を突かれた。


挿絵(By みてみん)「ハハハ! 大体、働きがいつも正当に報われるものなら、今頃私なども爵位持ちで『閣下』なんぞと呼ばれているだろうよ! 世の中とは、下に敷かれる者にとっては色々理不尽に出来ているものさ。」


 豪快な声音に、少し苦い味がにじんで。


挿絵(By みてみん)「……そちらの言う通りだ、『人は、しがらみからは自由になれない』――正しくこの世の真理だ。」


挿絵(By みてみん)「だが、だからこそ我ら愚かなる者は群れて力を合わせるのさ。一人一人の、弱い、ささやかな力を。」


挿絵(By みてみん)「私と遊撃隊は、幾らでも協力するよ、アイン殿!」


 彼女が固く握った手を差し出す。

 そして私が手を重ね、アルスラが続いた、キットも続いた。



挿絵(By みてみん)「だから……一緒に守ろうじゃないか、この『愚者の楽園』を!!」



      ◆ ◇ ◆ ◇ ◆



挿絵(By みてみん)「回状……??」


挿絵(By みてみん)「ええ、評議会から回って来ました。何でも『臨時会合』が開かれるそうですよ、オーミャの評議会館で。」


挿絵(By みてみん)「……ええと……すっぽかしていいかな?」


挿絵(By みてみん)「ダメです、と言うか無駄です。まず間違い無く『迎え』が来るでしょう。」


 それは非情な宣告であった。


 さて、あれから十日ほどが経過していた。

 そろそろ何か動きがあるだろうかと思っていた所にこの『回状』と言うわけだ。


挿絵(By みてみん)「波乱の予感……ですわね。」


挿絵(By みてみん)「ちょっと参ったな……こっちの『準備』は未だ全然だっていうのに。」


挿絵(By みてみん)「主様お一人だけであれば、私が何としてもお護りします!」


 正直、少し不安に感じる。


挿絵(By みてみん)「ええと……いくらライヘンスター商会でも、この短期間に『事を起こす』ほどの準備が出来るとは思えませんね。人の集まりを動かすってのはそれぐらいオオゴトなんですよ。」


 だがキットの意見は少々異なるようだ。


挿絵(By みてみん)「まずはお互い『様子見』ってことでしょう。さぼったりしないで、ちゃんと顔見せしとかないと!」


 ともあれ『逃げちゃダメ』と言うことらしかった。


挿絵(By みてみん)「……あくまでも表面上は『仲良く』ですよ! 荒事は絶対禁止ですからね!」


 何か「この隙に一儲け出来るかも知れないんですから」と呟くのが聞こえたような。

 さてちょっと困ったな、私は表情を作るのは苦手なのだが。



      * * *



 なけなしのやる気を何とか奮い起こして、評議会館へと向かう。

 そこは既に騒々とした囁きに溢れていて、好意的と非好意的な視線が交錯していた。


挿絵(By みてみん)「何だか……見られているような。」


挿絵(By みてみん)「まあ無理もないでしょう……恐らく『話題の中心』の関係者ですし。」


挿絵(By みてみん)「ちょっと、落ち着きませんわね。」


挿絵(By みてみん)「……」


 アルスラが無言で手持ちの武具を確かめ、金属の音がする。


挿絵(By みてみん)「(……お、あれは……)」


挿絵(By みてみん)「……」


 遠目に『彼女』の姿を見付ける。既に大勢に取り囲まれているようだ。

 近付くのは諦めて視線で会釈だけすると、向こうも軽く目配せを返して来た。


挿絵(By みてみん)「やっぱり……今日の議題はレニさんのことのようですね。」


 やはり『そういう事』だったようだ。

 先程からも人々の口の端に『ライヘンスター』『レニ』といった単語が上がってきている。

 そして確実にその『関係者』と見られている私達の名前も同様だった。



      * * *



挿絵(By みてみん)「……それでは紹介しましょう! この度正式に『正議員』に選ばれました、『レニ・ライヘンスター』女史です……!」


 ひときわ大きな音声でその名は呼ばれた。

 万雷の拍手の中、美しい赤髪の姿が立ち上がる。

 燃え盛る瞳、自信に溢れる表情、それら全て内なる輝きを放っているようで。


挿絵(By みてみん)「ただいまご紹介にあずかりました。私はレニ、レニ・ライヘンスターにございます、今後ともよしなに。新参の正議員として、精一杯努める所存ですわ。」


 軽く手を上げ、その顔には緊張とそして満面の笑みがあった。


挿絵(By みてみん)「ではご挨拶代わりに……この場をお借り致しまして私より一つ、『新事業』の提案をさせて頂きます……!」


 その言葉が演壇より発せられたとき、周囲より少なからずどよめきが起こる。

 単なる挨拶以上の『刺激』がそこに含まれていたからだった。




挿絵(By みてみん)「……学校……??」


挿絵(By みてみん)「ええそうです……『評議会主幹で』学校を作るのです、各ギルド所属の子弟が自由に学ぶことが出来るものを。」


 弁は滔々と発せられる。


挿絵(By みてみん)「そんなもの……ただの無駄使い、不要のものではないか。」


挿絵(By みてみん)「然り、あんたの所が『公共の奉仕』とか言ういらんことに熱心なのは前から有名だが、それに我々まで巻き込まないで欲しいな。」


挿絵(By みてみん)「……その通り! 君は自分の所の趣味を、我々に押し付けるつもりかね?」


 だが反発は必至だ。


挿絵(By みてみん)「……」


 彼女は一瞬押し黙り、そして、


挿絵(By みてみん)「あら、これは意外でしたわね……? 此処に居られるような皆様が、商売の原則『先行投資』の重要性に気付いていらっしゃらないなんて!」


 その舌鋒は少しもひるむことは無かった。

 半ば誹謗にも近い皮肉を、理路整然と反撃してゆく。


挿絵(By みてみん)「……確かアドホーク様のところは、近々新しい店を出すおつもりとか。つきましては、働き手は十分に集められそうですか? 読み書きに加えて複雑な計算が出来る者など限られておりますわよ……?」


