第12章 見える隠密
第12章 見える隠密
―1―
「裏葉―、・・・顔汚いよ」
「ったく・・・あんたは空気とか読めないの・・・・」
ギタコは裏葉にかけよると、服の袖で裏葉の顔をぬぐいだした。
「こいつが・・・見える隠密だってのか・・・」
真っ白な髪、カメレオンのアニマルパーカー、そして背中に背負われたギター、そして、どこか間の抜けたしゃべり方。髪の色は違うが紛れもなくギタコそのものだ。
「裏葉、ごめん・・・」
「何よ改まって・・・、もうちょっと早く来てればとか責任感じてるの?」
「・・・」
何か罪深い顔を浮かべるギタコの頭を裏葉はそっとなでた。
「あんたはあたしのいいつけをちゃんと護っただけでしょ?それにちゃんと来てくれたじゃない・・・」
「裏葉ぁ・・・」
今にも泣き出しそうなギタコにそっと笑いかける裏葉だったが・・・
「あんた・・・、その口のまわりについてるのって・・・」
「ギクッ・・・、これは・・・、その・・・」
口の周りをを舌でなめ回し証拠隠滅をはかろうとするも、生徒会室に戻り大切に保管してあるメルへーヴェルの缶の指紋の検査でもすれば、間違いなく犯人を特定できる。白銀財閥の力をもってさえすれば・・・
逮捕令状を突きつけられたかのように怯えるギタコは苦し紛れに、
「自分の体の中には、自分の知らない間にクッキーを食べちゃうようなもう一人の自分がいるんだよ」
「・・・、後でたっぷりとね」
これ以上ないと言わんばかりの裏葉の笑顔は二月に無理矢理咲いたひまわりのようだ。
「それよりも・・・、あいつを何とかしないとね」
「うわぁー、大河原 敦信だぁ。あれまじもん?」
「大河原 敦信ってだれよ・・・」
大河原 敦信、日本を代表するプロレスー。別名「ちゃぶだいの魔術師」。必殺技は相手の体を一回転させリングに叩き付ける「地獄ちゃぶだい巡り」
『日本プロレス名鑑』
「年のわりには随分と渋い趣味なのね」
「大河原 敦信が・・・おねぇ?」
無理もない。何の事情も知らないギタコから見れば屈強なプロレスラーが語尾に「のね」なんて言葉をつければ、そっち系の人に思うのも仕方がない。
「違うわよ。そいつは権利能力者、それも人格形成権のね。元は寒凪 流麗って女よ」
「人格形成権?・・・二十何面相のアレ?」
目を輝かせて見つめてくるギタコに流麗は手を招いた。
「見える隠密・・・、いえギタコ、私と一緒に来なさい。もっとおもしろいもの見せてあげるわよ」
「えーっ、やだー。もう飽きたぁ」
「・・・、あんまり調子のってんじゃないわよ。そこに転がってる男みたいになりたいわけ?」
「・・・わかんないかな?」
急に人が変わったかのように流麗の言葉につっかかった。
「何が?」
「ギタコが頑張ったってンチョみたいにすんごいやつにはなれないってことに」
「ギタコ・・・」
ギタコは裏葉を抱えると明彦の側まで抱えていきそっと降ろした。
裏葉は明彦の体に手を当てると確かな鼓動を感じ取ることができた、それに安心したのか、裏葉の目はそっと閉じた。
「その情けない男が・・・すんごいやつですって?笑わせないでよ。あたしの足にしがみつくとかみっともないまねしちゃってさ。あっそうか、あんたは見てなかったんだっけ?残念是非見てほし」
「見てたんだけど・・・ちゃんと」
だまれ、そんな勢いで流麗の言葉をぶった切った。
「人の話は最後まで聞きなさいよ・・・。じゃあ何?あんたはボコボコにやられてるそいつを見ながら無視してたってこと?非常な女ね」
「人のだっさーい姿ほど、いかしてる姿なんてそう見ることはできないって、ギタコのライブラリーが叫んだのさ」
「ただの同情?そんなんであんたは自分の身を危険にさらすわけ?こんなどーでもいいやつのために?」
「同情?違う。どうでもいい?違う」
