アリシアと賢者達 -4-
場面により主人公名の表示が変わります
地球 :伽里奈
アシルステラ :アリシア
事情を話すと霞沙羅は苦笑いしていた。どうせこの後自分も同じ目に会うのだと。日本側でも軍主催で、名のある魔術師達も集めての対策会議が行われる事になっている。
「私も同じ目に会うんだろうぜ」
霞沙羅は何度も同じような目にあっているからか、良くある事だと諦めている。お互いに似たような境遇なのだ。
魔法学院に帰る、と言ってしまった手前、しばらくの間はこうなる事は覚悟するしか無い。
「マスター、大丈夫ですか?」
「こうなるだろうなって、思ってたけどね」
帰ってくるのは深夜か夜明け頃になるだろう。
「アリシア、明日は眠かったら私に仕事を振ってくれていいのよ」
エリアスも心配してくれている。
「うん、その時はお願いするよ」
とはいえこちらも慣れている。霞沙羅や吉祥院とも徹夜で魔術談義をする事もある。魔術師というのはかくも貪欲でなければ上には上がれない。学院を卒業してすぐに魔導士の称号を得たアリシアも例外ではないのだ。
一休みした後、水筒にスポーツ飲料をたっぷり入れて、再度王都へと舞い戻った。
* * *
先程と同じ講堂に戻ると、またウキウキしたルビィだけが待っていた。
「何かいい事あった?」
「アーちゃんがここにいるのがいいのダ。どういう風に学院に関わるのかは解らないが、また一緒にいられるんだナ」
「うん、そうだね」
実際は週に一回来るか来ないかだろうけれど、当分は色々とレポートの提出を求められるだろう。
ただ、アリシアとしてもこちらでやりたい事があるので、出来るだけ時間を取りたい。
「それにしても、その、カサラさんにはまた会いたいもんダ」
「ルビィの杖にも興味があるみたいだから、ウチに来て貰うかもしれないけど、それでもいいのかな? 話が長くなったら宿泊も出来るからね」
「下宿なのにカ?」
「宿泊専用の部屋があるんだよ。基本は過去の住民さんがたまに休みにくる為のモノなんだけど、住民の家族とか、商談とかで人を呼べるんだよ」
「カサラさんは鍛冶屋と言っていたナ。どのくらいの腕前なんだ?」
「自分で作った武器で大陸に多大な被害をもたらした戦いを制するくらいには」
最終的な武器の製造にはお師匠さんの助力もあってのことだけれど、18歳でそれをやったのだから、アリシアも「先生」と呼びたくもなる。
「それはすごいナ。うむ、考えておこウ」
「あんな感じで口は悪い人だけどね、ボクはあの人好きだなー。ボクと違って格好いい人なの」
「アーちゃんはアーちゃんで親しみやすい英雄って事で人気があるんだガ」
「そうなの?」
「私は自分達の本を書いてるからナ。実物を知らない人からもそういう感想を貰うゾ。それに料理が出来るから、意外と騎士だのそのへんの兵隊だのからの人気はあル」
「むこうで関わってる軍の人からも有り難がられてるけどねー」
「王宮でもアーちゃんを何とか出来ないかという話が出ているそうダ。私も話をしてしまったが、ヒルダの所ばかりいい食事が出るからナ。いち領主の所ばかり料理が良くなって、王宮が後回しでは国家の沽券に関わル」
「だってボク王宮と関係ないし。気軽に厨房が使えるところがヒーちゃんの家しか無いし。それで思い出したけど、モートレルの探知設備ってまだ直せないの?」
「素材がいくつか足りていないからナ。探してはいるのだが、学院にも無イ。代用品はないか探していところダ」
「もうちょっと先になりそうなんだねー」
王都にある魔法学院にも素材の在庫が無いのなら、確かにどうしようもない。
「そうそう、ボクの剣のお師匠と、魔法の先生は元気にやってるの?」
「二人ともリバヒル王国に帰っていったゾ。子供の頃の付き合いとは言え、私らを教育したって事で好待遇デ」