挿絵(By みてみん)「むぅ……そ、それは……」


挿絵(By みてみん)「私共の商会に任せて頂ければ、相応の人材をいつでも紹介出来ますのに……」


挿絵(By みてみん)「…………」


挿絵(By みてみん)「商売の基本は、何よりも『人』! この鉄則は皆様方も良く御存知の筈。才有る者が直ぐに見付からないのであれば、育てれば良いのです!」


 やがて非難の声は静まり、別種のざわめきが増えて来る。


挿絵(By みてみん)「それだけではありません! 既に私共は商売に於いても一つの『実績』を出しております。当商会の石鹸工場では、最新の『魔法具設備』と高い教育を受けた『優秀な人材』にて、最高の効率で経営が成されておりますわ!」


 彼女が一際誇らしげな顔をする。


挿絵(By みてみん)「無論、これらは私一人で成し遂げたものではありません……とある『優秀な頭脳』を味方に付けることが出来たからなのです。」


 あ、何か良くない流れのような……


挿絵(By みてみん)「……そうです! 此処に居られる皆様も良くご存知のお方、『治癒術士アインライト様』のご協力あってのことなのです! さあ! アインライト様っ!」


 一際大きなどよめき、私は「うぇっ!」という悲鳴のような音を何とか飲み込む。

 たちまちに槍衾のような視線にさらされた。


挿絵(By みてみん)「……!」


 その無言の圧力に、私は立ち上がらざるを得なくなる。

 よろと不恰好に体を起こすと、次に、


挿絵(By みてみん)「アインライト様には、特に『魔法具』や『製法』について大いに協力を頂いております。実に、素晴らしい成果ですわ……!」


 そこには満場の拍手が鳴り響いたのだ。


挿絵(By みてみん)「(しまった……! 完全にダシにされてますね、これは……)」


 キットの眉間にしわが寄るのが見える。


挿絵(By みてみん)「アインライト様の商会が開発なされた『道具や手法』、それと私共の誇る『優秀な人材』が組み合わさった結果、最低でも『三割から四割』の効率向上がもたらされたと私共は試算しております……!」


