日常と非日常 -2-
場面により主人公名の表示が変わります
地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
お昼ご飯のために一旦やどりぎ館に帰ったアリシア達だが、ヒルダとの話があるので、また屋敷に戻ってきた。
「さっきと違うロールケーキ!」
「ヒーちゃん、またアンナマリーに渡したの食べたね」
持ってきたロールケーキは、大阪の有名ロールケーキと同じ、真ん中が全部生クリームになっているタイプ。館の冷蔵庫で保管できるので、生クリームたっぷりだ。
「出来れば手づかみでは食べないで、スプーンかフォークで食べた方がいいよ。スポンジが柔らかいから、潰れてクリームが漏れるから」
「ヒルダ、これはメリルとライアンにも食べさせた方がいいのではないか?」
メリルは双子の姉の方、ライアンは弟の方。この夫婦の子供のことだ。
今回持ってきたのはお菓子だし、子供にも食べさせてあげるのが親の役目ではないだろうかと、レイナードは正論を吐いてきた。
「私らは食べてきているから気にしなくていいぞ」
アリシアと霞沙羅はお昼ご飯の時に食べているから食べる気は無い。元々ヒルダ達のために持ってきたモノだから、独り占めをしないで上手い事家族で分け合って欲しい。
そうするとヒルダは仕方なく、子供2人を呼び出して、切って渡した。
「生クリームが多いから、2歳児にはその位だろうねー」
こちらも食後だという事もあって、子供達には2センチ厚くらいに切って出された。初めて食べるロールケーキに、2人の子供ほっぺにクリームを付けながら、美味しそうに食べている。
「うま」
「おいちー」
「あらー、美味しいわね。アーちゃんが来ると美味しいわねー」
自分が食べる量が減ってしまったとはいえ、子供が美味しそうに食べている姿を微笑ましそうに見ているくらいには母親をやっているようで、アリシアは安心した。
「アリシア君、これはこの世界でも作れるんだろうね」
「砂糖とか卵を使うけど、この家なら大した負担じゃないでしょ? さすがに庶民にはお高いかなー」
生クリームの加工とスポンジを作れるのなら、それを巻くだけという食べ物なので領主やその配下の地方貴族までなら問題無い。
そして砂糖という話が出たので
「アリシア君、今度蕪についてちょっと相談がある」
「なんだ、この世界は蕪を食べてないのか?」
「甘蕪って呼ばれてる作物があるんですけど、いわゆる甜菜の互換品なんです」
「あー、まあ蕪に見えるな。それで砂糖でも作るのか?」
「そういうことです」
「異世界ファンタジーらしい話になってきたな。お前、この3年で代用品の研究してたからなあ」
アリシアとしてもう堂々とこの世界を闊歩するというのなら、自分が料理をしやすい環境を作っていくのもいいかなとは思う。その為に冒険中に書き溜めた食材メモを、日本で手に入る食材のどれに対応するのかをずっと研究してきた。
アリシアはスイーツも作るので、まず砂糖を確保しようとするのは、霞沙羅にも理解出来る。
「春から生産量を上げるわよ。それで栽培に良さそうな環境を教えて欲しいのよ」
「うん、まあいいけど」
その辺はエリアスにも相談して、女神様の知識を借りる事にしようと思う。
「おいちかった」
ロールケーキを食べ終わって満足した子供2人は、使用人に連れて行かれ、ようやく本題に入った。
霞沙羅は執務用の机の上にどかっと置かれていた巨大なバスタードソードを手渡され、それの確認に入った。
「使いにくいだろ、これ。この世界だから良いようなものの、私らの世界じゃ無理だぜ」
実際にワイバーンを軽く真っ二つにするくらいだからこれは威力が大きすぎて、郊外の事件くらいでしかまともに使う事は出来ない。
非常事態だった事もあってモートレルで使ったので、役所や広場周辺はまだ修理中だ。攻撃対象が大きかったこともあるし、ヒルダの技量もあって外れる事はなかったので最小限の被害に治まったモノの、ちょっとでも外れれば役所くらいは崩壊していたくらいだ。
「元々誰にも使えないから、ダンジョンの奥にしまわれていた剣なんですよ」
「ダンジョン…。まあこれは私らみたいなのじゃないと、使っただけで体が砕けるな」
ダンジョン、霞沙羅にとってはとてもいい響きだ。ダンジョンがあるのなら一度潜ってみたい。
「魔女戦争時は良かったのだけれど、建物内や町ではさすがに使ってないわね。ただ、時々ドラゴンが領内を襲うこともあるから、気軽に使えるようにしたいのです」
「町にドラゴンが来るのか!?」
ドラゴン、これは霞沙羅にとっては無視できない単語だ。やはりこの世界はドラゴンが町に攻めてくるのかと聞いてワクワクしてくる。この前のちんけなコウモリにはがっかりさせられたが、もしドラゴンが来るのなら見てみたい。
