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サイタマーの守護者  作者: 一光屋KY
王都の陰謀編
21/39

第二十話 サイタマーの吸収Chu!

~~~~~~~~「恋の只中」[王国近代詩選集]より抜粋~~~~~~~~~


 教本の端 戯れに貴方の顔を描いてみる


 顔を朱色に彩る まるで私に恋しているような


 嗚呼 鼓動が高鳴る 奔るように疾るように



 講義の後 貴方を待って居る庭の片隅


 物陰に隠れ 貴方を見る 皆と笑っている貴方を見る


 私は夢見る 貴方と繋ぐその手


 嗚呼 望みは只一つ 我が想い伝えたくて



 いつの日か 私は勇気振り絞り この想い伝えられるのか


 嗚呼 貴方の愛よ 全て私のものと成れ


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 ……私は今、柄にもなく『講義』などしております。



挿絵(By みてみん)「……呪文の詠唱時には無意識に行っている『イメージの想起』を、呪文の助けを借りずに独自にやってみてくれ。」


挿絵(By みてみん)「はい、師匠……。」


挿絵(By みてみん)「は……はいですの……。」


 そう言ったあと、二人とも黙り、意識を集中し始める。


 この前『魔力を大きく消費』した影響なのか、最近は私も『魔力の動き』のようなものを感じられるようになっていた。

 自分の場合、感覚としては風を感じるのに近い。

 彼女たち二人に向かって魔力が吸い込まれていくように知覚された。


 そして、流れが、一瞬止まる。


挿絵(By みてみん)「!!」


 ノノワが目を見開くと、標的目掛け小さな炎が飛ぶ。

 破裂音に似た吹き上がりの音が鳴り、火が標的の表面をなめる。

 威力は敢えて抑えてあった。火の魔法の発動に成功する。

 一方……


挿絵(By みてみん)「……!」


 ルミナの周りには、明らかな魔力の乱れがあった。

 どうやら、発動に失敗してしまったようだ。


挿絵(By みてみん)「…………あぅ…失敗ですの……」


 小さな呟きが漏れる。


挿絵(By みてみん)「まぁ、二人とも、適当な所で休みにしよう。あまり集中し過ぎるのもかえって良くない。」


 頃合のようなので、今日の訓練はこれまでにする。


挿絵(By みてみん)「……今日ので、何か掴めたような気がしますわ!」


 ノノワのほうは、機嫌が良いようであった。



 さて、最近は時間に余裕を作り、魔法使いの二人に『呪文詠唱省略』の訓練兼実験をさせてみるようになった。

 自分の場合、魔法研究の過程で『いつの間にか』出来るようになったこの『特技』だが、それを他人が体系的に学習出来る程には整理していなかった。

 何分、『主観的要素』が多々なので、自分一人ではまとめるのも困難だったのだ。


 ……元々、『この秘密』は死ぬまで一人で抱えていようかと思っていた。


 だが、実際に『死にかけて』みると、僅かなものであっても自分の『業績』を後の世に残したい気持ちが強くなる。

 私は、何かを、残したくなったのだ。



挿絵(By みてみん)「…………難しい…ですの」


 ルミナの表情は未だ冴えない。


挿絵(By みてみん)「ルミナの場合、既に魔法使いとしては『完成された』存在だからね。かえって困難なんだろう。」


挿絵(By みてみん)「…………」


挿絵(By みてみん)「ええと……でも、結構『惜しい』ところまで行ってるのは確かですわ。」


挿絵(By みてみん)「そうだね……いっそ、私みたいに最後の『呪文名』だけ口にすれば良いんじゃないかな?」


 (ワード)をつくるというのは案外効果的な方法だ。

 一つの切っ掛けから、連想されるイメージが具体的な形を取ることが出来る。


挿絵(By みてみん)「……それは考えないでもないですの……」


 ルミナに逡巡の様子が浮かぶ。


挿絵(By みてみん)「でも……『無詠唱』は魔法使いの夢ですの、ロマンですの。」


 彼女には、彼女なりのこだわりがあるようであった。

 ともあれ、ルミナには好きにさせることにしている。

 彼女たちの『試行錯誤』そのものが、今は一番大切な過程と思われるからだ。


『直ぐに答えが出せないのなら、色々やってみる以外に方法は無い。』


 かつて私の教師だった人も、そう言っていたのを思い出す。



      * * *



 陽が傾き、街が紅く染まると空気が少しさざめく。

 夕飯時が、近付いていた。


挿絵(By みてみん)「さぁ! 今日のディナーは何かな~~ですの♪♪」


挿絵(By みてみん)「……聖女様、夕餉どきはお上品になさいませ。」


 気が付けば、この二人は完全に馴染んでいた。


 さて、アカデミー中央を『強引に』押し切って隣に越して来たこの二人である。

 何でも、信用の置ける『使用人』を雇うにはもう少し時間が掛かるとかで、結果として食事は『全部』こっちにタカるようになっていた。


挿絵(By みてみん)「……条件については未だ合意が出来ていないのですけど?」