 どうと響く、人々の驚き。


挿絵(By みてみん)「どうですか、皆様! これが学校の、『教育』というものの成果なのです!!」


 彼女が大振りで優雅に手を広げる。

 そうだ思い出した、眼前の麗人は、正しく、最高技量の『演技者』だということを。

 魔法なんて使わない、魔力なんてまるで必要としない、それでも、


 ……それでも彼女は、満員の聴衆に見事に『魔法をかけて』見せたのだ。



 万雷、などと生易しいものでは無い、鼓膜を突き破るような怒涛の大音量。

 歓声、嬌声、喚声、咆哮、賞賛、陶酔、心ひとつに。


挿絵(By みてみん)「……素晴らしい! 素晴らしいです! 我がワルティン商会も是非とも支援させてもらいますとも!」


 豪勢な服の若手議員らしき男が、興奮して立ち上がっている。

 『ワルティン商会』と言うと……あれが話に聞いたドーブル氏だろうか。


挿絵(By みてみん)「さて……何処まで本気で、何処から『仕込み』なのやら……」


 キットは呟く。

 そして嵐のような喧騒のなか、私達は途方に暮れたような気持ちだった。



 だが、しかし……



 議場はあまりにも騒然としていたものだから、『それ』がいつから其処に居たのか。

 それは実に判然としない。


 ゆらゆらと、白い影の光のような確かにある筈なのに何故か捉えることが出来ない。

 目を合わせようとしたらすると逃げる掴みどころの無いしょうたいふめい。


 有る筈なのに、見るのは困難だ。

 居る筈なのに、捉えるのは困難だ。


 目の端で偶然それを認識してしまった私はあまりの驚愕に身じろぎも出来なくて。


挿絵(By みてみん)「(……っ! あれは!!)」


挿絵(By みてみん)挿絵(By みてみん)挿絵(By みてみん)「……!!」


 自分でも声を出せたか分からないが、仲間は気付いてくれたようだ。




挿絵(By みてみん)挿絵(By みてみん)「あァはァはァはァはァ!!!!」


 場違いな哂い声が、そして、こだまする。




挿絵(By みてみん)「……あはァ! 楽しい! 楽しいですね! 何て浅ましいこと!」


挿絵(By みてみん)「……あはァ! 愉快! 愉快ですね! 何と愚かしいこと!」


挿絵(By みてみん)挿絵(By みてみん)「これだからァ! 『金の亡者』は見ていて飽きないッ!!」


 そうだ、其処に居たのは彼ら、アドルとパウルだったのだ。


挿絵(By みてみん)「……あなたたち! どうして此処に?!」


 そのカンに触る声音に、いち早く彼女が応答する。


挿絵(By みてみん)「どうして? それは基より、自明の理ですよ。」

挿絵(By みてみん)「そうとも! これは基より、決定されていたこと。」


挿絵(By みてみん)挿絵(By みてみん)「完全なる『天の計画』には、少しの綻びも在り得ない……!」


 遠くで何かが壊れるような音が伝わって来る。


挿絵(By みてみん)「……『計画』?! あなたたちは、いったい何をするつもりなの!」


 叫ぶライヘンスターの問いかけに、天の御遣いは非情に応える。


挿絵(By みてみん)「ああ可哀想な、ライヘンスターのお嬢さん。」

挿絵(By みてみん)「いと哀れなり、ライヘンスターのお嬢さん。」


挿絵(By みてみん)挿絵(By みてみん)「君という存在は実に興味深いものだが、我々の目的に合致するものでは無かったのが不幸の始まりだよ……」



挿絵(By みてみん)「そう、」

挿絵(By みてみん)「つまり、」


挿絵(By みてみん)挿絵(By みてみん)「あなたがもっと素直に、受け入れるのであれば我々は、」


 それは謳うように残酷に


挿絵(By みてみん)挿絵(By みてみん)「あなたがもっと心弱く、うごかし易いのであれば我々は、」


 それは歌うように哀れんで


挿絵(By みてみん)挿絵(By みてみん)「あなたがもっとじゅんすいで、キヨラカであれば我々は、」


 それは、詠うように無垢なるコトバ


挿絵(By みてみん)挿絵(By みてみん)「……あなたを『御遣い』と、出来たのかも知れないのに!」



 やがて私たちの耳にも届く、怒号と叫び、破壊と惨劇の不協和音。


挿絵(By みてみん)「いけない! すぐに逃げるぞ!」

挿絵(By みてみん)挿絵(By みてみん)挿絵(By みてみん)「はいっ!!」


 横目でにらめば、既に暴徒の一群がこちらへ向かって来る最中であった。

 ただちに身をかがめ、議場の後ろを小走りに駆け抜ける。


挿絵(By みてみん)挿絵(By みてみん)「あァはァはァはァ! 今こそ収穫の時ですよ!」


挿絵(By みてみん)「止めなさいあなたたち! 自分たちが何をしているか分かっているのっ?!」


 それ以上のことは、激しい破壊音に紛れて聞こえることは無かった。



      * * *



挿絵(By みてみん)「やられた……! 完全に、後手に回りました……」


 口惜しさと後悔の混じる声がする。それは私達全員の共通する思いであった。


挿絵(By みてみん)「仕方ありませんわ……まさか、こんなにも早く動くなんて。」


挿絵(By みてみん)「くっ……!」


挿絵(By みてみん)「……本当に、そうだね。これからどうしよう……」


 そして途方に暮れる。


 表通りを見れば、次々と群集が商店を襲い、破壊し、略奪を行っている。

 そのあまりの『数の多さ』に、蛮行を止めるべき兵士すら逃げ惑う有様だ。

 悲鳴、怒号、争いの声、殴りあい、掴みあい、押しのけ、奪い、或いは逃げ去り。

 なれば其を地獄と呼ぶに相応しい、此処は今正に修羅の巷。


挿絵(By みてみん)「これは……もう、どうしようも……」

挿絵(By みてみん)「…………」

挿絵(By みてみん)「…………」

挿絵(By みてみん)「…………」


 自然に口から出るのは弱音であった。だが……





挿絵(By みてみん)「"……未だ手は残されているよ、諦めるのは少し早い。"」



 唐突に響いた『声』が、世界に再び色を着けた。

 久しぶりに聴くその音声は、私の胸元の『通信器』から流れて来るのであった。

 お守り代わりに身に付けているそれは、いつも私を驚かせる。


挿絵(By みてみん)「ダルウィンさん!!」

挿絵(By みてみん)挿絵(By みてみん)挿絵(By みてみん)「っっ!!」


 驚愕という単語が音声化したら、きっとそれはこういうものであろう。

 何故この人(魔族だが)はこうも都合良く事態を把握出来るのかという点はさておき、今はその台詞が随分と頼もしく思えた。


挿絵(By みてみん)「え、ええとダルウィンさん、どうして……」


挿絵(By みてみん)「"……さて、細かい事は後回しだ。今は取りあえず状況を説明しよう。"」


 確かに、細々話し込んでいる余裕は無さそうだ。

 通りで暴れる徒が、いつこちらへ向かって来るかも分からない。


挿絵(By みてみん)「"私は今ウラワン城に居る。巡回の兵士が逃げ込んで来たから、城の方もこの『暴動』については認識したようだ。今はとにかく守りを固めているね。"」


挿絵(By みてみん)「"ゼフィ君の『遊撃隊』も動き出していて、先程聖女殿たちを迎えに行った。だからそっちの方も心配無用だ。"」


挿絵(By みてみん)「そ、そうですか……それは良かった。」


 不幸中の幸いだ、取り敢えずほっとした気分になる。



挿絵(By みてみん)「"……さて、それでここからが『重要』になるのだが……"」


 彼にこういうもの言いをされると、何か無性に不安な予感を覚える。


挿絵(By みてみん)「"こんなこともあろうかと思ってね……"」


 心の何処かで少しひっかかるものを感じるが、気にせず沈黙を保つ。


挿絵(By みてみん)「"アカデミーから『使えそうな魔法具』を一通り借りて来ている。ネクロス君にも了解は取ってあるから遠慮は要らない。皆で大急ぎで設営しているところさ。"」


