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サイタマーの守護者  作者: 一光屋KY
王都の陰謀編
14/39

第十三話 サイタマーの王都漫遊

~~~~~~~「王都ハヤリ歌」[王国風俗選集]より引用~~~~~~~~


 此の頃王都に流行るもの、

  夜盗、こそ泥、ひったくり、儲け話のそら語り

  人斬り、闇討ち、偽衛士、情けも薄き、都人


 黄昏時に浮かれ咲く、(あだ)し世の花、浮世舞い、

  やがて暁酉の声、いずれは虚し夢の跡


 良し悪し知らぬ田舎者、彼も我もと来たれども、

  流行り廃りの激しさよ、過ぐれば塵と為りにけり


 賢しき顔の面の下、いと滑らかな二枚舌、

  移ろい易き衆生ども、流るる先は火か水か


 問わず語りの世迷言、耳を塞いで過ぎぬれば、

  いずれ巡りし時の運、降りにし後に思い出す


 さても用心ご用心、此処は王都の一丁目、魑魅魍魎の(すまい)なり


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 ……私は今、内心の動揺を抑えつつ泰然自若を演じています。



挿絵(By みてみん)「……ルミナとお呼び下さいな。」


挿絵(By みてみん)「ふむ、ルミナか。わたしはポンデだ、ポンデと呼ぶのだ。」


挿絵(By みてみん)「……はい、ポンデ様。」


挿絵(By みてみん)「ポンデだ! 『様』は要らないぞ。」


挿絵(By みてみん)「ええ、分かりましたですの。」



 ウラワン城のバルコニーに上がってみると、そこには何と『光の聖女』がいた。


 光の聖女とは、この王国へと遣わされた『いと尊き存在』らしい。

 『アカデミーも』、その事を認定しているらしかった。

 故に、異端の極み『禁呪の遣い手』である自分にとっては、正に鬼門とも言える。


 まさかそんな相手と、こんな場所で再会するというのは完全に想定外だ。

 しかし、どうしたものかと考える間も無くポンデはルミナとお喋りを始める。

 しょうがない、ここは隅っこで大人しくしていよう。



挿絵(By みてみん)「……」


 ここで、ルミナがちらりとこちらを見てくる。

 その視線は何かを言いたげである……ようにも見えた。



挿絵(By みてみん)「うむ、ここは眺めが良いぞ、良い場所だ!」


挿絵(By みてみん)「ええ、わたしのお気に入りですの。」


 都合よく、ポンデはその視線を遮ってくれる。

 とりあえずは彼女の好きにさせよう。

 二人は、気が合ったのか女の子同士のお喋りを始めてくれた。



 有り難いことに此処にはテーブルと椅子もあるようだ。

 なるべくなるべく目立たないように端のほうでひっそりと……




挿絵(By みてみん)「失礼します聖女様、只今戻りました!」



挿絵(By みてみん)「……フオッ!」


 ああ、こんなときに限ってまた面倒そうな奴が……



 いつぞやの聖女様の『お守役』、シルヴィだ。

 またもや「下がれ下郎!」とか罵倒されてしまうのだろうか?


 ……私にはそういう趣味は無いというのに、くせになったらどうする。



挿絵(By みてみん)「……! こ、これは『ゲスト』の皆様でしたか!」


 しかし、流石の彼女も『お客様』の前では大人しかったようだ。

 遠くからでも目立つ『黒肌のグンマーの姫』を見付けると、直ちに反応した。


 ここは成る程、『ポンデ様々』といったところか。

 シルヴィは、当座は邪魔をしないことに決めたようであった。

 静かに佇むと、まるで調度の一つであるかのように気配を薄める。


 だがここで、シルヴィはこちらを眺めて『黒エルフが居る』のに気付く。

 黒エルフ、すなわちノノワを見咎めると、


挿絵(By みてみん)「(小声)……なんでお前がここにいる?」



挿絵(By みてみん)「(小声)あーーら、『ゲスト』に向かって何て言い草ですの?」


 だがノノワは、立場の優位を生かして強気に出た。

 得意気な表情がいかにも彼女らしい。


挿絵(By みてみん)「おーーっほっほっほ、ですわ。」


挿絵(By みてみん)「くっ!」


 そしてシルヴィの額には青筋が浮かぶ。

 やはり、この二人の相性は良くないらしい。



挿絵(By みてみん)「(コーー)『ポンデラ姫』は、息抜きをご所望である。しばしの間世話になるぞ。(ホーー)」


 内心はドキドキものであったが、とにかく場を取り繕うべく私は言葉を放つ。

 ええと……私の正体は、バレてないよな?