挿絵(By みてみん)「こちらとしても最大限の誠意を持ってしているハズだが。」


 諸経費については『後で』精算することになっているのであるが、その条件については目下絶賛交渉中であった。

 水面下の熾烈な駆け引きは、今も続いている。


挿絵(By みてみん)「今日は珍しくお米も手に入りましたから、うんと腕を振るいますね!」


挿絵(By みてみん)「……お粥……」


挿絵(By みてみん)「当然、『パエリア』です、例外は認めません。」


 キットはこれについては実に頑固だった。


挿絵(By みてみん)「……えぇと……主菜(メインディシュ)ですけど……」


挿絵(By みてみん)「主様ー! 只今戻りました。」

挿絵(By みてみん)「主様ーーーっ! 帰ったのだーー!!」


 折り良く、アルスラたちも戻ってきたようだ。

 表情から見るに、狩りの成果はまずまずのようである。

 今日のメインは、美味しいお肉となるのであろう。


 とりあえず、今日の糧に感謝し、楽しい食事を味わうことにしよう。




 そうそう、ポンデは『越して来て』以降、私のことをいつの間にか『主様』と呼ぶようになっていた。

 この呼び方はアルスラに合わせたのだそうだが、その理由が……


挿絵(By みてみん)「ポンデは主様のものになったから『主様』なのだ。姉様といっしょなのだ。」


挿絵(By みてみん)「……ええと……それってひょっとして……」


 早い話、彼女的には『嫁入りして来た』ということらしい。

 はいとかイエスとかアグリーとか言った覚えは無かったのだが……


挿絵(By みてみん)「あのとき、『家族にする』と言われたときは、うれしかったのだ!」


 別れ際の『言葉』がそういう意味に受け取られた、ということのようだった。

 いまさら違うよなんて言うわけにもいかず、私はこの問題を先送りすることにした。

 暫定処置というものは、意外と長続きするものなのである。



挿絵(By みてみん)「……そうだ! 今日は『お土産』があったのだ。」


挿絵(By みてみん)「お土産……?」


 彼女は背負い籠をがさがささせると、『それ』を取り出す。


 両手のひらに少し余るほどの、茶色っぽいかたまり。

 柔らかそうな毛が生えていて、こげ茶の縞模様になっている。

 顔の先に平ぺったい鼻が付いていて、足は短か目で頼りない感じがあり。

 全体的に楕円形に近く、ころころした印象。


 先ほどまで眠っていたらしいその『小動物』は、取り出されて目を覚ましたのか甲高く一声鳴いた。


挿絵(By みてみん) プキィーーーーー


挿絵(By みてみん)挿絵(By みてみん)挿絵(By みてみん)挿絵(By みてみん)「ブーーーーーーーーーッッ!!!」


 私、キット、ノノワ、シルヴィが、飲んでいたお茶を吹く。


挿絵(By みてみん)「これ『ウリボー』だーーーーーーっっ!!」


 私は思わず叫んでいた。



 さて、『ウリボー』というのは猪を大きくした"モンスター"、ワイルドボアーの子供のことである。

 名前の語源は『東方語』らしいのだが、詳しい意味は不明だ。

 ころころしていて、毛がぽわぽわと生えたその姿は、まさに『毛玉』と呼ぶに相応しく大層愛らしいものなのであるが、彼らの場合その『親』が問題であった。


 『ワイルドボアー』は危険なモンスターである。

 堅い毛皮は生半可な剣や矢など跳ね返し、お返しの突進にやられた冒険者はそれこそ枚挙の暇も無い。

 雑食性で人間を積極的に襲ったりなどしないが、縄張り意識が強くテリトリーに不用意に侵入すると果敢に攻撃を仕掛けて来る。

 熟練のパーティーでも、対応には要注意の相手であった。


 森でウリボーを見掛けた場合、付近に『親』が潜んでいることが多いので充分に注意すること、というのは初心者の冒険者が必ず言われる鉄則の一つである。

 その際、「どんなに可愛くても決して手を出さないこと」の注意と共に。

 これを守らないで『親』にボコボコにされても、決して文句は言えないのだ。



挿絵(By みてみん)「…………よく平気でしたわね、『こんなの』連れて来て。」


挿絵(By みてみん)「うむ、しばらく見ていたが親は現れなかった。どうやら完全にはぐれたか殺されでもしたようだ。」


挿絵(By みてみん)「おかげでイノシシはしとめそこなったのだ、残念なのだ。」


 『ワイルドボアー』を積極的に狩りに行く時点で、色々有り得ないような気がしますが、いいのでしょうか。



挿絵(By みてみん)「…………」


 さて一方、ルミナは先ほどから卓上にいる小動物から目が離せないでいた。

 瞳がきらきらと綺麗な輝きを放っている。

 彼女は、すっかり『それ』に目を奪われているようだった。


挿絵(By みてみん)「…………(そ~~っと)」


 おずおずと指を伸ばすと、ウリボーはびくっとした。


挿絵(By みてみん) …… ……


 しばらく迷うそぶりを見せたのち、すんすんと鼻を鳴らして近付いてくる。

 好奇心が、恐怖に打ち勝ったようだ。


挿絵(By みてみん)「(はうぅぅ~~~~っっ♪ か、かわいいですの~~~っ!!)」


 魅了(チャーム)の魔法が、ルミナに炸裂! 効果は抜群だ!


