第1話:体重計と現実
——ピッ。
82.4。
「……は?」
思わず声が出る。
もう一回降りて、乗る。
変わらん。
「最近の体重計、厳しすぎひん?」
誰もおらん部屋で言ってみる。
返事はない。
腹を軽く叩く。
鈍い音が返ってくる。
「……まあ、知ってたけどな」
分かってた。
見ないようにしてただけや。
スーツのボタンに指をかける。
閉める。
きつい。
「いけるいける」
息を止めて、無理やり押し込む。
閉まる。
ちょっと苦しい。
「……問題なし」
そう言ってみる。
問題しかない気もするけど。
「また太りました?」
背後から、さらっと言われる。
振り返ると、鈴木彩花が書類を持って立っていた。
「朝イチでそれ言う?」
「見たら分かりますし」
「もうちょいオブラートとかないん?」
「包むほどでもないかなって」
「それ一番あかんやつやん」
笑って返す。
いつも通りのやり取り。
のはずやのに、
ちょっとだけ、引っかかる。
「健康診断、引っかかりますよ」
「まだいける」
「“まだ”って言ってる人、だいたいアウトです」
「データあるん?」
「経験則です」
「怖いなあ」
書類を受け取る。
そのまま席に戻ろうとして、
少しだけ足が止まる。
「痩せたら、だいぶ変わると思いますけどね」
背中越しに言われる。
「そんな簡単に言うなや」
振り返らずに返す。
軽く。
いつも通りに。
——ほんまにそうなんやろか。
一瞬だけ浮かんで、
すぐ消す。
昼。コンビニ。
弁当、唐揚げ、甘いコーヒー。
いつものセット。
手に取る。
一瞬だけ、止まる。
——痩せたら、変わる。
さっきの声が、残ってる。
「……いやいや」
小さく笑う。
カゴに入れる。
「今日くらいええやろ」
どうせ、明日からや。
どうせ、続かん。
「で、ダイエットは?」
夜。居酒屋。
藤田がニヤニヤしてる。
「やるって。明日から」
「出た、“明日から”」
「今日は準備や」
「何の?」
「心の」
「便利やな、それ」
笑う。
楽や。
何も考えんでいい。
ビールを流し込む。
うまい。
それで全部どうでもよくなる。
……気がするだけやけど。
帰り道。
少し、気持ち悪い。
食べすぎた。
分かってる。
「……はあ」
ため息が出る。
吐いたところで、軽くなるわけでもない。
——痩せたら、変わる。
また出てくる。
「うっさいな」
口に出す。
誰もおらん。
でも、消えへん。
コンビニの前で止まる。
自動ドアが開く。
中は明るい。
少しだけ、見る。
それから、
目を逸らす。
ポケットに手を突っ込む。
「……今日は、ええか」
そう言って、
結局、入った




