みんなそれぞれの生活 -6-
場面により主人公名の表示が変わります
地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
ハルキス、イリーナと続き、今日はライアのところに行く日だ。
ライアだけフラム王国ではなくて、西隣にあるリバヒル王国の芸術都市ベルメーンに住んでいる。
今回もエリアスがいるので、移動に国境は関係ないのだが、リバヒル王国は長い間ワグナール帝国と戦ったフラム王国の同盟国だ。アリシアという有名人が勝手に転移して入国すると国際問題になりそうだったので、ライアに許可を取って貰っていたのだ。それで時間がかかってしまった。
ベルメーンは芸術を愛するリバヒル王家が国策として直轄する都市だ。大陸では珍しい芸術家養成の学院があり、他国からも学生が集まり、日々勉強している。
それだけでなく、数々の芸術家や建築家が住むこの町は、彼らによって作られた美しい町並みが広がり、美術館や劇場では常時展示や公演が行われ、吟遊詩人や大道芸人も腕試しに集まるなど。それを目当てとした観光客も多く訪れる。
そこにアリシアが新しい料理を提案してくれる、という理由もあって、あっさりと入国許可が下りた。
マーロン国王には悪いけれど、一時期命を共にした親友の事業の為、一足先に料理の提案を主目的として、アリシア達はベルメーンに入った。
「あら、いらっしゃい」
折角来るなら町並みを見ていって、と指定された、町の中央広場にある噴水前でライアを待っていると、白いブラウスに細めの黒パンツというラフな格好で、金髪美女がやって来た。
4人の女性メンバーの中では背が高い事もあって、華奢な印象のあるライアだが、これでも英雄の一人。得意武器はサーベルであっても、軽々と城壁に穴を開ける程度のことはやってのける、凄腕の剣士でもある。
「あら、大きいのね」
ライアは170無いくらい、ヒール付きのブーツを履いて180を越えているエリアスの長身ぶりにちょっと驚いていた。
「神とその怒りの代行者」として、心の中での取り扱い方に悩みまくっていたイリーナと違って、銀髪美女のエリアスには随分とフランクに接してくる。
そこは人生観の違いだろう。一応ライアも「豊穣と美の神ヘイルン」を信仰しているけれど、ただの信者であって神官で何でもないので、以前に話をした時に、もう気にしていないと言っていた。ただ、自分達が倒そうとしていた魔女に会いたかっただけだ。
「アリシアが妹か弟みたいね」
ライアはエリアスに握手を求めて、手を握ると
「その見た目、興味あるわ」
とアーティストらしい台詞を口にした。本当にあっさりした性格なのだ。ライアにとっては、元魔女であり女神であるエリアスは芸術家の心をくすぐる存在にしか映っていない。
これが本物の女神か。では劇で女神を出す場合はこのエリアスの雰囲気を参考にさせて貰おう、といった感じだ。
「ヒルダは役者に挨拶をお願いね」
「ええ、いいわよ」
次に予定されている劇の内容が、この前の移動劇団とはまた違う、ヒルダとレイナードの恋バナなので、ヒルダ役の女優さんが、是非一度会いたいと申し出たので、今日はヒルダにも来て貰っている。
「ひょっとして魔女ソフィーティア役の人もいたりする?」
「いるけど、それは内緒でしょ? 今回は脇役のアリシア役もいるから、挨拶して貰える?」
「うん、それなら」
何となく、安心したような表情のエリアスを連れて、アリシア達は英術都市を観光しながら、ライアの劇場にやって来た。
それほど大きいわけでは無い中古の劇場らしいけれど、冒険者時代の報酬をはたいて手に入れた、ライアが望んだ、ひとまずのゴール地点だ。
まずは、色々と手を入れたという自慢の劇場内を案内してくれてから、壇上でリハーサルをやっていた劇団員達を呼んで、アリシアとヒルダの紹介をしてくれた。
実際、この3年間でヒルダがこの芸術都市に来たことは一度しか無く、この劇団員も本物を見るのは始めてだ。
