↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
10/58

1.十四年目[6]

 車はいつの間にか急な山道を抜け、広い国道に出ていた。のどかな田畑の風景が、次第に建築物中心になってくると、車の数も徐々に増えてきた。次第にあたりが建て込んで、あちこちから細い路地が国道に突き出してくると、伊知恵は緊張した。田舎道は得意だが、混み合った市街地はほとんど運転したことがない。雨は相変わらず降っているし、歩道が狭いので自転車が当然のように車道を走る。前や後ろに小さい子供を乗せている若い母親もいる。バイクが車の間を縫って先を急ごうとする。信号の数も増えてきた。下校時間なのか、ランドセルを背負った小学生が多くなってきた。

 口数が少なくなったのを見て、恭一が気を利かせてナビを先取りして口頭で案内してくれたので、伊知恵はずいぶん助かった。交差点でも細かく車や歩行者の動きを見てくれる。カーナビの時計は午後四時を過ぎていた。

「バイト、何時から?」

「七時から。大丈夫、全然余裕だよ」

 恭一はそう言って伊知恵を安心させた。解散場所の大学までは、ここから小一時間というところだ。どんなに道が混んでいても、二時間はかからないだろう。

「いっちゃんは駅前のスーパーでバイトしてるんだよね。何度か見かけたことあるけど、レジが違ったから声かけなかった」

「時々、先生や知り合いの学生が来てるけど、恭一くんは見かけたことなかったなあ」

「俺、影薄いからなあ」

 恭一はあはは、と笑った。軽いジョークとわかっていても、伊知恵は思わず強く否定してしまった。

「そんなこと、ないよ!」

 恭一が影が薄いなんて、あり得ない。伊知恵はかなり遠くからでも、恭一がいればすぐわかる。それほど背は高くないけど、涼やかな目元、少し尖った鼻先、笑うと白い歯がこぼれ、本当に楽しそうに笑うので、見ているこちらまで思わず嬉しくなってしまう。影が薄いのは、伊知恵の方だ。

「ああ、びっくりした。じゃ、今度スーパーでちゃんと見つけてくれよ」

 恭一に言われて、伊知恵はさっと頬が紅潮するのを自覚した。

 やがて、見慣れた商店街が道の両脇に広がった。キャンパスはもうすぐだ。正門前は少し広いから、そこで車を停めよう。

「ふぁああ、よく寝た」

 後部座席の弘文を筆頭に、みんな次々と目を覚ました。香苗がバイトない人はこのままどっか行こうよ、と提案してきた。それに乗ったのは智志と弘文だった。正樹は美術部の共同製作の続きがあるので、大学に戻ると言った。伊知恵は昨夜の睡眠不足と慣れない都会の運転で疲れていたので、これ以上は無理だった。

 大学の前で別れ際、智志が恭一と伊知恵にそっと耳打ちした。

「気ぃ使ってやったんだぞう、みんな、ずっと寝たふりして。感謝しろよ」

 え?と戸惑ったが、智志の言う意味が分かって伊知恵は頭がかっとした。何とか平静を保ち、恭一をちらっと盗み見ると、恭一は悪びれもせずに、何だそうだったのか、と笑っていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。