 ああ成る程、通信器の向こうからパラク氏やクラフツ殿下の声が聞こえて来ますね。

 何か「こんなの無理です」とか「よく分からないけど適当に」とか言ってるような。


挿絵(By みてみん)「"仕掛ける舞台は『ウラワンの中央広場』さ! 此処なら三万人は集められる、聖女殿には大活躍してもらうことになるだろう。"」


挿絵(By みてみん)「……そ、そうか! あそこなら……!!」


 これは盲点だった、確かにウラワン城前の中央広場なら十分な収容が可能だろう。


挿絵(By みてみん)「"素晴らしいよ! 『声を拡大して遠くまで伝える』魔法具!"」


挿絵(By みてみん)「"実現していたとは知らなかった! 姿を『虚空に映し出す』魔法具!"」


挿絵(By みてみん)「"まだまだ有るよ! 一流の楽団の『演奏を再現する』魔法具!"」


挿絵(By みてみん)「"他にも、強力な『障壁』の魔法具も用意しておいたから準備は万端なはずさ。"」


挿絵(By みてみん)「……そ、それは凄い!」


 聞くだけでも頼もしく感じられる。



挿絵(By みてみん)「"さて、それで、だ……"」


 何故か一呼吸。


挿絵(By みてみん)「"……当然だが『一つ問題』があってね……"」


 やだなあ、これって定番の展開だよ、私が大変な目に遭うやつ。


挿絵(By みてみん)「"これらには『動力源』が必要なんだよ、大きな魔力が……ま、当たり前の道理だね。"」


挿絵(By みてみん)「……」


挿絵(By みてみん)「"と、言うわけでアインライト君、君には直ちに速やかにこちらに来てもらいたい。装置の稼動には君の『膨大な魔力』が必要だ。"」


 ああ……やっぱし


挿絵(By みてみん)「"当然だが魔力の消耗は最低限にしてもらう必要がある。具体的には『これから一切魔法は使用しないで』こちらに来てくれたまえ。出来ればノノワ君もだな、補助動力もあった方が良いだろう。"」


挿絵(By みてみん)「…………」

挿絵(By みてみん)「…………」


挿絵(By みてみん)「"では健闘を祈るよ……大変だとは思うけど。"」


 ダルウィン氏は、最後は『他人事のような』温かい台詞でしめて下さいました。



 …………どないせいっちゅんじゃーーーー!!



 いやこれどう考えても『無理』でしょ物理的に情勢的に。

 現在地『オーミャ』で、目的地『ウラワン城』で、そこら中暴徒が山盛りで。

 そんな中魔法も使わずにたった四人でどうやって抜けて行けと。

 ましてやこっちには『私という』明白な足手まといも居るというのに。


挿絵(By みてみん)「…………」

挿絵(By みてみん)「…………」

挿絵(By みてみん)「…………」


 重苦しい気分が私達を覆う。しかし……



挿絵(By みてみん)「主様、ご安心ください! 私が少しばかり『本気』を出せば良いのです!」


 彼女は決して諦めてはいなかった。さらに、


挿絵(By みてみん)「……大変そうだね! 腕の立つ『助っ人』は欲しくないかい?」


 その声がまさに『希望』そのもののように響いたのだ。


挿絵(By みてみん)「ゼフィ……!!」



 虎の女剣士は双剣を腰に佩き、動き易い戦仕度で降り立つ。


挿絵(By みてみん)「道案内はあたしに任せろ! 必ず『お城』まで連れてってやるよ!!」


 褐色の女狩人は自信に満ち溢れ、槍を構えて先を見据える。


挿絵(By みてみん)「よかろう! ならばこの場は、お前に預けた!!」



挿絵(By みてみん)挿絵(By みてみん)「ではいざ、参りましょう……!!」


 ……そうだ、今はただ、前のみを見て進むのだ!



      ◆ ◇ ◆ ◇ ◆



 バリン!

