二人の英雄 -4-
場面により主人公名の表示が変わります
地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
研究棟前には、犯人達が乗り付けたであろうSUV車が置いてあって、これをバリケード代わりにして戦闘をしたのか、ガラスは割れ、ボディには穴が空き、タイヤはパンクし、もう走れないほど破損している。結構な数の幻想獣の残骸も転がっていて、かなり激しい戦闘だったのだろう事が解る。
しかし警察と犯人の姿が無い。
「中に入られたな」
研究棟前面の結界が無くなり、銃撃を受けたドアのガラスが割れている。
「魔術士もいるようですよ」
手前の階段には何かが爆発したような破損がいくつもある。
「私が前に行く。お前は中を確認しながらついてこい」
「研究室前で、中に押し込まれた警察と打ち合いになってますよ」
奥には犯人2人と2体の幻想獣がいる。
「わかったよ」
2人で建物内に入っていくと、研究室の入り口前の廊下で戦いが繰り広げられていた。
お互いに障壁を張って、魔術と銃火器の撃ち合いをしているところに、2人は後方から挟み撃ちの状態で割り込むことになった。
「なに、新城霞沙羅か。なぜお前がいる!?」
今日は霞沙羅がいない日、と調べて今日を決行日にしたというのに。他の2人から何の連絡も無いのはこのせいかと解ったところで、もう遅い。
「誰だか知らんが、いるもんは仕方ないだろ」
霞沙羅は長刀を構える。
声をあげた男は魔剣であるダガーを抜き、リーチの差をカバーする為にその刃に氷を纏わせた。
もう一人の魔術師はどちらに障壁を作るべきか、一瞬戸惑った。
「残念だったな」
霞沙羅は一瞬で間合いを詰めて、ダガーを跳ね飛ばし、そのまま男の右肩に長刀を刺した。
「ごめんねー」
戸惑ってしまった魔術師は、その隙をついた伽里奈に跳び蹴りを食らい、グルグルと回転しながら警察のいる廊下の奥の方に飛んで行ってしまった。
そして残された2体の幻想獣も、伽里奈の剣であっさり真っ二つにされて終わった。
「テメエ、ウチの大学に手を出しやがって。誰に頼まれた」
「霞沙羅さんちょっと」
「グウッ!」
長刀で刺されたままの男の顔面を伽里奈が殴った。
「取れたか?」
「取れました」
伽里奈に殴られた衝撃で、外れた差し歯が飛んでいった。この状況で人の口に手を突っ込みたくない。
「よし。おい、警察の出番だぞ」
霞沙羅が声をかけると、奥にいた警官が障壁を解いてやって来た。
「おい警備室、研究棟内で犯人2人を制圧した」
霞沙羅は警備室に連絡そして、警官達は2人の犯人を拘束し始めた。勿論魔術師の方も差し歯は撤去された。
「終わったみたいですね」
「幻想獣も全て処理済み。まあ終わりだな」
「はぁ…」
伽里奈の溜息に、霞沙羅は何とも言えない顔をした。まさかこんな大事になるとは思ってもみなかった。大学側だけ狙ってくれればいいものを、警備を分散する為だろうけれど、付属校のエリアまで巻き込んだせいで、伽里奈が動くことになってしまった。
「わりいな」
「先生のせいではないです」
ホントに余計なモノを大学に運んでくれたもんだと、あの教授を殴りたくなる。が、研究者の仕事としてやっただけで教授が悪いとは言えない。あえて文句を言うのだとすれば、この4人の行動を捕捉できなかった警察にだろう。
さて、このお人好しの管理人のためにどうフォローすればいいか、と思った所に、研究室のドアが開いて、教授達が慌てた顔をしてこっちに走って、というか逃げてくる。
「逃げるんだ! 鐘が妙な反応をし始めた。我々ではもう押さえられない!」
「おい、何してやがるんだよ」
これ以上騒ぎを広げるんじゃねえよ、と殴り飛ばしたい面々だが、恐らく彼らが悪いわけでは無い。