ライアが人選をしただけに、なかなかにヒルダに寄せている女優さんは、やっと本物に会えた事に感激して、泣きながら握手を求めてきた。
アリシア役はまたもや少女だったけれど、こちらも勿論初対面で、感激していた。
「魔女役の人って、いかにも魔女って感じだね」
黒髪で褐色の肌をした50代前半くらいの女性。本番用の衣装は着ていないけれど、雰囲気作りか、フードを被っていた。
あまりにもイメージが違うので、これにはエリアスも苦笑いしていた。ただ、これはわざと解りやすい魔女像にしているのだとだという。
その為、このベルメーンでは人気の悪役専門の女優に参加して貰ったそうだ。悪役なのに演技に愛嬌があり、素で町を歩いても子供が喜んで声をかけてくるほどの地位を築いている、ちょっと変わった女優さんとのことで、エリアスも「どういう魔女なのよ」と興味を抱いたほどだ。
こういう采配は面白いなと、アリシアも感心した。
* * *
ヒルダは役作りの参考の為に、ヒルダ役とレイナード役の役者としばらく話をして貰って、アリシアは早速、劇場内にある厨房にやって来た。そこには半年前に雇ったという、40才くらいの料理人が待っていた。
「旦那さんじゃないんだね」
「旦那は、学院で演出の講義をしているから、後で帰ってくるわ。プロデューサーはアタシだから、始めましょ」
「そうなんだ。じゃあ」
アリシアは持ってきたデバイスを使って、候補となるような料理の画像を見せた。
「今日作れるのは2つか3つだけだねー。ちゃんとした料理人さんが相手だけど、詰め込みすぎは良くないし」
「それでもいいわ。アリシア的にはどれがオススメ? アタシはあのシチューがいいと思うの」
ビーフシチューのことだ。
「あのシチュー、丸一日かけてるんだけど」
「えー、そうなの?」
ライアは目線でエリアスに確認を取るが、頷かれてしまった。
「今日じゃ無い話だけど、ステーキみたいに出すか、シチューとして出すか、どっちにする?」
画像では、一枚肉にデミグラスソースがかかっているモノと、野菜と一緒のシチューの2つがある。ライアが食べたのは後者の方。
「劇場で出すなら、ステーキ感覚で食べるこっちの一枚肉の方がいい気がするんだよね。ああこれ、塊肉を煮込んで、出す時に切ってるんだよ」
「とりあえずアリシアの言うとおりにしましょう」
「じゃあ次回ねー」
今日作るのは、事前にエリアスに、この町で手に入る食材を調べてもらって、出来そうだと判断したパエリアとエビフライと、今追加でライアがお願いしてきたクレープになった。
ベルメーンは港町が近いこともあって、海鮮系が手に入りやすい。折角なので地元の食材を使うのが良いと判断したのだ。
そして何と言っても、米をちゃんと食べる国なので、見た目のいいパエリアを選んだ。
「すごい豪華な見た目ね」
サフランの代用品がある事も確認済み。黄色いライスの上にエビや貝等の魚介類がふんだんに載せられたパエリアは話題になるだろうと、プロデューサーは一目惚れだった。
「何でエビが捕れるのに、エビフライってないんだろ」
エビは主には蒸すか焼くかして食べているけれど、揚げるという発想が無いようだ。
ライアの確認ももらって、足りない食材を買い足してきて、料理作りが始まった。
その頃にはヒルダもインタビューが終わって、厨房にやって来た。
「モートレルは海の物が手に入らないのよね」
「近くに大きい湖が無かった? あそこって何が獲れるんだっけ?」
「今度連絡するわ」
比較的大きくて平たいフライパンを借りて、魚介満載のパエリアを作り、大きなエビフライを揚げ、追加で小さめのエビでガーリックシュリンプも作った。
「あれって、こうやって作ってたの?」
そして薄い生地をフライパンで焼いて、各種クリームとフルーツを巻いてクレープを作った。
何回か食べているヒルダも初めて見る工程だった。
「館だと、専用の鉄板を作って、それでやってるよ。こっちにはボクの拠点が無いから」