 板を踏み抜く音が、やけにはっきりと耳に届く。


挿絵(By みてみん)「おっと! 今のはちょっと危なかったですねぇ。」


 それでもキットの口調は呑気なものだ。


挿絵(By みてみん)「あわ、あわわ……(顔が青い)」


 ノノワは既に茫然自失に近い。


挿絵(By みてみん)「…………」


 そして私は邪魔をしないためにも、なるべく沈黙を保っていた。



 さて、現在我々が居るのは地上からは幾分――いや結構な高さの場所だ。

 足場は不安定で、しかも板張りが多いそれはところどころ頼りない。


 ……具体的に言うと、『屋根の上』というやつであった。


挿絵(By みてみん)「ここから飛びます! しっかり掴まって!」

挿絵(By みてみん)「行くぞ! 手を放すなよ!」


 掛け声と共に、浮き上がる感触がある。

 だんとかどんとか大きな音で体が押し付けられ、それが着地であると知る。

 直ぐに加速が加わって、私の体は前に引っ張られていた。


挿絵(By みてみん)「……ふっ!」


 少々情けない話ではあるが、私は今『自力で』歩いていない。

 アルスラに背負われて、家々の屋根を飛び回っている状態にある。

 同様なのはノノワで、こちらはゼフィに背負われていた。


挿絵(By みてみん)「こっちは軽いから楽だが、そっちはどうだ? なんなら……」


挿絵(By みてみん)「……心配無用だ、そっちこそ遅れるなよ!」


 だと言うのに、彼女達は軽口を叩き合う余裕すらあるのだ。


 そして再び跳躍の感覚、空中へ放り出されるような。

 つかの間の自由を味わうとまた鈍い痛みが戻り、地へと落とされる。

 さっきからその連続だ。はっきり言って、あまり快適とは言い難い。


挿絵(By みてみん)「うわ、こんな所でも人が暴れて……」


 キットが顔をしかめる。

 地上は変わらず地獄のような惨状らしい。


挿絵(By みてみん)「(……ここは、我慢するしかないようだ。)」


 取り敢えず、今は覚悟を決めるしかなかったのである。



      * * *



挿絵(By みてみん)「……さて、後は橋を越えれば直ぐなんですが……」


 言葉尻が途切れる。


挿絵(By みてみん)「何と言いますか……ありがちですわね。」


 嘆息が台詞に続く。


挿絵(By みてみん)「これは、ちょっと困ったね……」


 私たちは眼前の光景に、途方に暮れたい気分であった。



 明白に設定されているわけでは無いが、ウラワンとオーミャの間には境があった。

 都市内を流れる川が、その役目を果たしていたのである。

 そのままでは通行も困難なので、当然そこには橋が架けられているのであるが……


挿絵(By みてみん)「見事に占領されてますね。あれってやっぱり……」


 現在、橋の上には血走った目をした人間が満載されている。

 うろうろと無秩序に蠢いているが、あれがもしこちらを認識したら。


挿絵(By みてみん)「既にウラワン城には兵士や商人たちが逃げて来ていたからな。その後を追っていれば当然こうなるだろう。」


 群集の動きには今一つ統一性が無いから、意図してのものでは無いらしい。

 計画的に私達の行動を阻むためではないとは言え、明白な障害なのは事実である。


挿絵(By みてみん)「しかし困ったな……回り込んでどこかで舟か何かを……」


 ここまで来て迂回は痛いが、安全には代えられない。

 そう思っていたのであるが……



挿絵(By みてみん)「それなりに数は居るが、橋の上だから一直線なのが幸いだな。」


挿絵(By みてみん)「ふん! この程度、囲まれたとしても恐るるに足らん。」


 ええっと、あの、二人共会話が『物騒』なのですが。

 声をかけようとすると、


挿絵(By みてみん)「主様、主様はここでしばしお待ちあれ。」


挿絵(By みてみん)「ここはあたしたちに任せろ、軽く露払いしてやるさ。」


 二人は自信に満ちていて、歩を止めることはない。


挿絵(By みてみん)「……ふ、二人とも、気を付けて!」


挿絵(By みてみん)挿絵(By みてみん)「……(ぐっ!)」


 返事は言葉では無く、だが力強く親指が突き出された。




挿絵(By みてみん)「……この倍居たら、お前だって危なかったんじゃないか、アルスラ?」


挿絵(By みてみん)「臆したかゼフィ? 例え十倍だったとしても、主様の御為ならば!」


 武器を構え、呼吸を整え、今臨むのは死地への誘い。

 だが二人は自信に満ちていて、決して退くことはない。


挿絵(By みてみん)「いいだろう! ならばお前の力を見せてみろ、野蛮人(バーバリアン)!!」


挿絵(By みてみん)「おうよ! キサマも遅れを取るなよ、雌虎(タイグレス)!!」




 そして弾かれた二つの矢が、鋼鉄の勢いで敵勢へと、


 敵勢へと、貫く奔流は、ただ真っしぐらに、


 ……駆け抜ける!!


挿絵(By みてみん)「ぅおおおおおおおおおおオオオオーーーっっ!!」

挿絵(By みてみん)「はぁあああああああアアアアーーーっっ!!」


 咆哮一閃、空気が鳴る度に人のかたまりが吹き飛ぶ。

 腕が振るわれる、刃が右に、左に、人間を巻き込みながら左に、右に。

 吹雪舞うように跳ね飛ばされて人の体が川に落ちてばしゃと水音をたてて。

 それはあたかも旋風のような光景だった。


 途切れることなく人の群れは押し寄せる。

 だがその凶暴な濁流に二人は臆すること無く真っ向から立ち向かうのだ。

 弾き飛ばせ、吹き飛ばせ、なぎ倒せ

 我等が行く手を、遮れるものなど――無し!