「中に封じ込められた蛇達が急に活性化し始めた!」
「くそっ」
結局あの情報は間に合わなかったようだ。
鐘から何が出てくるか解らないが、まずは建物の外に出た方がいい。霞沙羅達は研究棟から退避した。
「かなり大きく魔力が膨らんでますね」
封印された妖怪達が活性化とか、鐘がどういうモノか伽里奈には解らないから何とも言えないけれど、あれは純粋に幻想獣を退治する為の魔工具では無いように思える。
幻想獣と同じ種類の反応だが、それにしても魔力が大きい。日本に来てからの3年間で幻想獣にも慣れた伽里奈だが、こんなに大きな魔力を持っているのは初めてだ。
「成長態って言うか、完成態っていうの?」
「そのくらいはあるぜ」
霞沙羅は周囲にいた警察官達に、建物から早く距離を取るように言った。
研究をしていた教授達も書類を抱えて逃げてきて、研究棟から距離を取った。
「鐘に対して余計なことをしたのか時間が来たのか、どちらでしょうねえ」
混乱する中、霞沙羅よりも少し背の高い、エリアスと同じくらいの身長があり、事務服の上に白衣を着た女性が研究棟を見てそうつぶやいた。
整った綺麗な顔をしているけれど、アンダーリムのメガネがややずれていて、ちょっと抜けた感じがする。
「封印するにしては元々術式が間違っていたようですしね。それに加えて、こんな狭い所に大量の幻想獣をばら撒いたせいで、消滅した際に残された魔力まで吸い込んで、目覚めたのでしょう」
「なんだお前は?」
「大学の教員さんじゃないんですか?」
伽里奈は大学の教員は数名しか知らないから、外見的にはそう見えていたのだが、霞沙羅には知らない顔だった。
「違いますわよ。鐘の実物を見に来た部外者ですわ。あの銅を素材とする興味は持っていましたが、もういいですの。この程度のモノは私に必要ありません」
研究棟の壁にヒビが入る。
「元々欠陥品で、しかも中身が抜けたあの鐘はもうただの銅の塊ですものね」
建物の壁を突き抜けて、つり上がった目と耳まで裂けた口を持った頭部に、二対の腕を持った人のような上半身と、長い長い蛇の体を持った巨大な幻想獣が姿を現した。
立ち上がっている部分で10メートルほど、尻尾の部分で30メートルの長さがある。
「中で一個になって完成しやがったか。そりゃあ200年以上もいたんだしな」
「ちょっとお姉さん逃げてって、いない」
背の高い女性はいつの間にか姿を消していた。目を離したたった数秒でどこに行ってしまったのか。
「あの女、妙なことを言っていたが、今はあっちを殲滅するのが先決だ」
「そのようですね」
部外者と言っていたけれど一体誰だったのか、とかは後でだ。背後は森で、市街地の隅っこにある大学だが、海側にはずっと市街地が広がっている。あんなモノをここから出すわけには行かない。
「警察の連中は犯人をさっさと運び出せ! 残った連中は牽制だけでいい。あれは完成態だ。私ら2人でやる」
「先生と一緒に幻想獣退治とか、なかなかないですねー」
二つの世界の、凸凹英雄コンビが一時的に結成された。
「でも先生は省エネモードで」
「バレてたか」
点検で大学のキャンパスに仕掛けた結界を起動させたことで霞沙羅はそれなりに魔力を消耗しているし、その後に伽里奈よりも多くの幻想獣とを相手にしている。
「ボクなんか呼ぶから、何かと思いましたよ」
消耗したといってもまだまだ余裕のある霞沙羅だったが、念のため伽里奈を呼んだのだ。だが常に先の事を考える、それは厄災戦でよく学んだ事だ。
「んじゃあ頼むぜ」
「ボクは管理人ですからねー」
モートレルでの神降ろし程では無いけれど、ちょっとめんどくさいのが出てきた。
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