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第11章 紙喰い女

第11章 紙食い女


―1―

 

「おいっ、てめぇー。何してやがんだよ」

 裏葉を助けようと駆け寄る明彦だったが、

 「部外者は引っ込んでろ」

 あごを軽く蹴られすぐ側に倒れ込んでしまった。先ほどの裏葉のような馬鹿げた力ではなかったが、それでも脳が揺さぶれ立ち続ける事はできなかった。

 「この雑魚が、余計なとこで出てくんなよ。お前はもう用済みなんだよ」

 倒れている明彦を蹴り飛ばした。

 「どうして、春亜・・・、何であんたが・・・」

 「前からぁ、あんたのことうざいってぇ、ずっーと思ってたわけよぉ」

 「なんでよ・・・」

 「はぁ?なんでかって・・・、金持ちで、頭良くて綺麗で、運動できて・・・。そう

 うのぜーんぶあたしに見せびらかしてくるみたいで・・・、ずーっと殺したいくらいうざいって思ってたのよ」

 「うそ・・・」

 裏葉は動揺を隠しきれなかった。今まで何年という月日を過ごしてきた親友、その親友の腹の内にこのようなものを抱えながら自分と接してきたなんて信じたくはなかったが、間違いなく裏葉の目に映っているのは春亜だった。

 「うそじゃないのぉ。これがリアルなのよぉ?」

 「そ、そんな・・・」

 裏葉の手から握っていた懐中電灯が転げ落ちた。

 「運命ってぇ、残酷よねぇ?」

 裏葉を思いっ切り地面に叩き付けると、顔を踏みつけた。

 「うっ・・・」

 「くぅーーー、いいざまぁ、たまんないぃ。あの白銀財閥のご令嬢がぁ、あたしの足下にいるなんてぇぇぇ」

 悪魔のような声が上がる一方で、悲しみにくれ、涙を流す裏葉のか弱い泣き声が明彦の耳には聞こえてきた。

 「おい、一ついいか?」

 明彦は力を振り絞り、ふらふらになりながらも立ち上がった。

 「なんなんですかぁ?しつこい男はまじ嫌いなんですけどぉ」

 「・・・、お前がブラフの人間か?」

 「ブラフぅ?・・・。なぁに、あながち部外者ってわけでもなさそうねぇ」

 「いいから質問に答えろよ」

 「だったらなんだってーのぉ?何、殴るわけぇ?女の子殴るとかぁ、マジでぇ、ありえ・・・」

 明彦はこれ以上握りしめられないくらいの拳で彼女の顔を思いっ切りぶん殴った。

 「ばぁっ」

 何メートル吹き飛ぶとかそんな馬鹿げた事はおきない、それでも十分だった。

 「いてぇーな、何すんだボケ?」

 「ちょっと、いくら何でも春亜殴るなんて・・・」

 裏葉は明彦に掴みかかった、すこし腫れ上がり、擦り傷のある綺麗な顔で。

 「お前はいいやつ過ぎんな」

 「えっ?」

 「あんなにひどいこと言われて、こうも傷つけられたのに、まだあいつの心配するなんて・・・」

 「・・・」

 裏葉は自分の頬の傷に手を当てた。

 「安心しろ、裏葉」

 「安心って何よ・・・、もう何がなんだか・・・」

 「俺たちの前にいる糞野郎は春亜じゃない」

 「何言ってんのよ。顔から、しゃべり方まで春亜そのものじゃない」

 「そうよぉ、あんた頭でもいかれちぇってんじゃないんですかぁー?」

 「黙れ」

 明彦の言葉に一瞬びくつき、彼女からおどけた様子は消えた。

 「お前、鈴木沙紀だろ」


―2―


 「何言っちゃってんですかぁ?あんたの目は節穴ですかぁ?」

 「そうよ、どう見たって・・・」

 「なんで裏葉には春亜に見えるか知らないが、俺にはお前が鈴木沙紀以外にはみえないんだよ」

 「・・・」

 「俺がお前に会ったのは全部で三回、一回目は昨日の放課後。その時は文化系少女って感じで控えめのキャラだった。二回目は今朝、昨日とはうって変わって堂々としてた。そして今、完全に春亜になりきってる」

