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第三話「希望ノ光ノ巻」

 人間達の沈黙というのは、どこか気まずさがある。

 何でもいいから、誰か喋ってくれ。皆口には出さずとも心の中でそう思っているのだ。それが表情に出る者がいるから、なおの事気まずい。

 対して神が集った際に発生する沈黙は、全員の暗黙の了解の上にある手段である。やはり神というのは良い。人間より遥かに勝っている。

 いや、僕だって神じゃないか。だったら何故こんな所にいるんだ?

 何でこんな所で、人間と共に時を過ごし、不快な沈黙を味わっているのだろうか。

 何で、僕は――。

「……では、私は仕事がありますので、これにて失礼します。さようなら」

 刺客達が会議室から出た後。廊下の真ん中で寄り添う様に集まっていた我々に、雨森さんは事務的な口調でそう告げた。

「あ、私もぉ、仕事あるんでぇ。暇な五反田とは違ってねぇ」

「へん、てやんでい」

 女性二人は職員室の方へ消え去った。

「……じゃ、俺もこれにてお別れしますか。あばよ」

「またね、ターちゃん」

 五反田さんも僕達から遠ざかっていった。玄関の方へ歩いているから、家に帰って今日得た情報を整理したりするのだろう。

 彼の姿が視界から消えかけた、その時。


 ――カランッ。


 何かが、五反田さんのポケットから落ちた。

「あれ? ターちゃん、なんか落とし――」

「しっ! 黙って!」

 みぞれちゃんが焦る訳はすぐに分かった。

 床に軽く打ち付けられたそれ(・・)。朝日を受けてキラキラと光る石。

 それはつい先程見たばかりの、whsだった。

「っ!」

 五反田さんが廊下の角を曲がる。その瞬間、百合が地面を強く蹴った。今までに見た事のない速さで、whsめがけて突進する。

「あ、ちょ、ちょっと!」

 みぞれちゃんは百合のあまりにも素早い動きに不意を突かれた様だった。

 百合はあっという間にwhsに辿り着いた。百合はその石を真上に蹴り上げ、それが落ちてきたところに手のひらを出してキャッチした。

 いつの間にこんな小技が出来る様になったんだか。

「とったどー!」

 百合は石を持ったまま、両腕を振り上げてジャンプする。喜びを隠せないタイプなのだ。

「貴女なんかに取られてたまるもんですか!」

 みぞれちゃんはすかさず百合に詰め寄る。

 whsが願いを叶える条件は、この幼稚園の園児達から一定数の好感度を得る事だ。

 百合がwhsを手にしても音が鳴らなかったという事は、百合は条件を満たしていないのだろう。

 しかし、まだwhsを持った事の無いみぞれちゃんはどうか分からない。もう園児達から充分な好感を得ている可能性もある。

 だって彼女は――魅力的だから。

「えいっ!」

「ふぐっ!?」

 我に返ると百合がみぞれちゃんに殴られていた。

 いかんいかん、考え事をしている場合ではない! 百合のサポートに当たらなくては!

