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〝開演〟

「どうだい?君の言う絶対的矛盾の味は?」

少女は問う。

僕に答える余裕はない。

地に伏して嘔吐していた。

頭痛が脳内で反響し、耳鳴りがする。

嘲笑が頭上から響く。

とびきりご機嫌なようだ。

「理解できないことは理解しない。これ、重要だと思うよ?僕は。」

僕が見た事象を表わす言葉は存在しない。

いや、在ってならない。

「そう、君には在り得ない事でも僕には在り得る。それで良いんだ。」

痛む頭を押さえながら、立ち上がる。

「参考までに聞くけど気分は?How are you?」

「最悪だ。もう沢山だ。」

「残念。クルタ族にゼノンにシュレディンガー、役者はまだまだたくさんいるのに。」

「勘弁してくれ。」

「じゃあ、名前。」

少女はねだるように僕に手を差し出した。

僕は考えた。

何かしらの食べ物を摂りながら一時間程。

『6.19.57』

「決めた。」

僕は少女を見据えて言った。

「なんだい?早く聞かせてくれ。」

期待で瞳が爛々に光る。


「アンノ」


華やぐような笑顔がこぼれる。

「アンノ。あんの。Anno…」

飛び跳ねてくるくる回って喜ぶ。

「名の由来は?」

「正体不明。Unknownから。」

「なるほど。素敵な名前だ。とっても良い。うん、素敵だ。」

うんうんと満足そうに頷く。

口元は緩みっぱなしで口角は上がりっぱなし。

ご機嫌の中のご機嫌だった。

「アンノ、気に入ったよ。本当に。君の願いをうっかり一つ叶えちゃうぐらいいい気分だ。」

「君は魔法でも使えるというのか?」

「さてね。魔法かどうかを判断するのは君次第だよ。」

何だか曖昧にされているような気がして腑に落ちなかった。

「〝十分に発達した科学技術は、魔法と見分けがつかない。〟って誰かが唱えてたよ。」

「?」

「つまり、僕が当たり前にできることが君にはできないってだけさ。単純だろう?」

にっこりと微笑むと僕の胸に手を当てる。

「何だよ?」

「ご褒美だ。行ってらっしゃい。」

その瞬間僕の身体は物凄い速度で彼方まで飛ばされる。

まるで全てを置いていくかのように。

再上演リバイバルを楽しむと良い!」

それでもアンノの声は僕の耳元で響いていた。


「おい、君。起きろったら。」

肩を揺らされて瞼を持ち上げる。

呆れた表情の少女が僕を迎えた。

「ここで眠ってもらっちゃ困るよ。ボクの場所なんだ。」

これが、僕と彼女の出会いだった。

「なんだよ、誰が決めたんだよそんな事。」

僕は高台のベンチで微睡んでいたところだった。

落ちていく日を見ながらそのまま眠ってしまったようだ。

僕は心地よい睡眠を邪魔されて少々機嫌悪そうに言った。

「ボクが決めたんだよ。さあ、退いてくれ。」

ぐいぐいと僕を横へやると躊躇いもせず隣に座った。

「強引だなあ。友達失くすよ?」

僕は半ば呆れて呟いた。

「持ってないものは失いようがないだろ。はい、論破。」

少女は此方を見ることもせずにノートを広げ始めた。

よく見ればそれはスケッチブックだった。

女の子が持つには不釣り合いなぼろぼろの灰色の鞄から画材一式を取り出すと、ラフを始める。

その工程は実に鮮やかなもので目を瞠るものがあった。

おぼろげな楕円だったものが子細な形を与えられ、最終的には美しい夕日へ。

僕はその作業を横からじっと見ていた。

というか、目を奪われていた。

それほどに少女の所作には美しい何かがあった。

目に視えるものではない、何かが。

「ふう、こんなものか。君まだいたのか。」

此方の事などとうの昔から見えていなかったらしい。

「あんまりにも綺麗な絵を描くから。」

正直な感想だった。

「そりゃあボクは天才だからね。およそ何でも熟すのさ。」

少女はさも当然という風に答えた。

「その自信の在り処を僕は知りたいね…」

「冗談だよ。そういうのは笑って突っ込みを入れるのが礼儀だぜ?」

「少なくとも僕にはそんなことを期待しないでくれ。」

そうやって身の無い会話をいくらか続けた。

少しするとチャイムが響く。

六時を知らせるチャイムだ。

「良い子はお帰りの時間だよ?」

「ボクは悪い子だからもうちょっとぶらぶらしてから帰るのさ。」

「そうかい。僕は帰るよ。」

僕はベンチから立ち上がると帰路に着く。

そういえば、名を聞いていなかったと思い出して振り向く。

――少女はつむじ風を残して消えていた。

これより〝開演〟。

これは少年の恋物語――?

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