ギタコは背中に背負っているギターケースを開け、中入っているエレキギターとヘッドフォンを取り出した。
そしてヘッドフォンを首にかけた。
「じゃあ何?あんたはなんであたしの前に立つわけよ?」
「そんなんきまってんじゃん」
ギターの弦をを一本はじく・・・
「あんたのことがだいっ嫌いなんだ」
軽く慣らすようにギターの弦をいじくりまわす。
そしてその一つ一つの音を確認し終えると、屋上は無音状態になった。
風の音もきこえない・・・、カラスの鳴き声も聞こえない・・・
「随分単純な理由でとてもわかりやすいわ。でも、単純すぎて馬鹿げてる・・・、あんたは貴重なサンプルだから無傷でもって帰りたかったけど・・・気が変わったわ」
流麗は先ほどと同様に紙をライターで燃やす・・・、そして本当の流麗の姿に戻る。
「あんた用にとっておきのがあるんだから」
ポケットからノーカーボン紙を取り出すと一枚はたたんでポケットの中へ、そしてもう一枚は口の中へ・・・
彼女の容姿は幾千の修羅場をくぐり抜けたかのような女傭兵に様変わりした。
「ベル・ザ・ヴァレール・・・。殺した人間は数知れず・・・、使われるだけ使われて、用が済んだら危険人物なんてレッテル貼って刑務所にぶち込まれたかわいそうな元女傭兵。姿を消せるあんたでも戦場のエキスパート相手じゃ分が悪いでしょ?」
見せつけるかの用に地面に拳を突き立てると、見るも無惨にコンクリートの地面は砕け散り、その断片がギタコの方にもいくつか飛んできた。
そんな力を見せつけられても全くギタコは動じていなかった。
「びびって動けなかったのか、それともこれぐらいは予想の範疇だったのか・・・。どっちでもいいわ、すぐに終わるんだから」
拳ほどのコンクリートの塊をギタコめがけて投げ飛ばした、その速さはプロ野球のエースピッチャーのそれを軽々と越えている。ギタコと流麗のその距離は10メートルと離れていない。避けようと思って避けられる距離ではない。
だが、ギタコはその塊をその身で受けるわけでもなく、そして避けるわけでもなく・・・、持っているギターで打ち返した。
打ち返された塊は流麗の顔の横のおよそ1㎝を通り過ぎていった。
間一髪避けたのではない、そして、当たらないとわかっていて何もしなかったのではない。
そのスピードに反応することができなかったのだ。
「お前・・・、こけにするのもほどほどにしろぉぉぉぉぉ」
「うっさいなぁーもう。学校はマナビヤらしいけどみんな叫んでる・・・変なの」
「あんたもすぐに泣き叫ぶ事になるんだよ・・・断末魔をね」
ギタコめがけて一直線に走っていく流麗のその顔は不気味にも笑っている。
それはこれから目の前をぶん殴ったり、首をしためたり、蹴飛ばしたりと非人道的な快楽を楽しむ、という犯罪者独特のもの。
ギタコめがけてナイフのような鋭い手刀を繰り出す。
「サッ」という静かな音と共に何もない、ただの空気の切れる音。
間一髪かわしたかのように思えたが、白い糸の様なものが数本中に舞っている。
「よくかわしたって褒めてあげたいけど、あんたのその長い髪はあんたについていけなかったみたいね、言わばお荷物」
倒れている明彦と裏葉に目をやる流麗。
「ギタコの髪はナチュラルなわけでそんなに重くないけど」
ギタコは自分の髪を思いっ切り引っ張った。
「調子のってんじゃないわよ」
流麗は再びコンクリートの地面をかち割ると、今度はその断片を持ったまま、ギタコに駆け寄ってくる。
「一発屋?芸がないと一年かそこらで消えちゃうよ」
ギターをまるでバットのように構えた。
流麗はギタコの顔めがけて塊を投げつける、そのスピードは先ほどよりも増している。
だが、ギタコには先ほどのとはそう変わらないように見え、持っているギターを高く振り上げると、真正面から一刀両断する・・・が、感触がない?