挿絵(By みてみん)「……あ…有難き幸せ……。」


 あ、何かほっぺたがひくひくしている。

 やっぱりこの『奇妙な仮面』の効果は絶大だ。

 さしもの難物シルヴィも、腰が引けているようだった。




挿絵(By みてみん)「…………ですのー。」


挿絵(By みてみん)「…………なのだー。」


 そして少女二人は相性が良かったようで、お喋りが捗っている。

 随分と意気投合したのか、何かの遊びを始めたようだ。



 いまはとりあえず、その場には平穏な空気が流れていた……。



      ◆ ◇ ◆ ◇ ◆



 お喋りをしたり、遊んだり、少女二人の交流は見ていて微笑ましいものがある。

 光差すバルコニーには、平穏な時間が流れていた。

 そして私たちは、つかの間の平和を堪能していた。



挿絵(By みてみん)「……うむ、これから『街』を見に行くつもりなのだ!」


挿絵(By みてみん)「まあ! それならわたしが案内しますですの!」


 おや、何か話が妙な方向に進んでいるような……



挿絵(By みてみん)「……ええと、でも『この街』だとあまり面白いものが無いですの。」


挿絵(By みてみん)「そうなのか……?」


挿絵(By みてみん)「はい……」



挿絵(By みてみん)「…………」

挿絵(By みてみん)「…………」


 しばし、言葉が途切れて、



挿絵(By みてみん)「そうですの! いいこと考えましたわ! 『王都』に行くですの!」


挿絵(By みてみん)「王都は大きな街ですの! 楽しいところがいっぱいですの!」


挿絵(By みてみん)「おぉーーーっっ!!」


 ……あ、何か話がヤバい流れのような。




挿絵(By みてみん)「シルヴィ、シルヴィ! 『枢機卿』にお願いするですの!」


 ルミナは何気ない口調で、大きな声を出した。



挿絵(By みてみん)「ポンデ……『ポンデラ姫』を王都にご招待するですの!」


挿絵(By みてみん)「そちらの皆様も一緒に、『ご招待』するですの!!」


 ルミナは何気ない口調で、『とんでもない事』を言い出したのだ。



挿絵(By みてみん)挿絵(By みてみん)挿絵(By みてみん)挿絵(By みてみん)挿絵(By みてみん)「何ぃーーーーーーっっ!!!」


 という訳で話が『もっとオオゴト』になりました。



      * * *



 さて、いくら『光の聖女』の言とはいえ、これは子供の戯言も同様であったから断られるものだと当初は思っていた。

 しかし予想に反して、この『無茶な提案』には王国の方も直ちに同意する。

 準備が、あれよあれよという間に進められていった。


 更に意外なことに、これにはあの『カルマン殿下』が特に乗り気だったのだとか。

 彼は軍の重鎮で『強硬な反対派』であったはずなのに。

 なのに何故今更、『グンマーランドの貴人』を王都に招こうというのだろうか。



挿絵(By みてみん)「よくは分からんが、例の『会見の儀』での失態を少しでも取り戻そう、ということなのだろうな。」


 ……これは、ゼフィの分析である。



 ともあれ、きっかけは偶然とはいえ、

 『条約締結直後に相手方の賓客が王国を訪問する』

 これには『外交的に』大きな利点が有るということだった。


 『非公式かつ私的な訪問』とはいえ、これは相互の『交流の第一歩』である。

 しかも、都合の良いことに

 『グンマー族のほうから』『王都を訪れてくれる』

 と云うのだ。

 こういう事で『後に先に』というのは、象徴的に大きな意味があるらしかった。


 ついでに、その件の『仲介をしたのがアカデミー』という点も渡りに船である。

 これら全てが『大きな優位点』であるらしい、あまり理解したく無いが。

 外交とはすべからく一つ一つの『既成事実の積み重ね』である。

 こういった地道な一歩一歩が、王国の明日を築く基となるのだ。


 ……ちなみにこの辺全て、『ゼフィの受け売り』である。

 私には馬鹿馬鹿しくて、どうでも良い事ばかりであった。





挿絵(By みてみん)「……何か、いろいろと後戻り出来なくなっているような……。」


 私の眼下には、グンマー族の大軍勢が引き上げていくのが見える。

 ンゼルエ殿下と、その配下の一団はグンマーランドに帰ってゆくのだ。

 殿下は「妹をよろしく頼む」とだけ言い残していった、とのこと。


 すなわち、後にはポンデと私達『だけが』残される。


 護衛も付けずに大丈夫なのかな、と思ったら、私達(主にアルスラ)が護衛の代わりらしい。

 随分と無茶な話であると、私などは思う。



挿絵(By みてみん)「いいのかなあ……」


挿絵(By みてみん)「うむ、『少し早い』が予定通りなのだ。」


挿絵(By みてみん)「……ふむ、そうだなポンデ。」



挿絵(By みてみん)「……??」


 この時の二人の台詞は、いまいち理解出来なかった。

 あとで意味が分かる日も来るのであろうか。



挿絵(By みてみん)「……ご心配無く。皆様のことは私達『遊撃隊』が全力でお守り致します。」


挿絵(By みてみん)「ついでに言えば、今この段階で『何かしよう』なんて無謀な事考える奴はこの王国にはいませんよ、心配無用です。」


挿絵(By みてみん)「王国の貴族たちも、そこまで馬鹿じゃありませんって!」


 遊撃隊の三人娘は、こう請け負う。

 空元気なのかも知れないが、言葉は心強かった。



挿絵(By みてみん)「……ま、今はとりあえず成り行きに任せましょう、ご主人様。」


挿絵(By みてみん)「そうですわね。それしかなさそうですわ、師匠。」


 この二人は、既に諦め状態であった。



挿絵(By みてみん)「さて、迎えの馬車が着いたようだ、皆様がた、準備はよろしいか?」


挿絵(By みてみん)「…………(コホーー)」


 私は無言で、ただうなづく。




 『仮面』を被り、オオグンタマー卿を演じる、それが、今の私のやるべき事。

 皆も旅支度を整え、一歩を踏み出す。


 …………いざ、王都へ!!



