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〝絶対的矛盾〟

「ひさしぶりだね。此処に来るのは。」

一面の白だ。

「ここは何処――」

そう疑問を口にしかけて、止めた。

僕は知っている。

見上げれば黒の時計。

指し示す刻限は『6.20.23』。

僕は知っている。

「あの時計、全然進んでない…?」

僕は仔細に34857269034728460回の日常の事は憶えてはいないが、あれだけ大きな数字なら七日間などとうに過ぎているだろう。

「違う違う。34857269034728460日過ごしたんじゃないよ。」

少女は手を振った。

僕は首を傾げる。

「言っただろう?34857269034728460回の日常を〝繰り返した〟のさ。つまりは時計は進んでは戻り、進んでは戻りを何回もしたということだね。」

「そういうことか。」

「そういうこと。」

いまいち理解はできないが。

それで、と少女は続ける。

ほんの少し拗ねたように。

「いい加減〝少女〟って描写をやめて貰えないかな?僕には名があるんだ。」

僕は一瞬驚いて、笑う。

「君はそんなことを気にする性質なのかい?自分で考えた名だろうに。」

「えー。じゃあ、ニンゲンが考えてくれよ。とっておきの可愛い名前をさ。」

「え?」

突然の切り返しに僕は黙り込む。

名前なんて付けたこともない。

ただの個体を判別する為のモノ。

意味なんてない。

僕が小学生の時の話をしよう。

クラスでうさぎを飼うことになった。

黒と白とグレーの三匹のうさぎに生徒は夢中になった。

先生が言った。

「みなさんで可愛い名前を付けてあげて下さい。」と。

クラスの皆は大興奮しながらあれやこれやと名を考えた。

「君はなんていう名前を考えたの?」

先生が僕に問うた。

「クロとシロとグレーで良いと思います。」

僕は面倒臭がりだった訳ではない。

本当にそれでいいと思ったのだ。

クラスメイトは一瞬水を打ったように静かになると、一斉に反論した。

「単純すぎ。」

「うさぎが可哀そう。」

「もっと考えろよ。」

「おかしんじゃねえの?」

「可愛くない。」

僕はクラスメイトの言葉を噛みしめて一生懸命考えた。

考えて、考えて、考えた結果、解らなかった。

「知ってるよ。君が名に関して致命的な欠陥を持っていることはね。敢えて頼んでるんだ。」

少女は意地悪そうに笑う。

「考えなかったら?」

「時計を止める。というか消す。」

黒の時計の消失。

それは時間の概念の消失を意味する。

普通ならそんなことはできない。

「そう、僕は全知全能だ。だから、できる。」

「絶対持ち上げられない石を創ることも?」

生まれるのは絶対的矛盾。

できる訳がない。

「忘れたかい?〝想像〟してみるといい。名前は後回しにしてあげるから。」

少女はこともなげに言った。

〝想像〟する。

絶対に持ち上げることのできない石を。

〝創造〟する。

絶対的矛盾を孕んだ命題を。

現れたのはそこらに在るのとなんら変わらない石。

だが、〝想像〟した通りならこれを持ち上げることは誰にもできない。

「では、持ち上げてみませう。」

少女は小さく胸を張って石に指を掛ける。

ひょい。

持ち上がった。

「やっぱり〝絶対に持ち上げられない石〟なんて存在しないんじゃないか!」

僕は少女に問い詰めた。

「ノンノン。此処は〝想像〟したものが〝創造〟される世界だよ?」

少女は意味ありげに指を振る。

「だから僕は〝絶対持ち上げられない石〟を〝想像〟した。」

「〝想像〟したものが〝創造〟される。つまり――」


「〝想像〟できないモノは〝創造〟できない。」


「僕を殺そうとした時もそうだ。〝死〟を〝想像〟できなかった。」

「〝絶対に持ち上げられない石〟と〝全知全能の僕〟。二つを比べたときたまたま君の中では僕が勝ったんだろうね。他のヒトで試したら結果は違ったかもしれない。理解したかい、ニンゲン?」

僕は不満げに頷いた。

一度でもこの少女の鼻を明かしたいと思ったのに。

「おや、不満そうだね。では、サービスだ。全知全能の僕がその石を〝創造〟してあげよう。」

気付けば僕の足元に石が顕現していた。

見た目は先程の物とさして変わらない。

「ためしに君が持ち上げてみ給え。」

ドヤ顔の少女が言う。

本当に自信たっぷりといった顔だ。

手の平大の石を掴む。

――全く動かない。

重いというか、そこに在ること以外を拒絶するかのように数ミクロンも動く気配を見せなかった。

「では、僕の番だ。」

僕は下がると、少女に場所を譲る。

少女が石を掴む。

石が

  持ち

  あ

 が


 っ


■■


 ■




 ■■





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〝絶対的矛盾〟ってなんだろうね?

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