 「なりきってるって・・・、これが権利能力によるものだってこと・・・」

 「権利能力とか俺にはそーゆうのはわかんないっていってるだろ。ただ、こいつも裏葉みたいに何らかの力を持ってるんじゃないのかって言ってんだ」

 「そんなわけぇ、ないでしょぉ?」

 「・・・」

 「裏葉・・・」

 裏葉はポケットから携帯電話を取り出し、番号を推し始めた。

 「・・・、もしもし、春亜?・・・」

 「ちっ、つまんねー女だなぁ」

 「うん、・・・今朝はごめん・・・、じゃあ」

 「これでわかったろ?」

 裏葉は持っていた携帯電話をしまうと、鈴木沙紀をにらみつけた。

 「えぇーちょっとぉ、怖いんですけどぉ?」

 「黙れ・・・、それ以上あの子の事馬鹿にするようなことしたら・・・許さない」

 「何それ・・・、マジで興ざめ。そういう暑苦しいのいらないのよね」

 鈴木沙紀はポケットから紙を取り出し、ライターで燃やし始めた。

 「どうせ、鈴木沙紀だって偽名なんでしょ?」

 「そんな分かりきったこと聞く?」

 紙は燃え尽きると、風にのって流されていった。

 「それがあんたの本当の姿・・・」

 明彦にとっては何の変化はしなかったものの、確かに裏葉の目には違って見えた。

 「はぁーーー、マジ息苦しかった。他人になりきるのも結構これで疲れんのよ」

 「で、裏葉、俺の疑いは晴れた?」

 「もちろん、ただしこの糞女とっちめるのは手伝いなさいよ」

 「了解だよ」

 先ほどの裏葉の強さを見れば、わざわざ自分が加勢せずとも全く問題ないだろう。それでも、こうして裏葉と肩を並べらるのはうれしかった。

 「何々、女の子一人相手に共闘って?随分卑怯ね」

 「卑怯ですって?あんたらのしてきたことに比べれば充分かわいいもんでしょ?」

 「いや、でもさすがに女の子相手に二人がかりってのは・・・」

 明彦の紳士道を踏み荒らすかのように裏葉は明彦をにらめつけた。

 「あら、そちらの彼は随分男前じゃない・・・、でもさっきぶ私のことぶん殴ったわよね?」

 「確かに・・・、女殴るとか最低」

 「(お前はどっちの味方なんだよ・・・)すいません」

 「・・・、数が多いからってその余裕、有利になったつもり?」

 確かに、数が多いからといって有利だとは限らない。それを裏付けるかのように彼女の言葉は勝機に満ちあふれている。

 だが、こちらには裏葉様がいらっしゃる、あいつはまだあの蹴りをくらったことがないから言えるんだ・・・

 「さっきの馬鹿男も、調子に乗ってぼこられたってーのに随分お気楽なもんじゃない」

 「馬鹿男・・・」

 そういえば、この女の服には赤いシミが・・・

 「・・・、あんた蒼になにしたのよ」

 「あいつ、蒼っていうの?なんでか知らないけど私がブラフって気付いてたわ。まぁ、そこの彼みたいに私の姿までは見えなかったらしいけど」

 「蒼・・・って、あいつもなんか関係してるのか?」

 「蒼は私の仲間よ」

 「そんなこと一言も・・・」

 「あいつはあんたが白だってずーっと言い張ってたわよ。昨日だって放課後、あたしの所にきたのよ」

 デートなどど言っておきながら、見えないところで自分のために動いてくれていたとは・・・。随分と格好をつけてくれたものだ。

 「お前、蒼に何した」

 「何って、ちょっと痛めただけよ、今頃空中庭園で寝てるんじゃないの」