      ◆ ◇ ◆ ◇ ◆



 特別仕立ての大型馬車は、とても快適な乗り心地であった。

 振動は特に小さく抑えられ、不快さを感じることは無い。


挿絵(By みてみん)

「空のむこう、虹のかなた

 そこにあると、ひとは云う


 鳥がうたい、花は咲きみだれ

 美しいせかいと、ひとは云う


 憂いなき都、望みかなう土地

 夢のようなところと、ひとは云う


 風よ、われをいざなえ

 雲よ、われをうごかせ


 雨よ、われをうるおせ

 太陽よ、われをみちびけ


 空のむこう、虹のかなた

 理想郷ありと、ひとは願う」



 澄んだ歌声は、田園に響く。

 柔らかな日差しと、吹き抜ける風の中、旅は続く。

 街道の周りには、ただ長閑な風景が広がっていた。



挿絵(By みてみん)「おおーーーっ! あれは何だ? 何かぐるぐるまわっているぞ。」


挿絵(By みてみん)「あれは、水車ですの。あれで粉を挽いたり菜種を絞ったりするですの。」


挿絵(By みてみん)「おおーーーっ、うちにも欲しいのだ!」


 ポンデは見るもの全てが珍しいらしく、始終騒がしくはしゃいでいる。

 そしてルミナも、そんな彼女に合わせて楽しげな様子だった。



挿絵(By みてみん)「……聖女様、あまりはしゃがれますとまた具合を悪くされますよ。」


挿絵(By みてみん)「大丈夫ですの! 今日はとても気分が良いですの!」


挿絵(By みてみん)「うむ! そうだな勇者様、いい気分だ! 」


挿絵(By みてみん)「……(コホー)」


 私は返事の代わりに軽くうなづいた。



 それにしても……

 シルヴィは前に会ったときは『いけ好かない奴』としか感じられなかった。

 が、こうして間近で観察してみると少し印象が変わったように思う。


挿絵(By みてみん)「聖女様、お疲れではありませんか?」


 シルヴィはいつもルミナを見ている。

 シルヴィは常にルミナを気遣っている。


挿絵(By みてみん)「聖女様、そんなに身を乗り出しては危のうございます。」


 彼女にとっては『聖女』こそが第一なのであろう。

 ルミナの安全に最大限の注意を払う。

 ルミナの安心に最高度の神経を使う。


挿絵(By みてみん)「聖女様、風に当たり過ぎるのは体に良くありません。」


 ゆえに、ルミナに近付く『怪しいもの』には厳しい態度を取る。

 この世のあらゆる悪意から、光の聖女を守るために。

 世界のあらゆる穢れから、光の聖女を護るように。



 ……そして敵には、明白な、むき出しの敵意を持って応えるのだ。

 そう、あのときの『私に対してのように』。


挿絵(By みてみん)「(……何が彼女をそこまでさせるのか……)」


 関わりを持たないほうが良いのは分かっているが、少し気になるのも事実だった。



挿絵(By みてみん)「『勇者様』、ルミナは今日はとっても元気ですの!」


 と、ここでルミナが急に私に微笑みかけてくる。


挿絵(By みてみん)「……(コ、コホーー)」


 慌てて会釈を返す。



挿絵(By みてみん)「…………(じろっ)」


 そして案の定、シルヴィには睨まれる羽目になったのであった。





挿絵(By みてみん)「……聖女様、オオグンタマー卿、もうすぐサイタマーとの境になります。今夜はこの近くに宿を取る予定ですので。」


 街道を進んでいると、ゼフィが知らせにやって来た。

 『サイタマーとの境』ということは、この辺りから先は王都の周辺域、ということでもある。

 さて、少し気を引き締めていかなければ。



 と、ふとここで前方を眺めてみると、何かの一団がいるのが見える。


挿絵(By みてみん)「……あれは……?」


 ゼフィの表情が険しくなる。



挿絵(By みてみん)「(小声)……主様、武装している者たちが近付いています、ご注意を。」


 アルスラも様子がおかしいのに気付いたようだ。

 馬車の中の空気も、微妙に緊張したものへと変わる。

 ルミナとポンデは、大人しく顔を引っ込めたようだ。

 自分も、周囲に注意を払う。


 ゼフィが誰何のため馬を走らせようとしていた。

 するとそこに……



挿絵(By みてみん)「ウラワン城のベンガラムール卿の一行とお見受けする。こちらは、王都守備隊の者である!」


 向こうから名乗りがあった。



      * * *



挿絵(By みてみん)「……はあ?! 聞いてないぞ、どういうことだ!」


挿絵(By みてみん)「どう、と申されましても。こちらとしてはこれこの通り『命令書』が御座いますので。」


 ゼフィは直ちにその『命令書』を引ったくるように受け取る。



挿絵(By みてみん)「…………」


挿絵(By みてみん)「……くっっ! 『カルマン殿下』か……確かに…本物だ。」


 ゼフィは不本意さが表情にまで現れていた。

 任務中は冷静なのが常の彼女にしては、珍しいことであろうか。

 馬車のほうに近付いて来て、小声で私に告げる。



挿絵(By みてみん)「……すまないアイン殿、我々『遊撃隊』はここで戻らねばならなくなった。」


 ゼフィは、殆ど顔をくっつけるようにして声をひそめている。


挿絵(By みてみん)「それは……」


挿絵(By みてみん)「『後の警備は王都守備隊に任せよ』との命令だ。カルマン殿下の差し金らしい……。」


挿絵(By みてみん)「…………」


 一瞬、言葉を失う。



挿絵(By みてみん)「……すまない、命令とあっては……」


挿絵(By みてみん)「いえ、ゼフィ、大丈夫ですよ。」


挿絵(By みてみん)「ただ単に、他所の部隊に王都に入って欲しくないってだけでしょ? 大丈夫ですって。」


 私は努めて、明るい調子を装った。



挿絵(By みてみん)「だと良いが……。(ひそひそ)アイン殿、危ないときはあの魔法……ええと、『転移』だったか?あれですぐに逃げてくれ。」


 そしてここまでで顔を離すと、



挿絵(By みてみん)「いいな? オオグンタマー卿。」


挿絵(By みてみん)「…………(コホーー)」


 私、こと『オオグンタマー卿』は、答える代わりに会釈し軽く手を挙げた。

 さて、行く手に待つのは何であろうか、冒険の始まりだ。



 …………いざ、王都へ!!