挿絵(By みてみん)「……ねえポンデ、ルミナお願いが……」


挿絵(By みてみん)「このままじゃ『食いで』が無いから、太らせてから食べるのだ!」


 やがてルミナが声をかけたとき、ポンデの話が丁度佳境になっていた。

 彼女の心積もりは、連れて来たのにも『そういった』理由からなのだが……


挿絵(By みてみん)「うぁーーーーっっ! ダメですのーーーーーーっっっ!!」


 それには当然、ルミナが絶叫することになる。



      * * *



挿絵(By みてみん)「……そういうことなら、この子はルミナが引き取るですの。」


 しばらく騒ぎが続いたが、最終的にそう決着した。

 シルヴィは説得を試みたようだったが、ルミナの意思は固く途中で諦める。

 猪肉を食べたがるポンデが最後まで抵抗したが、「こんなに可愛いのに……」と涙目になるルミナを前にして、遂に折れたようだ。


挿絵(By みてみん)「……この分、費用に追加しておきますわ(にやり)。」


挿絵(By みてみん)「くっ……やむを得んか……一頭分はちょっとなぁ……(苦り顔)」


 金銭保障に関しても、一定の結論が得られたようだった。



挿絵(By みてみん)「さあ! そうと決まればこの子に早速『名前』を付けてあげるですの!」


挿絵(By みてみん)「名前……かぁ……」


 モンスターを飼うのも、名前を付けるのも初めての経験だ、勝手が分からないな。



挿絵(By みてみん)「なら『お肉』にするのだ。どうせ適当に育ったら運命は一緒なのだ!」


 ……しょっぱなからポンデが『非道い』意見を口にする。



挿絵(By みてみん)「ポンデよ……それではあまりにもひねりが無さ過ぎるぞ。」


挿絵(By みてみん)「……むぅ、姉様厳しいのだ……」


挿絵(By みてみん)「やはりここは、すくすく育つのを願って『背脂(ラード)』と名付けるべきであろう。」


 畏まった口調と表情で、アルスラはやっぱり『非道い』見解を口にした。



挿絵(By みてみん)「アルスラさん、それはちょっと……」


 さすがに見かねて、ノノワが口を挟む。


挿絵(By みてみん)「確かに背脂なら『すくすく育つ』のは間違い無いですわ。でも、人ごとじゃないですし『縁起でもない』ですわ、その名前は……」


挿絵(By みてみん)「確かに、『背脂よく育ってるね』なんて聞きたくもない台詞ですね。」


 ……背脂というのは、種族を問わず育ち易いものらしいです、知らないけど。


挿絵(By みてみん)「でしょう? ですからここは、もっと優雅に『カットレット』と付けるのがよいですわ!」


 勝ち誇った表情で、ノノワもやっぱり『非道い』試案を口にした。



挿絵(By みてみん)「……えぇと……でもカットレットってのは豚肉を使うとは限らないから、ちょっと無理があるのでは?」


挿絵(By みてみん)「むぅ、それは盲点でしたわ。」


挿絵(By みてみん)「ですから、ここは素直に『ポークソテー』で行きましょうよ。」


 やや神妙な様子で、キットがやっぱり『非道い』候補を口にした。



挿絵(By みてみん)「あぅーーーーーーっっ!! 皆ヒドいですの、食い物から離れろですの!!」


 流石にここまで聞いてルミナがブチ切れた。


挿絵(By みてみん)「……なんで揃いも揃って食べるの前提ですの?! 可哀想ですの!!」


挿絵(By みてみん)「いやほら、なんか丸々してて……結構美味しそうだし。」


挿絵(By みてみん)「むぅーーーーーーっっ!!」



挿絵(By みてみん)「聖女様、どうかお平らに……ここは私が。」


 シルヴィが宥めに入った。エルフ的な『センス』で、ここは何とかしてもらおう。

 オル○リストとかグラ*ドリングとか、カッコイイのがあるはずだ。


挿絵(By みてみん)「(こほん)……ならば、『シャーロット』などは如何でしょう?」


挿絵(By みてみん)「却下」


 私は即答する。


挿絵(By みてみん)「いいかい? 『シャーロット』を豚に名付けるのは許されないんだ。その名は、雌の蜘蛛かアラクネ族の女性にしか付けるのは許されない。」


 そう、これはこの世の真理である、と思う。

 ちなみに、『アラクネ族』というのは今では半ば伝説となっている、蜘蛛の獣人の一族のことである。私も実物は見たことが無い。


挿絵(By みてみん)「…………」


挿絵(By みてみん)「……お兄様のこだわりは、ときどき意味不明ですの……。」



挿絵(By みてみん)「……こうなったら、ルミナが何とかするですの……うーーーん」


 ルミナがウリボーを抱え、顔を近づける。

 しばらく考えこんだのち……


挿絵(By みてみん)「よし、決めた! 『ナマハム』、お前は『ナマハム』ですの!!」


 ルミナが高らかに宣言する。小動物もそれに続いた。


挿絵(By みてみん) プキィーーーーー


挿絵(By みてみん)「ナマハム……?? どういう意味でしょうか……?」

挿絵(By みてみん)「さあ……?」


挿絵(By みてみん)「ルミナも良く知らないですの、昔見た『東方語』にあったですの!」


 アブラハムの親戚か何かだろうか、私にもよく分からない。

 だが、彼女が決めたのなら、それで良いのだろう。


挿絵(By みてみん)「ナマハムーーーーーー! わーーーい♪♪」


挿絵(By みてみん) プキィーーーーーーーーーーーーーーー!