 「・・・、大丈夫よ、それより今はこっちに集中しなさい」

 「何言ってんだよ、お前がいれば・・・」

 「あんたにはまだわかんないけど、今のこの状況だと明らかにこっちが不利なのよ」

 気を引き締めさせるために裏葉はそのような事を言ったのだろうと思っていたが、彼女の顔はかなり焦っていた。

 「その通り、よくわかってるじゃない」

 「お前らで勝手に話し進めんなよ」

 「・・・、多重債務禁止」

 裏葉がぼそっとつぶやいた。

 「あんたにわかるように言うと、あいつには今私が手に持っているのとは別の懐中電灯、要するに全校生徒に能力を使った懐中電灯の力が効いているの」

 「それは、ギタコを見えなくしてるんだよな?」

 「そう。その能力がきいている間は、私の能力を重複してかけるとか、上書きするとかできないのよ」

 「俺にかけたみたいに姿をくらませるってことができないってことか。じゃあ、その能力を解除すればいいじゃん」

 「それが、その懐中電灯は生徒会室で充電中なのよ?電源をOFFにしないと能力の解除ができないよ」

 「電源をONにしてる間は能力が発動し続けるってことか・・・。じゃあ、今日ギタコが見えたのって・・・」

 「乾電池がきれたからよ。おとといからずーっとつけっぱなし。良くこんだけもったわよ。普段は電池式なんて使わないんだから」

 「でも、お前すげーパワーあるんだろ?俺をけっ飛ばしたみたいな」

 例え姿を消すことができなくても、あれだけの力があれば充分戦えるはずだが・・・

 「・・・、・・・。そうね、でも必要なのよ」

 「そっか・・・、わかった。じゃあ俺が相手してるから、裏葉は生徒会室行ってきてくれ」

 「本当馬鹿ね?あんたが残ったら瞬殺されるわよ。あんたボコボコにしたあたしが残った方がいいでしょ?」

 「でも・・・」

 例え裏葉が強いからといっても、得たいの知れない人物の所に置き去りにするなんてできない。

 「それに電源切ったらすぐにあいつに対してこの懐中電灯の方で能力が使えるのよ。あんたが電源切りにいってちんたら戻ってくる前にね」

 どちらが行っても能力が使えるようになるタイミングは一緒、しかし、使うタイミングは裏葉がここに残り、明彦が電源を切りに行った方が早いということになる。

 「で、それでもあんたはここに残るっていうの?」

 不本意ではあるが、その方がお互いにとっても一番の得策といえるだろう・・・

 「・・・、わかった、でもあいつはそうも簡単にいかせてくれるか?」

 「行かせるに決まってるでしょ。何たってあいつの狙いはギタコなんだから」

 向こうからしてみれば、今、ギタコは2重で見えない状態となっているややこしい状態だ。是が非でも、それを何とかしたいだろう。

 「さっきからコソコソと何?こんな時にいかがわしい話?」

 「そんなところよ、さぁ、行きなさい」

 明彦は屋上の扉めがけて走り出した。

 案の定、明彦を止められる事はなく、見向きもされず、屋上から離れることができた。

 「・・・、とても正気の沙汰とは思えないけど」

 「あらそうかしら?私一人じゃ気が引けるの?」

 「彼は・・・、どうやら権利能力者みたいだけど、イロハも知らないペイペイってとこね」

 「だったら?」

 「もし、知っててあんたをここに置き去りにしたんなら・・・随分卑劣な男だと思ってね」