      * * *



 ……などと意気込んでは見たものの、実際には何も起きなかった。


 周りをずらりと『王都守備隊』に守られた私達は、至極丁重かつ安全に王都へと到着することが出来たのである。

 あまりにもあっさりし過ぎて、完全に拍子抜けであった。


挿絵(By みてみん)「(……ホントに単なる縄張り争いだったんだろうか……?)」


 今となっては、そんな気すらしてくる。

 やがて……



挿絵(By みてみん)「……ポンデ! 勇者様! 王都が見えたですの!!」



挿絵(By みてみん)挿絵(By みてみん)挿絵(By みてみん)挿絵(By みてみん)「……!!」


挿絵(By みてみん)「わあ…………!」



 王都は、圧巻であった。


 見えたと言っても、王都中心までは距離がある。

 王城の姿は、未だ霞の中にあって判然としない。

 しかし、既に視界の殆どを占めるものは『人家』の波。

 家々の屋根、建物の壁、道、庭、畑。視界に入るのは、それらが全て。

 見えるものは端から端まで、全部『人工のもの』であった。

 これらは、王都及び近隣の町や村のものである。

 王都とは、その周辺も含めて巨大な『人間の領域』を形成しているのだ。



 街道は、次第に人々と行き交うことが多くなる。

 その種類は、様々であった。

 商人、旅人、剣士に兵士、農夫に貴族、男や女、大人も子供も。


 そんな中、『大型の馬車と大仰な護衛の集団』の私達は嫌でも目立つ。

 次第に通行人から興味津々の視線を受けることが多くなっていた。



挿絵(By みてみん)「…………」


挿絵(By みてみん)「聖女様、お顔を出したりしては駄目ですからね。」


挿絵(By みてみん)「……あぅ」


 ルミナが退屈そうにしていたのを見て、シルヴィが直ちに機先を制する。



挿絵(By みてみん)「む、どうして顔を出してはいかんのだ?」


挿絵(By みてみん)「手を振るとみんな喜ぶですの。でも人が集まり過ぎて大騒ぎになるですの。」


挿絵(By みてみん)「そうです。この前なんて、兵士が来てやっと抜け出せたんですから。もうあんなことは御免でございます。」


 ふむ、どうやら王都周辺では『聖女様』は意外なほど人気のようだ。

 サイタマー在住の私は存在すら知らなかったというのに。



挿絵(By みてみん)「よし! ならポンデが代わりに……」


挿絵(By みてみん)「!!」

挿絵(By みてみん)「!!」


 キットとアルスラが慌てて彼女を抑えた。



挿絵(By みてみん)「……(ちっちっち)」


 私もたしなめるつもりで指を横に振る。



挿絵(By みてみん)「そなたは此処では『目立ち過ぎる』、止すのだ。」


挿絵(By みてみん)「……あぅ」


 グンマー族の彼女の『黒い肌』は、王都で見かけることは殆ど無いだろう。

 まさしく、アルスラの言う通りであった。

 可哀想だが、ここは我慢してもらうしかない。



 そうして、馬車は一路、王都中心を目指すのであった。



      ◆ ◇ ◆ ◇ ◆



 さて、ようやく王都中枢に入った私達は、まずは王城を目指す……

 のではなくて近くの『離宮』へと招かれた。

 何でも、今回のは『お忍び』での王都訪問なので公式な場所を使うのは慣例に反するのだそうだ。

 正直、どうでも良いような話ではあったが。


 そこでは、何とか殿下とか何々公爵とか某大臣とか、とにかく色々な『お偉いさん』に挨拶をして廻る羽目になった。

 実際、エラく緊張させられる。

 実態は後ろのほうで畏まって跪くだけが殆どであったとは言え。


 そう言えば、今上陛下は員数に入っていたっけか?

 もはや、記憶も定かでは無い。



 挨拶の主体は『光の聖女様』が務めてくれて、その分は確実に楽が出来た。

 ともあれ、ルミナには感謝、である。



挿絵(By みてみん)「…………はあ……疲れた……」


 とりあえず『義理と責務』を果たして疲労困憊になった私は、控えの間で休憩を取る。

 机に突っ伏してへたばっていると……



挿絵(By みてみん)「……勇者様、お加減はいかがですの?」


 ノックの音がし、ルミナの声がした。

 シルヴィはいない、珍しく一人だけのようだ。

 急いで『仮面』を被り、体裁を整える。



挿絵(By みてみん)「(コーー)……大丈夫だ、支障無い。(ホーー)」


挿絵(By みてみん)「そうですの。それは良かったですの。」


挿絵(By みてみん)「ん……(コホー)」


 軽く会釈で返す。





挿絵(By みてみん)「面倒なのはもうおしまいですの。明日は、いっぱい遊ぶですの。」


挿絵(By みてみん)「……ね、『お兄様』……?」



挿絵(By みてみん)「(コーー)そうか…それは良かっ……、っ!!」


 つい、普通に受け答えしてしまう。

 ちょっと待て、『今彼女は何と言った』?!



