第1話 選ばれる側へ
イグナリア帝国から、皇太女と辺境女伯爵来訪の知らせが届き、国は慌ただしくなっていた。
しかし、学院の時間は変わらない。
最近はアルベルトの学院視察も増え、
王太子妃選びが本格的に動き出したのではないかという噂が絶えなかった。
「アルお兄様は、何を考えているのかしら?」
昼休み。
クラリスはシンシアとリリアナと共に東屋で食事をしていた。
「イグナリア帝国の来訪に備えて、外交を任せられる人物を探しているのかもしれませんね。」
リリアナが静かにカップを持ち上げる。
「リリアナ嬢は聡明ですね。」
穏やかな声が降ってきた。
振り向くと、アルベルトとレオンハルトが立っていた。
「アルお兄様!レオンお兄様!」
クラリスは嬉しそうに二人へ駆け寄り、そのまま抱きつく。
「クラリスは相変わらずだな。」
アルベルトは苦笑しながら、妹の頭を軽く撫でた。
「アルお兄様、外交できる人を探しているの?」
「半分正解だよ、クラリス。」
アルベルトは肩をすくめる。
「皇太女は神殿を訪れたいらしくてね。姉上以外にも、案内できる女性が必要なんだ。」
「それならシンシアがいいわ!」
クラリスは迷いなく言った。
「神話にも詳しいもの!」
その瞬間、アルベルトの視線がシンシアへ向く。
蒼い瞳が、静かに問いかけてくる。
「シンシア嬢、いかがでしょうか。」
言葉を返そうとした、そのとき。
「兄上。」
低い声が遮った。
「……俺は反対だ。」
レオンハルトだった。
その視線は、まっすぐアルベルトを見ている。
「……シンシアだけを優遇していると思われる。」
一瞬の間。
「レオンの言いたいこともわかる。だが、彼女が詳しいのは事実だ。」
アルベルトはわずかに肩の力を抜く。
「そして、決めるのはシンシア嬢だよ。」
その微笑みに、答えを促される。
私は決めたのだ。
アルベルト王太子殿下の隣に立つと。
「……私でよろしければ、ぜひ。」
「そうですか。それなら、よろしくお願いします。」
アルベルトは穏やかに頷いた。
「急で申し訳ありませんが、今週末に神殿で事前の打ち合わせをしてもよろしいでしょうか。」
シンシアの心は、ときめいた。
その隣で。
レオンハルトは、そっと苦しそうな顔をしていた。