 「・・・、そんな事ができるような計算高い男じゃないのよ。見てわかるでしょ、あの馬鹿ぽさ」

 「フフッ、仲間だってのに随分ないいようね?」

 「まだ仲間じゃないわよ・・・、まだ。それに・・・」

 裏葉は持っている懐中電灯を強く握りしめた。

 「さっきボコボコにしちゃった罪滅ぼしってとこよ」

 裏葉は相手の出方をうかがうように距離をおいた。

 「そう・・・、あんたって結構気にするタイプ?まぁ、私にとっては好都合だけど。殆どシラフのあんたを相手にできるなんて」

 裏葉は唇をかみしめた。

 「あたしは容赦なんてしないから」

 そういうとポケットからトレーシングペーパーを一組取り出すと、一枚はまたポケットの中へ、そうしてもう一枚は・・・


 「寒凪 流麗の名において、人格形成権を主張する」


  そういうと、紙を口の中に入れ始めた。

 「げっ・・・趣味悪る・・・」

 そう思ったのもつかの間、裏葉の目に映ったのはさっきまでの流麗ではなく、全く別人の大男だった・・・

 「覚悟しろよ・・・、アバズレ女」


―3―


 階段を必死に下る足音が、静かな校舎にこだまする。

 生徒会室は4階、しかも屋上のすぐ下。行って帰ってくるだけなら、走って1分もかからないような距離だ、何も焦ることはない。

 幸いなことに、生徒会室の鍵もあいたままだった。普段なら鍵が必ずかかっていのだが、あのときばっかりは裏葉も気が気ではなかったのだろう。

 「んで、懐中電灯はっと・・・」

 生徒会室の中を探し回っていると目を覆いたくなるような紙切れを発見してしまった。


 『大紋 明彦・・・殺す』


 「・・・、・・・。」

 ほんの一時間前だったら、この紙切れを見た途端、上履きのまま学校から逃げていたのだろうが、今となっては裏葉のかわいらしい一面をかいま見れる貴重な代物になっている。

 それでも・・・、

 「これはちょっとな・・・。ってこんなことしてる場合じゃねーぞ」

 明彦は部屋中のコンセントを確認すると部屋の奥の隅に隠すように置かれているのを発見した。

 すぐさま電源をOFFにした・・・、といっても明彦にはその変化は特に感じられない。

 ただ、懐中電灯の光が消えただけだ。

 「よし、とにかく急がないと・・・」

 「何してんの、アッキー・・・、こんなところで」

 明彦の背筋は一瞬にして凍り付く・・・

 「動かないで」

 この声は・・・、確かに春亜だ。だが・・・、

 先ほどの件もある・・・まさか、裏葉はやられたのか・・・

 「こんなところで何してるの?」

 「裏葉に頼まれごとされてな・・・」

 「・・・、嘘。裏葉はアッキーのこと散々に言ってたよ。今朝だって・・・、そんな裏葉がアッキーに何か頼むなんて信じらんないよ」

 話を聞く限りでは、どうも自分の後ろにいるのは本当の春亜らしい・・・

 ゆっくりと振り返ると、やっぱり春亜の顔をした春亜いた。

 「ついさっきまでは喧嘩してたけど、今は仲直りしたんだって」

 「・・・、証拠は?」

 「証拠っても・・・」

 俺の事をブラフの一員だと思ってたんだけど、本当のブラフのやつが見つかって俺の容疑が晴れたんだって・・・、こんなことをいっても真に受けないだろう。それに、春亜はきっと裏葉が特別な力を持っているとか知らない。いや、隠していたのだろう・・・、だからそのことを俺の口からは言えない・・・