挿絵(By みてみん)「…………(コホー)」


挿絵(By みてみん)「…………」


 暫し、言葉が消え、そして……



挿絵(By みてみん)「…………いつから、気付いていた……?」


 私は、『仮面』の面板を上げ、彼女と『直に』相対したのだ。



挿絵(By みてみん)「……もちろん、最初からですの。」


 彼女は、少し大人びた、でもはにかむような笑顔で返す。



挿絵(By みてみん)「だって、『お兄様』の魔力ですもの、直ぐにわかるですの。」


挿絵(By みてみん)「そうか……やはり、そうなんだろうな。」


 やはり聖女は、ルミナは『魔力が視える』のは間違いないだろう。

 これは、人間には稀有な才能と云えた。



挿絵(By みてみん)「すまないが、『この事』は黙っていて欲しい。」


挿絵(By みてみん)「…………」


挿絵(By みてみん)「……『オオグンタマー』は、あくまでも『謎の魔導師』でなければならないんだ。」


挿絵(By みてみん)「そうですの。」


挿絵(By みてみん)「……」


 目と目が合うが、相手の真意は分からない、読み取れない。



挿絵(By みてみん)「うーーん、それでは、どうしようかなー?ですのーー。」


 ここでルミナは、『ニヤリ』と人の悪~い笑みを浮かべる。

 何か、嫌な予感がしたのだった……。



      * * *



挿絵(By みてみん)「おにぃ……勇者様、よく似合ってるですの!」


挿絵(By みてみん)「うむ、勇者様、ルミナの言うとおりなのだ!」


挿絵(By みてみん)「……は、はあ……そうですか。」


 翌日、ルミナの先導で商業街に遊びに行く。


 自分としては同行は遠慮したかったが、今の状況ではそうもゆくまい。

 ルミナは、秘密を守る条件として『一緒に遊ぶこと』を要求して来たのである。

 結果として私は、彼女たちに『思う存分』引っ張り回されていた。



 この場合、問題になるのは『仮面』である。

 普段?の兜様式のやつだと、街中では『目立ってしょうがない』。

 流石にアレで人ごみの中を歩くのは問題が多過ぎる。



 その解決方法は、ルミナが提示してくれた。


挿絵(By みてみん)「……これを使うといいですの。」


 現在私は、仮装舞踏会なんかで使う『目の周りだけを覆うマスク』を着けている。

 少しは目立つが、それでも大したものでは無い。

 周りを見渡せば、貴族っぽい人や道化師等の『御同類』がいるくらいだ。



挿絵(By みてみん)「師匠、ちょっとカッコいいですわね。」


挿絵(By みてみん)「ご主人様、良く似合ってます。惚れ直しました。」


挿絵(By みてみん)「さすがは主様!!」


挿絵(By みてみん)「…………」


 約一名を除いて、概ね好意的な反応であった。





挿絵(By みてみん)「さあ勇者様、服を買うですの、淑女(レディ)をエスコートするですの。」


挿絵(By みてみん)「……お、おいおい。」


挿絵(By みてみん)「うむ、ポンデもなのだ、勇者様!」


 少女二人は、実に楽しげに私を引っ張ってゆく。



 しかし、王都に来て驚いたのがこの『既製服の店』というやつである。

 『新品の服』を、店で選んで買うなどとはちょっと思いもよらなかったからだ。


 さて、貴族や金持ちなら、確かに『質の良い新品の服』を着ることは出来る。

 が、その場合でも『生地を選んで一から仕立てる』というのが普通だ。

 庶民の場合は、祭事などの晴れ着については『生地を買って自分たちで』作る。

 一般に『新品の服』とはそういうものであり、『服屋』と云えば古着しか置いていないのが普通なのだ。


 すなわち『服を買う』と言う言葉は――特に一般庶民の場合は――これは『古着を買う』のと同義である。

 『新品の服』という点を殊更強調したいときには、『服を仕立てる』『誂える』と言うのがより一般的な表現であろうか。



 昔はともかく、今は冒険者となった自分も普段は『中古の服』で済ませている。

 洗濯が面倒なので、つい沢山揃えてしまっているのだが。

 この間はその件でキットに、「またこんなにお貯めして!」と怒られてしまったぐらいなのである。

 洗濯は重労働なので、結局全員でやる羽目になった。


 結局何が言いたいかと言うと、仕立て屋ならばさておき、『"新品の"既製服の店』という存在を見るのはこの王都が初めてだった、要はそういうことだ。

 確かに、全てを『一から仕立てて』いたのでは時間がいくらあっても足りないから、この『既製服』というのはなかなかに便利で優れた発想だと思えたのである。



 ……商売のタネというのは、意外な所に転がっているものだと感じた。



挿絵(By みてみん)「しかし……ちょっと高くないかこれ……?」


挿絵(By みてみん)「それはそれは……しかし、最上の生地と最高の縫製の逸品でございますよ、むしろ控えめなぐらいで御座います。」


挿絵(By みてみん)「……『違いの分かるお客様』ならば、必ずやご満足頂けるかと。」


 商売人の広告舌というものは、いつだって巧みなものである。



挿絵(By みてみん)「ええ、そうですわね。なかなか、よろしいですわ。」


挿絵(By みてみん)「アルスラ姉さん、これなんか良くないかな?」


挿絵(By みてみん)「……うむ、綺麗な色だな。」


 いつの間にか、他の女性陣も周りを回遊していた。