料理が出来上がった頃には旦那さんも帰ってきて、並べられた見たこともない料理に確かなモノを感じていた。
「アタシもこの国に来て良かったけど、アリシアもいいところにたどり着いたモノね」
「まだまだ隠してるわよ」
「そうそう、プリンを忘れていたわ」
「また今度にしてね。料理人さんもパニックになっちゃうから」
「そうですな」
見た事のない料理とはいえ、舌が肥えているだけでなく目も養っている貴族相手だから、いい加減に解釈してはダメだ。ちゃんと身につけて再現するのがプロの料理人の役割だ。
なのでアリシアからメモと完成例の写真ももらった。ただ、次にこれと同じモノを作れるかというと、ちょっと怪しい。劇場で出すまでには何回か作らないとダメだろう。
「パエリア用の浅い鍋は鍛冶屋さんに作って貰ってね」
パエリア用鍋の写真もあげた。
そして台所にはどーんとパエリアが置かれ、エビフライ、ガーリックシュリンプ、それとクレープが並んだ。それとエビフライ用に自家製のウスターソースとタルタルソースも作った。
「何かすごいわね、このパエリアとかいう料理の存在感」
場所を取るだけでなく、魚介がたっぷり乗って、黄色いライスが敷かれている。間違いなく美味しそうでお祭りのような見た目のインパクトが強い。
「なんか、マーロン国王に怒られそう」
「リバヒルの王様は喜びそうよ」
「王都ラスタルって、あまり海産物が出回ってなかったような」
さすがエリアス。世界を把握しているだけあって、そういうところは詳しい。
「王都と港町の間は馬車で半日かかるからね。今のところラスタルでこれを作るとなると、コストかかりそう」
早馬を走らせるか、転移魔法を使うか、あとはあの冷蔵の札を使うかしかない。でも市場に出て誰でも買えるように並べるほどの魚介を用意するのは今は無理だろう。
「取りあえず食べましょうよ」
モートレルではあまり食べることの出来ない魚介系だけあって、ヒルダが興奮してきている。
「じゃあ食べましょう」
ヒルダがモリモリ食べる横で、さすがに貴族相手の商売をしようというライア達は見た目と味をじっくり味わいながら食べ始めた。
「魚介系の味がライスにしっかりついて、美味しいわね」
「エビのフライは身はプリプリで衣がサクサクだ。この二つのソースは好みで出すか?」
「ガーリックシュリンプはお酒にあいますね」
「あーひゃん、あのピザは、ろうにかはらはいの?」
「ピザ? あれはどうにでもなるよ。生地は小麦だし、チーズとソースと具材があれば」
「屋敷で、んっん、作ってよ」
ヒルダは口の中のモノをワインで飲み干した。
「あ、忘れてた」
ワインを冷やして飲む方法。器用なライアは学院卒業レベルの魔術の腕があるので、個人でやってしまえるだろう。
フィーネからも温度を教わって、即席の魔術に改良はかけてある。
「エンチャントをかける棒とかは、鍛冶屋さんで作って貰ってね」
「あら、この温度もいいわね」
「レイナードが気に入っちゃって、毎日やってるわよ」
「常温で飲みたい人もいるだろうから、出す前に選択させた方がいいかなー」
「そうしましょうか?」
「そうね、料理は少し後にして、とりあえずワインは先にやってしまいましょう」
ありそうで無かったエビフライも含めて、なるべく早めに劇場で出してみるという事に決まった。
「今は料理の提供はやってないの?」
「いえ、普通に、こちらにある料理を出し始めてるわよ。他では食べられないここならではのウリが欲しいのよ」
「アーちゃんは今後が大変ね。まあ王都じゃ昔から料理の研究はされてたけど」
「まさか異世界から料理を持ってくるとは思わなかったわ。アタシのために今後ともよろしくね」
いつか帰ってくる世界なので、出来るだけ美味しい料理をこっちの世界にもってきたい。これで魚介料理が作れる場所が確保できたので、自分も利用させてもらおうと思うアリシアだった。
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