4.過去[6]
大学祭は小さいキャンパスながらも精一杯賑やかに行われた。
軽音楽部のコンサートで一日中構内は生の楽器の音があふれていた。イベントや展示の呼び込み声、屋台の焼きそばやたこ焼きのソースの焦げる香ばしいにおい。
伊知恵は恭一と香苗を遠くから見かけた。香苗は恭一と腕を絡ませ、明るい栗色のロングヘアが恭一の肩にぴったりとくっついていた。
まあ仕方ないか、と伊知恵はうつむいてやり過ごした。
自分は出来ることをするだけだ。
旅研の部室では当番制で写真やビデオ上映、これまでに作ったオフセット印刷のガイドブックの販売を行っていた。
伊知恵は智志と交代する。隣には正樹がいた。
「昼、食った?」
「うん、豚汁とお好み焼き」
他愛もない会話が心地よい。正樹との間に出来た友情の絆が伊知恵をほっとさせた。やっぱり、人とつながるのは心地いい。二年生の先輩の何人かが、呼び込み用のプラカードを交換しあって、外へ出ていった。
後夜祭が終わり、打ち上げが終わり、家に帰ったのは深夜に近かった。
疲れていたにもかかわらず、香苗は何故か目が冴えていた。
(そろそろ、あれ消しとこうかな)
ノートパソコンを開き、少し前にいたずらした写真の入ったフォルダを開く。
恭一はなかなかいい。智志みたいに車もないし、親からおこづかいももらわずにバイトでかつかつみたいだから、スポンサーにもなってもらえそうにないけど、しばらく割り勘覚悟でつきあってみてもいいかも。伊知恵には悪いことをした。あんな風にちょっかい出す必要なんてなかった。この写真だって。
(・・・あれ?)
香苗は画面を見て目をしばたたいた。
(なんで?おかしいなあ)
細工したはずの、恭一の肩に置いた手と伊知恵をにらむ目は跡形もなく消えていた。
ディスプレイいっぱいに拡大してみる。ない。どうして・・・。ふと目を隣に向けて、香苗はぎょっとした。
写真の中の自分の左肩に半透明の手が置かれている。そして右の肩には片方だけの女の目があり、香苗の顔を見上げてじっとにらみつけていた。
(や、やだ、これ何?どういうこと?)
何度見ても変わらない。香苗がどこかの心霊写真のサイトから持ってきた手と目の画像が、いつの間にか恭一と伊知恵から自分のところに移動してきている。
(最悪!ありえない、こんなの)
画像を選択し、ゴミ箱のアイコンに移動する。
(え?どうして・・・)
何度やっても、削除できない。
カチカチカチカチ。
香苗の神経質なキータッチ音が静かな夜更けの室内にいつまでも響いていた。




