終話
「ねえねえ…例の連続殺人の犯人って捕まったの?」
「ううん。でも事件はぱったりと止んだらしいよ…不思議だね」
「まあ終わったならいいんじゃん? そのうちTVで何かいうよ」
昼時の教室は今日も変わらず賑やかだ。その喧騒を片耳から入れて流しながら、真紅はぼ頬づえをついてボンヤリと爽やかな青空を見つめていた。天気が良いのは良い。昼寝に最適だ…。
(そのうち事件も自然に忘れられるわ…そういうもんだもの…)
「真紅」
不意に自分を呼ぶ声がした後、目の前にふと影が落ちる。仕方なしに視線を向けると、そこには包みを抱えた紅が居た。彼は目の前の机に手に持っていた弁当をトンと置き、一緒にあったイスの馬乗りに座った。そしてイスの背に組んだ腕を乗せて、顎を置いて視線を上げる。昼間の瞳は赤銅色だ。夜に相応しい紅色の瞳も良いが、昼間のその濁った赤も実は嫌いではないと思う。じぃ、と見つめてくる瞳が何となくイラ、としたので取りあえず奴の頭を引っぱたいておいた。いってぇ! 頭を抑えた紅が悲鳴を上げてこちらを見上げる。
「何すんだよ!」
「別に何となくよ」
「何となくで人を引っぱたくな!」
「アンタはいいの!」
「ったく…ホレ弁当持ってきたから喰いに行こうぜ」
そう言って机に置いていた赤と黒のチェックの弁当包みの先を摘んで真紅の目にぶらぶらとぶら下げる。見て直ぐに分かる、それは紅お手製のお弁当だ。その味は自分より上をいく。味を知っているのでその魅力には抗いがたく、ぐ…息を詰まらせた真紅はしばらくして俯くとそのまま黙って首を縦に降ろした。その様子によし、と満足そうに笑った紅はそのままもう片方の手を真紅に差し伸べた。
「行くぞ」
その手を黙って取ると、ぐい、と身体が持ち上げられる。く…なんか目の前にニンジンぶら下げられた馬みたい…でもあの弁当の誘惑にはいつも逆らえないのだった。
「待ってよ紅!」
教室のドアがパタリと閉じられると、いつもの様に一瞬沈黙が訪れ、そしてわぁと二人の話題で持ちきりになるのは、此処だけのお話。
―終―
軽く見てもらえるものだったのに続編が出来ました。反響があればまた載せたいと思います。