↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
15/15

XV. 無限のデータ・オーシャン


「組織」がその肥大化した自己防衛機能を最大化させるとき、それは国家権力という名の冷徹な物理的暴力となって、反抗する個人を圧殺しにかかる。


二〇三六年、冬。街を占拠した若者たちの「電子の城壁デジタル・バリケード」に対する、国家の最終鎮圧作戦が開始された。


午前四時、電波妨害を無効化する軍用仕様の防衛省ドローン編隊が夜空を埋め尽くし、機動隊の大型装甲車がスクランブル交差点のバリケードを次々と押し潰していった。


「マリウス! しっかりしろ、マリウス!」


若者たちの指令本部であった地下室の崩壊した瓦礫の中で、ウーティス・バルジャンは叫んだ。


国家の自動鎮圧兵器が放った催涙弾と電磁パルスの嵐の中で、コゼットが愛した青年マリウスは、頭部から血を流し、意識を完全に失っていた。周辺の通信網は警察によって完全にクローニング(制圧)され、もはやSNSによる外部への救援要請も不可能だった。


地上の退路はすべて、顔認証カメラを搭載した機動隊の包囲網によって完全に封鎖されている。


「ここでこの青年を死なせるわけにはいかない。あの子の未来を、コゼットの幸福を奪わせはしない」


老境に達したウーティスの肉体に、かつてカストル徒刑場でクレーンの鉄鎖を支え上げたあの「王の怪力」が再び蘇った。


彼は動かなくなったマリウスの身体をひょいと担ぎ上げると、部屋の隅にある重厚な鋳鉄製のハッチへと向かった。


そこは、明治期から昭和、平成を経て、地下深くに入り組んだ「旧都心通信管レガシー・ダクト」の入り口であった。


現代の光ファイバーや5Gの基幹回線のさらに下層に埋もれた、防犯カメラもGPSの電波も一切届かない、都市の「物理的な死角ホワイト・スペース」である。


ウーティスはハッチの錆びついたレバーを、その圧倒的な腕力でねじ切るようにして開けた。


それは、かつてオデュッセウスが故郷へ帰る旅の途上で、予言を求めて足を踏み入れた「冥界下り(ネキア)」そのものの光景であった。ウーティスはマリウスを背負い、冷たい泥水が流れる暗黒の迷宮へと、その身を投じた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。