 「てか、何でアッキーはこんなボロボロなの・・・、もしかして・・・、裏葉に暴力ふるったの・・・」

 「そんなことするわけないだろ」

 むしろその逆だよ、俺が裏葉にボコられたっつーの・・・

 「だよね・・・、アッキーはあたしがボコボコにしても手なんか挙げなかったよね・・・」

 「・・・、そう。俺さぁ、蒼と喧嘩したんだよ、派手にさ」

 「石神君と・・・」

 「あいつ今、空中庭園でのびてるから様子見てきてあげて、俺じゃ行きづらいし・・・。それに、俺は今急いで行かないといけないところがあるんだ・・・だから・・・」

 春亜の肩を軽く叩き、立ち去ろうとする明彦を春亜が引っ張って止めた。

 「それは本当なの?信じていいの・・・。裏葉と仲直りしたっていうのも・・・」

 「お前・・・、さっき裏葉から電話いかなかったか?」

 「きたけど・・・」

 「あいつ、ごめんっていってなかったか?」

 「・・・」

 春亜はだまってうなずく。

 「俺の言ってることは信用しなくても、裏葉の言ったことは信用してやれよ。あいつはお前が思っている以上に、春亜の事大切にしてんだから」

 「・・・うん」

 明彦は急いで、生徒会室を後にした。

 もう、3分くらいは経ってしまっている・・・、ほんの一分で戻るつもりだったのに。

 「くそっ、こんな足止めくらうなんて・・・、裏葉のやつ大丈夫かな」

 一応は心配をしてみたものの、裏葉の事だ。自分が屋上に着いた頃にはきっとブラフのやつの顔を足で踏んづけてる・・・、そんな画を自然と想像してしまった。

 階段を駆け上がり、屋上の扉を一気に開いた。

 やはり、思った通り一人は地面に倒れ込み、一人はその顔を足で踏みつけていた。

 だが、一つ違うところがあった。

 それは・・・

 「あら、随分と遅かったのね。おかげでこの子はこのざまよ」

 地面の上に転がっていたのはぐったりした裏葉だった。


―4―


 「裏葉・・・、どうして・・・」

 まさか、裏葉に限ってそんなことは・・・

 「遅すぎたのよね、アンタが」

 「遅すぎただって?俺が電源切ったのはここ出ていってから1分だぞ、たったの。・・・それに、例えそれが遅かったとしても裏葉に限って・・・」

 「ったく、あたしにそれをいちいち説明させる気?」

 「?」

 「債務者と債権者、その関係において重要なのは債権者が使役物、通称「キー」を持っていること。そうしないと債務者と債権者には優劣関係は生まれないってことよ」

 「債権者とか債務者って・・・」

 「・・・、要するこの女があんたをそんなにボコボコにできたのは、この女が大事に握りしめてる時代遅れの懐中電灯であんたに力を使い、債務者と債権者の関係になっているかつ、その時に使用したキーを手に持っていたから」

 裏葉が俺をあんなにボコボコにできたのは俺に能力をかけた懐中電灯を持っていたから・・・、じゃあ、この女に能力をかけた時の懐中電灯を持っていなかった先ほどの裏葉は・・・

 「やっとわかった?あんたが置き去りにした時、この女はシラフ状態、一般人となんら変わらない程度のか弱い女の子」

 「そんな・・・、でもお前だって裏葉とはそんなにかわらない体格だろ。いくらなんでも」

 「あんたには私が可愛い女の子に見えてるんだっけ。でもねあんた以外には凶暴な格闘家にでも見えてるのよ」

 地面に転がり落ちている裏葉を軽々と片手で持ち上げると、明彦の方に投げつけた。

 裏葉を抱きかかえると、身長のわりには驚くくらいその体は軽く、すでに気を失っていたがしっかりとその手には懐中電灯が握られている。明彦の到着を確認したかのように懐中電灯の明かりは消えた。

 「こいつだって普通の女の子なんだよな・・・」

 「あんたも無駄足だったね・・・、いや、そうでもないか。これで後は『見える隠密』の能力を解除させるだけか・・・、まっ、そこの女をだしに使えばいい話か」

 「見える隠密って、ギタコのことか?」

 「そうよ、あんたには見えてるんだっけか?どういう特徴かは知らなかったけど、あんたが放送やらなにやらで私にベラベラ話してくれたもんだから大体の特徴はつかめたわ。お礼くらい言わないとね」

 「てめぇ・・・」

 「どう?そいつの能力も解けてる事だろうし、見える隠密をここに連れてきたら命くらいは助けてあげるわよ」

 「・・・、あいつは見える隠密なんて名前じゃねーよ・・・、あいつの名前はギタコっつーんだよ」

 明彦はその場に裏葉をそっと降ろすと。流麗めがけてもう突進した。

 「???」

 全力で突進したにもかかわらず、彼女の体はびくともしなかった。

 「能力が全く効かないってわけでもなさそうね」

 どういうことだ、俺にはこいつの能力が効かないんじゃなかったのか・・・

 こいつの姿はちゃんと元のままだし、格闘家なんかにも全く見えていない、なんでだ?