「大人しくそれをこっちに渡しなさいって言ってるのよ!」

「はいそうですかって渡せる訳ないじゃん。あんたイカれてんじゃない?」

「そっちこそイカれてるじゃない! なんの能力も無い素人が刺客とか笑わせないでよ!」

 突然、廊下の隅の小さな机に置かれたロボットのおもちゃが独りでに宙を舞い、百合の頭にゴツンとぶつかっていった。みぞれちゃんの念動力だ。

「いたっ」

 百合が反射的に頭を押さえた。その一瞬の隙をついて、みぞれちゃんは百合に回し蹴りをかました。

「あぐっ!」

 百合は背中を地面に打ちつけて倒れ込んだ。

 しまった、ゴッドパワーのシールドで百合を覆っておけば良かったんじゃないか。そうすればダメージを和らげる位は出来たのに。だが、時既に遅し。

 完全に手の力を緩ませた百合から、みぞれちゃんはwhsをもぎ取った。

「……とったどー」

 少し頬を緩ませて。みぞれちゃんは静かにそう呟いた。

 whsから音が鳴らなかったのが不幸中の幸いだ。

「さあてと、じゃああんたももう戦う気はないんでしょうし。教室に戻らせてもらうわよ」

 みぞれちゃんはくるりと体の向きを変えて、教室に向かって踏み出そうとした。

 その瞬間、彼女の体が硬直した。

「え……」

 廊下の向こうには、数人の児童達がいた。

 全員こちらを見て、みぞれちゃんと同じ様に固まっていた。

「あ、あなた達、その、見てたの……?」

「…………」

 児童達はいっせいに『まずい』という顔をした。

 みぞれちゃんは軽く溜め息をついた。

「仕方ないわね。事情を話してあげるから、この話は絶対に他の人にしない事を約束して。分かった?」

 児童達はもれなく全員首を縦に振った。

「あの……」

 すると、児童達の内の1人が声を上げた。今日五反田さんからの伝言を伝えてくれた女の子だ。

「百合ちゃんは、大丈夫なの?」

「このは、ちゃん?」

 百合は地面にのびたまま言った。

「うん、大丈夫だよ。ねえ、皆。これは喧嘩とかじゃないんだよ。戦いなの。だから、先生に言ったりとかしなくていいからね」

 百合は天井を見つめながら、諭す様にそう語り掛ける。

 戦い。百合は刺客とは何であるかを、少しずつ理解し始めている様だ。

 みぞれちゃんは百合を見下ろして、小さく頷いた。

「そう、これは戦い。どういう戦いかを、これからかいつまんで説明するから。ちょっとあたしの周りに集まってもらえるかしら?」




「……と、いう事なの」

 みぞれちゃんが話し終えると、一人の男の子が勢い込んで叫んだ。

「すげー! かっこいー!」

「え?」

 みぞれちゃんは意表を突かれた様にぽかんとした。

「ほんと? 百合達、かっこいい?」

 百合は壁にもたれかかりながら、気障っぽくニヤッと笑った。全く、すぐ調子に乗るんだから。

「うん、かっこいいよ! 凄いなー」

「ねえ、その刺客さん達って他に誰がいるの?」

「えっと……言っちゃっていいのかしら」

 みぞれちゃんは救いを求める様に僕に目を向けた。

「いいんじゃないかな。どうせバレてもどうって事ないよ」

「そうね。じゃあ言っちゃうけど、刺客はあたしと百合と……雨森先生」

「「「ええ!?」」」

「と、上岡先生」

「「「うわー!」」」

「と、ターちゃんよ」

「「「ええええええ!?」」」

 園児達はいちいち大袈裟にリアクションした。全員身近にいる人ばかりなので、当然の反応だろうけれど。

「メチャ強そうじゃん。2人とも頑張って!」

「私、全員応援する! 上岡先生以外!」

「俺も上岡先生以外応援する!」

 おいおい。

「……あ、あのさ。皆、百合の事も応援してくれる、の?」

 百合は躊躇いがちに、小さな声で尋ねた。

「当たり前じゃんっ」

「百合ちゃん頑張ってね!」

「あ、ありがとう――!」

 百合はパッと顔を輝かせた。いつも一緒にいる僕でさえ、どきりとしてしまう位素敵な笑顔。

「じゃあ原にも言っとかねーとな、花床が刺客だって」

「え? なんでジュン君に?」

「分かってるくせに、ひゅーひゅー」

「おアツいこった」

「や、やだもう、そんなんじゃな……くはないけど」

 そういえば、百合がこんなにたくさんの園児と会話するのは初めて見た。

 大体いつも百合は独りぼっちなのだ。それに、たまに誰かと軽く言葉を交わす事はあっても、必要最低限の話しかしない。

 百合が同じ世代の子と喋って笑顔を見せたのは、あの日以来だ。

 百合のかつての親友が死んだ、あの日――。 