      ◆ ◇ ◆ ◇ ◆



 さて、それより暫く、サイタマーの街に『名物』が一つ増えた。


挿絵(By みてみん)「ナマハムーーーー! おいでーーーーーーっっ!!」


挿絵(By みてみん) プキィーーーーーーーーーー!


 甲高い声が響き、小さいものがとことこと歩く。

 可憐な美少女が、愛らしい小動物を連れて歩く。

 ウラワン城前の中央広場に、絵画のような微笑ましい光景があった。


 ……聖女ルミナが、ウリボーを連れて『お散歩』にいそしんでいた。


 通りすがりの人々は足を止め、思わず顔を綻ばせる。

 ただ、うつくしく、あいらしく、ほほえましかった。


挿絵(By みてみん)挿絵(By みてみん)「……ああ……癒される……」


 そこには、確かにしあわせが存在したのだ。





挿絵(By みてみん)「……最近は、聖女様が評判のようだ。」


 珍しく訪ねてきたゼフィが、そう切り出してきた。

 彼女も、役職持ちとなってからは忙しく、来る機会が減っている。


挿絵(By みてみん)「この調子なら、聖女様の警備に城の人間を出すのも抵抗は少ないだろうか。」


挿絵(By みてみん)「抵抗……? そんなことに、反対する奴がいるんです?」


 要は王国とアカデミーとの微妙な力関係の問題であるらしい。


挿絵(By みてみん)「アカデミーってのは結構『しみったれ』でね、警護依頼だけは寄越して費用は王国持ちにするのが常なのさ。」


 ゼフィが皮肉な面持ちで内情を披露する。


挿絵(By みてみん)「当然、こちらとしても面白くないから、どうにも身が入らないんだよ。」


 彼女は肩をすくめ、仕方ないという顔をした。


挿絵(By みてみん)「……しかし、それで『何か』あったら、お城は非難轟々ですよ。」


挿絵(By みてみん)「分かってる、そうならないようにあたしも気を使ってるしね……。」


 やはりそうだったか、時々、人影や人の気配が感じられることがあった。

 あれはやはり、ゼフィ配下が密かに動いていたらしい。


挿絵(By みてみん)「アイン殿のところはそれに加えて『もう一人』、いるんだよなぁ……。」


 そしてここで、ゼフィが恨みがましい目付きをした。

 『もう一人』とは、すなわちポンデのことである。

 最近忘れがちだが、彼女はグンマー族の『王族』なのだ、ゼフィにとっては要注意の警護対象であるのは間違い無かろう。


挿絵(By みてみん)「……そ、それはどうも……」


 思わず、こちらも低姿勢にならざるを得ない。


挿絵(By みてみん)「…………」


挿絵(By みてみん)「……結局、アイン殿はこうなる運命さ。『力』有る者の周りには、人が集まって来る……言った通りだろ?」


 ゼフィがふと、呟く。


挿絵(By みてみん)「それで、立場も力も強くなってゆくのだろう。でも『しがらみ』も生まれ『責任』も増えていくものだよ、本当にね。」


 ゼフィが、しみじみと、呟く。


挿絵(By みてみん)「ならば、どうする、アインライト殿……?」


挿絵(By みてみん)「…………」


挿絵(By みてみん)「君は、『もう逃げない』んだろう? 今はそんな目をしているよ。」


 私は、それでも彼女の問いには、答えられなかった。



挿絵(By みてみん)「……ま、そういう訳だから気を付けて欲しい。アルスラの奴に、『今度また手合わせしよう』って言っといてくれ。」


挿絵(By みてみん)「…………承知した。」


 そういい残して彼女は帰っていった。

 結局、ゼフィは愚痴をこぼしに現れたらしい。

 やはり、宮仕えというのはあれで色々と大変なようであった。



 ふと、外に魔力の気配がうずまいていた。


挿絵(By みてみん)「……おおきくなぁーーれ、つーーよくなぁーーれ♪ かしこくなぁーーれ、げんきになぁーーれ♪♪」


 ウリボーのナマハムが、聖女の廻りをくるくると踊る。

 楽しげな歌に合わせて、少女も廻る。


 くるくる、くるくる

 光をまとい、少女は踊る、小さいケモノも、跳ねる。


 聖女の御許、歌が溢れ、光が巡り、そして、魔力も、うずまく。


 何気無い遊びのいっときにも、魔力が動いてしまう。

 それが、彼女という存在だった。



挿絵(By みてみん)「……微笑ましい光景では、あるのだけどね。」


 それでも、しあわせなひとときだったのだ、この時は……。



      ◆ ◇ ◆ ◇ ◆



 さて、一月ほどが過ぎた或る日……



挿絵(By みてみん)「ナマハムーーーー! おいでーーーーーーっっ!!」


挿絵(By みてみん) ブモーーーーーーーーー!