 アルスラが槍を振るう。

 穂先が柄が石突が唸りをあげる度、当たるものはあちらこちらへと

 全て放り出されて行くのだ、反対の方向へと。


 ゼフィが剣を振るう。

 剣とは切るものでは無く、それは質量を以って打ち付けるもののように

 全て弾き飛ばされて行くのだ、反対の方向へと。


 高速回転の独楽が進路上の全てをなぎ払うように二人の後ろには空間のみがある。

 それでもなお、前方の『壁』は未だ分厚い。


 一瞬、勢いが鈍った、危ないと思うと声が出そうになる、だが、



挿絵(By みてみん)「ガアアアアアッッッ!!!」

挿絵(By みてみん)「グゥオオオオッッッ!!!」


 それはもはや人の声では無かった、獣だ、獣が吼える。

 解き放たれた凶暴な獣は生けるもの全てにとっての災厄だ。

 力の暴風は肉体の壁に一際強くがつがつがつがつと叩きつけて、

 弾き飛ばして跳ね除けて押し返して、

 投げ飛ばして払い退けて放り投げて、

 一瞬間があってばしゃばしゃばしゃと水音が、ばしゃばしゃばしゃと水音が、

 ああこれは人が川に落ちる音だよ連続すると別なものみたいだ。


 ……そして全てを吹き飛ばしていた。




挿絵(By みてみん)「ハァッ、ハァッ、はあっ、はあっ……」

挿絵(By みてみん)「ハァッ、ハァッ、はあっ、はあっ……」


 やがて荒い呼吸音が聞こえて来る。そこにはもはや何も無い、誰もいない。

 ただ、二人の勇姿のみが立ち尽くしている。


挿絵(By みてみん)「やりましたわ!」


挿絵(By みてみん)「……ご主人様! 今の内に! 早く!」


挿絵(By みてみん)「よ、よし! 二人とも、良くやった!!」



挿絵(By みてみん)挿絵(By みてみん)「…………(にい)」


 彼女たちの笑顔は、最高だった。



      ◆ ◇ ◆ ◇ ◆



挿絵(By みてみん)「…………恐い」


 自信に満ち溢れているはずの少女が、ふと弱音を漏らす。

 だが、それも無理の無いことに思えた。


 ウラワン城の、中央広場に面しているのは南門であるが、今其処は異様な状態だ。

 沢山の人間、大量の熱気、唸りと騒音、怒号に満ち溢れて。

 血に飢えた群集はただひたすらに争いを求め、暴力を嗜好する。

 それが『暴徒』というものだった。


挿絵(By みてみん)「……は、ハハ……これだけ集まると、声がホントに波みたいになってる。」


 寄せては返すそれは、砂浜で聞ける音とは違いとても心安らぐものでは無かった。

 怒りの音、憎しみの音、憤りの音……そして狂気の声音。

 押し寄せる波頭は、全てがニンゲンの形をしていて紅い目でこちらを睨むのだ。

 ただ、ひたすら、恐怖を感じた。


挿絵(By みてみん)「魔法障壁もいつまで保つか分かりませんわ! 早く始めないと!」


 焦りの視線は一点に集中する。

 ニンゲンたちの怒涛は何とか障壁で押し止められていたが、いつまで保つか。


 城門の上は元々物見や戦闘のために露台(バルコニー)になっており、現在そこには急ごしらえの舞台が設営されていた。

 全ての『魔法具』に動力は充填され、ただ発動を待つのみである。

 そしてポンデやそのお供アマラにカマラ、聖女付き侍女のコージーとハーシーと、共演者も準備は整っている。

 舞台裏は今、静かな緊張の中にある。だが……


挿絵(By みてみん)「…………」


 その中心に居るべき少女にとっては、それは過酷過ぎるのだ。

 遠目にも分かる、小刻みに震える手、足、肩、背中、全身。

 色白の肌が、もはや空に解けてしまうように色を失っている。

 痙攣するように一歩、踏み出してもそこから先に進むことが出来ない。


挿絵(By みてみん)「ああ……聖女様……お痛わしい」


 忠実なるエルフが目元をぬぐった。


 今ここで少女の肩にかかるのは全ての『運命』。

 この街のこの人々の領主の兵士の商人の職人の農民の狩人の金持ちの貧民の。

 大人の子供の若者の老人の男の女の夫の妻の独り者の幼子の赤ん坊の。

 いま荒ぶるこの群集だって本性は普通の、平凡な大衆の一人一人だったのだ。

 いま彼女の後ろにそびえる城の中にも、そして護るべき人々が大勢いて。

 それら全てが、小さな存在に、全部のしかかる。


挿絵(By みてみん)「(……がんばるんだ、ルミナ……)」


 魔法具の『動力源』である私はもはや一歩も動くことが出来ない。

 猛烈な倦怠感に耐えるのが精一杯で、少女に声すらかけられないのだ。


 ああ、やはり私は、ニンゲンとは何と無力なのか。

 はじめて理解出来た、人は何故大きな存在にすがるのか。

 小さな己が力を嘆き、より大きな力を求め、その大きな手に抱かれようとする。

 ときに道を誤り、ときに他者を傷付け、そして自分たちを不幸にして、それでも

 それでもなお、何か『おおきなもの』に頼らずにはいられないのか。


 いまはただ、祈ることしか、できない……。




挿絵(By みてみん)「……難しく考えるな、お嬢さん。」


 不意に聞こえたその声が、


挿絵(By みてみん)「人々を救おうとか導こうとかそんな大層な話じゃない。」


挿絵(By みてみん)「君はただ、歌を聴かせれば良いのさ、ここにいる人に。」


 それが『魔族』のものであったというのは、


挿絵(By みてみん)「そうだ、『ただ一人だけの為でもいい』、歌うんだ。」


挿絵(By みてみん)「君が『本当に聴かせたい人のために』、歌うだけなんだ!」


 何という『皮肉』であったのだろうか。



挿絵(By みてみん)「……!!」


 彼女の目が見開かれて、


挿絵(By みてみん)「……」


 そしてもう一人の少女が駆け寄り、ぎゅっと手を握った。

 心を込めて、前を見据えて、勇気を与えるように。


挿絵(By みてみん)「……(こくり)」


 だから『聖女』はうなづき、顔を上げて前に進むのだ。


 ……そうだ、わたしは、あの人のために!