「くおおおおおおおおらああああああ!!」

 その時、耳をつんざく様な大声が廊下中の壁という壁に反響した。

「ひぇぇ!」

「なぁにしてんのあんた達ぃ、ホームルーム始められないじゃないのぉ! 早く教室に戻りなさいぃ!」

 向こう側から上岡先生が近づいてきた。ありえない位口を膨らませて怒っている。僕は吹き出しそうになるのを堪えた。

「はーい」

「ちぇっ。誰が応援するかこのフグゴリラが」

 園児が零した毒のある一言に、僕の口から変な笑いが飛び出た。




「皆さん、おはようございます」

 雨森さんは朝の号令の言葉をもう一度繰り返した。おはようございまーす、と児童達からも威勢の良い挨拶が返ってくる。

「さて、今日は皆さんが年長さんになって2日目に当たります。これからこのクラスの色々なきまりを作っていかなければなりません」

 百合はふぁ、とあくびをした。この子は先生の話なんて真面目に聞いた事がない。

「ですが、それより先に、皆さんがきまりを守っているか確認したいと思います。そこで今日は、持ち物検査をします」

 持ち物検査、か。聞いたところによると、学校などで行う持ち物検査は、生徒達が学校に不要な物を持ってきていないかチェックする為のものだそうだ。

 学校は勉強をする所だから、それも頷ける。だが、僕は幼稚園という所が何をする所か、未だによく分からない。別に何持ってきても構わないじゃないか……。

 ……待てよ。持ち物検査?

 今、みぞれちゃんはwhsを持っているじゃないか!

 という事は、雨森さんにそれがバレてしまう。いや、それだけじゃなくて……!

「はい、では皆さん、ポケットの中までちゃんと見せて下さい」

 雨森さんはそう告げると、一番前の席の子から順番に点検していった。

 同時に上岡さんも、雨森さんとは反対の端の列から点検を始める。

 僕はうつらうつらとしている百合を置いて、みぞれちゃんの席へ駆け寄った。

 みぞれちゃんはさっきから辺りをキョロキョロ見回している。焦っているのだろう。

「みぞれちゃん、whs、どうする?」

「は? どうするって貴方敵でしょ?」

「そうだけど、その」

 そうだ、考えてみればなんで敵に味方しようとしてるんだ、僕は?

「分かってるわよ。雨森さんなんかにこれ盗られたら取り返すの難しいけど、あたしなら簡単だから、でしょ」

「ち、ちが――」

「落合さん」

 冷たく鋭い声が響いた。みぞれちゃんがびくっと体を震わせる。

「さっきから独りで何を言っているんですか?」

「別に、ただの独り言、です」

「じゃあ、貴女から先に調べさせていただきます。宜しいですね?」

 雨森さんはみぞれちゃんに近づくと、彼女のポケットに手をつっこんで、まさぐった。

「きゃっ!」

 ポケットから出てきたのは、やはりwhsだった。

「これ、預からせて頂きますよ」

 一瞬、雨森さんの口元が緩んだ様な気がした。




 坂城区はそれ程田舎とも思えないのだが、夜空がとても綺麗な所である。

 特に街の灯りから少し離れた所なんかだと、よりそれが際立つ。

 光り輝く星は見渡す限り無数に散らばり、月は優しい明かりで僕らを照らす。

 ああ、ずっとここで空を眺めていたい――。

「何ぼけっとしてんの? もっと気ぃ引き締めてよ!」

 百合に激しく体を揺さぶられる。

 時刻は午後六時頃。僕らは今、幼稚園の門の近くの電信柱の裏に身を潜めている。

 勿論、こんな時刻に幼稚園児が独りで外出なんて親が許す訳もない。ので、僕らは一階のベランダからそっと抜け出してきたのだ。

 何故そこまでして夜の幼稚園まで来たかというと――。

「ほんっと許せないあのクソババ……しずくちゃん! とっちめてやる!」

 そう。百合は卑怯な手でwhsを奪った雨森さんに激怒したのだ。

 そして今日中に雨森さんをズタズタのボロボロにして、whsを奪い返すと宣言した。

 しかし、昼間雨森さんは人目につく場所にいる事が多く、そんな場所で彼女からwhsを強奪するのは難しい。

 だから、雨森さんが退社したところを狙って襲い掛かろうという訳だ。

「だけど、雨森さんがwhsを手にしても、音は鳴らなかったね」

「そうね。しずくちゃんってかなり皆からの信頼厚いと思うんだけどなぁ。どれだけ好感度集めなきゃいけないんだか」

 児童達に気に入られるのも、願い事を叶える為の重要な条件だ。

 ……あれ? でも、天界からの依頼は、whsを持ってくる事だけじゃなかったか?