 甲高いとはとても『言えない』重低音が響く。

 続いて、重苦しい足音。

 暗がりに一瞬、目が光り、地を這う獣が姿を現す。

 逞しい巨体、硬そうな剛毛、周囲を睥睨する鋭い目。

 そこにいたのは、まさしく『元』ウリボーであったもの。


 ……すなわち、巨大な猪『ワイルドボアー』であった。


 ウラワン城前の中央広場に、緊張が走る。

 聖女ルミナが、『元ウリボー』を連れてお散歩にいそしんでいた。


挿絵(By みてみん)「ナマハムー、こっちですのー」


挿絵(By みてみん) フッ、フッ、フッ、フッ!


 通りすがりの人々は足を止め、思わず顔が引き攣る。

 ただただ、すさまじく、おそろしかった。


挿絵(By みてみん)挿絵(By みてみん)「…………」


 嗚呼、少し前まではあんなにも可愛らしかったというのに。

 時間の流れというのは、実に非情なものであるらしい。




挿絵(By みてみん)「……まさか……あんなに大きくなるとは……」


 思わず嘆息が漏れる。


挿絵(By みてみん)「というか、ちょっと成長が速過ぎません?」

挿絵(By みてみん)「確かに、いくらなんでもこれは……」


挿絵(By みてみん)「……参った……困った……」


挿絵(By みてみん)「ルミナにこんな才能があるとは知らなかったのだ。ウチの里で飼育係に雇いたいぐらいなのだ。」


挿絵(By みてみん)「……その通りだな、大したものだ。誇ってもいい。」


 これは……多分アレだろうな、魔力を巡らせた影響だろう。

 ものがモンスターということもあるが、驚異の成長速度だった。



挿絵(By みてみん)「言いたくないが……こっちにも苦情が来ている、どうしたものか。」


 さすがにゼフィが直接やって来て言う。対応に苦慮しているようだ。


挿絵(By みてみん)「お城には、こちらとしても……何とも……その」


 シルヴィも歯切れが悪くなる。


挿絵(By みてみん)「いやでも、ルミナにはよく懐いているから、見た目ほど危険じゃないよ『あの子』は……」


挿絵(By みてみん)「その『見た目』が大問題なんですけどね。」

挿絵(By みてみん)「無理も無いですわ。」


 まあそりゃそうだろう、見た目は私だって怖い。


挿絵(By みてみん)「お城のほうも突き上げが激しくてね、正直困っている。」


挿絵(By みてみん)「……やはり、彼女には『ちゃんと言い聞かせた』方が良いんだろうか……」


 私は今後のことについて思い悩む。


挿絵(By みてみん)「……とりあえず、そろそろ頃合だから準備をしておくのだ。」

挿絵(By みてみん)「うむ、そなただけでは手に余るだろうから私も手伝おう。」


 一方アルスラたちは、そう言って包丁やナイフを研いでいる。

 お前ら、頼むからルミナに見えないところでやってくれ。


挿絵(By みてみん)「ルミナには、『代わり』を用意してやるのだ、そしたらさみしくないのだ!」


挿絵(By みてみん)「うむ、今度は五六匹は見付けて来てやろう。」


挿絵(By みてみん)「止めろお前ら! そんなことしたら本気で怒るぞ!!」


 さすがにゼフィも怒る。というか、我が家をイノシシ牧場にしないで欲しい。



挿絵(By みてみん)「まあ、ちゃんと話をしないと、いけないんだろうなぁ……」


 気が重くなるが、それでもやらねばならないことはあるものだ。

 私は、彼女に掛けるべき言葉を考えるのであった。



      * * *



挿絵(By みてみん)「やーーーーっっ!! 絶対やーーですのーーーっっっ!!」


 で、『案の定』ルミナからは大反発をくらった。


 何を言ったのかといえば、「ナマハムは、もう十分に大人になった」から、そろそろ自然に還してあげるべき、ということ。

 さらに「モンスターと人間では、住む世界が違う」ことを説いて、いつまでも一緒にはいられないのだと伝えた。


 ……そして結果は、斯くの如くとなる。


 素直なはずのルミナにしては、えらく意固地な様相であった。



挿絵(By みてみん)「この子は『ともだち』ですの! ずっと一緒ですのっっ!!」


挿絵(By みてみん)「聖女様……どうか、どうかお聞き届けを……」


 シルヴィも、普段は結構厳しいほうなのだが、それでもルミナは涙を浮かべ、強情に強固に拒絶していた。

 そうなるとさすがに、シルヴィでもオロオロと迷うしか出来なくなる。

 そんな彼女たちの様子を見るのは、少し辛かった。


挿絵(By みてみん)「う…………っ」


 ルミナは涙をため、服の裾を握りしめる。


 私も、どうしてよいか分からない。

 しばらく、時間を置こうと思ったのだった。





挿絵(By みてみん)「アイン殿ーーー! 聖女様が聖女様がーーーーーっっ!!」


