窃盗事件の顛末と今後の方針 -1-
場面により主人公名の表示が変わります
地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
これは王都ラスタルでアリシア達の式典が開催された日から数日遡った平日の話。
小樽魔術大学襲撃事件の後処理と被害確認が終わり、臨時休校から一日空けて学校も再開された。
傭兵団から攻撃を受けて一部が損壊した校舎は応急処置を施した状態で、なんとか平常授業が行われることになった。
本格的な修理が入るのはまだ少し先だから、しばらくはちょっと不便が余儀なくされる。冬も迫ってもう初雪が降りそうな程寒くなってきているので、ブルーシートで応急処置されている窓とサッシだけは早めに修繕が行われることになっているのが救いだ。
とにかく今は業者が修繕箇所の確認作業を急いでいる状態だ。
そんな中、附属高校では魔法術科の教師が集まって、臨時の職員会議が行われた。
「あの伽里奈=アーシアという生徒に関してですが」
普通科からは伽里奈のクラス担当と、軍からは霞沙羅が参加している。
「彼はどの程度の実力があるのですか、新城大佐?」
「あいつが口にしたとおりだよ。私と吉祥院の推薦で、この前の春に横浜大の卒業試験を受けさせた。教官達の満場一致で、歴代でも最高水準。さすがに吉祥院一族には及ばないが、16才で卒業した私と同程度の成績を納めている」
「魔術協会に登録しているという話もありますが?」
日本魔術師協会は、大学卒業後に魔術師として登録が可能となる組合のことだ。
「あいつがカードを見せただろ」
「それは見せて貰いましたが、あの状況では階級までは…」
「C級15位だ」
階級はE級から始まりA級を越えた特A級まで、それぞれの級に1から30位が設定されている。こちらの「位」も順位ではなく、ランクだ。
なお、霞沙羅はA級5位だ。
普通に大学を卒業すると全員E級の30位から始まり、そこから就職先等で実績を積んだり、試験を受けたり、学術的なレポートなどで昇格していく。
級も上に行けば行くほど人数が減るピラミッド状態なのはどこも同じ。そうなると伽里奈のいる位置は、国内の魔術師の中では真ん中より上にいることになる。春に登録したばかりにしては位が高い。
「そんな生徒が普通科にいたんですか!?」
教師でもB級にいける人間はあまりいない。魔術師は平均的にはC級までで終わっていく人が多いのに、伽里奈もうC級15位にいる。
「高校入学前に協会に登録はしたがあまり貢献はしていないから、それほど変化はしてないが、戦力としては、私と連携して鐘の幻想獣を倒したくらいだぜ」
もうC級なんですけどと誰もが思うけれど、あの新城霞沙羅と2人で連携して戦え、という事は元軍人の教師であってもまず無理だ。
現に幻想獣は倒されているから霞沙羅が嘘を言っているわけはないし、目撃者もいるので間違いはない。そもそも相手にした幻想獣はまがりなりにも完成態なので、相手をするにはちょっとC級では地位が低すぎる。
「詳細は軍事機密だ。短期間だが吉祥院の助手をやったし、今は私の部隊の補助教官をやって貰っている。だが、どうしても料理の授業を受けたいというので、普通科に入学させていた」
異世界人という存在自体は一般には知られていないけれど、日本では宗教の元締めである寺院庁が管理していて、神の事業に関わっている伽里奈とエリアスは、日本人としての地位を持っている。
勿論、異世界人であるという情報はごく一部の人間を除いて、伏せられている。それ故の軍事機密だ。
「軍も厄災戦で戦力を失ってるから、一人でも有能な奴がいれば、そいつの技術で今いる奴らを増強したいんだよ。そういう理由でさっさと魔術師にして私の手伝いをして貰っている」
「そうなんですか」
「さすがに学長と校長には知らせているぜ。まあ私が説明した方がいいだろうしな」
魔法術科の校長も出席していたが、霞沙羅からは、私が説明する、と言われていたので黙っていた。