「この前の事件でもワイバーンが来たんですよ。用意してたのが呼ばれたんですけど」
「なんだって?」
自分が横浜の妖刀事件にあたっていた裏で、この町にワイバーンが来ていたとか、折角のチャンスを逃していたと聞いてがっかりした。
人の心を反映する幻想獣にもドラゴンのような見た目のが稀にいるけれど、こっちの世界には生命体としてのドラゴンがいるんだよなー、と霞沙羅は羨ましくなる。
「…なるほど、町でも使っていきたいというのなら、調整装置を付けるか?」
霞沙羅は魔剣ロックバスターに刻まれている魔術基板を空中に投影し、カメラに収めた。
「素材自体は未知のモノでは無いな。鉄や鋼に準じるモノだろう」
「どういう事になるのです?」
「ん、まあ10から20段階くらいに魔力出力を調整する装置を付けてやる」
「そんな事が出来るんですか?」
「ウチの世界じゃよくあるぞ。何せ人が多いところで戦うこともザラだからな」
装置については一旦家で設計をしようと、必要事項をメモに取りつつ、ロックバスターはヒルダに返した。
「中々いいものを見たぞ」
さすが、知らなかったとはいえ女神に立ち向かおうとした連中だけはある、と霞沙羅はロックバスターの出来に満足した。
「考えが纏まったら説明しに来るから、それで判断してくれ」
「わかりました」
霞沙羅はロックバスターを鞘に収めると、ヒルダに返した。
「カ、カサラ殿。ぶしつけで済まないが、私の楯を見てはもらえないだろうか?」
ヒルダの件が終わったところでレイナードが割り込んできた。
「楯? お前は騎士じゃないのか?」
「レイナードは魔剣じゃなくて、障壁を張る魔法の楯を持ってるから。戦い方は防御主体で、攻撃はカウンター狙いなんですよ」
「そういうことか。その横に置いてあるヤツか。何か問題でもあるのか?」
「占領事件が終わってから、どうも調子が悪いのです」
ぱっと見、英雄級の人間ではなさそうだけれど、折角こっちの魔装具に触れるのだからと、霞沙羅はその楯を見てみることにした。
「面白いもの持ってやがるな。ファンタジーはこうでなきゃな…」
なるほど楯かー、と思いながら、霞沙羅は楯の表面を指でつついたり表面を撫でたりし始めた。
「霞沙羅さん、どんな感じです?」
「術式が壊れかけてるな。何かやったのか?」
「錫杖の霧を防いでたんですけど、それですかねー?」
「あー、あの魔工具か。あれに対して負荷かけ過ぎたか。無理な力を出したかで、素材が変質してるな」
またカサラが楯の魔術基板を空中に投影させたが、カサラやアリシアにしか解らないレベルで、魔術基板が切れている。
「応急処置は出来るが、楯の素材がな」
カサラがこの辺、と魔術基板の不具合部分を指し示してくれたので、レイナードにも理解出来た。
「どうすれば、良いでしょうか?」
明らかに壊れてしまっているので、レイナードはがっかりだ。
「一番良いのは打ち直しだな。どこで作ったんだ?」
「この町の鍛冶屋街にいる工房です」
「そこで直せるか? 職人はまだいるのか?」
「まだいます。あたってみます」
そこまで酷かったのか、とがっくりした様子でレイナードは返された楯を受け取った。
「真面目にやってる証拠だろ。アリシア、お前がつけてる手甲を貸してやれよ」
「これですか?」
鎧は着ていないけれど、一応の用心として、ある機能が備わっている手甲をつけてきている。
「片方ずつ、この先端部分から防御フィー…、とにかく障壁が出る。お前と違ってあいつは日常的に騎士の業務があるようだから、貸してやれよ」
ちょうど甲にあたる部分に仕掛けがあって、レイナードの楯と同じで、防御障壁が発生するように作られている。
楯ではないので取り回しは大夫違うけれど、レイナードの戦い方には合っていると思う。
「いいのか、アリシア君?」
「まあいいけど」
アリシアは手甲を外して、レイナードに渡してやった。アリシアよりも腕が太いレイナードだが、その程度の調整は効くように出来ている。
使い方は教えてあげて、とりあえず楯が直るまでの代用品とすることにしてもらった。ただ、これをどう業務で使うかはレイナードの方で試行錯誤して貰うしかない。
ひとまずの代用品も見つかったところで、まずは相談をしようと、レイナードは楯を作ってくれた工房に向かった。
「そして急にエリアスが来そう」
「最近積極的だな」
話の腰を折らないように状況を窺っていたようで、レイナードがいなくなった途端に、エリアスからそこに行くと連絡が入った。
「何か急ぎみたい」
と、執務室に通信用の鏡を持ったエリアスが転移してきた。
「ルビィさんからよ」
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