 次の朝、シルヴィが青い顔をして駆け込んでくる。

 その手には手紙を携えていた。


「たびにでます。さがさないでください。」


 そこにはそう書いてある。

 確かに、今朝から姿が見えないと思ったら……


挿絵(By みてみん)「まいったな……これは……」


 間の悪いことに、今はアルスラたちが出かけてしまっている。

 こういうときは、彼女が一番頼りになるのだが。


挿絵(By みてみん)「とにかく、すぐに探さないと!」


挿絵(By みてみん)「ええと、私が行きますわ! 魔力探査しますから!」


挿絵(By みてみん)「よし、私も手伝おう。キットは、ゼフィとそれから冒険者ギルドに応援を!」


挿絵(By みてみん)「ああ……聖女様……どうかご無事で……」


 しかし、ルミナがここまで思いつめるとは想定外だった。

 やはり、可哀想なことをしてしまったのだろうか、胸が痛む。



      ◆ ◇ ◆ ◇ ◆



挿絵(By みてみん)「……静かですの……エルフの森を思い出すですの……。」


挿絵(By みてみん) ブモ~~~


 その頃、ルミナとナマハムはチチブー山脈ふもとの森の中にいた。

 彼女の足ではだいぶ歩いた感覚であるが、実際はそれほど遠出した訳ではない。

 アルスラ辺りなら、『散歩』程度のものだったであろう。


 ふと、ルミナは昨晩のことを振り返る。

 歩いていると、何故か感情が整理されてゆくように感じられたからだ。


 元々、自分は常に『いい子』であろうとしていたハズであった。

 尊き使命を帯び、地上に遣わされた存在。

 人々を導き、天使の御術をふるい、マナを集める。

 それが、わたしに、かせられた、しめい、であり……


 よく分からないですの、よく分からないですの

 じぶんでじぶんが、よくわからない。


 いままで、いいこであった、はずなのに、

 なぜか、あんなにも、ごうじょうで、いじっぱりで……


 『わがまま』に、なって、しまった。



 ルミナは、自分を持て余していた。


挿絵(By みてみん)「……でっでも、これはお兄様が悪いですの。お兄様がルミナの言うことを一番に大事にしてくれないからですの、そうですの。」


挿絵(By みてみん)「だからちょっと、困らせてあげるですの、バツですの。」


挿絵(By みてみん)「しばらくしたら、きっと『反省』するですの。そしたら許してあげるですの、そうですの。」


挿絵(By みてみん)「ね? ナマハム、そう思うですの?」


挿絵(By みてみん) ブギィーーーーーーー


 ルミナの独白に、忠実なワイルドボアーは応えているかのようだった。




挿絵(By みてみん)「……静か、ですの……」


 それでもふと、呟きが漏れる。

 『あのとき』、あれほどの冒険を繰り広げた自分であるから、少しの間ぐらいならなんとかなると思っていたのだ。

 でも、今は、傍らの『ともだち』を除けば自分独り。

 いつも側にいるエルフも、或いは頼もしく思う兄様も、今はいない。

 いまは、ほんとうに、ひとりだった。



 恐らくは不安な気持ちが彼女の『勘』を鈍らせたのだろう。

 ルミナは、迫りつつある危険に気が付かなかった。

 そしてそれは、突然、やって来る……。



挿絵(By みてみん) …………


 既に相手の『攻撃圏内』に入ってしまっていた。

 ふと、後ろを振り返ると、そこに大きな灰色の影があるのが分かる。

 獣の形を取った、死の気配、命を奪おうとするもの。


挿絵(By みてみん)「…………ぁ……」


 ルミナはかろうじてそれだけ声を出す、ナマハムも低く唸る。



 そこには大きな熊のモンスター、『ランブルベアー』がいた。



挿絵(By みてみん)「(……なんてこと! でもこの程度の相手なら……!!)」


 ルミナが、魔法の詠唱準備に入る。だが……


挿絵(By みてみん) ーーーー!!!!


 轟音、咆哮、恐怖を与えるもの。

 ランブルベアーが吼え、一瞬で身が竦まされる。


挿絵(By みてみん)「……!!」


 ルミナはたちまち、集中を乱す、隙が出来る。


挿絵(By みてみん) があぁぁぁぁ!


 咆哮と共に、灰色の死が眼前に迫ってきた。


挿絵(By みてみん)「……ーーーーーっっ!!」


 彼女は、恐怖を感じてしまった。

 何故かゆっくりと感じられる、世界が、モノクロのように

 大きな爪が、スローモーションで、ちかづいて…………


挿絵(By みてみん) ぶおぉぉぉうぅ!!


 破滅の瞬間を、それでも身を挺して救ったのは彼女の『ともだち』であった。

 体ごと相手に立ち塞がり、壁となる。

 堅いはずの剛毛が、それでも抗し切れず、爪に引き裂かれる。

 だが、ナマハムはそれでもひるまず、


挿絵(By みてみん) ぐおぉうぅ!