 「考え事とは随分余裕だな」

 「えっ」

 明彦の腹に流麗の膝が入る。

 「ぐわぁっ」

 あばらの何本かはいかれてしまったかのような痛みが走る。

 裏葉の蹴りも充分痛かった・・・、だが、それ以上にこいつのそれはケタ違いである。

 なんだかんだを言いながらあいつはどこか手を抜いてくれていたのか・・・

 見下ろしてくる流麗は明彦の目にも大きくまがまがしく見えた。

 「骨、いちゃった?割と手加減したつもりなんだけど」

 「そうかよ・・・、もうちょっと優しくしてくれたら・・・良かったんだけど」

 顔を引きつりながら冗談を言ってみせたがそんなユーモアが通じる相手ではない。

 「あら・・・、そう。じゃぁもうちょっと優しくしないとねぇーーーーー」

 明彦の頭をわしづかみにすると、数メートル先まで投げ飛ばした。

 「かはぁっ」

 どこが痛いのかわからないくらいの衝撃が明彦の体に襲いかかる。

 たったの数撃・・・ただそれだけでダメになるほど人間の体は弱いものなのか・・・いや、違う。これが普通なんだ。やられている俺が普通なんだそれなのに・・・

 自分をいとも簡単に、赤子同然のように扱う女の子を見ていると、自分がどうにかしているんじゃないかという錯覚に襲われる。

 ゆっくりと近づいてくる流麗、その足音は確かに聞こえる。

 立たなければ・・・、立たなければ・・・

 必死に命令を出すが足はぴくりとも動かない。別に動かせないわけでもないのだが・・・

 震えている・・・。怯えているのだ、流麗に。

 それは明彦の意志が直接感じているのではなく、明彦の肌がそれを感じ取っている。

 「なんで、動かねーんだよ」

 何度も、何度も手で足を叩いてみせるが全く動こうとはしない。

 「恐怖を感じてるの?」

 「・・・、んなもんじゃねーよ。良くあるだろ、やる気はあるけど体がついてこないってこと。まさにそれだよ」

 「それって結局は、体のどこかでびびってるってことでしょ?本当に怯えてなきゃ体は動くのよ。あんたの脳が全部命令出してるんだから」

 「男ってのはそんな簡単にできてるようなもんじゃねーんだよ」

 「黙れ」

 明彦の顔面を蹴飛ばした。

 「お前みたいな単細胞馬鹿は単純にできてるんだよ。そして、ルールは一つ、やられるだけのつまらない人世・・・、あたしみたいな力あるものにね」

 明彦の胸ぐらを掴み、持ち上げる。

 「んで、どう?見える隠密探す気になった?」

 「い・・や」

 流麗の手のひらが明彦の右の頬を強く打ち付けた。

 「ごめーん、聞こえなかった。もう一回」

 「何度言っても同じだよばーか」

 明彦は口から血を流麗の顔めがけてはきだした。

 「・・・」

 「いい様だな・・・、だいぶ可愛くなったんじゃねーの?」

 「・・・死ね」

 明彦の体は時速何十キロという速さでコンクリートの地面に打ち付けられた。

 声も出ない・・・

 やりたい放題に蹴り飛ばされている・・・

 痛みも、殆ど感じない・・・

 どこからが手で、どこからが足で・・・そんなことを感じる事さえできない

 流麗は裏葉の元に立ち寄るとしゃがみ込む。

 「おいっ、いつまで寝てんだよ、起きろ」

 裏葉の髪を引っ張るように持ち上げると、その傷みで目を覚ました。

 「っつ・・・」

 「寝てる暇なんかねーんだよ」

 流麗が倒れている明彦を指さした。

 「あの馬鹿・・・」

 「さっさと見える隠密を呼べ」

 「何言ってるのよ・・・、私にだってどこにいるんだか」

 「・・・あっそ」

 流麗は髪の毛を引っ張りながら裏葉を引きずっていく。

 痛がっている裏葉の顔が明彦の目には映る。

 力があればとかそういった何かにすがるような事は思わない。

 ただ、自分のふがいなさを悔やんでいる。

 自分のすぐ近くでこうも苦しんでいるのに、自分はただ見ていることしかできない。

 ・・・、それは違う。ただ見過ごそうとしているのだ。

 体が動かないということを理由に・・・

 「見てるだけ・・・そんでいいの?」

 えっ・・・

 誰かが明彦に向かって語りかけた。

 それは流麗でも裏葉の声でもなかった。

 「神様ってーのは結構気まぐれらしいよ、知る限りは」

 はっ?何言ってんだよお前・・・誰だよ・・・

 「頑張ってるとこみたら、ちっちゃい隕石一つ落とすくらいのサプライズはしてくれるかもねー」

 ・・・、んな都合のいいことあるわけねーだろ

 「そうそう。神様は急がしいんでーす」

 なんだよそれ・・・。

 「でも、神様の代わりに力をかしたまへーってお願いしてあげるよ。無料で」

 ふざけてんのか?