 いや、でも願いが叶えられなかったら流石に意味無いか。

 そうすると、百合が願いを叶えられる様になれば、天界から願いが伝達される運びとなるんだろうか。

 神々の願いとは、果たして最終的にどう収まるのであろう。少し楽しみだ。

「ほら神貴! 来たよ、しずくちゃん!」

 百合の声で現実に呼び覚まされる。幼稚園の門に目を凝らすと、そこから背の高い人影が出ていくのが見えた。

「どうする!? 突撃する!?」

「いや、まずは僕のゴッドパワーで彼女を混乱させるから、百合はその間に彼女のバッグをひったくってくれ。多分その中にwhsが入っている」

「ラジャー!」

 僕は静かに、雨森さんの背後に忍び寄った。

 暗くてよく分からなかったが、雨森さんの私服は地味な感じだった。もっと可愛い系の服でも似合うと思うんだけど……じゃなくて。

 僕は意識を集中させて、一気にゴッドパワーを放った。

 辺りが光に包まれる。それは目がくらみ、何も見えなくなる程の強い光だ。

 僕がゴッドパワーを使って放てるこの技、ゴッドライトとでも名付けておこうか。

 兎も角、僕は光の中から脱出した。光は球状になり、雨森さんを取り囲んでいる。

「っ!?」

 光の中に取り残されたままの雨森さんは動揺している様だ。

「いけ、百合!」

「とりゃっ!」

 百合は光の中へ入っていった。そしてバッグを手にし、僕の元へ戻ってくる。

「えっとどれどれ、な、何これ」

 百合の手により、バッグの中から色々な物が引っ張り出されては仕舞われる。化粧品、メモ帳、歯ブラシ、水筒、例のアレ、ぬいぐるみ……ぬいぐるみ?

「あった!」

 やっと百合の手に、暗闇の中で少し発光しているwhsが握られた。

「よし、早くバッグ捨てて逃げろ!」

 百合はバッグをゴッドライトの中に放り投げ、whsをポケットに入れて一目散に走り出した。僕も彼女に並ぶ。

「≪アングリ―フレイム≫!」

 後ろから雨森さんの魔法詠唱が聞こえた。

「伏せろ!」

「ひっ!」

 しゃがみこんだ百合の頭上を、メラメラと燃え盛る炎が横切った。

「走れ! もっと早く!」

 百合は歯を食いしばって走った。だが、光から飛び出した雨森さんの足は尋常じゃない程早い。

 駄目だ。直線距離じゃすぐに追いつかれる。どこか逃げる所は――。

 そうだ、マンション!

「百合! あのマンションに入れ!」

「う、うん!」

 百合は目の前にあったマンションへと入っていった。雨森さんは当然、まだ追ってくる。

 このマンションがオートロックでない事は確認済みだ。建物の中なら、雨森さんを撒く事も出来るかも知れない。

 入口から郵便受けの辺りを通り過ぎた百合は、階段とその隣にあるエレベーターの前で一瞬止まった。

「階段上れ!」

「ラジャ!」

 この子は階段を走るのが普通の人よりちょっと早い。平面上で勝負するよりはこの方が有利だろう。それに、エレベーターなんか使うと閉まる前に雨森さんが入ってくるだろうし。