リバヒル王国はお隣の、今はライアが住んでいる国だ。当時は二人とも現役を引退してラスタルでのんびりやっていたのに、さすがに英雄2人の基礎を支えた人間をフラム王国に置いておくわけにはいかなくなって、再スカウトされたのだろう。
元気でやっているのであれば、時間があったら会いに行こう。
と、話はここまで。質問会の続きのため、参加者達が顔を見せ始め、わずか数分で全員が揃ってしまった。
「アリシア、我々は準備万端だぞ」
久しぶりの、魔術界に衝撃をもたらすようなレポートだ。参加者のお年寄り達は目をらんらんと輝かせている。
学生達以上に若々しい情熱を向けられて、アリシアはうんざりする。よく見ると、全員さっきよりも肌につやがある。何やら若返ったようにも見える。
数日後には霞沙羅もこんな気持ちになるんだろうな、と思いながら、多数寄せられた質問に一つ一つ答えていくアリシアであった。
* * *
「なんかいいのないかなー」
深夜にまで及んだ質問攻めから解放され、帰ってきてから館の朝食も用意し、掃除と洗濯はエリアスとシスティーにやって貰いつつ、談話室のソファーで半分寝ながら、モートレルの事を考えていた。友人のヒルダの為でもあるけれど、町周辺の警備業務が増えて入居者のアンナマリーの負担にもなっている。
どうにかならないか。
その横では、今日は午後から占いの店を開く予定のフィーネが、リラックスするような香りのアロマをテーブルに置いて、優雅に週刊誌を読んでいる。占いのお店にも置いているくらい、この人はアロマが好きだが、これまで人が集まる談話室でやった事は無い。今日は珍しい。
伽里奈はずるーっと倒れていき、フィーネの膝に転がってしまったが、特に咎められる事もなく、そのままにしてくれた。
「小僧はよくやっておる。たまには他の者に甘えるのも良かろう」
ささやくような小さな声で邪龍様はそう言い、伽里奈の頭を撫でた。
「お主の女神は掃除中じゃ。我が代わりになってやろう」
この人も女神なんだよなと思いながら、瞼が閉じていく…。
………。
「…あれ、どのくらい寝てました?」
いまだにフィーネに膝枕をされつつ、伽里奈は目を覚ました。
「1時間程度じゃ。少しは眠気は覚めたか?」
「え、あ、うん」
体を起こして、背伸びを一つ。
「であれば良い。小僧、住民だからといって遠慮せずとも良いぞ。我は長くここに住んでおるから、ここの管理人の扱いには慣れておる。我も多少は心得ておるし、作り物にやらせる事も出来る」
「はい」
「説教をしておるわけではないぞ。前に貴族の小娘に家族という言葉を使ったな。それは我にもあてはまるであろう?」
フィーネの表情は言葉のような上から目線ではなく、伽里奈へ一歩距離を寄せてきたような、人間と同じ位置からのモノであった。
「お主が今を楽しんでおるのは解るが、楽しいと思える程度にやるが良い。我はお主の味方じゃ。普段と違う事があれば遠慮なく相談するがよい」
この女神様と付き合うのも4年目が近づいているけれど、こんなに真面目に、2人きりの状態で話しをされたのは初めてだ。日々の清掃や時々のマッサージなどで部屋に入ったりとするけれど、長い時を生きる最上級の女神だけあって、人間である霞沙羅に比べるとやや距離感があった。
「伽里奈なのかアリシアなのか、我にはどちらでも良い。我もたまには人のためにあるのも良いと思うておる」
「は、はい」
「それが解ればもう少し寝ておればよい」
フィーネは伽里奈をグイッと自分の膝上に引き寄せた。
「わ、我の事など気にするでない。お主と同じく好きでやっておるのじゃ」
フィーネの手がちょっと震えているのがどうしてなのか解らないけれど、あともうちょっと、寝心地のいい膝枕で寝かせて貰おうと思った。
エリアスには負けるけれど。
「なんぞ言うたか?」
「何も言ってません」
なぜか頬をつねられた。
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