その塊は一刀両断するどころか粉々に、いやそれよりも小さい砂の粒のようにギタコの前で姿を変えた。
たくさんの粒はギタコの顔全体にぶつかるが、そんなものをくらったくらいで痛いとか感じることはない。
だが、流麗の狙いは別にあった。
「なんだこれー、目が開かないぃー」
砂粒までの大きさとなったつぶはギタコの目を潰していた。
ひるむギタコをよそに、流麗はここぞとばかりにたたみかける。
腹を蹴り上げるとギタコの体はふありと中に舞う。体が限界まであがる前に両手を組みギタコの体めがけて振り下ろした。
「ドゴン」っという音とともにギタコの体は地面に叩き付けられるが、その勢いを殺し切れず、リバウンドする。
そこでとどめの一撃が入る。
「くたばれ」
流麗は体を一回転させ勢いをつけた状態で、ギタコの体をかかとで蹴飛ばした。
軽そうな体を簡単に吹き飛ばされ、中を舞い、静に音をたてて地面の上に落ちる。
さすがのギタコもこれには応えたのか、激しく咳払いをする。
「げほっ、げほっ」
咳とともに少量の赤い液体が一緒になって出てきた。
「余裕ぶっこいてるからそういうことになるんだよ。わざわざ下手なことして」
「こ、これは・・・、いちごにゅーぎゅーなんだけど・・・、げほっ、げほっ。それに、こういうシチュエーションは萌えるらしいよ」
「強がり言わないでよね。何、ピンチがチャンスになるとか思っちゃってるわけ?」
ギタコは答えない。
口の中にある鉄のようなものを必死にぺっぺと吐き捨てている。
「ピンチはピンチでしかないんだよ」
ようやく口の中の異物をはき出し終えたのか、ギタコはゆっくりと立ち上がる。
「ギタコはピース主義者なわけ。世界のピースを今も願ってるの」
「じゃあ、平和的解釈から言えば、あんたが黙って来ることが、一番の世界平和につながると思うけど?」
「・・・、だから」
ギタコの声のトーンが一つ下がった。
「例え大っきらいなあなたにも、ピンタするきにはならないの・・・だから、無理矢理むかついたの」
その言葉を言い終わるとともに、ギタコは姿を消した。
―2―
「見える隠密・・・、これが・・・」
ただ姿を消すという解釈をすればば、裏葉の能力もギタコとそう違うものではないのかもしれない。
裏葉の能力は相手に見えなくするという力。それは見えなくするというだけで、近づいてくる足音も聞こえれば、呼吸する息づかい、極端な話、心臓の鼓動だって聞こえる。
明彦が屋上に到達する前に、裏葉の能力を受けた流麗にはそれがあらかじめわかっていた。だからこそ、いわば本能で戦うという動物的感性が長けている格闘家という姿で対峙し、勝利をおさめる事ができたのだ。
だがギタコのはそれとまるで違う。
足音の音も、呼吸の音も・・・、心臓の音もまるで聞こえない。
全くの無、本当に人がそこにいるのかと疑ってしまうようなものだった。
流麗だって、ここに忍び込まされる前に何も聞かされてこなかった訳ではない、ただそれはあまりにも漠然としたものだった、
『やつは見える隠密だ』
ただ、それだけだった。
流麗だって半信半疑ではあったが今こうして目の前から消えたギタコを見てそのえたいの知れない能力を信じさせられた。
それでも冷静に流麗は分析する。
「キーはギター。そして・・・、能力は自己否定権っていったとこかしら・・・、自分の存在を否定して、自分そのものを消し去る能力、違う?」
「・・・」
「随分ネガティブな力ね、自分の存在否定するとか・・・。こんな能力をうちのボスはほしがってるなんてね。何かと間違えてるんじゃないかしら」
流麗だって下手に手出しはできない、強がってはいるもののこうも完璧に見えない相手を実際に前にすると流石の流麗も相手の出方をうかがうしかなかった。
ギタコが姿を消してからほんの十数秒、流麗は突然体のバランスを崩し、地面の上に倒れ込む。
「っつ、どっから手、出しやがった」
足をおさえる流麗。
頭ではわかっているつもりだった、裏葉とギタコの能力の違いを。
「消える」と「見えなくなる」という違いを・・・
裏葉との戦いのあと、まだどこかで音を頼りにすれば、という様な期待をぬぐいきれないでいたが、これではっきりした。
完全に存在そのものが消えていると・・・
「んだよー、そんな顔して。もしかして、ツチンコでもいた?」
ツチノコならまだその存在信じられる、げんに目撃者だっているわけだ。
