二人の英雄 -5-
場面により主人公名の表示が変わります
地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
「{落雷撃、乱}」
巨大な幻想獣が警察車両に向かっていこうとしたので、伽里奈は{落雷撃}を16分割した魔法を放った。
稲妻一発の威力は16分の1になってしまうが、さすが英雄と呼ばれるだけに、伽里奈の魔力で放たれた魔法は、平均的な魔術師が放った場合の数倍の威力を持っている。
16本もの雷撃を進行方向に落とされては、幻想獣も動きを止めるしか無かった。
「分割すれば派手になるな」
「ボクらは6人しかいませんでしたからねー。{爆雷球、乱}」
目標に当たれば大爆発を起こす魔法を、5分割して、左手の指先から放つ。
「敵1人に1発ずつじゃ勿体ないじゃないですか」
5発の爆雷はバラバラな部位に命中し、爆発する。
実際はまだ牽制用の下級魔法だ。幻想獣が怯んでいる隙に、警察車両が発車していき、非戦闘員の教授達も離れていき、足止めは成功した。
下級魔法をただ派手にしだけなので大きなダメージは入っていないが、足止めをされた幻想獣は伽里奈と霞沙羅を睨んだ。実際に研究棟前は人もいなくなり、がら空きになってしまったから、やってくれたなという感じなのだろう。
「ニンゲンめ、よくもワガ復讐を阻んデクレたな」
「生物でも無い癖に復讐とか言うか? バカな実験に巻き込まれていい迷惑だったんだろうが、そもそもお前の存在が不要だ。さっさと消えろ」
「オマエから消してヤル」
幻想獣は巨大な拳で殴りつけてきたが、霞沙羅の長刀による一閃で、肘まで深々と真っ二つにされた。
「コンナモの」
だがその腕の傷は簡単に修復されてしまった。
「シャアッ!」
4本の腕を伸ばし、霞沙羅と伽里奈に掴みかかってくるが、2人とも空中に跳び上がり、易々と避ける。
その際に切りつけておいたが、その傷もすぐに癒える。
「コレデ、どうダッ!」
幻想獣は一本の巨大な槍を作り出して、叩きつけてきた。
「こんなもんか?」
重い金属音と共に、霞沙羅の長刀と伽里奈の剣で受け止めた。
「オノレ」
もう1本槍を作り、狂ったように乱打してくる。一撃一撃はトラック程度なら軽くはね飛ばせる威力なのだが、2人とも左右に散り、それぞれ一本ずつ応戦した。
「遅えぞ」
だが素早く動き回る2人を捕らえることは出来ない。
「よいしょ」
伽里奈は素早い斬撃で、槍を長ネギのようにバラバラに切断し
「柔すぎだぜ」
霞沙羅の長刀で真っ二つに切り裂かれた。
「ニンゲンふぜいガ」
それではと、長い尻尾での薙ぎ払いを繰り出してきた。
跳び上がって避けた2人に再度の尻尾での薙ぎ払いが来るが、2人は冷静に迫ってくる尻尾を輪切りにした。
「マダマダだ!」
だが切り裂かれた尻尾もすぐに修復した。
「まあこんなもんだろうよ」
「再生能力なんか良くある話ですよねー」
「キカヌ、この程度、すぐにシュウフクシテヤロウ」
何かあれば牽制する為に残った警官達は、少し離れた所から、あれだけのダメージを負ってもすぐに修復してしまう幻想獣に驚いているが、相手をしているの伽里奈と霞沙羅は全く動じていないどころか、面倒くさそうに溜息をした。
そんな2人に対して、今度は4つの腕から熱線を放ってきた。
「{防御魔壁、割}」
伽里奈は4つに割った防御障壁で熱線を受け止める。放っておいたら住宅街まで届いて広域に被害をもたらしていただろう。
「おらよ」
霞沙羅は長刀を一閃。その軌跡から巨大な氷の刃が発生し、幻想獣の胸を大きく切り裂いた。
「キカヌと言った」
その胸の傷もすぐに塞がってしまった。
「お前もちょっと削っとけ」
