第97弾
題名「サバイバー」
そこに残っていたのは、雄大なる自然だった。
総勢十人の男女が船の座礁により漂流し無人島に漂着した。彼らの誰も座礁した船の進路を知らなかったし、投げ出されたものだから、着のみ着のままで所持品にろくな物はなかった。
しかし、浜辺に打ち上げられ、意識を取り戻し、己れ一人ではなかったことは、助けを求めることを前向きに考えられる状況にした。
だが、いつ助けが来るかなど予測はつかず、船などが航行する場所にこの無人島があるのかなど、誰一人として知らなかったし、考える余裕すらなかった。
ただ彼らは、無人島で食糧を探し、水を探し、火を起こし、助けを求める為に旗を作り、見張りを決めて助けを待つことになった。
最初の一日はあっという間に過ぎ、二日目もあっという間であった。三日、四日、五日と経つうち彼らは無人島の生活に慣れ、そのために助けが来ないことに不安を覚えて、ストレスがたまっていくことになる。
全員で生き残ること。浜辺で目覚めるまで知ることもなかった他人に、たった数日でその意思を持てなどどうして言えようか。自分だけでも助かりたい。そう思う数日が過ぎるだけ過ぎて、協力し続ける十数日が過ぎると、他人にも情が移る。そんな時が訪れる前。
彼らが乗っていた船から、救助舟が来た。しかし、その救助舟は落ちた人数を把握して来たわけでなく、十人全員を乗せきることはできず、もう一度来るまで二人が残らなければならなかった。
誰が残るなどと言うだろうか。文化的な生活へ一刻も早く戻りたいと願っている時に。後数日でも、続いて行かなければならないとは、地獄とも思えるのだから。
話し合いもろくにせず、明確な力関係によって、弱い二人が残された。たった二人で後数日を過ごさざる負えなくなったのだ。絶望にのみこまれるほど希望がないわけでなく、浮かれるほど嬉しくはなかった。二人は助けが来るまで生き続けることだけを頭に置いて、無意識ともいえるほど自然に、救助舟が見えなくなると動きだした。
助けが来たのは、昼間のことだった。夜になるとこの数日のように、木々を燃やしてSOSの意をもって目印にしていた。その行為が功をそうした。島の横を航路にしていた商業船が、灯りを不審に思って近づき、二人に気付いて救助舟を下ろしたのだった。
商業船は二人を乗せ、船の目的地まで航行し、救助された二人は、その地で自国へ帰る手配をし、あの座礁した船に積んでいた荷物は、あの船が目的地としていた国に着き次第、手元に戻るようにも手配をした。
さて、救助舟に乗っていった八人は母船に着き、座礁により中断されていた航海を続けることと無事になった。
船上で行われるパーティーは、祝杯で彩られ、夜も昼も存在を忘れられていた。
座礁した船が無事に航海するということが、どれほど奇跡的なことか乗客は誰一人知らなかったけれども、彼らは海に孤立する恐怖からは抜け出せたことだけで、喜びを感じていたのだった。
いつの間にかその雰囲気は、船員にさえ伝染し、まだ助けていない二人のことを忘れてしまったのである。また、普段の仕事さえおろそかになりがちになっていった。
船長にまで喜びが伝染してしまった日の夜。船は静かに沈没し始めたのだ。気付いた一人の船員が船長を起こした時には、乗客が混乱し、救助舟に群がっていた。
悲しいかな。救助舟は小さく、また、数は少なくて、全員は助からないのが一目瞭然であった。だからこそ、我先にと群れは大きくなっていき、しかし、船員が近づけない為に、一艘の舟も海に落ちないのだった。
静かに海は船を受け入れようとしていて、ある船員が泳いで逃げようと海に飛込んだ瞬間、船は海に身を投げた。
波が凪になったあと、そこに残っていたのは、雄大なる自然だった。
一人の生存者もいなかった。あの二人はその後、暖かい家族と共に一生を終えた。