 「汽車を動かすのは石炭だけど、人を動かすのは熱いソウルなのさ」

 ・・・、・・・。

 明彦は息をきらしながらゆっくりと立ち上がる。

 手を膝にあて、上手く支えられない上半身をしっかりと持ち上げた。

 「ちょっと待ちやがれよ・・・」

 流麗は立ち止まり明彦の方を振り返ったが特に驚きもしなかった。

 「あら、そのまま寝てればよかったのに。この子が気になってのかしら?」

 「そうじゃない・・・」

 「随分ひどいこと言うのね・・・、でなんなわけ?」

 「・・・。てめぇの相手は・・・俺だろ」

 流麗の甲高い声が静かな屋上に鳴り響いた。

 さぞおかしいことだろう、今のこの状況で・・・。

 今でさえ充分痛い目に遭っている、そこら辺に転がって死んだふりでもしていればどれだけ楽だろうか・・・。

 見ないふりすればどれだけ楽だろうか・・・。

 それでも、今ここで苦しくても立ち上がる方がこの先の人世・・・、だいぶ楽だ。

 「ざけんじゃないわよ、身の程を知れ、身の程を」

 「わかってるよ。でも、俺の中の俺がそんな事を許さないっていうもんだからさ」

 「キモっ、そんなにしばかれたいの?あんたも物好きねぇ・・・」

 裏葉をそこら辺に投げ捨てると明彦めがけて突っ込んでくる。

 もう流麗を避ける体力も残っていない、明彦はただ立ちつくすことしかできない。

 「馬鹿・・・、立てる力があるなら、逃げなさいよ」

 馬鹿いうな・・・、そんな力なんてない・・・

 流麗の細い足が明彦の腹をしなる鞭のように打ち付けた・・・が

 「おいおい、人世生後に人肌が恋しくなったのかい?」

 明彦は一撃をもらいながらも、しっかりと流麗の足に抱きついていた。

 「逃げろ・・・裏葉」

 すんげーださい・・・

 てかすんげーはずかしい・・・

 むしろすんげーなさけない・・・

 人世でもこんな屈辱はそうあるもんじゃない・・・、女の足に抱きつくなんて。

 ただそんなちんけなプライドを護るよりも、明彦は目の前にいる人間を護りたかった。

 幸いな事に唯一の目撃者である裏葉には、明彦が格闘家とプロレスしている用にしか見えないだろう。

 「裏葉早く」

 「なんでよ、あんたがそんなことしたって・・・」

 「いいからっ、早く」

 そんな明彦の悲痛な叫びもむなしく、裏葉は立ち上がることができない。

 裏葉は足を押さえている・・・

 「そんな・・・」

 「足潰すのは当然でしょ?あんたも本当に報われない人間よね・・・、まっ最後にあたしの綺麗な足にしがみつく事ができて良かったじゃない?感想あったら聞くけど?」

 「・・・」

 「『たまらない足で言葉にできません』そういう事にしといてやるよ」

 流麗は明彦を投げ飛ばした。

 体は数メートルも飛んでいくような勢いだ・・・

 それは屋上の手すりを越えて・・・何メートルも下にあるグラウンドに落ちていくだろう。

 結局・・・、俺は何のために立ち上がったんだ・・・

 裏葉の泣き叫ぶ声が・・・聞こえる・・・

 流麗の下品な笑い声が聞こえる・・・

 体はスローモーションのようにゆっくりと飛んでいく・・・

 そして手すりを越え・・・ない

 「???」

 誰かが手すりの上に立ち、何かが俺の首根っこを掴んでいる。

 そいつはゴミを捨てるかの如く、俺を屋上のコンクリートの上に投げ入れた。

 「つつつっ・・・何だよ一体」

 そいつの後ろには綺麗な夕日がちょうど重なり、姿は黒くてよくみえない。

 だが、見覚えのある・・・姿だと言うことはわかった。

 「ギタコか・・・」

 「ンチョ・・・」

 「なんだよ、感動の再会か・・・」

 「やっぱり、ンチョは残念な系なアレだね・・・、でも」

 その後、ギタコがなんて言ったのか、聞く前に俺の意識は薄れていく・・・

 「でも、いちごにゅーぎゅーの次くらいには、ギタコのお気に入りランキングに登録しといたげる」



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