挿絵(By みてみん) ぶうぅおぉぅ!!


 ランブルベアーに突進を仕掛けていた。

 巨体同士がぶつかり合い、肉の当たる音がする。

 ワイルドボアーの突進だ、人間程度ならば簡単に吹き飛ばす。

 だが、相手は、残念ながら、人間では無かった……。


挿絵(By みてみん) ッッ!!


 熊は突進を受け止めると、そのまま爪を振り下ろす。

 皮が裂かれ、血が噴き出していた。


挿絵(By みてみん) ぎいぃぃ!


 ナマハムは悲痛な声をあげる、でも怯まない、停まらない。

 大事な『ともだち』を守るため、相手に向かってゆく、突進する。

 ぶつかる、そして切り裂かれる。

 ぶつかる、そして切り裂かれる。

 血が流れてゆく、地面が、樹が、岩が、獣たちが、血に染まる。



挿絵(By みてみん)「……ナマハムゥーーーーーーーッッ!!」



 ルミナが悲鳴を上げた。

 何とかしなければ、ともだちが死んでしまう。

 何とかしなければ、ともだちが死んでしまう。

 ……わたしが、なんとか、しなければ!!



 イメージを想起せよ。

 憎しみ、怒り、業火、貫くやいば

 我が魔力よ、わたしの敵を……屠れ!


挿絵(By みてみん)「……っ!!」



 一瞬、空白があって、次の刹那、

 ルミナの視線から、『光』が放たれた。

 光はランブルベアーの眉間を貫き、動きを止める。

 そして次の一瞬、幾重にも分かれて広がった。


挿絵(By みてみん) ……


 何か、ことりとしたような音がする。

 次に、動きがあると……


 ……ランブルベアーがばらばらと、小さな肉片に、分解されていた。



      * * *



挿絵(By みてみん)「……魔力に反応! あっちですわ!!」


挿絵(By みてみん)「よし、いくぞ!」

挿絵(By みてみん)「ああ……聖女様!」


 目撃した人の話から、私たちは森に入っていた。

 とりあえず手当たり次第に魔力探査していると、急に反応を感じる。

 突然、強力な魔法の反応だ、直ちに向かってみる。




 辿り着くとそこには、血まみれのワイルドボアーが倒れていた。

 そして、その傍らには……


挿絵(By みてみん)「……聖女様!!」

挿絵(By みてみん)「ルミナ!!」


 ルミナがいた、ナマハムに縋り付いて、泣いている。


挿絵(By みてみん)「…………うっ……うぅ…ダメですの……もう、魔力が…治癒が……」


 やがてこちらに気付くと、少し明るい顔になる。


挿絵(By みてみん)「……お兄様っ! よかった! はやく、はやく治癒魔法を……!!」


 私は、傷付いたワイルドボアー、ナマハムの容態を確かめた。



 だが、残念ながら……これは……



挿絵(By みてみん)「……すまない……もう、これは私ではどうにも……」


 心臓が止まっていた、血も流れ過ぎていた。

 体はかろうじて温かいようだが、やがて冷えてゆくだろう。

 手の施しようが無かった、少し遅すぎたのだ。


挿絵(By みてみん)「な、ならわたしが……わたしが……!」


 ルミナが震える体で、それでも蘇生魔法を試みる。

 だが、動揺のあまり魔力の展開すら上手く出来ないようだ。

 いつもなら、この辺で魔力を吸い取られる感覚があるのに、それが無い。

 無理も無い、精神が、意識が集中出来ないのだから。



挿絵(By みてみん)「う……うぅ……うわぁーーーーーん」


挿絵(By みてみん)「聖女様……!!」


 たまらず、シルヴィがルミナを抱きしめる。

 彼女の泣き声は、ただ、ただ、辛かった。



挿絵(By みてみん)「あぁ……聖女様……よくぞ…よくぞご無事で……」


 一息ついた後、今度はシルヴィが泣きっぱなしになる。

 ぽろぽと零れる涙は、何故かとても美しく感じられた。


挿絵(By みてみん)「ごめんなさい! ごめんなさいですの……!!」


 それを見て再びルミナも泣き出す。

 しばらくは涙、ひたすら涙の時間であった。



      * * *



挿絵(By みてみん)「……ふう、こんなものかな……」


 ノノワの土の魔法で手伝ってもらって、ナマハムを埋めてあげる。

 適当に石を置いて、花を添えた。


挿絵(By みてみん)「…………」


 そして、みんなで祈りを捧げる。

 勇敢だった『ともだち』に、安らかな眠りを、どうか。



 帰りは皆無口だったが、ルミナには一言だけ言う。


挿絵(By みてみん)「これからは……一人で森に行ってはいけないよ。」


挿絵(By みてみん)「……はい……ごめんなさい…ですの…………」


 彼女にも、これは堪えたようだった。

 少し、そっとしておこうと思う。



      ◆ ◇ ◆ ◇ ◆



挿絵(By みてみん)「……さて、やることは前と同様だ。『イメージの想起』を、呪文詠唱無しに頭の中で作り出してみてくれ。」