 手に手に服を持って回っている。



挿絵(By みてみん)「…………(とっても鋭い視線)」


 シルヴィの視線が、何となく私の後頭部に突き刺さっているような気がする。



挿絵(By みてみん)「ポンデのはよく似合っているですの。」


挿絵(By みてみん)「ルミナも可愛いのだ、似合ってるのだ!」


 まあ、この二人が満足げなので、許して欲しいものだ……。





挿絵(By みてみん)「さあ! 次はスイーツですのお菓子ですの甘いものですのーーーっ!!」


挿絵(By みてみん)「おおおーーーーーーーーっっっ!!!」


挿絵(By みてみん)「おいおい……」


 そしてお次は、『お菓子』の店に行くようだ。

 ルミナが宣言すると。ポンデは興奮する。

 二人とも目の輝きが明らかに違っていた。



挿絵(By みてみん)「これは……楽しみですわ。」

挿絵(By みてみん)「是非とも、ご一緒させて頂きます。」

挿絵(By みてみん)「うむ、楽しみだ。」


 ……あんたらもかい。



挿絵(By みてみん)「…………♪」


 表面上冷静だったが、シルヴィですら口の端がにやけていた。




挿絵(By みてみん)「……さあ! これが王都一番のオススメですの!」


 ルミナが自信たっぷりにそのお菓子を勧めてきた。

 小さめのパウンドケークらしきものと、ウィップドクリームが何層か重ねてある。

 ふんだんに使われたクリームの白さが目に鮮やかである。

 既に甘い香りがそこら中に漂っていて食欲を誘う。



 勧められるまま、まずはフォークを立ててみる。


挿絵(By みてみん)「……柔らかいな。パウンドケークじゃないのか?」


挿絵(By みてみん)「この生地は、スポンジケークもしくはビスキュイというものに御座います。」


 さて、まずは一口……


挿絵(By みてみん)挿絵(By みてみん)挿絵(By みてみん)挿絵(By みてみん)「甘ーーーーーい!!」


 期せずして、同じ声が出た。



挿絵(By みてみん)「うおぉぉぉーー、これは美味しいのだーーっっ!」


 ポンデが感動している。



挿絵(By みてみん)「こ……これは……まさに天にも昇るような美味しさです!」

挿絵(By みてみん)「な……なんという甘さ! 正に至福ですわ!」

挿絵(By みてみん)「美味い! 美味いです、主様!!」


 他の皆も喜びが隠せないようだ。



挿絵(By みてみん)「…………フッ」


 シルヴィは「どうだ、参ったか」とでも言わんばかりの表情である。


挿絵(By みてみん)「喜んでもらえて、光栄ですの。」


 そしてルミナはやさしく微笑んだ。



挿絵(By みてみん)「これは『レイヤードケーク』というお菓子ですの。王都の自慢ですの。」


 なるほど、スポンジケークとクリームが層になっている(レイヤード)から『レイヤードケーク』か。



挿絵(By みてみん)「……これは美味しいね。ルミナが『オススメ』と言うだけのことはある。」


挿絵(By みてみん)「うふふ、それは何よりですの。」


挿絵(By みてみん)「しかし……」


挿絵(By みてみん)「……??」


挿絵(By みてみん)「ここまで来たら、『もう一味』欲しい。」


 私は生来の習性で、また『余計なこと』を言い始める。



挿絵(By みてみん)「このケークは、甘さは十分だ、いや、むしろ甘味が多過ぎる!」



挿絵(By みてみん)「むしろここは甘さを抑えるために『酸味』を入れるべきなのだ!」



 うむ、そうだ、間違い無い。私は熱弁を振るう。



挿絵(By みてみん)「『甘味』と『酸味』、その二つが奏でる絶妙な調和(ハーモニー)こそ、このケークには相応しい!!」



挿絵(By みてみん)「…………!!」


 ルミナが雷に打たれたような表情。



挿絵(By みてみん)「これには、『アレ』が必要だ!」


挿絵(By みてみん)「……そ…それは……!?」



挿絵(By みてみん)「そう! このケークには、至高のフルーツ『トチメイデン』が必要なのだっ!」


 ※お忘れの方もいるかも知れないので改めて補足です。

  『トチメイデン』は『トチギー辺境領』の名物で、とても美味しい苺です。

  ちなみに痛み易いので、王都で食べようと思うと大変な事になります。

  主に経済的方面で。




挿絵(By みてみん)「えええーーーーーーーーーーーーっっっ!!!」




挿絵(By みてみん)「おにぃ…勇者様は、『トチメイデン』を食べたことがあるのですか?!」


挿絵(By みてみん)「……あ…ああ、何回か……」


 ルミナが身を乗り出して尋ねてきた。ほっぺが見事に紅潮している。



挿絵(By みてみん)「ぅうわーーーうわーーー! いいですのいいですのーーーっ!」


挿絵(By みてみん)「うらやましいですのーーーーーっっっ!!」


 今度はルミナの興奮が最高潮に達していた。



挿絵(By みてみん)「ルミナも『トチメイデン』、食べたいですのーーっ!」


挿絵(By みてみん)「食べたいですのーーっっ!!」


挿絵(By みてみん)「食べたいですのーーーーーーっっっ!!!」


 ルミナは、すっかり『スイッチが入ってしまって』いる。

 これは、しばらく尾を引きそうだ。




挿絵(By みてみん)「…………。」


 そして、気付けばシルヴィが『テメエ要らんこと言いやがって』とばかりに恨みの篭った視線を私に投げ掛けていたのであった……。



