第16弾
題名「楽しきことに境なし」
丑三時の満月。雪に埋もれた神木が、人ならざるものたちのいたずらに装っている。
色とりどりの鈴に果物、靴下やロウソク、箱。どこかで見たような気がする。さて、どこでだろうか。
どこからか盗ってきた酒が、あちらこちらでなくなっていく。いや、よくよく見てみると、なくなってもおかしくないほど、飲んでいるのに、いっこうに減らない。
ツマミは血にまみれた手・足・目玉、心臓・胃・腸。元の姿などとどめていない何か。
それらをとても旨そうに食い、笑い声の渦があちらこちらに出来ている。
雪に足跡がついていない。笛が吹かれ、鼓が打たれ、鉦が打たれ、楽につられて踊りはじまる。
人ならざるものが時々神木を見上げる。誰かを待っているかのように。
「誠人!こっちだよぉ!」
頭にひとつ角がある人ならざるものが、濁った発音で声をかける。かけられた相手は雪の階段をゆっくりと上ってきていた。影でもわかる。誠人は人間だ。人ならざるものたちと同じように白い息を吐き、しかし、寒そうに衣服を着込んでいる。
「おー、やってるかぁ?」
大声ではないけれど、ひとつ角には聞こえた。
「早く早く!」
跳びはねながら急かす。誠人は手を振って答えるが、急ごうとはしない。
「早くったらぁ!」
ひとつ角はかるく怒る。それでも誠人は急がない。
「いちよう人間なんだ。こんな階段で急いだら、危険で仕方がない。大怪我ですむなら、かなりの強運、だろうなあ。」
雪に足跡がつく。人ならざるものたちが、誠人の姿を見て一層盛り上がる。階段を上りきった誠人は、ひとつ角に腕を引かれて青白い焚火の元に座らされる。
その途中で神木を目の端にとらえてしまった誠人は苦笑をもらした。
「おいおい、神に別の神の祝いごとをさせるなよ。」
「かた・・い・な」
「神といえど、しょせん年寄り。名ばかりだよ。」
三つ目にふたつ角の犬とひとつ角が、言い訳をする。誠人は渡された盃の酒を飲みほし、笑う目を火に向けた。
「いいか。楽しいからな。」
「そう、そう。楽しけりゃいいの。神よりも大切なものがあるって。」
信者たちに怒られそうな言葉を簡単にはいたひとつ角に対して、たくさんの笑い声が答えた。
酒が飲まれ、ツマミが消え、楽は途絶えず、踊りもとまらず。一番鳥の鳴き声が低い太陽につげられるまで続いた。
太陽が空全体を青にするころ、神社の神主が参道を雪かきを始め、誠人は自宅の布団の中で、酔いのさめない酒を飲んだことを後悔していた。神木の霊は、ひとときの晴れ姿を思い返していた。




