第10話 破滅への始まり
アルベルト王太子殿下、負傷。
その報せを聞いた瞬間、胸が締めつけられた。
ただ――お見舞いに行きたい。
その一心で、お父様に伝えに来ただけだったのに。
まさか――
あんな話を、聞いてしまうなんて。
お父様の部屋に近づくと、話し声が聞こえた。
こんな時間に、お客様?
静かに、扉へと近づく。
「……また、失敗したのか。」
低い声が、部屋の奥から響いた。
「申し訳ございません!思ったよりも強く――」
「言い訳など、いらぬ!」
ガラスが割れる音が響く。
思わず、息を呑む。
「何度、失敗するのだ。」
「聖女など――傷をつけても構わぬ。」
一拍。
「欲しいのは、その“存在”だ。」
「儂が、王になるためにな。」
(……お父様?)
自身の存在が気づかれぬよう、息を潜める。
「ですが!王太子殿下は負傷。そして、王太子殿下は辺境女伯爵が弱点です!」
「ふむ……それは使えそうだ。」
わずかに、思案する気配。
「帝国などと同盟など、いらぬ。」
その声が、低く落ちる。
「民は、我らの言葉のみ信じれば良いものを。」
その声は、どこまでも冷たかった。
「次こそは必ず、聖女様を!」
「いや――別の作戦でいく。」
その一言で、空気が変わる。
私は、息をすることすら苦しくなった。
これ以上聞いてはいけない。
そう分かっているのに、足が動かない。
――だめ。
耐えきれず、私はそっとその場を離れた。
部屋に戻ると、椅子に座ることもできず、扉を背にそのまま崩れ落ちた。
(どうしたらいいの……)
涙が、止まらない。
好きなアルベルト王太子殿下のこと。
その隣にいる、あの方のこと。
そして――
お父様が、反逆者であるという事実。
次なる事件が起こる予感が、頭から離れない。
(どの道を選んでも――)
体が震えた。
思わず、自分の体を抱きしめる。
(私の未来は、破滅しかない。)
何を選び、何を捨てるのか。
ヴィオレッタは、まだ決められなかった。