      ◆ ◇ ◆ ◇ ◆



 王都の日々はもうすぐ終わろうとしている。

 なんだかんだといろいろあったが結構楽しかった。

 結局、挨拶だの何だのと云った『面倒事』は初日だけであり、他はひたすら遊んでいたような気がする。

 『お忍び』の『非公式』というのは、こんなにも気楽なものだったとは。



挿絵(By みてみん)「……楽しかったのだ。名残惜しいのだ……。」


 私達の乗る大型馬車は、離宮を出立して郊外へと進み始める。


挿絵(By みてみん)「ルミナも、名残惜しいですの……。」


 いつも明るいはずの彼女たちの表情にも、影が差す。

 馬車の中が、やけにしんみりとなってしまった。



 『光の聖女』は、普段は王都に控えるべき存在だ。

 今日のこの『お見送り』を最後に、私達は分かれる。

 しばらくは、会うことは出来ないだろう。



挿絵(By みてみん)「…………」

挿絵(By みてみん)「…………」


 言葉が、途切れる。

 せめて私は、言葉を紡ぐ。仮面付きなので今一しまらないのだが。


挿絵(By みてみん)「(コホーー)別に、これが『今生の別れ』というわけじゃ無い。」


挿絵(By みてみん)「『会いたい』と思ったなら、会いに行けば、会いに来ればいい。」


挿絵(By みてみん)「……ただそれだけの事じゃないか。」



挿絵(By みてみん)「……」

挿絵(By みてみん)「……」



挿絵(By みてみん)「今日や明日、今すぐは無理でも、二人がそれを望むなら……」


挿絵(By みてみん)「きっとまた『いつか会える』、そうだろう?」




挿絵(By みてみん)「……だって二人は、『友達』なのだから。」




 私がそう言ったとき、二人はしばらく押し黙っていた。

 やがて、顔を上げて微笑み、そしてうなづく。


挿絵(By みてみん)「うむ、友達だ!!」

挿絵(By みてみん)「はい、友達ですの!!」


 二人の顔は、晴れやかだった。



挿絵(By みてみん)「うむ、よくぞ言った二人とも! ならば、いつでもサイタマーに来るが良い。『主様が』きっと二人を引き合わせてくれよう!!」


挿絵(By みてみん)「……フォッ!!」


 だからアルスラ、そう簡単に『安請け合い』しないで欲しいのだが。



挿絵(By みてみん)「…………♪」

挿絵(By みてみん)「…………♪」


 気が付けば、キットとノノワがこちらを『ニヤニヤと』眺めている。



挿絵(By みてみん)「……」


 一方シルヴィは、流石にけげんな顔でこちらを見るのであった。



      * * *



挿絵(By みてみん)「……今宵は、こちらにて宿を取ります。」


 シルヴィがそう言ったこの場所は、アカデミーの『別荘』のようなものであった。

 王都の近郊や、有名な保養地などにこういう場所が幾つかあるらしい。

 アカデミーはギルドの一種であるが、その経済力と権力には圧倒的なものが有る。

 構成員の福利厚生のために、自前でこのような施設を抱えているのだ。


 今回は特に、『光の聖女』『グンマーの姫君』という賓客を迎えている。

 その警備は、いつにも増して厳重なものであった。

 警備の魔法使いが詰め、警戒用の魔法結界が幾つも張り巡らされていた。



挿絵(By みてみん)「……魔法だらけの、物凄い警備ですわね……。」


挿絵(By みてみん)「ちょっとピリピリしています。」


挿絵(By みてみん)「ざわざわ騒がしいことだ……ったく。」


挿絵(By みてみん)「まあ、その分こちらは安心していられる、我慢しよう。」


挿絵(By みてみん)「うるさいのだ、眠りが浅くなりそうなのだ……。」



 明日の朝にはお別れということもあり、ルミナ達は既に別の建物に泊まっている。

 とりあえず、今夜はしっかり休んで明日に備えよう。



 ベッドに入ると、意外と疲れが有ったのか、私は直ぐに眠りに落ちた……。



      ◆ ◇ ◆ ◇ ◆



挿絵(By みてみん)「…………さ…ま……ご主人様……」

挿絵(By みてみん)「……さま……主様…主様。」


 何かの感触を感じて目を覚ました。

 気付けば、キットとアルスラの顔がすぐそばにある。



挿絵(By みてみん)「…………何か」


 問おうとしたとき、アルスラが口をふさいでくる。

 彼女は指を自分の口に当てた、「静かに」ということらしい。



挿絵(By みてみん)「(小声)……何事だい……?」


挿絵(By みてみん)「ご主人様、どうも様子がおかしいようです。」


 キットが答える。いつになく真面目な表情だ。


挿絵(By みてみん)「……微かですが、気配を感じます。」


 アルスラもそれに続く。



挿絵(By みてみん)「それと……『殺気』も……。」




挿絵(By みてみん)「……!!」


 なるほど、どうやらこれは寝ている場合ではないようだ。

 私は、急速に意識を目覚めさせる。



挿絵(By みてみん)「ノノワは……ああそれよりもポンデを……!」


挿絵(By みてみん)「勇者様、ポンデならここなのだ。」

挿絵(By みてみん)「師匠、私も起きていますわ。」


 どうやら、私が一番最後であったらしい。

 こういうとき、つくづく自分は『戦闘向きでは無い』と感じる。