「しかし、一部の生徒には伽里奈君の持っている力が解ってしまいました」
一ノ瀬など、あの時戦った生徒と、校内で隠れていた生徒は何人かが見てしまっている。
「それは本人にも伝えているよ、もう普通科にいるのは無理そうだとな」
「それはそうですが、魔法術科には彼を受け入れられるようなクラスはありません」
正規の魔術師、しかもランクはC級の15位と、真ん中よりも上では、高校だけでなく大学にも居場所は無い。
「それでだな、シャーロット=ホールストンが来るだろ?」
「伽里奈君に彼女を任せるというのだね?」
「校長は話が早いな」
「普通科から魔法術科への編入となるが、その伽里奈君の了解は得ているのかい?」
「話はしたぜ。シャーロットはあいつの下宿に入居する予定だしな」
なんというか、その話しを聞いて教師達が一様にホッとしたような顔をした。あのホールストン家の人間が満足するような授業をするとか、かなり無理な話なのだ。
娘の教育の為と、ホールストン家ご当主からの直々のお願いもあり、断る事も出来ず、霞沙羅は大学の非常勤講師で、週に一日しか来ない。
そこに霞沙羅の学生時代に匹敵するという成績の伽里奈が編入してくれるとなれば、授業のサポートを任せられるだろう。
「国の魔術協会も世話になってる家だろ? 私も鍛冶の仕事をもらった手前、下宿では相手をしてやれるが、良い留学にしてやりたいからな」
これは小樽校の沽券にも関わってしまう。
じゃあもっと優秀な教師も多い横浜校へ行けば、と言っても、そもそも霞沙羅が目当てで来るのであり、じゃあ横浜に帰れば、などとは言えない。
国民的英雄である霞沙羅が小樽にいるおかげで、小樽大の人気は上昇しているし、その講義を受けている大学生が現にいる。
ホールストン家の娘の為だけに、学生に犠牲になれ、などありえない。
「では伽里奈君を呼んでもらえるか?」
「待たせてあるからな」
* * *
霞沙羅からの連絡をもらって、大学の学食で待機していた伽里奈がやって来た。
「失礼します」
誰が見ても女子の制服を着せればごく普通の女子高生そのものという、霞沙羅に比べてあまり強そうではない外見だ。
こちらが地毛でしたということで、今後は赤髪で通すことになって、トレードマークのツインテールもあって、女子っぽさがアップした。
そしていつも通りのニコニコした表情。
どれをとっても、霞沙羅と連携できるほどの能力を持っているとは考えられないが、一部教師は、氷の槍を雨あられと降らせて幻想獣を一気に全滅させた凄まじい威力の魔法と、国際的な傭兵団だという男を、剣の一振りで十数メートルも跳ね飛ばした豪腕を見てしまっている。
本人を前に今でも信じられないが、霞沙羅が言うその強さは事実だ。
「伽里奈=アーシア君。本当に魔法術科への編入を了解してくれるのかね?」
「ホールストン家絡みですよね? 霞沙羅さんとは話し合ってます。ボクのところの下宿に住むことになりますから、日常的にフォローも出来ますしねー」
「そ、そうか」
当の伽里奈が家の事まで考えて了解をしてしまっているのなら、学校としては頼らせて貰うしかない。
配られている資料を見る限りは、やはり何度見ても、英雄である霞沙羅が信頼を置いているほど優秀な能力を持っているようには見えない。しかし、試験担当の各教授陣のレビューを見るに、その全てが学生ではあり得ないほどに高評価だ。手元にはないが、レポートの課題も幾つか提出しているそうようだし、何よりあの吉祥院一族からも卒業資格への確認印が押されている。
それであればもう伽里奈に頼むしかない。
「E組の友達に謝っておかないとダメですけどね」
早藤と中瀬、この二人には「魔法は使えない」と言っているから、そこは対処済みだったという事と、大卒資格を持っていて、正規の魔術師である事も言わなといけない。
「そいつらには私の、軍の指示という事にしておけ」
「は、はい」
許してくれると良いけれど。
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