「はーい」
伽里奈は魔剣の黒い刃を長い紐状に伸ばし、鞭のように振るい、何度も何度も幻想獣の腕や胸、腹を切り刻むが、それも全て修復してしまう。
「よしよし、いいじゃねえか」
一見意味は無さそうだが、その結果に霞沙羅は笑う。なぜなら
「グウ…」
「どうした、もう元気がねえじゃねえか。想定以上のダメージ貰って、修復に魔力を使いすぎたな」
続いて霞沙羅からまた長刀からの氷の刃で幻想獣は胸部を深々と切りつけられる。
「その体のどこかに本体があるんだろうねー。外装は飾りみたいなモノだから致命的なダメージにはならないんだろうけど、破損する度に無事ですって主張する為に外装を修復してるみたいだから」
「見栄を張りすぎたな」
霞沙羅から貰った斬撃の修復も行われるが、完了までの早さが落ちてきている。
「実際はそれなりに硬い体はしてるんだが、相手が悪かったな」
「さっさと攻撃しないから、もう大きな力は使えないみたいだねー」
「グウゥ…」
多少のダメージを無効化して相手を怯ませ、大暴れをするタイプだったのだが、想定外の大きなダメージを2人から喰らいすぎたせいで、修復の多様で力を使いすぎてしまった。
折角集まった魔力も枯渇が近い。
「じゃあこの辺りで終わりにさせて貰うぜ」
「{落雷撃、乱}」
「からの」
「{雷の楼閣}」
「クッ!」
伽里奈は幻想獣を取り囲むように落とした雷撃を使用して、そのまま巨体を包み込む電撃の結界を完成させた。
「クソッ!」
結界に触れば電撃を喰らうことになる。元気な状態なら修復を使いつつ、強引に突破できたかもしれないが、もうそこまでの力は残っていない。
「終わりにしてやるぜ。{劫火燦然}」
霞沙羅は炎系の上級魔法を、一ヶ所開けていた穴から、結界の中に打ち込んだ。
「グオアアァーッ!」
幻想獣に命中すると目も眩むほどの光を発し、電撃の中で炎が燃え上がる。
「本体ごと燃やし尽くしてやる」
幻想獣はそれでも修復を行うが、それを上回る勢いで肉体が燃えていく。しかも伽里奈が閉ざした結界により、炎と熱が拡散することがなく、集中的に幻想獣を焼き尽くしていく。
そして徐々に炎が鎮まっていき、その巨体は燃え尽きた。
「やー、終わったな」
「終わりましたけどね、地面が溶けちゃいました」
霞沙羅の上級魔法が一点に集中したこともあって、幻想獣がいた場所には大穴が空いてしまっている。その中は火山の火口のように土とアスファルトがドロドロに溶けた状態なので、しばらくは近寄らない方がいい。
「完成態を倒したにしては、被害は少ない方だぜ」
研究棟の建物が破損し、その前の地面が大きく凹んだ。後は多少、戦いの余波でアスファルトが割れていたりするが、霞沙羅の経験上、上手く駆除できたといえる。
「おい警備室、幻想獣は駆除したぞ」
幻想獣の駆除と侵入者の鎮圧が終わり、霞沙羅は警備室に連絡を取った。
『そ、そうですか。新城大佐、お疲れ様です』
「報告は後でやる。今は後処理だな」
『中高エリアでは少し前に安全が確認されましたので、生徒達を帰らせます。今は大学エリアの確認中ですね』
「私はやらんぞ。さすがに疲れた」
『あとはこちらにお任せ下さい』
連絡を終えて、霞沙羅は溜息を一つついた。
「とりあえず先生の部屋にでも帰りましょうか」
「そうだな」
「肩くらい貸すわよ」
中高エリアの生徒は開放されたので、いつの間にかエリアスがやって来ていた。
「伽里奈じゃ身長が足りないでしょ」
「ええー。まあ霞沙羅さん、色々お疲れ様」
《ボクって格好つかないなあ》
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