 エイリア、あなたは優しさに満ちて


 愛し子をその内に抱く


 祝福がおんなの身にもたらされ


 つながる命にもまた、幸いを


 エイリア、あなたは愛に満ち溢れて


 愛し子のために祈る


 わたしたちは皆、罪を背負ったもの


 その御許をはなれ、地上をさすらう


 でもさいごには思いだすのです


 ここから皆、うまれたことを


 だから今日も祈ります


 あなたの愛が、皆に届きますように


 わたしの愛が、皆に届きますように



 その澄んだ声は、もはや人間のものであるようには思えなかった。

 この場所全ての怒りと憎しみを圧倒して、世界に響きわたったのだ。

 荘厳なる天上の調べ、至天の共鳴、後の表現ではそう記されるそれでは、

 それではとてもじゃないが表現し切れない。


 こころが震える瞬間というものは確かにあるのだと感じた。

 魂に響くとはこういうものかと思い知った。


 ……ことばがこんなにも無力で、うたはこんなにも力あるものなのだ。



 そして広場は静まり返っていた。

 そう、静まり返っていたのだ。この場所にひしめく、怒れる暴徒の大群が。

 しわぶき一つ無い静寂はまるで在り得べからざるもののようにその場に在って。

 やがて次の瞬間


 ――――――――――――――――――――――――――――ッッッッ!!!!


 大きな歓声へと変わる。



 雷と地鳴りと爆発とありとあらゆる大きな音を合わせたそれは既に実体を持つ。

 実体を持った『圧力』としてこちらに押し寄せる。

 アカデミー自慢の魔法障壁ですら大きく揺らぎ、思わず体がのけぞった。


挿絵(By みてみん)「……うひゃーーー」

挿絵(By みてみん)「と、とんでもない……」

挿絵(By みてみん)「こ、これは」

挿絵(By みてみん)「…………」


 そんな陳腐な台詞しか、私達からは出て来なかった。



 まずは歓声、賞賛の嵐、やがて続くのは大きな拍手。

 そして次第にそれは、一定の調子を持ったものへと変化してゆく。


挿絵(By みてみん)「ええと……これは……」

挿絵(By みてみん)「ふむ……」


 一瞬何事かと迷うが、これってもしかして酒場なんかでよくある……


挿絵(By みてみん)「ふむ! ルミナ、みんな続きを待ってるのだ!」


挿絵(By みてみん)「え、ええっ?!」


 俄然少女は勢い付く。


挿絵(By みてみん)「ようし……! なら次はポンデも一緒にうたうのだ!」


 一際拍手と歓声が上がった。




 田舎通りの小さな酒場


 可愛いあの娘は看板娘


 気立てが良くて器量良し


 小さなあばたも魅力のひとつ


 何とかその気を魅きたいけれど


 軽い財布が邪魔をする


 無理して頼む高い酒


 せめて笑顔がなぐさめか


 流れる雲よ教えておくれ


 あの娘の気持ちいま何処



 陳腐な流行歌と愛らしい声、それは先程とは全然異なる。

 だが今ここに居る『観衆』には、それで十分だったのだ。

 拍手や賞賛、やや下品な口笛も混じって、そこには喜びが溢れていた。


 あの、先程の血走った目では無い、笑顔の人々が確かに其処にあったのだ。


 思わず力が抜けて、そのまま気絶しそうになる。

 魔力を継続的にこれ程供給し続けるのは、やはり大きな負担だった。


挿絵(By みてみん)「(いけない……しっかりしないと!)」


 まだ全部終わった訳では無い、やるべきことは沢山だ。

 ともあれ、気合を入れ直して……


挿絵(By みてみん)「ようし乗って来たですの! もっとガンガン歌うですの!」

挿絵(By みてみん)「おおっ! ポンデも負けないのだっ!」


挿絵(By みてみん)「(こっこら!! お前らちょっと待てーーーー)」


 魔法具が、魔力を**マナ消費した。

 魔法具が、魔力を**マナ消費した。

 魔法具が、魔力を**マナ消費した。


 魔法具が、魔力を**マナ消費…………



 この日の『歌謡祭』は、結局夜半過ぎまで続きました。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――


挿絵(By みてみん)「ふむ……」

挿絵(By みてみん)「これは……」


 二人が不意に言葉を発する。

 何事かと問いたくなったけれど、私のむかっ腹は未だ収まってはいない。


挿絵(By みてみん)「……」


 ここはただ、黙っておくことにした。


 あれから評議会館は悲惨な有様になっているようだが、彼らはそんな事には興味無い。

 適当に集まった奴らに何か指示をして、その後は屋敷に引き上げていた。

 私については拘束する気も無いのかそのままである。

 或いは今更そんな価値も無いと思っているのか。

 まあ縄など打たれて痕が残るのも嫌なのでそこは助かっている。


挿絵(By みてみん)挿絵(By みてみん)「……お互い利用し合うだけの関係だったんです、そんな目で見ないで欲しいですね……。」


 それは彼らの弱音だったのか、本音だったのか。


挿絵(By みてみん)「これは私たちにとっても、」

挿絵(By みてみん)「大きな『賭け』だったんです、」


挿絵(By みてみん)挿絵(By みてみん)「何しろ、私たちにはもう『時間が無い』……。」


 だから何だと言う、今更愚痴なんか聞きたくない。

 私はもう一度、憎しみを込めて奴らを睨んでやった。


 ……さあ、むかついたんなら、怒ってみせなさいよ




挿絵(By みてみん)「ですが、ごめんなさい……」


挿絵(By みてみん)「本当に、ごめんなさい……」


挿絵(By みてみん)挿絵(By みてみん)「きっとわたしたちはどこかで何か間違えてそれは多分さいしょからそうでもっと良いやり方があったはずなのにでもそれは選ぶことはできなかった」