だが自分が見えない透明人間を見たといって誰が信用してくれるのだろうか。
後ろから聞こえる声に振り返ると、そこには誰もいない。
「ツチンコ後ろにいんの?」
今度は右の方から声が聞こえたのか、
「黙りなさいよ」
右の方に向かって拳を繰り出すが、むなしく中を切る音だけが響く。
「頭に血がのぼるぅーってやつ?煮えたぎっちゃうよ」
怒りに拳をふるわせる流麗。見えない相手へのどうにもならない怒りを地面に突き立てた。
「出てこい糞餓鬼ぃぃぃぃぃ」
荒れ狂う闘牛のように、血が滲む拳をがむしゃらに振り回す。
その拳からはあふれる血が吹き飛んでいく。
「血ーとんでるよ、傷ばんいる?」
「いるか!んなもん」
「人の好意はうけとらないと」
流麗の体は大きな鉄球がぶつかったかのように、後ろに吹っ飛んだ。
まだまだふざけているギタコとは対照的に、流麗の息遣いは荒くなり、目に見えるほどの力の差がはっきりと現れだした。
「もう帰ろう。日も暮れてるし」
「・・・、これからに決まってんでしょ・・・」
ギタコは少し驚いた・・・。
別に流麗が今もなお強がっているからというわけではなく・・・
それは偶然と言えば偶然かもしれないが、そうではないと流麗の顔は物語っていた。
「なんかやばい感じ?」
余裕を見せる流麗にさすがのギタコもたじろいだ。
「今さら土下座したって遅いのよ」
流麗は走り出す・・・、見えていないはずのギタコめがけて・・・
そしてその先には確かにギタコはいた。
「やばばばばぁー」
慌ててギターを構えて迎え打ち、突っ込んでくる流麗めがけてギターを振り下ろした。
「ドゴン」っと鈍い音が流麗の頭から鳴り響くが・・・
「見つけた・・・ぞ」
流麗の頭からは血がしたたり落ちるも、顔はにやけている。
手探りに自分の前の何かを・・・掴んだ。
「もうぜってー・・・、はなさないからな・・・」
「そんな顔してその台詞は・・・ちょっとあれだよ・・・」
流麗は見えない何かをしっかりとおさえたまま、地面に叩き付ける。
「あんたがレアなのは目に映らなだけ・・・。でも今はシラフ同然」
「ギタコは・・・酔っぱらってなんかなかったけど」
「それがうざいって言ってんのよ」
流麗はもう一度ギタコを地面に叩き付けた。
「はぁ、はぁ、はぁ。あんた今の苦しそうな顔、是非拝みたいんだけどね」
姿の見えないギタコが今どんな顔をしているのか確認できる余地はない。
それでも全く動かず、何も言わない様子を考えると大方の予想はつく。
「いくらあんたが存在を消せたとしても、私の血の臭いまでは消せなかったみたいね」
「・・・、ギタコはナイーブなんだから優しく扱ってほしいん・・・だけど」
「まだ。意識あったの?」
流麗は手探りにギタコの手を探し、そしてしっかりと握られているギターを見つけ出す。
「あんたのキー、発見。しっかり握ってないと私に姿見られちゃうわよ」
このギターさえ壊してしまえばギタコの能力は解除される・・・
必死にギタコからギターを取り上げようとするが、中々手放そうとしない。
「32―ハイドをとらないでー」
「何わけのわかんないこと言ってんのよ、いいからよこしなさい」
一本のギターを取り合っている中、流麗に予期しないハプニングが起きる。
「何よ・・・あんた・・・」
流麗が目にしたの自分の目にはっきりと映るギタコの姿・・・、だが、髪の色は真っ黒だった。
「どうなってる・・・」
その一瞬をギタコは見逃さなかった。
「隙ありぃー」
手で流麗の顔をはたき、ひるんでいるすきに距離をとった。
「どういうこと、あんたの能力は・・・そのギターがキーじゃ・・・」
ギターを壊す前、それ以前にギタコからギターを取り上げるより前にギタコの姿は見えるようになった。そうなった以上、考え得る可能性は一つしかない。
「なんで自分から解除したの」
「賞味期限切れ・・・」
「あんたにそんな余裕ないんでしょ」
「さっきもいったけど・・・、自分の中には勝手にクッキーを食べちゃう自分がいるんだよ」
「はぁー?」
この状況で能力を解除することに何の意味があると言うのか・・・
いや、解除したのではなく、解除されたのだとしたら・・・
「権利の上に眠る者・・・、まさか、自分の能力がわかってないの?」
「半分知ってて、もう半分はしらなーい」
「何よ・・・、どういう意味よ」