挿絵(By みてみん)「まずは、『状況』を確認だな。ここの警備のほうは、どうなんだ?」


挿絵(By みてみん)「……警備は、何も動きがないようですわ。」


 ノノワの真剣な表情。



挿絵(By みてみん)「私も『魔力検知』で見てみましたけど、何も感じられませんわ。」


挿絵(By みてみん)「…………」



挿絵(By みてみん)「でも、私達の『勘』では何か変な感じがします。」

挿絵(By みてみん)「この感じは前にありました主様。獣が暗闇からこっちを伺っているあの感じです。」


 ふむ……となるとやはり良く分からないな、だが……



挿絵(By みてみん)「およそ『戦い』に関して、アルスラの勘が外れる訳が無い。ということは、本当に『何か』が来ているんだろう。」


 私は、独自に判断をする。




挿絵(By みてみん)「……手を打とう。最悪、自分達だけで何とかしよう。」


挿絵(By みてみん)挿絵(By みてみん)挿絵(By みてみん)挿絵(By みてみん)「はい!」


 小さな声だったが、全員が強く答えた。





 キットが扉近くの壁に耳を付け、様子を伺うと、


挿絵(By みてみん)「何人か近付いて来るようです……四人ぐらい?」


挿絵(By みてみん)「……! そうか、なら……」


 私は、アルスラを見て、その後うなづく。

 アルスラも、無言で返事をする。




 彼女は靴を脱ぎ、槍を準備した。そして私達は、それぞれ配置に付く。





 暗闇の中、寝室には音もしない。

 やがて何故か扉が開くが、それでも音はしない。

 そして、黒尽くめの人間が入って来る、やはり音を立てずに。



 その場は、静寂だけが支配していた。



 その者たちは、ベッドの上の膨らみを確認すると、短刀を取り出す。

 刃が、かすかな月の光に瞬いた。


 すぐさま、短刀がベッドに向け突き立てられる。

 だが、感触がおかしい、人というものはもっとごつごつしているものだ……



 そこに、光が煌めく。


 一つ、下から突き上げてきた。

 二つ、右から襲い掛かる。

 三つ、左斜め下から。

 四つ、後ろから一突き。




 重たい音がして、襲撃者が崩れ落ちると、やがて唯一つ残った人影が、呟く。




挿絵(By みてみん)「……主様、片付けました。」


 瞬間、その場の緊張が解かれたような感覚があった。



挿絵(By みてみん)「よくやった、アルスラ。」


挿絵(By みてみん)「……全員無事か? 状況を確認しよう。キットは死体を見てくれ、十分に注意して。」



挿絵(By みてみん)「はい、ご主人様…………大した物は無いですね、やはり。」


 キットが手早く調べて答えを返す。



挿絵(By みてみん)「まあ、暗殺者が身元のバレるようなもの、持ってる訳無いですが……おっと、これは何かな?」


 キットが、死体の胸元から首飾りのようなものを取り出して来た。



挿絵(By みてみん)「これは……『護符(アミュレット)』……??」


挿絵(By みてみん)「の、ようだね。もしかしてこれが……」


 その『護符』は、簡素な木の作りであったが表面には複雑な『紋様』が刻み込まれていた。恐らく『魔方陣』の一種だろう。



 私はここで、今まで疑問に感じていたことを口にする。


挿絵(By みてみん)「多分『コレ』が、魔力検知が働かなかった理由だ。魔法を『無効化』出来るんだと思う。」



挿絵(By みてみん)「……なるほど。」

挿絵(By みてみん)「それは、厄介ですね。」

挿絵(By みてみん)「…………」

挿絵(By みてみん)「勇者様……。」



 『敵』は、周到に準備をしているようだ。


 相手が『魔法を無効化出来る装備をわざわざ揃えて来た』ということ。

 つまりこれは、『対魔法使い向けの戦闘を想定していた』ということでもある。

 これが、私すなわち『オオグンタマー卿のみ』を対象にしていたなら良いのだが、いくらなんでもそれは『楽観的に過ぎる予想』と云うものだろう。




挿絵(By みてみん)「どうやら相手は、『アカデミー』と一戦交えるつもりらしいね。」


挿絵(By みてみん)挿絵(By みてみん)挿絵(By みてみん)挿絵(By みてみん)「…………」


 ややあって、皆が嘆息する。



挿絵(By みてみん)「……ならばここは危険だ、直ぐに逃げよう。皆も準備を。」


 私は決断した。



挿絵(By みてみん)「さっきの奴らの武器と『護符』は全部回収しよう。後で何かの『証拠』として使えるかも知れない。」


挿絵(By みてみん)「……その短刀は、毒が塗られているかも知れないから、注意して。」


挿絵(By みてみん)「はい、ご主人様。」


挿絵(By みてみん)「荷物をすぐにまとめますわ。」


挿絵(By みてみん)「姉様、ポンデにも『槍』を。ポンデも戦うのだ。」


挿絵(By みてみん)「……うむ、私の予備を使え。」


 直ちに、それぞれが、それぞれの役目を果たそうとする。

 恐らくこの中では、私が一番の『役立たず』なのだろう、ふとそう感じた。



 だが、何か『大事な事』を忘れているような……



挿絵(By みてみん)「……いけない! ルミナが危ない……!!」


 少しして、私はようやく思い出した。



 波乱の一夜は、まだ始まったばかりのようだった……。

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