表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
25/30

昼_闘技場


「勝者、朱真!」


 幾度目かの勝ち名乗りを受け、朱真が馬上で礼をする。

 試合の空気に慣れたのか、馬が飽きて大人しくなったからか。

 この試合はまさに、目指す通りの勝利を収めることができた。あの日、紅信が見せていたような、完璧な試合運びで。

 割れんばかりの歓声に応え、通路へと引き下がる。

 勝ち進むごとに、声援は増えた。

 朱真の強さもさることながら、やはり注目の的は馬の方だった。会場にも、孔族の神馬ではないか、という噂が広まっているらしく、それも人気に一役買っているようだ。もちろん、朱真には、その噂を否定して回る義理はない。

 今では、声援の数も大きさも、二大会連続の優勝者である朱塊よりも上かもしれない。まぁ、朱塊の場合は、試合内容以外の減点が大きいので、そんなことで勝っても自慢にもならないが。

 その朱塊も無事に勝ち進んでいるようだった。内容は見ていないが、だいたいわかる。いかにも槍術大会に特化した、競技専用とも言うべき戦法だった。

 例年よりも多くの出場者を集めた今年の大会だったが、残っているのは後二人。

 次は、いよいよ、朱壊と当たる、決勝戦だ。

 ここまでは、綺麗に筋書きをなぞって来ている。後は、仕上げを残すのみ。



 馬を馬房へ戻し、一息つく。

 思ったよりも、疲れていた。気づかないうちに、緊張していたのか。

 調子への影響を考えて、昼食を抜いたのが響いているのかもしれない。

 革鎧の金具を緩め、備えつけのベンチに座る。温い水を一気にあおった。

 そこへ、朝にも聞いた声が。


「調子良さそうだな、朱真」

「――――お前の控え室はあっちだろうが、王者殿」


 今は面倒な奴の相手をしてやれる気分ではない。

 拒絶の意味も込めて、上を向いたまま、目を閉じる。


「おや、随分と疲れているようだな。やはり素人には、体力の配分がキツいか」


 図星なだけに、その言葉は耳に痛い。

 どうしても、経験がない、というのは大きな差となってくる。

 朱真は、大会への参加は二度目。とはいえ、一度目はそれこそ右も左もわからぬままだった。対する朱塊は、優勝する何年も以前から参加を続けている。


「お前より、二試合多いからな」


 負け惜しみと知りつつ、嫌味を込めて、言い返す。

 朱塊は相手の棄権による不戦勝が二試合あった。一応は、王者の前に戦わずして負けを認めた、ということになってはいるが、どちらも朱家に連なる者だった。


「それも、オレの実力だよ」


 朱塊が胸を張る。

 どう勘違いすれば、誇れるのか。それが朱真にはさっぱりわからない。


 ――――試合よりも、よほど疲れる。


 うんざりと、朱真が口を閉ざした。

 どう声を掛けられようと無視しようと思ってはいたが、意外にも、朱真のその態度に、朱塊からは不満も文句も出てはこず。

 なにやら、ごそごそするような気配を感じるのみ。

 まさかとは思うが、馬装や武装に、いらぬ小細工をされてもつまらない。

 やむなく、朱真が目を開けると。

 そこには、見覚えのない男が、一人、立っていて。


「ここで、王者からの差し入れだ。挑戦者殿はお疲れのようだし、気分転換に、ひとつおもしろいものをお目に掛けよう」


 ニヤニヤと笑う朱塊が、もったいぶった口調で、その男を、朱真の目の前へと押し出した。

 武装したその姿に、朱真には、警戒よりも先に、あの記憶が呼び起こされる。

 それは、紅信の鎧だ。あの日にも、着ていた。

 ぷつり、と。

 わずかに仰向けた、その喉に。

 赤い、一筋。縦に、亀裂が。それが、徐々に、大きく、裂けて。

 一気に。真っ赤な液体が吹き出した。


「ほぉら、すごいだろう! 景芝一の放下師さ。朱真には、泰陽風に、手品師と言わないとわからないかな!?」


 子どものようにはしゃぐ、朱塊の声が聞こえる。

 その液体は、朱真にかかることはなかったが。

 なのに、朱真の視界は、真っ赤に染まっていて。


「おやおや、意外と気が小さいんだなぁ。こんなことで、そんなに顔を真っ青にしたりして。ひょっとして、なにか嫌なことでも思い出したのかい?」


 朱塊の声が、遠のいていく。

 代わりに、大きく、大きく、紅信の――――。


「はははっ! なんだい、朱真。疲れたからって、今眠っちゃ決勝に間に合わなくなるよ! まぁ、いいのか。どうせ出たって、勝てっこないんだしな、お前は!!」


 次々と。全身を余す所なく打ちつける槍と。

 

 ――――庇うのか!! あれを! あいつらを!!


 恨みの籠った、その声が――――


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