挿絵(By みてみん)「はい、師匠……。」


挿絵(By みてみん)「はいですの……。」


 そう言ったあと、二人とも黙り、意識を集中し始める。

 やがて……


挿絵(By みてみん)「……!!」

挿絵(By みてみん)「……!!」


 二人が目を見開くと、標的目掛け二つの小さな炎が飛ぶ。

 破裂音に似た吹き上がりの音が鳴り、火が標的の表面をなめる。

 威力は敢えて抑えてあった。火の魔法の発動に成功する。


 ……そう、『二人とも』成功していたのだ。


挿絵(By みてみん)「やった!」


挿絵(By みてみん)「出来たですの!!」


挿絵(By みてみん)「……よし! よくやった、二人とも!」


 この瞬間、『無詠唱魔法』の扉が開かれた。

 学習メソッドや方法論など、未だ研究すべき課題は沢山ある。

 だが、それでもここに、第一歩は踏み出されたのは確かなのだ。


挿絵(By みてみん)「よし! 今日はお祝いだ! 夕食は豪華なものにしよう!」


挿絵(By みてみん)「わ~~~~~~~い♪♪」


 ルミナが、無邪気に笑う。私も笑顔が零れた。



      * * *



挿絵(By みてみん)「はあ、豪華なもの、ですか……ええとどうしようかな……」


挿絵(By みてみん)「追加で何か買いに行くかい……?」


 台所でそんな話をしていると……


挿絵(By みてみん)「今戻りました、今日は『掘り出しもの』です!」

挿絵(By みてみん)「今帰ったのだ! 今日はラッキーだったのだ!!」


 丁度アルスラたちが帰って来る。

 何やら、『いいもの』があったらしいのだが、さて……





挿絵(By みてみん)「……こっこれは……おいしいですの!!」


挿絵(By みてみん)「なんと……これほど……素晴らしいです!」


 夕食は確かに『いいもの』だった。

 アルスラたちが持って帰って来た『お肉』が大層美味だったのだ。

 柔らかく、濃厚で、噛み締める度に味が染み出て来る。

 いままで経験したことが無い程の、美味しい肉であった。


挿絵(By みてみん)「すごいね……これはいったい、何て言うんだろうか……」


 私も美食家という訳ではないが、それでも感嘆せざるを得ない。



挿絵(By みてみん)「……はい、この肉は……ええと森の外の言葉ですと……」


挿絵(By みてみん)「姉様、『熟成肉』なのだ。肉を少し寝かせたものなのだ。」


挿絵(By みてみん)「まぁ! それは……!」


 これには流石に驚かされた。


挿絵(By みてみん)「あぁーーっと、『肉は腐る直前が美味い』とかいうアレですね、聞いたことがあります。」


挿絵(By みてみん)「……え! 大丈夫なのかい? それって」


挿絵(By みてみん)「はい、確かに充分火を通しました。アルスラさんに言われたので。」


挿絵(By みてみん)「ちゃんと火は通ってるのだ、キットは料理上手なのだ。」


 なるほど、とは思った。しかし、熟成ねぇ……



挿絵(By みてみん)「しかし、よくこんなの見付けたね、高かったろ……?」


挿絵(By みてみん)「いえ、今日の『掘り出しもの』です。」


 ん…………?


挿絵(By みてみん)「……はい、実は今日行った森で『大イノシシが埋めてある』のを見付けたのです。多分熊か何かが、後で食べるためにそうしたのでしょうね。」


挿絵(By みてみん)「もちろん程度にもよりますが、かなりの部分は捨てないといけません。でも、残りの肉が『大層美味』であるのは、森の民ならば皆知っています。」


挿絵(By みてみん)「森では稀にあることなので、我々はそれを『森の恵み』と呼んでいます。森の精霊が、我々に幸運をもたらしてくれたのだと……。」


 ……ええと、何か頭に引っ掛かるのですが。

 それも、つい最近あった出来事が……



挿絵(By みてみん)「あぁっっ! ポンデがわたしのお肉盗ったですの!」


挿絵(By みてみん)「む? いつまでも残すから、キライかと思ったのだ!」


挿絵(By みてみん)「違うですの! 最後までとっておいたですの! 返すですの!」


挿絵(By みてみん)「もう食べたのだ。お腹のなかなのだーーーっ!」


挿絵(By みてみん)「うわーーーーんっ!」


挿絵(By みてみん)「あぁっ!聖女様! 私の分を差し上げますので……!」


 幸いルミナたちは、アルスラの『台詞』は聞いていなかったようだ。



 『大イノシシ』、『埋めてあった』、『森の中』

 『掘り出しもの』、『熟成肉』、『森の恵み』


 ええと、大丈夫だよな、気のせいだよな……



 とりあえず、『この話』は絶対にルミナにはしないことに決めたのだった。

……因みに『ナマハム』というのは生ハムが語源となっております。

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