 それは、あまりにも意外な言葉。


挿絵(By みてみん)挿絵(By みてみん)「あのこの傲慢さはとても見ていられるものでは無かったけれどそれはとても羨ましいだってかのじょは確かにしゅくふくされて聖別された存在だったのだから」


 それは、哀しい彼らの言葉。


挿絵(By みてみん)挿絵(By みてみん)「それはきっとわたしたちが仕えているあのお方よりもずっとずっと強いものにしゅくふくされていて遥かな高みから我等を見下ろすもの」


 それは、あまりにも哀しい、虚しい……


挿絵(By みてみん)挿絵(By みてみん)「ぼくたちは、あのこほど強くないんだ、レニ……」



挿絵(By みてみん)挿絵(By みてみん)「一度『繋がった』ことがある君ならもう理解出来るかな? 感じているんだろう? 今私たちと『導くべき者たち』との絆が失われたことを。」


挿絵(By みてみん)挿絵(By みてみん)「私たちは彼らにチカラを与えていたが、同時に彼らからもチカラをもらっていた。数が増える程チカラが増すというのは、要はそういうことだ。」


挿絵(By みてみん)挿絵(By みてみん)「…………ではその平衡が崩れたとき、何が訪れるか?」



 そして、彼らの姿が、やがて光へと溶けてゆく……。



挿絵(By みてみん)挿絵(By みてみん)「だから地上に来るのは嫌だったんだ。私たちはあの子ほど、あの忌々しいルミナスほど『強くは出来ていない』というのに!」


挿絵(By みてみん)「…………」


 そして、かたちがだんだんと崩れてゆく。


挿絵(By みてみん)挿絵(By みてみん)「レニ、君とはもっと話し合うべきだった語り合うべきだった理解し合うべきだった。だって私たちはこんなにも『似たもの同士』じゃないか。」


 ああもう止めてくれ、あんたたちのことばはこんなにもあたしをえぐる。


挿絵(By みてみん)挿絵(By みてみん)「レニ、約束するよ、もしこの次があるのなら僕たちはもっともっと友達を作ってお互い笑い合ってそして幸せになるんだ。」


 そして、その崩壊を押し止めるすべはもう無くて。




挿絵(By みてみん)「ああ、光が見える……」


挿絵(By みてみん)「ありがとう……そしてさようなら」


 そしてその姿は、光へと還元される。



 ……彼らは結局、私を置いて行ったのだ。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――



挿絵(By みてみん)「…………ふう」


 十分満足したのか、ルミナが息をはき出す。

 疲れも見えるが、充実感も見て取れた。


 既に闇に包まれた中央広場は、人影もだいぶまばらになって来ていた。

 あれから何度も興奮した『観客』の熱狂に応え、歌声がその度に流れた。

 笑顔と喜び、拍手と歓声、それは望外で幸運なひととき。


 だが幸せとはいつまでも続くものでは無い。

 今はもはや、歌声も歓声も其処には無かった。


 ……お祭りは、もう終わったのだ。


挿絵(By みてみん)「はは……さすがにちょっと疲れたのだ。」


挿絵(By みてみん)「お二人とも……本当にお疲れ様でございました。」


挿絵(By みてみん)「(…………)」


 いえ、単純な疲労感なら私が一番だと思います。

 今日も『ごっそりと』魔力を削られました。


挿絵(By みてみん)「主様、主様こそお疲れでしょう。今日はゆっくりとお休みを。」


挿絵(By みてみん)「はぁ……取り敢えず何とかなったけど、これからどうするのか。」


挿絵(By みてみん)「ま、まずはベッドに入って、ゆっくり休みたいですわ……」


 ともあれ、私達の体力も限界だ。後は明日以降に回すしかない。


挿絵(By みてみん)「何れにせよ、聖女様、この度は何とお礼を申し上げれば良いか……全ては聖女様の御業によるものに御座います。」

挿絵(By みてみん)挿絵(By みてみん)挿絵(By みてみん)「……御座います。」


 ゼフィは謹厳にひざまづき、丁重に礼を示した。

 配下の遊撃隊もそれに続く。


挿絵(By みてみん)「……あーーーいいですの、堅苦しいのは苦手ですの、やめるですの。」


 少女は少し困り顔でかぶりを振る。


挿絵(By みてみん)「いえ、これほどの『奇蹟』、目の当たりにした私も心が震えました。あれほどの素晴らしき『歌』が聞けたことは生涯の誇りに御座います……!」


 それでもゼフィの感銘は大きかったようだ。



挿絵(By みてみん)「…………」


 しかし、聖女の顔は優れない。


挿絵(By みてみん)「……でももうこりごりですの。歌はもっと『楽しく』歌うものですの。こんなに緊張するのは二度とゴメンですの……」


 それは『身もふたも無い意見』ではあったが、実に彼女らしいものだった。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――



 この時聖女が最初に謳った歌、正式名称は『聖母天寵の祝詞』というものである。

 しかし、これ以降は別な名前で呼ばれることとなる。


 ――すなわち、『聖女のアリア』。



 ただしこの名に反して、彼女がこの歌を謳ったのは生涯僅かに三度ほどだったと謂う。

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