 タッタッタッタッタ、タッタッタッタッタと、2つの足音がマンション内に響いた。だが、段々と片方の足音が遠くなっていく様に思える。

 2階、3階、4階、5階……。上へ行くごとに、百合の息が荒くなっていく。

「神貴ぃ、百合、もう……」

「分かった、次の階でどこか物陰に隠れろ!」

「うん!」

 百合は7階で止まり、階段からは丁度死角になる壁にもたれかかった。

 息を殺して待っていると、足音がすぐそこまで聞こえてきた。

 その足音は一瞬、遅くなった様な気がしたが、すぐまた元のリズムで上へ駆け上がった。

「百合、出来るだけ静かに階段下りろ」

「うん」

 百合はそろりそろりと、しかし少し速く階段を下りた。

 6階、5階、4階、3階、2階……。よし、あともうちょっと。

 しかし、安心するのはまだ早かったのだ。

 百合は1階へ下り、玄関の方を向いた。

 そこには雨森さんがいたのだ。

「えっ!」

「≪フリーズ≫」

 その一声で、百合の足元が氷で覆い尽くされた。

「な、何これ!?」

 百合の足首は氷に埋まって固定され、彼女は強制的にそこから動けなくさせられた。

「くっ……! 先生、どうやって」

「簡単です。貴女の足音が聞こえなくなったので7階に隠れて下りていくつもりだと判断し、8階のエレベーターに乗ってここまで下りてきたのです」

 ああ、そうか。確かに簡単だな。僕はもう観念した。ごめん、百合。また失敗だ。

「さぁ、whsを返してもらいましょうか……と言いたいところですが。奪い返しに来られても面倒なので、いったん気絶してもらいますね」

「なっ!?」

「大丈夫です、加減しますから」

 雨森さんの目の色が変わった。まただ。またアレが来る。

 今度はもう、奇跡は起こらない。


「ゴッド・オブ・ザ――」


「あ~ら、もしかして雨森先生?」

 とその時、雨森さんの背後からおばさんが近づいてきた。

 その瞬間、百合の足を束縛していた氷が一瞬にしてとけて、なくなった。

「あら、佐田さん。こんな所で会うなんて、奇遇ですね」

 雨森さんは戦闘態勢を崩し、おばさんと話している。

「あれ、このはちゃんのお母さんかな? 顔が似てるし」

 百合は小声で僕に言った。

「いやいや、そんな事考えてる暇じゃないだろ! チャンスだよ、早く逃げろ!」

「あ、そっか。えっと……お願い、助けておばさん! 雨森先生がぶってくる!」

 ん?

「え?」

 おばさんの顔が硬直した。

「あ、違うんですよ。この子ったら妄言ばかり吐いて、困ったもので……」

 流石の雨森さんにもこれには焦っている様だ。成程、百合も中々の策士だ。

「よし、自然な流れだ! 抜け出せ!」

「もう嫌ぁぁぁぁ!!」

 百合はマンションを飛び出した。

 住宅街を走って、走って、走り抜けて。

 もうこれ以上走ったら倒れるんじゃないかという位、百合は雨森さんから逃げた。

 それでも百合はまだ止まらない。

 雨森さんの姿は見えないから、もう彼女が追ってくる事はないのだろう。きっと、あのおばさんに質問攻めにでもされているんだ。

「百合、もう大丈夫だ」

 僕がそういうと、百合はやっと止まった。そして膝に手を当て、吐くみたいにして息をした。

「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ……」

「お疲れ様、百合。ミッション成功だ」

 百合は少し顔を上げて、片手をチョキの形にした。

 僕もチョキをつくる。

「ピース」

「ブイ」

 同時に言葉が口をついて出たのに、違うものだったので、僕らはケラケラと笑い出した。

「これ……なんか、綺麗だね」

 百合はポケットからwhsを出した。透明で、少し黄金色に光っている、神秘的な石。

「本当だな。初めてこれを落ち着いて見られたよ」

 改めて見ると、石とは思えない程綺麗だ。

 でも僕は、これに負けない位綺麗なものを知っている。

「百合……見てごらん、空」

「わあ……」

 星はさっきよりも数が増え、月は煌々と光っている。

「ねえ、神貴」

 百合はwhsをしっかりと握り、それを空にかざした。

「こうするともっと綺麗じゃない?」

「ああ……そうだな」

 夜空に溶け込んだwhsのあの光。

 僕はいつまでも、忘れない。




「百合いいいいいいいいいいいいいいいい!! どこ行ってたのよこんな遅くまでっっっ!!!」

 玄関のドアを開けると、百合の母親が仁王立ちしていた。

「ひゃうっ! あ、あのー、ちょっと幼稚園に忘れ物をー」

「そんならお母さんに言いなさいよこの馬鹿娘ぇっ!!」

「ひ、酷いよぉ」

「本当の事でしょうが!! 罰として、1週間朝昼晩ご飯抜きにします!!!」

「ちょ、ちょっとそんな事したら死ぬじゃないのよー!」

 百合にとっては刺客よりも、お母さんの方が怖いんだろうな。

 本当やれやれだ……。

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