自分が優位に立っている、それでも何かを隠し秘めているギタコに恐怖を覚えてしまう。
「わかんないかな、わかんないかな。自分の中には勝手にクッキーを食べちゃう自分がいるって」
ギタコは流麗に向かいギターを向けた。
「神崎 詩音の名において周波数変更権を主張する」
―3―
「神崎 詩音・・・それがあんたの本当の名前・・・」
「別に・・・偽名だよ」
「ギタコなんて方がよっぽど偽名じゃないの」
今はそんなことはどうでもいい、流麗の中で気にかけるべきは周波数変更権。
それが先ほどの姿を消していた能力なのか、それとも・・・
「(どっちにしたって私が有利な)・・・」
流麗は口を止めた。
自分の声が・・・聞こえない。
何度も、何度も叫んでみるが全く聞こえない。
「無駄だよ・・・」
それでもギタコの声だけは聞こえてくる。
そして、ギタコには流麗の声が聞こえているようだった・・・
「(周波数変更・・・そういうことか、だとしたら・・・)」
「ぐたぐた言ってるけど、ギタコはもうおしゃべりにつきあってる暇はないんだけど」
「(あんたの名前、そして能力がわかった、これだけでも充分過ぎる収穫よ)」
ギタコを捕らえることはかなわなそうだが、このままギタコの相手をするのもリスクが高すぎる・・・、それならばギタコの言うようにここは・・・
流麗がそう思ったのもつかの間、
「暇はないけど、このまま返してあげるとも言ってないよ」
ギタコはギターを引きずりながら流麗に向かって走り出す。
「(っつ、読めない女だな)」
ギターを流麗めがけてスイングするが今の流麗にとってはそんなのはお遊びに過ぎない程度のはずだった。
それを受け止め、その隙をねらい渾身の一撃を入れるそれだけでけりはつく。いくらギタコといえども耐久力はそこらへんの女子高生とは何らかわりはない。
たったそれだけのこと、今の流麗には造作のないこと・・・
襲いかかるギターを流麗の手がとめる・・・はずだった。
だがカキーンと言わんばかりに流麗の、いや、ベル・ザ・ヴァレールの体は吹き飛び、もうすこしで場外というところで手すりにぶつかる。
「(くっ・・・どうして)」
完璧なタイミングでギターを受け止めたはずそれなのに・・・
そして流麗は思い出したかのように気付く、今の自分は普通でないということに。
今の流麗には音がきこえない、そのために今の彼女の情報源はほとんどが目からだけと言っていい。
普段から目、そして耳から周囲の様子を感じ取るという状況にある人間が突然、その片方を失えばその違和感は、もう一方の情報さえ狂わせる。
流麗がギターを受け止める、その時点ではなんら問題がなかったのだが、その後、流麗にはギターを止めたという音が聞こえてこなかったのだ。
それは流麗がギターを受ける瞬間ではなくその後にくるその衝撃のタイミングをずらさせたのだ。
言わば攻撃がくるとわかっている、その上できちんと受け止めたにもかかわらず不意打ちを食らったかのような感覚だった。
「2べーすぅー、次は場外いくよ」
ギタコはギターを振り回す。
「(このままだと・・・)」
想像以上に体力を消費させられた流麗は焦る、事実上彼女のアレを受け止める術は殆ど不可能と言えるだろう。
そうなった以上流麗はこの場をどうにかして去ろうかと必死になる。
だが、幸運な事に流麗には人質が二人もいた。
流麗は明彦、そして裏葉の元にかけより、裏葉を持ち上げた。
「(先にこいつが場外行きぃぃぃ)」
裏葉の体はギタコの頭上を越えいく。
「裏葉ぁー」
それを必死に追うギタコ、そのすきに流麗は屋上の扉から去っていく。
裏葉の体は手すりを越えそのまま一直線に地上何十メートルという地面に叩き付けられようかとしている。
持っているギターを放り投げ、間一髪裏葉の手を掴むが、それを引き上げる力をギタコは持っていなかった。
「裏葉・・・もっとやせてよ」
ずるずるとギタコも引きずられていく。
「起きろ、裏葉ぁー」
ギタコの声に裏葉はようやく目を覚ました。
「・・・、ギタコ?」
「重いから早く・・・」
状況が把握できないまま裏葉手すりに手をかけ何とか屋上の地面の上に戻ってくることができた。
「どうなったの・・・」
「それよりも」
ギタコは明彦の方をそっとみつめた。
「ンチョ頑張ってたよ」
何にもしらないまま、のんきに明彦は眠っている。




